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第一章

第10話:呪術返し・アイリス視点

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「これで間違いありませんか。
 この魔法陣と呪術陣の連結に誤りはありませんか」

「ええ、大丈夫です、アイリス嬢。
 結合部もしっかりと補強の素材で固められています。
 補強と結合と加速の呪文も何も問題ありません。
 残されている呪殺の痕跡を調べましたが、この連結陣なら弾き返せます。
 恐らくですが三倍の魔力が込められた呪殺であっても返せますよ」

 私は王立魔法学園から来てくれた講師に呪術返しの連結陣を学びました。
 学んだだけでなく自分で描いてみました。
 自分を狙って放たれる呪殺は自分で防ぐ仕掛けを創らないと安心できません。
 先に身代わりになって死んだ呪術長は、私を護ることに手を抜いていました。
 私よりも父母と兄の護りに力を入れていたのです。

 その現実を知っていて、自分の護りを他人任せにはできません。
 父が公爵家の権力と財力を使って連れてきた、王立魔法学園の講師であろうと、無条件に信じるほど私はおめでたくはないのです。
 この国には明らかに公爵家よりも権力と財力を持っている者がいます。
 私を毛嫌いしているという婚約者、ラミーユ王太子の属するルスワン王家です。

「では四倍はどうですか、四倍の呪力や魔力の籠った呪殺は跳ね返せますか」

「う~ん、四倍は厳しいかもしれませんね。
 ですが四倍の強度は必要ないでしょう。
 私が聞いてる呪殺を行う連中の魔力では、数人集まっても倍にもなりません。
 暗殺を行う呪術者は数が集まる事を嫌います。
 ほとんどが単独で暗殺を行います。
 単独でなければどこから情報が漏れるか分からないからです。
 他国の王家が国を挙げても三倍が限界でしょう。
 四倍以上の呪殺力を持たせるには王族自らが加わらなければ不可能です。
 ですが王族が呪術返しの危険を冒してまで呪殺に加わる事はありませんよ」

「絶対にないと言い切れますか、先生。
 先生も私の噂は聞いているのではありませんか。
 私は数多くの貴族に嫌われ憎まれています。
 王家が目障りに思って殺そうとする可能性がないと断言できますか。
 王太子が私との結婚を嫌って自ら呪殺を行わないと断言できますか。
 万が一私が殺されるような事がになれば、父は先生を殺しますよ。
 それでもいいのですか、それでも連結陣の強化方法を教えてくれないのですか」

「正直言って、今ここにある素材だけではこれ以上の呪術返しは不可能です。
 これ以上強い力を返すには強度がたらないのです。
 強度不足を補おうと数を増やせば、複雑で大きな連結陣になってしまうでしょう。
 どうしても五倍六倍の呪殺に備えたければ、返すのではなく流すようにするしかありませんが、それでもいいですか」

「いいです、返せなくても生き残れれば十分です」
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