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第3章:おかげ犬
第33話:詰問と大捕物
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「誰の命令でやったか正直に言った奴だけ助ける。
それ以外の九人は殿に刃を向けた罪で返り討ちにする」
木村左門が底冷えのするような脅しをかけると、半死半生だった十人の博徒がぺらぺらと全てを語りだした。
博徒たちに定之丞を襲わせたのは、古市遊郭で妓楼を営む丁子屋の主人重五郎で、お伊勢参りの精進落としに来た連中を相手に賭場を開いて暴利を貪っていた。
駿河国の清水次郎長や上州の国定忠治などといった、後世有名になる博徒たちは生まれもしていないし、後に全国の博徒の二割を占めた甲州博徒もまだいない。
だが、それでも、庶民が豊かになると博打が流行り博徒が力を持つ。
当初幕府は富籤も博打の一種と考えて禁止していた。
その幕府が財政難から寺社の修築費用にだけ富籤を認めのだが、瞬く間に隠富と呼ばれる幕府非公認の富籤も広がり、取り仕切る人間に莫大な富をもたらした。
それでなくても御家人や大名家下屋敷の中間部屋、欲深い住職や神主がいる寺社で賭場が開かれていたのだ。
賭場よりも大金が手に入る隠富が一気に広まるのは当然の事だった。
そんな富籤でも一枚の単価が高額なほど胴元は儲かる。
だが高価な富籤が買えるのは豊かな庶民に限られる。
もしくは多数で一枚の富籤が買える、人の多い場所に限られる。
豊かな庶民がいて人も多い場所は、将軍家の御膝元である江戸。
天下の台所大阪と天子様もおられる京都。
長崎出島による交易利益で繫栄する長崎。
そしてお伊勢参りで莫大な金が落ちる伊勢山田だった。
そんな伊勢でも人目を気にせずに世俗の欲に金を使えるのは、古市となる。
丁子屋の賭場で行われているのは、賽子賭博、独楽賭博、双六博打、
あとは手広く隠富を募集していた。
本来は奉行所が取り締まらないといけないのだが、与力同心が袖の下をもらっていたので今日まで見逃されていたのだ。
「御上の役人を殺そうとするなど絶対に許せぬ。
直ぐに捕らえて黒幕がいないか厳しく詮議せねばならぬ。
古市を見廻っていた目付与力亀谷旅右衛門と組下同心には組屋敷に禁足を命じる。
定之丞に全てを任す、検視して参れ」
「はっ、御奉行の名を汚さぬように励みます」
「八左衛門、旅右衛門と同じ目付与力として責任を感じ、連座処分を逃れたいのなら、定之丞を補佐して命懸けで励め」
大岡奉行は、自ら定之丞の後見役に命じた目付与力の佐々木八左衛門高景に、連座処分を免れたいのなら心を入れ変えて働けと𠮟咤激励する。
「はっ、同じ目付与力として、亀谷旅右衛門の不手際に恥かしく思っております。
必ず汚名をそそいでみせます」
佐々木八左衛門も処分を逃れるために必死だった。
「その方共も十分に働いて参れ」
「「「「「はっ!」」」」」
大岡奉行は定之丞と佐々木八左衛門だけでなく組下同心も激励した。
定之丞と佐々木八左衛門は火事羽織に野袴、鎧胴を締めて騎乗している。
手には指揮用の飾り十手ではなく、実戦用の長十手を持っていた。
左右に侍るのは若党や槍持ち中間など譜代の家臣達だ。
二人の組下になっている主水同心十人は、着流しで尻端折り、帯の上に胴締めをして、万が一にも帯が解けて恥を晒さないようにしている。
定之丞達は、自身番と木戸番に急を知らせ、門を開かせる先触れと御用提灯を先頭に、奉行所から古市遊郭に急行した。
「御用改めである、神妙にいたせ」
古市は通りの左右に多くの遊郭が立ち並んでいる。
その通りの半ばにある丁子屋の戸は固く締められているように見せている。
だが博打に来る者達を迎えるために、戸を一枚隔てた土間には寝ずの番がいる。
寝番は急な事にどうしていいのか分からず、親分や兄貴分に聞こうとしたのだが。
「御上の御用に従わぬとは不遜の極み、門を叩き壊して重五郎を捕らえよ」
定之丞は何の躊躇いもなく強襲する決意をした。
今直ぐ叩き入れば重五郎の虚をつけると見抜いていた。
「「「「「はっ!」」」」」
「お止めくださいませ、直ぐに開けます、開けますから」
「時間稼ぎを許すな、叩き壊せ」
「「「「「はっ!」」」」」
捕方に加わっている拝田衆の一人が大槌を振るって戸を叩き壊した。
「御用改めである、これ以上御上に逆らう者はこの場で斬る」
「もはやこれまでだ、一か八か斬りぬけろ」
慌てて賭場から駆けつけた兄貴分の一人が、もはやこれまでと覚悟を決めた。
左右にいた博徒たちが、各々脇差や匕首を手に突っ込んでくる。
見習同心の中には、情けなく怯えてしまう者がいた。
味方を傷つけかねない、無暗やたらに刃引きの打刀を振るう者がいた。
定之丞と佐々木八左衛門は目付組から外すと心の中で固く決めていた。
それ以外の九人は殿に刃を向けた罪で返り討ちにする」
木村左門が底冷えのするような脅しをかけると、半死半生だった十人の博徒がぺらぺらと全てを語りだした。
博徒たちに定之丞を襲わせたのは、古市遊郭で妓楼を営む丁子屋の主人重五郎で、お伊勢参りの精進落としに来た連中を相手に賭場を開いて暴利を貪っていた。
駿河国の清水次郎長や上州の国定忠治などといった、後世有名になる博徒たちは生まれもしていないし、後に全国の博徒の二割を占めた甲州博徒もまだいない。
だが、それでも、庶民が豊かになると博打が流行り博徒が力を持つ。
当初幕府は富籤も博打の一種と考えて禁止していた。
その幕府が財政難から寺社の修築費用にだけ富籤を認めのだが、瞬く間に隠富と呼ばれる幕府非公認の富籤も広がり、取り仕切る人間に莫大な富をもたらした。
それでなくても御家人や大名家下屋敷の中間部屋、欲深い住職や神主がいる寺社で賭場が開かれていたのだ。
賭場よりも大金が手に入る隠富が一気に広まるのは当然の事だった。
そんな富籤でも一枚の単価が高額なほど胴元は儲かる。
だが高価な富籤が買えるのは豊かな庶民に限られる。
もしくは多数で一枚の富籤が買える、人の多い場所に限られる。
豊かな庶民がいて人も多い場所は、将軍家の御膝元である江戸。
天下の台所大阪と天子様もおられる京都。
長崎出島による交易利益で繫栄する長崎。
そしてお伊勢参りで莫大な金が落ちる伊勢山田だった。
そんな伊勢でも人目を気にせずに世俗の欲に金を使えるのは、古市となる。
丁子屋の賭場で行われているのは、賽子賭博、独楽賭博、双六博打、
あとは手広く隠富を募集していた。
本来は奉行所が取り締まらないといけないのだが、与力同心が袖の下をもらっていたので今日まで見逃されていたのだ。
「御上の役人を殺そうとするなど絶対に許せぬ。
直ぐに捕らえて黒幕がいないか厳しく詮議せねばならぬ。
古市を見廻っていた目付与力亀谷旅右衛門と組下同心には組屋敷に禁足を命じる。
定之丞に全てを任す、検視して参れ」
「はっ、御奉行の名を汚さぬように励みます」
「八左衛門、旅右衛門と同じ目付与力として責任を感じ、連座処分を逃れたいのなら、定之丞を補佐して命懸けで励め」
大岡奉行は、自ら定之丞の後見役に命じた目付与力の佐々木八左衛門高景に、連座処分を免れたいのなら心を入れ変えて働けと𠮟咤激励する。
「はっ、同じ目付与力として、亀谷旅右衛門の不手際に恥かしく思っております。
必ず汚名をそそいでみせます」
佐々木八左衛門も処分を逃れるために必死だった。
「その方共も十分に働いて参れ」
「「「「「はっ!」」」」」
大岡奉行は定之丞と佐々木八左衛門だけでなく組下同心も激励した。
定之丞と佐々木八左衛門は火事羽織に野袴、鎧胴を締めて騎乗している。
手には指揮用の飾り十手ではなく、実戦用の長十手を持っていた。
左右に侍るのは若党や槍持ち中間など譜代の家臣達だ。
二人の組下になっている主水同心十人は、着流しで尻端折り、帯の上に胴締めをして、万が一にも帯が解けて恥を晒さないようにしている。
定之丞達は、自身番と木戸番に急を知らせ、門を開かせる先触れと御用提灯を先頭に、奉行所から古市遊郭に急行した。
「御用改めである、神妙にいたせ」
古市は通りの左右に多くの遊郭が立ち並んでいる。
その通りの半ばにある丁子屋の戸は固く締められているように見せている。
だが博打に来る者達を迎えるために、戸を一枚隔てた土間には寝ずの番がいる。
寝番は急な事にどうしていいのか分からず、親分や兄貴分に聞こうとしたのだが。
「御上の御用に従わぬとは不遜の極み、門を叩き壊して重五郎を捕らえよ」
定之丞は何の躊躇いもなく強襲する決意をした。
今直ぐ叩き入れば重五郎の虚をつけると見抜いていた。
「「「「「はっ!」」」」」
「お止めくださいませ、直ぐに開けます、開けますから」
「時間稼ぎを許すな、叩き壊せ」
「「「「「はっ!」」」」」
捕方に加わっている拝田衆の一人が大槌を振るって戸を叩き壊した。
「御用改めである、これ以上御上に逆らう者はこの場で斬る」
「もはやこれまでだ、一か八か斬りぬけろ」
慌てて賭場から駆けつけた兄貴分の一人が、もはやこれまでと覚悟を決めた。
左右にいた博徒たちが、各々脇差や匕首を手に突っ込んでくる。
見習同心の中には、情けなく怯えてしまう者がいた。
味方を傷つけかねない、無暗やたらに刃引きの打刀を振るう者がいた。
定之丞と佐々木八左衛門は目付組から外すと心の中で固く決めていた。
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