侯爵令息は婚約者の王太子を弟に奪われました。

克全

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第一章

第8話:お先に

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 俺は冒険者ギルドが把握していない、過去の英雄豪傑すら達していない、深々層にまでたどり着いてから、ようやく足を緩めた。
 深上層から深下層までは、槍の届く範囲に現れた魔獣だけを斃し、流れるような動作で魔法袋に入れて確保した。
 深層の魔獣を狩ってギルドに渡さないと、文句を言われてしまうからだ。
 俺が本当に欲しくて確保したいのは、深々層の魔獣素材と魔晶石だ。

 今日までに深々中層までは到達している。
 今日は何があっても深々下層まで到達したい。
 巨大で質のよい魔晶石を身に着ける事で、一度の戦闘で使える魔力も日々増えているから、深々下層の魔獣も斃せるだろう。
 深々下層の魔獣から手に入れた魔晶石を身に着ければ、更に戦闘力は高くなる。
 深々下層の魔獣素材で武器と防具を造れば、ボスを斃す事も夢ではない。

「よお、遅かったな」
 
 俺が冒険者ギルドでのひと騒動を終えて休んでいると、ロイド達ドラゴンファングがダンジョンから戻ってきた。
 孤児や浮浪者は俺よりずっと前に戻ってきて、嬉々として受付をすませたと聞く。
 新人とロートルは、個々のレベルが違うので、分散して戻ってきたようだが、私が小石を使って斃した魔獣が多過ぎて、自分達が狩る事もなく運べる限界になった。
 俺が狩った結構な量の魔獣が、新たに湧いた魔獣に喰われてしまったようだ。

「なんだ、もう帰って来ていたのかよ。
 こっちはメイガが斃した魔獣を回収しただけで、ろくな狩りもしなかったのによ。
 残念だが、結構な量の魔獣が喰われちまっていたよ。
 魔法袋が一杯になるまで詰め込んで、持てるだけ持って帰ったんだがな。
 メイガが普段どれだけもったいない事をしていたのか、よくわかったよ。
 ギルドが躍起になるわけだ」

 言葉では非難しているようなのだが、口調と表情は俺を褒め称えてくれている。
 ドラゴンファングのメンバーも、呆れた表情が混じっていたが、同じように評価してくれている。
 とても気持ちのいい連中で、今日も酒を酌み交わしたくなる。
 聖女という綽名のあるエタナだけは来てほしくないが、それは望み過ぎだな。

「メイガ様、あのぉ、とても今日中には計算できそうにないのです。
 それと、その、多くの素材が競売品目に相当しまして……」

 胸のない受付嬢、マリナな恐る恐る声をかけてきた。
 素材を持ち込んだ時に、あまりにギルド幹部が騒ぐの、本気の殺意を叩き込んでやったら、全員が半死半生になったから、俺の事を恐れているのだろう。
 だからといって、そこまで恐怖の表情を浮かべるのは止めろ。
 ロイドに悪い印象を持たれてしまうではないか。

「おい、メイガ、お前何をやらかしたんだ?」
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