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第一章

9話

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「姫様。
 まだ大丈夫でございますか?」
「任せて、ネラ。
 まだ誰にも気づかれていないわ」

 私達は、じりじりと王太子と側近貴族に近づいていました。
 一度捕虜になった王太子と側近貴族は、動員出来る限界まで王国軍と譜代貴族軍を動かしました。
 その数は十万を超える大兵力でした。
 ですが、そんな大動員は逆効果です。

 私達は、大軍が運用出来ない山間部に逃げ込んでいるのです。
 どれほど兵の数があっても、一度に山道に入り込める人数は限られています。
 ましてむりやり動員された雑兵に、戦意などありません。
 特に、先に捕虜になった雑兵が、むりやり再動員されているのです。

 王太子と側近貴族、その配下の騎士の恥知らずな行動を聞いているのです。
 誰もがやる気を失っているのです。
 ですが、騎士達の暴力を恐れて、捜索する振りをしなければいけません。
 そんな雑兵を、騙す事など簡単です。

 私の聖の気配に魅かれて、多くの野生動物が集まって来てくれました。
 彼らが、私達の振りをして、雑兵を山奥へ山奥へ誘い込んでくれます。
 ろくな教練をしていない王国の雑兵に、野生動物を狩る事など出来ません。
 安全に罠に嵌めることが出来るのです。

 私達に追い付いたと思いこんだ、最前線の王国軍を、四方八方の山奥へと誘い込みます。
 色魔で馬鹿で卑怯で臆病な王太子と側近貴族は、罠とも理解出来ずに、私達がいると報告を受けた全ての方面に兵を派遣しました。
 罠を仕掛けた私が情けなくなるくらい、簡単に引っかかってくれました。

 その間に私達は、王太子と側近貴族が本陣としている、譜代貴族家の城に忍び込んだのです。
 周辺には、多くの将兵が駐屯していましたが、聖の魔法の加護が使える私は、戦闘侍女に魔法をかけて、存在を消すことが出来るのです。
 だから、安全に城に忍び込めるのです。

 そこで私達は、許し難い光景を見てしまいました。
 貴族家の城下町では、王国軍将兵による、略奪と暴行が横行していました。
 罪のない民が殺され、女子供が嬲り者にされていました。
 妻や娘が、夫や恋人の前で輪姦されていました。

 まだ幼い、十にも満たない女の子が、何人もの雑兵に輪姦されていました。
 いえ、女の子ばかりではありません。
 男の子まで輪姦されていたのです。
 吐き気がするほどの怒りが、心の中に沸き起こりましたが、心を鬼にして飲み込み堪えました。

 ここで戦いを始めてしまったら、幾ら精鋭の私達でも、無駄死にすることになってっしまうからです。
 僅か百人しかいない私達に出来る事は、本当に限られているのです。
 今はそれを優先して、腐れ外道の始末は、その後でゆっくりとさせて頂きます。

 この世に生まれてきた事を、後悔するほどの報復を受けていただきます!
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