上 下
8 / 24
第一章

第8話:忠誠

しおりを挟む
「どなたかは存じあげませんが、命懸けで助けていただいた御恩は一生忘れません。
 この命尽きるまで忠誠を誓う事を全ての神々にかけて誓います」

 チェンワルフ第二王子や盛りの付いたケダモノから逃げきったと思い、助けた少年を地上に下ろしてから、わたくしも下馬しようとした時、とても捕虜になって疲弊しているとは思えない気力に満ちた表情で、少年が永遠の忠誠を誓ってきました。
 なかなか天晴な態度ですが、見た目に騙されるわけにはいきません。

「そのような事を口にしても信じられませんよ。
 貴男の忠誠は、既に誰かに捧げた後なのではありませんか。
 実家の当主なのか、先ほど話に出たチェンワルフ殿下なのかは知りませんが」

「私の命を懸けた忠誠は、既に踏みにじられてしまいました。
 私が忠誠を誓ったチェンワルフ殿下は、私の事など知らないと言われました。
 忠誠を誓った以上、殿下を護るために命を捨てるのは本望でございます。
 ですが、殿下はその忠誠に報いてくださいませんでした。
 私の命よりも、乗用馬や金を取られたのです。
 それでも忠誠を誓った主君なので、殿下の正体は黙っていました。
 二度も命を捨てて忠誠を尽くしたのですから、誓いの代償としては十分です。
 忠誠に報いてくれない主君を捨てるのも騎士の器量だと思うのですが、違いますか、マイレディ、マイロード」

 あれほど追い込まれた状況で、チェンワルフ第二王子の事を知っていて、私にすら気づかれないようにしていたなんで、家臣としても騎士としても天晴な態度です。
 そんな家臣を前にして、あのような態度を取ったチェンワルフ第二王子は、主君としても王子としても落第です。
 まして、忠誠を誓った家臣の顔を忘れていたとしたら、言語道断です。
 少なくともわたくしは全く存在価値を認めません。

「そうですか、それならば以前の誓いを破棄して、新たにわたくしに忠誠を誓う事を認めましょう。
 ただし、この忠誠に僅かでも偽りがなければの話です。
 わたくしへの誓いに嘘偽りがあれば、神罰が落ちますよ」

「神罰は既に落ちています、マイレディ、マイロード。
 主君に相応しくない者に忠誠を誓ったせいで、このような惨めな姿になりました。
 今度こそ忠誠に相応しい主君に仕えたいのです。
 私の忠誠心は死ぬまで変わりません、マイレディ、マイロード。
 変るとすれば、私が忠誠を誓った主君の方でございます」
 
 ヒィヒヒヒヒヒィン

 この少年は信用できるから忠誠を受けろと言うのですか、ヒュー。
 誰かの忠誠を受けて、命の責任を背負うのは重たいのですよ。
 先ほどまでは、この国を滅ぼす気でいましたが、忠誠を受けたら、この少年だけでなく、少年が大切に思うモノまで護らなければいけないのですよ。
 ジャスパーに乗っ取られた家のようには、ジャスパーに媚を売る領民達のようには、見捨てられなくなるのですよ。
 それでも、少年の忠誠を受けろというのですか、ヒュー。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!

春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前! さて、どうやって切り抜けようか? (全6話で完結) ※一般的なざまぁではありません ※他サイト様にも掲載中

くだらない冤罪で投獄されたので呪うことにしました。

音爽(ネソウ)
恋愛
<良くある話ですが凄くバカで下品な話です。> 婚約者と友人に裏切られた、伯爵令嬢。 冤罪で投獄された恨みを晴らしましょう。 「ごめんなさい?私がかけた呪いはとけませんよ」

乙女ゲームの断罪シーンの夢を見たのでとりあえず王子を平手打ちしたら夢じゃなかった

恋愛
気が付くとそこは知らないパーティー会場だった。 そこへ入場してきたのは"ビッターバター"王国の王子と、エスコートされた男爵令嬢。 ビッターバターという変な国名を聞いてここがゲームと同じ世界の夢だと気付く。 夢ならいいんじゃない?と王子の顔を平手打ちしようと思った令嬢のお話。  四話構成です。 ※ラテ令嬢の独り言がかなり多いです! お気に入り登録していただけると嬉しいです。 暇つぶしにでもなれば……! 思いつきと勢いで書いたものなので名前が適当&名無しなのでご了承下さい。 一度でもふっと笑ってもらえたら嬉しいです。

闇黒の悪役令嬢は溺愛される

葵川真衣
恋愛
公爵令嬢リアは十歳のときに、転生していることを知る。 今は二度目の人生だ。 十六歳の舞踏会、皇太子ジークハルトから、婚約破棄を突き付けられる。 記憶を得たリアは前世同様、世界を旅する決意をする。 前世の仲間と、冒険の日々を送ろう! 婚約破棄された後、すぐ帝都を出られるように、リアは旅の支度をし、舞踏会に向かった。 だが、その夜、前世と異なる出来事が起きて──!? 悪役令嬢、溺愛物語。 ☆本編完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。

悪役令嬢を追い込んだ王太子殿下こそが黒幕だったと知った私は、ざまぁすることにいたしました!

奏音 美都
恋愛
私、フローラは、王太子殿下からご婚約のお申し込みをいただきました。憧れていた王太子殿下からの求愛はとても嬉しかったのですが、気がかりは婚約者であるダリア様のことでした。そこで私は、ダリア様と婚約破棄してからでしたら、ご婚約をお受けいたしますと王太子殿下にお答えしたのでした。 その1ヶ月後、ダリア様とお父上のクノーリ宰相殿が法廷で糾弾され、断罪されることなど知らずに……

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

処理中です...