上 下
4 / 29
第1章

3話

しおりを挟む
「王女殿下。
 少々はしたないですな」

「大公!
 そうですか。
 そうですわね。
 大公がそう言うのなら、何か私に非があったのかもしれないわね。
 アリス、ごめんなさいね」

「いえ、とんでもありません。
 王女殿下」

 アリスに救いの手を差し伸べたのは、ワラキア公国の若き大公ヴラドだった。
 その武勇は衆を圧し、一騎で一個騎士団に匹敵するとまで言われる武勇の方だ。
 国王陛下でさえ、ヴラド大公を憚っていると言う噂の方だ。
 いや、武勇だけではない。
 
 ヴラド大公の美貌については、いつも宮廷雀がさえずっている。
 月光のような白銀の髪は、絹糸の如く細く柔らかで、宮廷中の女性が羨んでいる。
 何処までも白く、時に青く輝くような肌。
 端正な顔立ちと、実戦で磨き上げた筋骨隆々の身体つき。
 そのアンバランスが有閑マダムに大人気だともっぱらの噂だった。

 そんな勇名と美貌を兼ね備えたヴラド大公殿下。
 アリスとは何の接点もない方だ。
 そのヴラド大公殿下が何故かアリスに救いの手を差し伸べた。
 不思議に思っていたアリスだが、ここで大公が爆弾発言をした。
 一度口にしてしまったら、取り返しのつかない爆弾発言だ。

「そうですよ、王女殿下。
 ジョージとアリスの為の舞踏会なのに、ジョージをアリスから引き離して、控室で二人きりになるなど、少々はしたないですよ」

「何を言うの!
 妾はそんな真似していないわよ。
 言いがかりはよしてちょうだい。
 いくら大公でも、そんな非礼を言うなら許さないわ。
 父王陛下に酷い恥をかかされたと言うわ!」

「おや。
 それはおかしいですな。
 先ほどこの者が、控室にいる王女殿下とジョージを見たと言っていたのです。
 そうだな、子爵」

「え?
 ああ。
 そうかな。
 いえ、そうでした。
 確かに控室でお二人を見ました
 お二人の話を聞いて」

「お黙りなさい。
 嘘です。
 妾は控室になど行っていません。
 フレディの勘違いです。
 ジョージが侍女でもつれこんでいるのを見間違えたのでしょう。
 そうでしょ、フレディ!」

 王女殿下は真っ青になって詰問している。
 フレディ卿が可哀想だった。
 それにフレディ卿はブラウン侯爵の後継ぎなのだ。
 父親が御健在なので、家が保有している子爵を名乗っているが、いずれ侯爵の位と領地を引き継ぐのだ。
 ヴラド大公殿下ほどではないにしても、粗略に扱える方ではない。

 それにしても、フレディ卿もあの控室にいたのだ。
 いや、本当にいたのだろうか。
 それにしては、最初の頃の返事がおかしい。
 しかし王女殿下も、あんなに顔色を変えては駄目だ。
 むりやり話を事実を捻じ曲げようとしているのが明々白々だ。

「ジョージ。
 本当のことを言いなさい、ジョージ。
 侍女を連れこんでいたのね!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

悪役令嬢に仕立てあげられて婚約破棄の上に処刑までされて破滅しましたが、時間を巻き戻してやり直し、逆転します。

しろいるか
恋愛
王子との許婚で、幸せを約束されていたセシル。だが、没落した貴族の娘で、侍女として引き取ったシェリーの魔の手により悪役令嬢にさせられ、婚約破棄された上に処刑までされてしまう。悲しみと悔しさの中、セシルは自分自身の行いによって救ってきた魂の結晶、天使によって助け出され、時間を巻き戻してもらう。 次々に襲い掛かるシェリーの策略を切り抜け、セシルは自分の幸せを掴んでいく。そして憎しみに囚われたシェリーは……。 破滅させられた不幸な少女のやり直し短編ストーリー。人を呪わば穴二つ。

断罪されて婚約破棄される予定のラスボス公爵令嬢ですけど、先手必勝で目にもの見せて差し上げましょう!

ありあんと
恋愛
ベアトリクスは突然自分が前世は日本人で、もうすぐ婚約破棄されて断罪される予定の悪役令嬢に生まれ変わっていることに気がついた。 気がついてしまったからには、自分の敵になる奴全部酷い目に合わせてやるしか無いでしょう。

悪役令嬢より取り巻き令嬢の方が問題あると思います

恋愛
両親と死別し、孤児院暮らしの平民だったシャーリーはクリフォード男爵家の養女として引き取られた。丁度その頃市井では男爵家など貴族に引き取られた少女が王子や公爵令息など、高貴な身分の男性と恋に落ちて幸せになる小説が流行っていた。シャーリーは自分もそうなるのではないかとつい夢見てしまう。しかし、夜会でコンプトン侯爵令嬢ベアトリスと出会う。シャーリーはベアトリスにマナーや所作など色々と注意されてしまう。シャーリーは彼女を小説に出て来る悪役令嬢みたいだと思った。しかし、それが違うということにシャーリーはすぐに気付く。ベアトリスはシャーリーが嘲笑の的にならないようマナーや所作を教えてくれていたのだ。 (あれ? ベアトリス様って実はもしかして良い人?) シャーリーはそう思い、ベアトリスと交流を深めることにしてみた。 しかしそんな中、シャーリーはあるベアトリスの取り巻きであるチェスター伯爵令嬢カレンからネチネチと嫌味を言われるようになる。カレンは平民だったシャーリーを気に入らないらしい。更に、他の令嬢への嫌がらせの罪をベアトリスに着せて彼女を社交界から追放しようともしていた。彼女はベアトリスも気に入らないらしい。それに気付いたシャーリーは怒り狂う。 「私に色々良くしてくださったベアトリス様に冤罪をかけようとするなんて許せない!」 シャーリーは仲良くなったテヴァルー子爵令息ヴィンセント、ベアトリスの婚約者であるモールバラ公爵令息アイザック、ベアトリスの弟であるキースと共に、ベアトリスを救う計画を立て始めた。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。 ジャンルは恋愛メインではありませんが、アルファポリスでは当てはまるジャンルが恋愛しかありませんでした。

悪役令嬢は、いつでも婚約破棄を受け付けている。

ao_narou
恋愛
 自身の愛する婚約者――ソレイル・ディ・ア・ユースリアと平民の美少女ナナリーの密会を知ってしまった悪役令嬢――エリザベス・ディ・カディアスは、自身の思いに蓋をしてソレイルのため「わたくしはいつでも、あなたからの婚約破棄をお受けいたしますわ」と言葉にする。  その度に困惑を隠せないソレイルはエリザベスの真意に気付くのか……また、ナナリーとの浮気の真相は……。  ちょっとだけ変わった悪役令嬢の恋物語です。

農地スローライフ、始めました~婚約破棄された悪役令嬢は、第二王子から溺愛される~

可児 うさこ
恋愛
前世でプレイしていたゲームの悪役令嬢に転生した。公爵に婚約破棄された悪役令嬢は、実家に戻ったら、第二王子と遭遇した。彼は王位継承より農業に夢中で、農地を所有する実家へ見学に来たらしい。悪役令嬢は彼に一目惚れされて、郊外の城で一緒に暮らすことになった。欲しいものを何でも与えてくれて、溺愛してくれる。そんな彼とまったり農業を楽しみながら、快適なスローライフを送ります。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

悪役令嬢はざまぁされるその役を放棄したい

みゅー
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生していたルビーは、このままだとずっと好きだった王太子殿下に自分が捨てられ、乙女ゲームの主人公に“ざまぁ”されることに気づき、深い悲しみに襲われながらもなんとかそれを乗り越えようとするお話。 切ない話が書きたくて書きました。 転生したら推しに捨てられる婚約者でした、それでも推しの幸せを祈りますのスピンオフです。

処理中です...