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第一章

第17話:お話し合い

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異世界召喚から37日目:佐藤克也(カーツ・サート)視点

 ゼルス王国の国王から100人規模の村と廃城を領地としてもらった。
 王都北側、処分されたライリー王都騎士団長が護っていた方角。
 その枡形虎口の1面を担当していた貴族屋敷をもらった。

 100人規模の村に俺自身が行く必要はない。
 俺そっくりの姿形をしたゴーレムをあいさつに行かせればいい。
 問題は廃城にいる女子供だった。

「この城と周囲の土地を褒美としてもらった。
 ここに正式な書面がある。
 字の読める者は確認すればいい」

 廃城にいる女子供は俺の強さをよく知っている。
 だが、国に逆らって廃城を占拠するのは怖い。
 実家や村に戻りたくはないが、祖国の軍隊に襲われるのも怖い。

 そんな女子供を安心させるには、どうすればいいか?
 簡単な事だ、正式な領地として与えられた書面を見せればいい。
 玉璽やサインは分からなくても、何となく本物と理解してくれる。

「本当にカーツ様がご領主になられたのですか?!」

「そうだ、爵位は辞退したが、勲章と領地は頂いた。
 国家存亡の危機を回避できるように働いた事に対する褒美だ」

「爵位を頂いてくださったら安心できたのですが……」

「爵位のない者の領地だと、また襲われると恐れているのか?
 大丈夫だ、何の心配もいらない。
 正式な領地と決まったから、本気で城を大増築する。
 魔獣も人間も絶対に中に入れない、深く広い壕と高く厚い城壁を築く。
 その中には、果樹を植え農地を整える。
 お前達は安心して暮らせばいい」

「本当に心配いらないのでしょうか?」

「大丈夫だ、心配なら今直ぐ目の前で造ってやる」

 俺はそう言って莫大な魔力を使って城造りを行った。
 廃城はこれ以上大きくしないが、周囲の土を集めて来て圧縮強化する。
 
 硬く高い城壁を築くには大量の土が必要なので、壕を造る時に出た土を使う。
 だが、土を圧縮強化した城壁にするには20倍以上の体積が必要だ
 当然壕は城壁の20倍の深さと幅が必要になる。

 本城となる廃城の周りは、果樹園や牧草地、小麦畑にするので13万坪もある。
 その外側に、高さ20m幅5mの圧縮強化城壁がそそり立っている。
 更にその外側は、深さ400m幅100mの空壕がある。

「こんな、こんな事ができるなんて、カーツ様は神様ですか?!」
「「「「「カーツ様、神様」」」」」

「神とまではいわないが、神に限りなく近い存在ではある。
 だから安心して暮らしなさい」

「「「「「ありがとうございます」」」」」

 ほんとはこれだけで充分なのだが、俺は慎重な性格なのだ。
 総構えと言える広大な敷地と城壁、更に壕が欲しくなる。
 
 本当は本城を中心に東西南北は等距離をとりたい。
 だが、女子供がようやく安心したのに、廃城から移動させる気にはなれない。
 それに、2重の巨大な城壁と壕に護られていると分かった方が良い。

 だから、本城本丸と街道の有る西側総構え城壁は近い。
 総構えから考えると、本丸本城は西に寄り過ぎている。
 だが、まあ、東側はガッツリ魔境に食い込んでいるので、西に寄った方が安心だ。

 本城本丸を含めた総構えの面積は20平方キロメートル604万9600坪。
 神田や日本橋、有楽町や四谷、飯田橋を含む江戸城の総構えよりも広い。

 その広い総構えの外側に、また高さ20m幅5mの城壁がそそり立っている。
 更にその外側は、深さ400m幅100mの空壕がある。
 どれほどの大軍がやって来ても、壕を渡る事さえできない。

 総構えは今直ぐ造る必要もない。
 魔力的には何時でも造れるのだが、時間が少々かかる。
 何事にも優先度というものがあるから、37日目の午前はここまでだった。

 ★★★★★★

「ハーパー殿、この国にも困窮する女子供がいるはずだ。
 領地と屋敷をもらったから、困っている女子供を助けたい。
 騎士団や冒険者ギルドが把握している困窮者を教えてくれ」

 37日目の午後、俺は心優しい門番のハーパーにたずねた。
 騎士団長や重臣の寝返りも知らなかった国王が、困窮する民の事を知る訳がない。
 2つもの騎士団を壊滅させたので、エブリンも恐ろしく忙しい。

 比較的日ヒマで王都の民の事をよく知っているのは、門番のハーパーだ。
 ハーパー自身が知らなくても、同僚の門番、王都騎士が知っているかもしれない。

「国王陛下の治められている王都に困窮者などいない、と言いたいところだが。
 残念ながらどうしても生活に困る者が出てくる。
 特にこの国の民でない者は、支援の輪から外れてしまう事が多い。
 強制退去させられるのを嫌った者達が、貧民街を作って暮らしている」

 この国の人間でなくても、悪事を働かないように、食糧だけでも与えておく方着いのだが、自国民の食糧も確保できない状態では、とてもやれない。

 この国はダンジョンと冒険者のお陰で、最低限の食糧は確保できると事前の勉強で知っていたが、それはこの国の民に限られるのだろう。
 ダンジョンや商売を目的にやってきた他国民までは面倒が見られないのだろう。

「本当にこの国の民が全員救われているか確かめたい。
 国王の目を盗んで国を売ろうとしていた貴族士族があれだけいたのだ。
 本来支援に使うはずの金や食糧を着服していた可能性もある。
 そうなると、救ったと思っていた民が救われていないぞ」

「あっ、そうか、分かった、隊長に話して休む許可をもらう。
 食堂のおばさんや冒険者ギルドの知り合いに聞いてみる」

 ハーパーはそう言うと隊長に休む許可をもらいに走って行った。
 本当に人柄の良い人間だ。
 エブリン殿の育て方が良かったのだろう。

「許可をもらってきた、直ぐに行こう」

 ハーパーに案内されて、食堂のおばさんや冒険者ギルドの幹部から話しを聞いた。
 今は多くの冒険者やダンジョン騎士団が国防のために働いている。
 その影響で冒険者ギルドはヒマしていた。

「そうですね、確かに大きな傷を負った冒険者は引退することになります。
 本来なら冒険者ギルドを通じて食糧だけでも配布するべきなのですが、ギルドにもそれほど余裕があるわけではありませんので、少額の見舞金を渡して終わりです」

「国から支援の金は出ていないのか?」

「はい、全く出ていません。
 むしろ冒険者の手数料から税が支払われる仕組みになっています。
 この国はダンジョンからの富で成り立っていますので」

「裏切者達が、国王の決めた支援金を着服していたかどうかは分からない。
 冒険者ギルドが納めていた税金を着服していたかどうかも分からない。
 俺にとってはどちらも国王が愚かだった結果でしかない」

「カーツ殿!
 これ以上陛下を悪く言う事は許さんぞ!」

「好きにすればいいさ。
 それほど国王を慕っているのなら、何故このようになるまで黙っていた?
 本当に国王の事を想うのなら、間違っていると思う事は命懸けで諫言しろ!
 命惜しさに諫言もせず、救国に力を貸した者に剣を向けるのなら、おまえも裏切者達と同じクズだ!」

「くっ!」

「カーツ殿と申されましたね。 
 冒険者ギルド内でのケンカは禁じられております。
 正しい事を申されているのは分かりますが、ハーパー様を挑発しているようにも見えます、お止めください」

「そうか、冒険者ギルドに迷惑をかける気はない。
 だが、負傷引退した冒険者達の事は気になる。
 ギルドの尻拭いをするのは俺だ。
 せめて今住んでいる場所くらい教えて欲しいな」

「申し訳ございません、関係の切れた元冒険者の現住所は分かりません」

「では名簿くらいは貸してくれるのかな?」

「……私の一存ではお貸しできませんが、上司に掛け合ってみます」

「別に掛け合ってもらわなくていい。
 有るのに貸してくれないのなら、力尽くで奪って行くだけだ。
 邪魔をするなら叩きのめす!」

「お止めください、それでは貴男が殺されてしまいます!」

「俺様を殺せるような冒険者がいるのなら会ってみたい。
 今直ぐここに連れて来い!」
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