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第4章:伊勢屋と共有田と金貸し
第48話:凶報
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一旦部屋に入った陣吉が渡り廊下の側に移動し、女中がちゃんと部屋から離れたのを確認してから下座に控えた。
「先ずはひと口飲んで喉を潤せ」
「有り難き幸せ」
定之丞が手ずから陣吉に酒を注いでやる。
それだけ大切な報告を持って戻ったと予測していた。
陣吉も遠慮しつつ盃を受けて喉を潤す。
なみなみと注がれた盃を飲み干した陣吉は、周囲に気を付けながら報告する。
「何度もご報告させていただいている枚岡鬼三郎一家ですが、恨みの矛先を此方に向けようとしております」
「寺社の庭先を借りて金儲けをしている分際で、伊勢神宮の御師に刃を向けようとしているのか。
賀茂虎太郎が抑えていると言っていなかったか」
「その賀茂虎太郎が、賀茂別雷神社と賀茂御祖神社の禰宜に賄賂を渡し、何があっても門前に居座れるように手懐けておりました」
「入り込んで見聞きしたのか」
「はい、この耳で確かめました」
「外宮から直接届出すれば、両加茂神社の禰宜も処分されるぞ。
そのような事も分からない愚かな禰宜なのか。
それとも何か切り札でもあるのか」
「こちらの争いに付け込みました」
「なるほど、未だに拭い切れない外宮と内宮の争い。
仕組みとしいて避けようのない神官家の一の禰宜争いか」
「はい、なかなかの策士のようでございます」
「困ったものだ、常倚殿は未だに常之殿に一の禰宜を譲る気がない。
実子に一の禰宜を譲りたいのだろうが、出来が悪すぎる。
檜垣河内家の常之殿に素直に渡せばいいものを」
「又従弟よりも実の息子の方が可愛いのでしょう」
「実の息子であろうと、無能に大切な一の禰宜を譲りたいなど、私利私欲がはなはだし過ぎる」
「はっ、確かに。
ですが檜垣屋を売ったのは常倚様ばかりではありません。
久志本左京家の常陳様も、賀茂虎太郎の悪巧みに乗ったようです」
「二人だけか、他の神宮家も檜垣屋を売ったのか」
「松木雅楽之助家の意彦様と松木本家の意彦様、久志本左京家流の常陳様、松木当七禰宜偉彦家の卓彦様と言彦様もでございます。
この耳では聞いておりませんが、他の神官十家の方々も、悉く檜垣家を陥れる心算のような口ぶりで話しておりましたが、いかがなされますか」
「枚岡鬼三郎一家と賀茂虎太郎一家を皆殺しにしろと命じたらやれるか」
「両一家皆殺しは難しいですが、首魁二人を殺すだけなら何時でもやれます。
或いは、大阪町奉行所に隠れ家を知らせて取り締まる事もできます」
「今度こそ捕らえられると思うか」
「難しいと思われます。
五人の同心とその家族が無残な殺され方をして、枚岡鬼三郎におもねる与力同心も現れておりますので、上手くやらなければ逃げられます」
「大阪町奉行種にいる鬼三郎の内通者を騙して、取り締まらせる自信があるのだな」
「はい、やってごらんに入れます」
「高麗橋の伊勢屋が襲われる事は無いのか」
「流石に大阪城の目の前にある伊勢屋を襲うほど愚かではないようです。
枚岡鬼三郎がやる気になっても、賀茂虎太郎が付けた子分が止めます」
「鬼三郎に嬲り者にされた女達が何処にいるのかは分かるか」
「流石に京大阪の宿場女郎にはできないようで、西国に売ったようでございます」
「確かな場所は分からないのか」
「申し訳ございません、そこまでは調べられませんでした」
「いや、構わない、手が足りないのは分かっている。
助けるには居場所を聞きださなければいけない。
裏切者の神官共を処分するにも、生きて証言してもらわねばならぬ。
鬼三郎は生きて捕らえなければならないな。
京大阪の腰抜けには任せられぬ、山田で生け捕りにする」
「檜垣屋が直接狙われますが、宜しいのですか」
「今なら大丈夫だ。
我が家の手勢だけでなく、与力家と同心家にも腕利きの家臣が入った。
博徒ごときに後れを取る柘植家ではない。
問題があるとすれば、連中がどれくらいの人数を集められるかだ」
「両一家合わせて二百近く集められます。
東海道筋の親分衆に助っ人を頼んでいますから、三百近く集まるかもしれません」
「三百か、そこまで人手を集めてまで檜垣屋を狙うか。
鬼三郎は恨みだけでも動くだろうが、賀茂虎太郎が何の利もなく兄弟分の助っ人だけで動くとは思えない。
引き続き何か裏がないか見張れ」
「御意」
「先ずはひと口飲んで喉を潤せ」
「有り難き幸せ」
定之丞が手ずから陣吉に酒を注いでやる。
それだけ大切な報告を持って戻ったと予測していた。
陣吉も遠慮しつつ盃を受けて喉を潤す。
なみなみと注がれた盃を飲み干した陣吉は、周囲に気を付けながら報告する。
「何度もご報告させていただいている枚岡鬼三郎一家ですが、恨みの矛先を此方に向けようとしております」
「寺社の庭先を借りて金儲けをしている分際で、伊勢神宮の御師に刃を向けようとしているのか。
賀茂虎太郎が抑えていると言っていなかったか」
「その賀茂虎太郎が、賀茂別雷神社と賀茂御祖神社の禰宜に賄賂を渡し、何があっても門前に居座れるように手懐けておりました」
「入り込んで見聞きしたのか」
「はい、この耳で確かめました」
「外宮から直接届出すれば、両加茂神社の禰宜も処分されるぞ。
そのような事も分からない愚かな禰宜なのか。
それとも何か切り札でもあるのか」
「こちらの争いに付け込みました」
「なるほど、未だに拭い切れない外宮と内宮の争い。
仕組みとしいて避けようのない神官家の一の禰宜争いか」
「はい、なかなかの策士のようでございます」
「困ったものだ、常倚殿は未だに常之殿に一の禰宜を譲る気がない。
実子に一の禰宜を譲りたいのだろうが、出来が悪すぎる。
檜垣河内家の常之殿に素直に渡せばいいものを」
「又従弟よりも実の息子の方が可愛いのでしょう」
「実の息子であろうと、無能に大切な一の禰宜を譲りたいなど、私利私欲がはなはだし過ぎる」
「はっ、確かに。
ですが檜垣屋を売ったのは常倚様ばかりではありません。
久志本左京家の常陳様も、賀茂虎太郎の悪巧みに乗ったようです」
「二人だけか、他の神宮家も檜垣屋を売ったのか」
「松木雅楽之助家の意彦様と松木本家の意彦様、久志本左京家流の常陳様、松木当七禰宜偉彦家の卓彦様と言彦様もでございます。
この耳では聞いておりませんが、他の神官十家の方々も、悉く檜垣家を陥れる心算のような口ぶりで話しておりましたが、いかがなされますか」
「枚岡鬼三郎一家と賀茂虎太郎一家を皆殺しにしろと命じたらやれるか」
「両一家皆殺しは難しいですが、首魁二人を殺すだけなら何時でもやれます。
或いは、大阪町奉行所に隠れ家を知らせて取り締まる事もできます」
「今度こそ捕らえられると思うか」
「難しいと思われます。
五人の同心とその家族が無残な殺され方をして、枚岡鬼三郎におもねる与力同心も現れておりますので、上手くやらなければ逃げられます」
「大阪町奉行種にいる鬼三郎の内通者を騙して、取り締まらせる自信があるのだな」
「はい、やってごらんに入れます」
「高麗橋の伊勢屋が襲われる事は無いのか」
「流石に大阪城の目の前にある伊勢屋を襲うほど愚かではないようです。
枚岡鬼三郎がやる気になっても、賀茂虎太郎が付けた子分が止めます」
「鬼三郎に嬲り者にされた女達が何処にいるのかは分かるか」
「流石に京大阪の宿場女郎にはできないようで、西国に売ったようでございます」
「確かな場所は分からないのか」
「申し訳ございません、そこまでは調べられませんでした」
「いや、構わない、手が足りないのは分かっている。
助けるには居場所を聞きださなければいけない。
裏切者の神官共を処分するにも、生きて証言してもらわねばならぬ。
鬼三郎は生きて捕らえなければならないな。
京大阪の腰抜けには任せられぬ、山田で生け捕りにする」
「檜垣屋が直接狙われますが、宜しいのですか」
「今なら大丈夫だ。
我が家の手勢だけでなく、与力家と同心家にも腕利きの家臣が入った。
博徒ごときに後れを取る柘植家ではない。
問題があるとすれば、連中がどれくらいの人数を集められるかだ」
「両一家合わせて二百近く集められます。
東海道筋の親分衆に助っ人を頼んでいますから、三百近く集まるかもしれません」
「三百か、そこまで人手を集めてまで檜垣屋を狙うか。
鬼三郎は恨みだけでも動くだろうが、賀茂虎太郎が何の利もなく兄弟分の助っ人だけで動くとは思えない。
引き続き何か裏がないか見張れ」
「御意」
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