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第三章

55話

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 最初は完全に騙されていました。
 ミモザが人間の女の子だと信じていました。
 でも、毎日舞踏会や晩餐会を開催し、会ううちに分かったのです。
 ミモザが人間の娘ではない事が。
 恐らく半人間を人間に変化させた娘だと。

 ですが、ルークの対する怒りは湧きあがってきませんでした。
 心にあったのは、やっぱりと言う諦観でした。
 ルークの育ちを考えれば仕方がない事です。
 それに、ルークが精一杯努力してくれているのは分かっています。
 ローガン陛下とジェイデン殿が助言をしてくれ、協力もしてくれているのが、明々白々でした。

 私の世話をしてくれていた女官達も半数以上解放され、舞踏会開催と晩餐会開催に毎日走り回ってくれています。
 各国の全権王族大使とその従者達も同じように働いてくれています。
 彼らの努力を無にするわけにはいかないのです。
 二年もの間この国に足止めされ、いえ、城下の屋敷に幽閉されていたのです。
 ようやく生きて母国に帰る可能性が見えたのです。
 その可能性を、私が潰す訳にはいかないのです。

 それに、ルークが心許す相手が、絶対に人間でなければいけないのでしょうか?
 ルークを人間の範疇に収めていいのでしょうか?
 私が狂気に囚われていたはずの二年は、ルークには成長期です。
 多少なりとも身長が伸び、大人らしくなるはずです。
 それが、私の記憶にあるルークと寸分違いません。

 私もそうです。
 成長期は終わっていますが、二年も記憶を失っていれば、前後の状態で多少なりとも違いがあるはずです。
 それが全くないのです。
 大人びて魅力が増すとは言いません。
 年齢を重ねた変化と言うか、衰えがあってしかるべきです。
 それが全くないのです。

 もしかしたらルークは、伝説の若返り魔法が使えるのかもしれません。
 不老不死の存在になっているのかもしれません。
 私にもその魔法を使っているのかもしれません。
 やめてくれと言っても無駄でしょう。
 私にずっと膝枕をしながら頭を撫でて欲しいと言い続けていたルークです。
 言葉通りの自分の願いを達成するために、どれほど研究したのか、想像できます。

 問題は、私が気が付いた事をルークに話すべきかどうかです。
 知らない振りをし続けて、各国の全権王族大使や従者も騙し、ルークと半人間の間に生まれる子供に期待するのです。
 そうなれば、この国を永続させることも可能です。
 それに、私が知らない振りをしていれば、ルークはもっと努力してくれるかもしれません。
 努力を重ねれば、何時かは人間の女の子を側に置けるかもしれません。
 
 それとも、正直に知った事を伝えましょうか?
 そうすれば、ルークの心の負担が少なくなります。
 少なくなったら、昔のように、もっと快活に笑ってくれるかもしれません。
 私も同じように笑えるかもしれません。
 諦観しているとはいえ、ルークに嘘をつかれているというのは、心にトゲが刺さっているようで、心底笑えないのです。
 どうするべきでしょう?
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