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第一章

2話

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「待ちなさい、クロエ。
 事を荒立ててはいけません。
 殿下が私の事を確かめたいと申されるのでしたら、確かめて頂きましょう。
 それで殿下、私は何をして身の証を立てればいいのですか?」

 私には、幼い頃から側近く仕えてくれる侍女が二人います。
 今私をかばってくれたクロエと、後ろを護ってくれているカミラです。
 良識派が頑張ってくれて、二人を側仕えとして同行させてくれたのです。
 神殿内では、戦巫女として私を護ってくれていた二人です。
 王家の騎士が相手でも後れを取ったりはしません。

「ほう。
 殊勝だな。
 だったらついて来てもらおうか。
 お前達はついて来るな!
 余も護衛を遠ざける。
 婚約者同士二人きりにさせてもらおう」

「しかし!」

「御待ちなさい、クロエ。
 殿下が二人で話したいと申されるのなら、御一緒します。
 私の事は二人が一番知ってくれているでしょう」

「しかし、大地の乙女様」

「待つのよ、クロエ。
 大地の乙女様がそう仰られるのです。
 信じて待ちましょう」

「だが、カミラ……」

 クロエも私の事を信じてくれているのですが、少々心配性なのです。
 カミラも心配しているのですが、態度に出さないだけです。
 その証拠に、いつでも戦えるように重心をおいています。
 ですがそんな心配はいりません。
 私だって大地の乙女です。

 世間では大地の乙女を祈るだけの存在だと思っているでしょう。
 ですがそれは間違いです。
 初代様は戦乱の世を歩き回り、雑草も生えない荒れ地に踏み込まれ、精霊様と交信し、大地母神様に願いを聞き届けて頂いた方なのです。
 歴戦の戦士でなければ、戦乱の世を歩いて救世など不可能なのです。

 大地神殿でも、大地の乙女の側近くに仕える戦巫女や奥巫女だけが知る事ですが、代々の大地の乙女も武闘術を学んでいたのです。
 何の鍛錬もしていない、みっともない足さばきの王太子殿下が何を企もうとも、自力で対処して見せます。

「ふ、ふ、ふ、ふ。
 ここまでくれば、あの二人も邪魔できまい。
 土臭い女など余には不釣り合いなのだ。
 サッサと死ぬがいい!」

 おっと!
 そのような無様な体裁きで、私を突き飛ばそうと言うのですか?
 馬鹿はどこまで行っても馬鹿ですね。
 向こうには落とし穴が掘られているようですね。
 このまま突き飛ばしをかわして、殿下を落して差し上げましょうか?

 ですがそれでは、殿下の悪辣さが消えてしまいますね。
 素直に突き飛ばされて、私が落とし穴に落ちてケガすれば、殿下に重い罪を着せることが可能ですね。
 まあ、どうせ、自分は突き飛ばしていないと嘘をつくでしょうし、落とし穴も偶然の産物だと言い逃れるでしょうが、多くの人が殿下に疑念を持つ事になるでしょう。
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