猿蟹合戦・孫悟空対化蟹

克全

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「おい、俺の娘とお前の息子を婚約させてやる。
 持参金の前渡しにこの種をくれてやるから、その金をよこせ」

 今日もまた化蟹のグレイスは恐喝されていた。
 上仙人の孫悟空は、強欲で優しさの欠片もないのだ。
 心を入れ替えて汗水たらして働くグレイスを恐喝し続けるのだ。
 孫悟空だけではなく、娘の孫梧蘭も性悪女だ。
 グレイスの息子リドワーンと結婚する気など毛頭ないのに、金を要求するのだ。

「分かりました。
 その代わり息子には、昔の事を言わないでください」

「分かっているよ、へ、へ、へ、へ。
 さっさとよこしな。
 ほら、これが持参金の種だよ」

「痛い!」
 
 孫悟空の頭ほどもある、大きくて硬くて種を投げつけられたグレイスは、甲羅が割れるほどのケガをしてしまった。

「なんだ?
 痛いだと?
 妙な文句つけやがって。
 やめだ、やめだ、やめだ。
 お前とこの息子との婚約は解消だ。
 文句を言った賠償に来月の給料を渡してもらうからな」

 いつもの身勝手な言い分だ。
 この辺りを先代の上仙人から受け継いだ孫悟空は、神々の眼をかいくぐって好き勝手しているのです。
 いえ、天帝をはじめとした神々にまで危険視されているのです。
 それだけの仙術が使えるのです。
 先代の上仙人に見る目がなかったのか、それとも孫悟空の偽装欺瞞が上手過ぎたのかは分かりませんが、この辺りの妖怪や魔獣、下仙人は塗炭の苦しみを味わっていました。

 そんな状態ですら、グレイスも諦めるしかありません。
 割れた甲羅をかばいつつ、気分を入れ替えて種を植える事にしました。
 見たこともないくらい大きくて硬い種です。
 育てば天界に届くほどの大木に育つかもしれません。
 天界に届くほどの大木に育ったら、天界に住む神々に直訴できるかもしれないと考え、庭に埋めて一生懸命お世話しました。

 グレイスも魔物です。
 それなりに魔力も神通力も持っています。
 植えた種に自分の魔力を神通力を分け与え、天の神々に救いを求めて祈り願い、寝食を忘れてお世話しました。

 その祈りと願いが通じたのでしょうか?
 それともグレイスの魔力と神通力が栄養となったのでしょうか?
 種が芽を出しすくすくと育ちました。
 その成長は尋常ではなく、恐ろしいくらいです。

 何が恐ろしいかというと、幹が伸びれば伸びるほど、横にも太くなるのですが、他の家や庭を侵食してしまうのです。
 すでにグレイスの家はもちろん近隣の家も、大木の外皮に乗っかる形になっているので、グレイスは近所の人達に謝って回りました。

 ですが近所の人達はグレイスの苦労を知っています。
 孫悟空にケガをさせられたいきさつも、種を植えた経緯も理由も知っています。
 笑って許してくれました。
 それどころか、一緒に大木を登って天の神々に直訴しようと話し合っていました。
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