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第一章

1話

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「大地の精霊と交信し、大地母神様に豊穣を願うのが、大地の乙女の務めです」

 それが大地神殿の教えでした。
 私はそう教えられて育ちました。
 この国はとても豊かです。
 ですが元々は雑草も生えない荒れ地だったそうです。

 それを初代大地の乙女様が精霊と交信し、大地母神様に願った事で、実り豊かな国土となったそうです。
 大地神殿は繰り返しその教えを民に伝えてきました。
 同時に国中を探して、精霊と交信できる者を探しました。

 代々の大地の乙女は、そうやって神殿が探し出してきました。
 だからこの国では、大地神殿の権威が高いのです。
 ですがそれは、王権力の低さの裏返しでもあります。
 初代国王が、初代大地の乙女様の従者であった事も、大きく影響しているでしょう。

「大地の乙女を王太子の婚約者とし、王家と神殿の融和を図る」

 事前に神殿に何の相談もない、一方的な宣言でした。
 王家は大地の乙女の権威を神殿から奪い、自分達のモノにしようとしたのです。
 本来なら絶対に受けられない話です。
 神殿が一丸となって、徹底的に抵抗するところなのですが……

「神殿と王家が一丸となって国を発展させる事は、とてもいい事ではありませんか」

 国王は狡猾でした。
 時間をかけて、神殿内に王家派ともいう一派を作っていたのです。
 哀しい話ですが、豊かさは人を堕落させるのかもしれません。
 神殿内にも、貴族の子弟が数多く入り込み、信仰よりも権力や金に執着する者が増えていたのです。

 ですが神殿全体が堕落したわけではありません。
 良識派と言われる、信仰と民への奉仕を大切にする人達も少なからずいるのです。
 そんな人達が、私を守ろうとしてくれました。
 まだ幼かった私が、王宮内で堕落させられないように、成人までは王宮には送れないと、最後まで抵抗してくださったのです。

 いよいよ王宮に行く時が参りました。
 大地神殿の良識派は最後まで抵抗してくれましたが、王国が騎士団まで投入してきては、国を割る戦いにまで発展するかもしれません。
 私のためにそんな事はさせられませんので、王家の申し出を受け入れ、王太子の婚約者として、王宮に参る事にしたのです。

「よく来たな。
 だが本当にお前は大地の乙女なのか?
 神殿が身代わりを送って来た可能性もある。
 それを王太子として確認する必要がある。
 まずは大地の乙女である事を証明してもらおうか!」

「何たる無礼。
 王家ごときが大地の乙女様を確かめるだと?
 思い上がりもはなはだしい。
 この場で成敗してくれるから、首を差し出せ!」
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