伯爵家公子と侯爵家公女の恋

克全

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義賊

31話

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 小柄な男の後ろから襲い掛かった盗賊ギルド員は、襲い掛かっているにもかかわらず、自分の方に小柄な男が反撃してくるとは想定していなかったようだ。
 小柄な男が振り返りもせずに、前を向いたまま後ろに跳んだからでもあるのだが、油断し過ぎだと思った。

 いや、小柄な男が見事なのだろう。
 予備動作もなしに、素早く真後ろにいる敵に跳んで、しかも敵の頭を土台にするように蹴り、左横に二度目の跳びまで行った!
 まったくもって感心する動きだった。

「あの一撃で絶命させるとは、ただ者ではないな」

 わしの前を護っていたヨハンが思わずつぶやいている。
 後方への飛び蹴りで一人絶命させたのだな。
 歴戦の冒険者であるヨハンを感心させるとは、凄い男なのだろう。
 だが、盗賊ギルドから金を盗むと言うのはどう言う事なのだろう?
 盗賊ギルドは悪人の集まりだと聞いているから、敵対する小柄な男は善人なのか?
 それとも盗賊ギルドを上回る大悪人なのか?

「追え!
 にがすんじゃねぇ!」

 兄貴分なのか、さっき偉そうに、愚にもつかない、言い訳にもならない、屁理屈を口にしていた奴が、小柄な男を追えと命じている。

「ヨハン。
 小柄な男は正義の味方なのか?」

「まだそれは分かりません。
 それに、完全な善人など滅多にいません。
 人は欲望にあらがえない生き物なのです」

 ふむ、ヨハンの言う通りなのかもしれん。
 全くの善人など、クリスさんくらいだろう。
 わしにしても、クリスさんによく見られたいという欲を抑えられずに、何度も知ったかぶりをしていたからな。

「誰が逃げるかよ!」

 盗賊ギルドの包囲網を突破した小柄な男は、そのまま逃げるのではなく、横に跳んで次々と盗賊ギルド員に短剣を突き立てていた。
 振り回すのではなく、最短の距離で喉を一撃で突くのだ。
 非力だが素早い小柄な男にできる最善の戦法なのだろう。

「ヨハン。
 小柄な男が勝つのか?」

「助っ人が来なければ勝てるでしょうが、場所が悪いです。
 この辺りには盗賊ギルドが経営する店が沢山あります。
 直ぐに次々と助っ人が集まります」

「全員を殺そうと考えず、素早く逃げ出したらどうだ?」

「どの道を逃げるか、どの道から盗賊ギルドの助っ人が来るのか、運次第ですね。
 これだけ人が多くては、素早さが役に立ちません」

 確かにヨハンの言う通りだ。
 こんな所で殺し合いが始まったから、それでなくても人込みで一杯だったところに野次馬が集まり、もう身動きできなくなっている。

 盗賊ギルドの包囲網を突破した小柄な男も、十重二十重の野次馬に囲まれて、その外には逃げられなくなっている。
 最初に包囲網を突破した時に、そのまま逃げればよかったのだろう。
 勝機と言うよりは、生き残るための光明をと言うべきだろう。
 生き死にが掛かった実際の戦いでは、それを見逃してしまったら、死が待ってると言う事だな。

「どけ、どけ、どきやがれ!
 盗賊ギルドだ!
 どかなとてめぇらから先に殺すぞ!」

 盗賊ギルドの助っ人が集まってきたな。
 もう小柄な男は逃げ切れないな。
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