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第2章:ハンセン氏病
第21話:癩病非人小屋
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着任したばかりで莫大な付け届けを送られた大岡美濃守は、最初は疑念を抱いた。
奉行所に深刻な不正があると疑い、支配組頭や与力同心を使わずに、何所の誰がどのような悪事を働いているか調べさせた。
奉行所の御用人や御給人となって働いてくれる、譜代の家臣を使って色々と調べさせ、ある程度目途が立ってから支配組頭や与力を直接問い質した。
十分に時間と手間をかけて調べ、柘植定之丞の言動が正しく、龍大夫や山田三方会合衆が悪いと判断し、自信を持って裁きを下した。
徹底的に調べただけあって、大岡美濃守の柘植親子に対する信頼は厚かった。
御奉行、大岡美濃守忠移の許可を受けた柘植定之丞は精力的に動いた。
松阪、神宮、二見ヶ浦、津などの非人小屋頭の同意を取りつけ、支配の村役人に届出を出させ、幕府や紀伊家に差し出す届出を完璧にした。
その内容は、伊勢に日ノ本六十余州の無宿人が集まり、どれほど取り締まり追い返しても再びやって来て乞食をする。
本来非人だけが許される勧進の一種である乞食を、在所を離れた無宿人がやる事は許されないし、特に神領では拝田と牛谷の衆にしか許されない。
これからも五体満足な無宿人は追い返すが、非人扱いとなる癩病は哀れであり、宮川の渡しの手前、紀州藩付家老久野家の田丸藩一万石領内に非人小屋を作り、乞食勧進を許したいと届ける。
檜垣屋も本家の檜垣河内家を通して京の朝廷に願い出て、幕閣や有力大名旗本にも働きかけてもらっていた。
西国の非人を統括する悲田院はもちろん、東照神君の裁可で関八州、伊豆全域、甲斐都留郡、駿河駿東郡、陸奥白川郡、三河設楽郡の一部に住む穢多非人を統轄する権限を与えられた、穢多頭弾左衛門にも山田奉行の名前で知らせてあった。
西国の穢多非人は、伊勢神宮のような歴史のある寺社や公家と直結しているため、穢多頭弾左衛門の支配は受けていないが、触頭と称して全国の穢多非人に号令を下す権限を御公儀から与えられてしまっていた。
御公儀の一機関である山田奉行所が、それを完全に無視するわけにはいかない。
古から神宮に直結する拝田と牛谷の衆なら独断で差配できるが、紀伊徳川家の付家老久野家の田丸藩内の非人小屋の扱いとなると、方々に根回しが必要だったのだ。
ようやく諸方への届出が終わり、後は御公儀の下知を待つだけとなり、柘植定之丞は久しぶりに檜垣屋を訪ねた。
檜垣屋は柘植定之丞を下にも置かない歓待をする。
これまではゆう一人で茶庵に入って定之丞を歓待する事はなかったが、龍太夫の一件以降、本家の檜垣河内家も定之丞との結婚を反対しなくなった。
以前は嫁入りさせるのか婿に迎えるのかが問題だったが、今ではゆうを嫁に出しても構わないという考えに傾いていた。
そのかわり、当主の富徳に子供を作れという圧力が強くかかっていた。
子供ができなければ、本家当主、度会常之の子供が養子に送り込まれてくる可能性が高かった。
「柘植様、御師宿にする町屋を、田丸の御城下に買いました」
「そうか、檜垣屋も着々と手を打ってくれているのだな」
「はい、父はもちろん祖父も走り回ってくれています。
本家の二の禰宜様も、癩病を大切にするように、網元に言ってくださっています。
私も毎日水垢離で豊受大御神様に祈願しております」
「神仏を敬うのは大切だが、身体を壊しては何にもならない。
同じ祈願するのなら、水垢離ではなく神楽でやりなさい」
「私の身体を心配してくださるのですか」
「ああ、とても大切に思っているよ」
「うれしい」
奉行所に深刻な不正があると疑い、支配組頭や与力同心を使わずに、何所の誰がどのような悪事を働いているか調べさせた。
奉行所の御用人や御給人となって働いてくれる、譜代の家臣を使って色々と調べさせ、ある程度目途が立ってから支配組頭や与力を直接問い質した。
十分に時間と手間をかけて調べ、柘植定之丞の言動が正しく、龍大夫や山田三方会合衆が悪いと判断し、自信を持って裁きを下した。
徹底的に調べただけあって、大岡美濃守の柘植親子に対する信頼は厚かった。
御奉行、大岡美濃守忠移の許可を受けた柘植定之丞は精力的に動いた。
松阪、神宮、二見ヶ浦、津などの非人小屋頭の同意を取りつけ、支配の村役人に届出を出させ、幕府や紀伊家に差し出す届出を完璧にした。
その内容は、伊勢に日ノ本六十余州の無宿人が集まり、どれほど取り締まり追い返しても再びやって来て乞食をする。
本来非人だけが許される勧進の一種である乞食を、在所を離れた無宿人がやる事は許されないし、特に神領では拝田と牛谷の衆にしか許されない。
これからも五体満足な無宿人は追い返すが、非人扱いとなる癩病は哀れであり、宮川の渡しの手前、紀州藩付家老久野家の田丸藩一万石領内に非人小屋を作り、乞食勧進を許したいと届ける。
檜垣屋も本家の檜垣河内家を通して京の朝廷に願い出て、幕閣や有力大名旗本にも働きかけてもらっていた。
西国の非人を統括する悲田院はもちろん、東照神君の裁可で関八州、伊豆全域、甲斐都留郡、駿河駿東郡、陸奥白川郡、三河設楽郡の一部に住む穢多非人を統轄する権限を与えられた、穢多頭弾左衛門にも山田奉行の名前で知らせてあった。
西国の穢多非人は、伊勢神宮のような歴史のある寺社や公家と直結しているため、穢多頭弾左衛門の支配は受けていないが、触頭と称して全国の穢多非人に号令を下す権限を御公儀から与えられてしまっていた。
御公儀の一機関である山田奉行所が、それを完全に無視するわけにはいかない。
古から神宮に直結する拝田と牛谷の衆なら独断で差配できるが、紀伊徳川家の付家老久野家の田丸藩内の非人小屋の扱いとなると、方々に根回しが必要だったのだ。
ようやく諸方への届出が終わり、後は御公儀の下知を待つだけとなり、柘植定之丞は久しぶりに檜垣屋を訪ねた。
檜垣屋は柘植定之丞を下にも置かない歓待をする。
これまではゆう一人で茶庵に入って定之丞を歓待する事はなかったが、龍太夫の一件以降、本家の檜垣河内家も定之丞との結婚を反対しなくなった。
以前は嫁入りさせるのか婿に迎えるのかが問題だったが、今ではゆうを嫁に出しても構わないという考えに傾いていた。
そのかわり、当主の富徳に子供を作れという圧力が強くかかっていた。
子供ができなければ、本家当主、度会常之の子供が養子に送り込まれてくる可能性が高かった。
「柘植様、御師宿にする町屋を、田丸の御城下に買いました」
「そうか、檜垣屋も着々と手を打ってくれているのだな」
「はい、父はもちろん祖父も走り回ってくれています。
本家の二の禰宜様も、癩病を大切にするように、網元に言ってくださっています。
私も毎日水垢離で豊受大御神様に祈願しております」
「神仏を敬うのは大切だが、身体を壊しては何にもならない。
同じ祈願するのなら、水垢離ではなく神楽でやりなさい」
「私の身体を心配してくださるのですか」
「ああ、とても大切に思っているよ」
「うれしい」
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