上 下
4 / 8
第一章

第4話:追放刑

しおりを挟む
 私から見れば頼りない弟ですが、この世界の基準では神童です。
 両親の期待は天よりも高いのです。
 私も同じように期待されましたが、残念ながら女です。
 貴族の爵位を継ぐのには圧倒的に不利でした。
 弟が幼くして領地を豊かにする方策を提案してからはなおさらです。
 あいつも絶対に転生者です、そうでなければわずか八歳で、あれほど領地改革をできるはずがないのです。

 話が横道にそれてしまいましたが、ようは、弟が領地の全権を握っているのです。
 弟が私をレナス公爵家から追放すると決めれば、誰も邪魔できないのです。
 それだけの実績を上げてきてるのです。
 王太子には王都から追放され、弟からは公爵領から追放されました。
 これで思いのまま自由に生きていけるのです。

「タマ、サクラ、タゴサク、ゴンベイ、待たせてごめんね」

 私は王都外壁近くで待っていてくれた、四頭の虎型魔獣に謝りました。
 私が幼い頃に魔境で助けた可愛い子達です。
 私は頭脳派の弟とは違って、身体を使うのが得意でした。
 特に喧嘩は大好きで、レディースのタイマンでは負けた事がありません。
 いえ、多数が相手でも、負けを認めた事はありません。
 だからたとえ相手が邪悪な竜であろうと、母虎を殺されて泣いている子虎達を見捨てて、背中を向けて逃げたりはしないのです。

「「「「グルルルル」」」」

 このモフモフに囲まれる幸せは、何物にも代えがたいです。
 この世界の両親や家臣が心配するので、魔境通いは秘密にしていましたが、この子達との憩いを失う事など考えられませんでした。
 特に王太子と婚約させられてからは、モフモフの癒しなしでは我慢できないくらい、苛立ちと怒りの日々でした。
 まあ、多くの邪悪な魔獣が死ぬ事もありましたが、仕方のない事です。
 全て鳥頭の王太子が不実な行動をとり続けたせいです。

「ようやく王都を出て行く日が来ました、これからはずっとお前達と一緒です。
 さあ、背中に乗せてください、壁を飛び越えてください」

 私の言葉を全て理解する虎魔獣は、直ぐにタゴサクが私を背に乗せてくれました。
 本当はレディースの頭を張っていた頃のように、先頭を翔けたいのですが、それは四頭が許してくれません。
 私の安全を確保しようと、常にゴンベイが先頭をきって翔け、待ち伏せや罠を事前に探ろうとしてくれます。
 まるで特攻隊長や親衛隊長のようです。
 そしてタマとサクラが左右の後衛を務めます。

「「「「クッオオオオオオオン」」」」

 これからは私と一緒の暮らせると喜んで、四頭が雄叫びを上げてくれます。
 私も同じように叫びたかったですが、ほんの少し恥ずかしいので、やめました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたおっとり令嬢は「実験成功」とほくそ笑む

柴野
恋愛
 おっとりしている――つまり気の利かない頭の鈍い奴と有名な令嬢イダイア。  周囲からどれだけ罵られようとも笑顔でいる様を皆が怖がり、誰も寄り付かなくなっていたところ、彼女は婚約者であった王太子に「真実の愛を見つけたから気味の悪いお前のような女はもういらん!」と言われて婚約破棄されてしまう。  しかしそれを受けた彼女は悲しむでも困惑するでもなく、一人ほくそ笑んだ。 「実験成功、ですわねぇ」  イダイアは静かに呟き、そして哀れなる王太子に真実を教え始めるのだった。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

【完結】ご安心を、問題ありません。

るるらら
恋愛
婚約破棄されてしまった。 はい、何も問題ありません。 ------------ 公爵家の娘さんと王子様の話。 オマケ以降は旦那さんとの話。

婚約破棄の場で攫われました!?

志位斗 茂家波
恋愛
「ミディ公爵令嬢!!お前との婚約破棄し、このわたしは別の愛する者と改めて婚約をさせてもらう!!」  皆がワイワイと話し合いながら、最後の学生生活としての卒業記念式典に、突如として王子からいい渡された婚約破棄。  何やら身に覚えのないことで断罪されそうになり、兵士たちに取り押さえられそうになったとたん‥‥‥攫われました!?  R15かR18を入れようか検討中。とりあえず明るく楽しくやっていくミディの物語である。

婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。

三葉 空
恋愛
 ユリナはバラノン伯爵家の長女であり、公爵子息のブリックス・オメルダと婚約していた。しかし、ブリックスは身勝手な理由で彼女に婚約破棄を言い渡す。さらに、元から妹ばかり可愛がっていた両親にも愛想を尽かされ、家から追放されてしまう。ユリナは全てを失いショックを受けるが、直後に聖女としての力に目覚める。そして、神殿の神職たちだけでなく、王家からも丁重に扱われる。さらに、お祈りをするだけでたんまりと給料をもらえるチート職業、それが聖女。さらに、イケメン王子のレオルドに見初められて求愛を受ける。どん底から一転、一気に幸せを掴み取った。その事実を知った元婚約者と元家族は……

まったく心当たりのない理由で婚約破棄されるのはいいのですが、私は『精霊のいとし子』ですよ……?

空月
恋愛
精霊信仰の盛んなクレセント王国。 その王立学園の一大イベント・舞踏会の場で、アリシアは突然婚約破棄を言い渡された。 まったく心当たりのない理由をつらつらと言い連ねられる中、アリシアはとある理由で激しく動揺するが、そこに現れたのは──。

婚約破棄されたのは私ではなく……実は、あなたなのです。

当麻月菜
恋愛
アネッサ=モータリアはこの度、婚約者であるライオット=シネヴァから一方的に婚約を破棄されてしまった。 しかもその理由は、アネッサの大親友に心変わりをしてしまったというあり得ない理由で………。 婚約破棄をされたアネッサは、失意のどん底に突き落とされたまま、大親友の元へと向かう。 向かう理由は、『この泥棒猫』と罵るためか、『お願いだから身を引いて』と懇願する為なのか。 でも真相は、そのどれでもなく……ちょいとした理由がありました。 ※別タイトル(ほぼ同じ内容)で、他のサイトに重複投稿させていただいております。

訳ありヒロインは、前世が悪役令嬢だった。王妃教育を終了していた私は皆に認められる存在に。でも復讐はするわよ?

naturalsoft
恋愛
私の前世は公爵令嬢であり、王太子殿下の婚約者だった。しかし、光魔法の使える男爵令嬢に汚名を着せられて、婚約破棄された挙げ句、処刑された。 私は最後の瞬間に一族の秘術を使い過去に戻る事に成功した。 しかし、イレギュラーが起きた。 何故か宿敵である男爵令嬢として過去に戻ってしまっていたのだ。

処理中です...