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第一章
第3話:氷牢
しおりを挟む 極北の聖女オリビアを案内した近衛騎士は丁寧だった。
王太子や双子は怖かったが、それでも聖女を乱暴にする事はできなかった。
だから聖女オリビアもそれほど不審には思わなかった。
だがそれも、新たな聖殿と呼ばれた場所に来るまでだった。
新たな聖殿と言われた場所は、単なる氷でできた牢屋だった。
「王太子殿下、これはどうことでございますか?
ここには神様を祀るための祭殿もなければ、祈祷するための場所もございません。
このような場所では、神様に届く祈祷はできません」
この期に及んでも、聖女オリビアは騙されている事に気が付かなかった。
聖女として純粋無垢に育てられた弊害だった。
王宮の奥深く、王族以外は入ることを許されない一角に、この世界が創生された時からあるのかと思われるほど凍てついた、氷でできた壁がる。
伝説では、守護神が氷でできたこの一帯に、人間が住めるように氷を溶かして時に出来た氷の絶壁だという。
「ほおう、ほっほっほっほっほ、大丈夫ですわ」
「そう、大丈夫ですわ」
双子の悪女が、聖女オリビアを馬鹿にするような声色で、交互に返事をした。
もうこれ以上は王太子にセリフを教えていなかった。
それに二人は我慢の限界だった。
自分達の罠に引っかかった聖女オリビアを馬鹿にしたくて仕方がなかったのだ。
「この氷の牢屋の中でも、真摯に祈れば神様が来てくれます」
「そう、そう、死んだ後で魂を迎えに来てくださってよ」
「「ほうぉ、ほっほっほっほっほっ!」」
双子の悪女は、心底聖女オリビアを嘲笑っていた。
ここまで簡単に騙せるとは思っていなかったからだ。
途中で罠に気が付いて、近衛騎士や王太子が力尽くで取り押さえ、氷の牢屋に放り込むことになると思っていた。
その時には、散々殴りつけさせて、手足の骨も折らせるつもりでいた。
だから少々物足らなくもあった。
「出してください、お願いします、出してください。
もう次の祈祷をしなければいけない時間になります。
神様への祈りを欠かせてしまったら、この国は氷に包まれてしまいます」
「「ほうぉ、ほっほっほっほっほっ!」」
「もうそんな心配は不用なのよ」
「そうよ、もう聖女など不要なのよ」
「「黒油があれば、氷などいくらでも溶かせるわ!」」
双子の悪女は見事に同調して聖女オリビアを馬鹿にした。
黒油を手に入れた彼女らから見れば、聖女など無用の長物だった。
黒油でしか氷を溶かせない、この国を護れない方が、自分達が絶対の権力を手に入れられるのだ。
いずれ王家も根絶やしにして、自分達コサック侯爵家が新たな王家になろうとしていた。
その為には、聖女など早く死んでくれた方がよかった。
自分で手にかけて殺す快感もいいが、聖女に長い苦しみを与え、恨みを抱かせる方が面白いと考えていた。
だから氷の牢に閉じ込めて、凍死させようとしたのだが、全く何もしないのでは、あまり面白くなかった。
双子は互いの目を見てアイコンタクトをとった。
「「これを喰らいなさい!」」
「きゃああああああ!」
双子の悪女は小窓から牢の中に水をまき散らした。
聖女オリビアの悲鳴が、王宮の奥にこだました。
王太子や双子は怖かったが、それでも聖女を乱暴にする事はできなかった。
だから聖女オリビアもそれほど不審には思わなかった。
だがそれも、新たな聖殿と呼ばれた場所に来るまでだった。
新たな聖殿と言われた場所は、単なる氷でできた牢屋だった。
「王太子殿下、これはどうことでございますか?
ここには神様を祀るための祭殿もなければ、祈祷するための場所もございません。
このような場所では、神様に届く祈祷はできません」
この期に及んでも、聖女オリビアは騙されている事に気が付かなかった。
聖女として純粋無垢に育てられた弊害だった。
王宮の奥深く、王族以外は入ることを許されない一角に、この世界が創生された時からあるのかと思われるほど凍てついた、氷でできた壁がる。
伝説では、守護神が氷でできたこの一帯に、人間が住めるように氷を溶かして時に出来た氷の絶壁だという。
「ほおう、ほっほっほっほっほ、大丈夫ですわ」
「そう、大丈夫ですわ」
双子の悪女が、聖女オリビアを馬鹿にするような声色で、交互に返事をした。
もうこれ以上は王太子にセリフを教えていなかった。
それに二人は我慢の限界だった。
自分達の罠に引っかかった聖女オリビアを馬鹿にしたくて仕方がなかったのだ。
「この氷の牢屋の中でも、真摯に祈れば神様が来てくれます」
「そう、そう、死んだ後で魂を迎えに来てくださってよ」
「「ほうぉ、ほっほっほっほっほっ!」」
双子の悪女は、心底聖女オリビアを嘲笑っていた。
ここまで簡単に騙せるとは思っていなかったからだ。
途中で罠に気が付いて、近衛騎士や王太子が力尽くで取り押さえ、氷の牢屋に放り込むことになると思っていた。
その時には、散々殴りつけさせて、手足の骨も折らせるつもりでいた。
だから少々物足らなくもあった。
「出してください、お願いします、出してください。
もう次の祈祷をしなければいけない時間になります。
神様への祈りを欠かせてしまったら、この国は氷に包まれてしまいます」
「「ほうぉ、ほっほっほっほっほっ!」」
「もうそんな心配は不用なのよ」
「そうよ、もう聖女など不要なのよ」
「「黒油があれば、氷などいくらでも溶かせるわ!」」
双子の悪女は見事に同調して聖女オリビアを馬鹿にした。
黒油を手に入れた彼女らから見れば、聖女など無用の長物だった。
黒油でしか氷を溶かせない、この国を護れない方が、自分達が絶対の権力を手に入れられるのだ。
いずれ王家も根絶やしにして、自分達コサック侯爵家が新たな王家になろうとしていた。
その為には、聖女など早く死んでくれた方がよかった。
自分で手にかけて殺す快感もいいが、聖女に長い苦しみを与え、恨みを抱かせる方が面白いと考えていた。
だから氷の牢に閉じ込めて、凍死させようとしたのだが、全く何もしないのでは、あまり面白くなかった。
双子は互いの目を見てアイコンタクトをとった。
「「これを喰らいなさい!」」
「きゃああああああ!」
双子の悪女は小窓から牢の中に水をまき散らした。
聖女オリビアの悲鳴が、王宮の奥にこだました。
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