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第1章
第35話:呪い
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アバコーン王国暦287年8月25日・ウェストミース王国王都二ノ丸・エマ視点
「とんでもないことが分かったね」
「そうですわね、どうすればいいものか……」
「どうもこうも、あんな非人道的な魔術は消去よ消去」
「ですが、使い方によっては役に立ちますわ」
「えええええ、あれが役に立つ?!
事前に巨大な魔法陣を作らなければいけないうえに、その魔法陣の中でしか動けないんだよ?
しかも術者がバケモノに変化してしまって、元に戻れないんだよ?
そんな酷い術が役に立つわけないじゃない!」
「確かに今の時点ではとても使えるような術ではありませんが、これから研究していけば、問題点も改善できるはずです」
「何言っているのよ。
あんな外道な術よりも身体強化で身体を鍛えた方がずっといいじゃない。
バケモノに変化する事なく、人間のまま強くなれるんだよ。
あのバケモノだって、槍の一突きで殺せたじゃない」
「それなのですよ、ミサキ。
確かに今回発見した魔術は、そのままではとても使い物になりません。
しかしながら、ミサキが教えてくれた身体強化や魔力蓄積と組み合わせれば、とても強力な戦士を生み出せるかもしれないのよ」
「……確かに、組み合わせれば使えるようになるかもしれないわ」
「そうでしょう!
ミサキが協力してくれれば、多少の犠牲や時間はかかっても、成功しますわ。
ミサキは犠牲を嫌がって強く反対すると思っていましたから、賛成してくれるとは思っていませんでしたわ」
「賛成したわけではないわ」
「……やはり反対ですのね。
ですが、実験を犯罪者に限ればいいのではありませんか?
ミサキも厳罰を与えた方がいい男がいる事は認めてくれるでしょう?」
「厳罰を与えた方がいい人間がいる事は認めるよ。
でも危険が大き過ぎるわよ。
何時ものエマらしくないよ。
強力な魔術を見て大切な事を置き去りにしてしまっているよ」
「わたくしが何を忘れているというの?」
「どちらを先にするかは別にして、人体実験するんだよ。
思いっきり恨まれるよね?
その恨みに凝り固まった犯罪者が、私達以上の力を持つんだよ!
私達はもちろん、人間を滅ぼそうとしたり、全人類を奴隷のようにしたりする可能性が高いのが分からないの?!」
「……ミサキの言う通りです。
性根の腐った犯罪者に、ミサキが教えてくれた経絡経穴やチャクラの事は、とても教えられませんわね。
ですが、わたくしの子供ならば……」
「エマ、本当はもうわかっているよね。
これ以上エマに厳しい事は言いたくないの。
もう自分の間違いを認めてよ。
エマも以前言っていたじゃない。
子孫でも人間性を確かめた後でしか私達の魔術は教えられないって。
そんな大切な後継者を、人格が崩壊するような魔術の実験体にするの?
母親がそんな人間だと知ったら、人類に絶望してしまって、人類を滅ぼそうとしてしまうかもしれないよ?
そんな事をするくらいなら、私達の魔術を改良しようよ。
もっと使える魔術を探そうよ。
その方が絶対いいよ!」
「……そうですわね。
わたくしにもこのような部分があるのですね。
気を付けないと、とんでもない暴君になってしまいますわね。
これからも、わたくしが道を外しそうになったら、厳しく諫言してください」
「任せてよ。
同じ身体を共有した仲じゃない。
別の身体が手に入ってからも、肩を並べて戦った仲よね。
エマが人の道を踏み外しそうになったら、殴ってでも止めてあげるわ」
「そうですわね、ミサキとは戦友ですものね。
それに、この身体の優先権は未だにミサキにあるのですものね」
「……強くなる事よりも、身体を取り戻す事を先に研究しようよ。
この国の事も大切だし、民の事も大切だけど、それよりも前にエマだよ。
エマが幸せになれないと、国も民も本当の意味で大切にできないよ。
自分が犠牲になっている状態では、他人にも犠牲やガマンを求めちゃうよ。
だからね、エマ、幸せになろうよ」
「……分かりましたわ、わたくしも幸せになりますわ」
「じゃあまず恋人だね!
心から愛する人が見つかったら、エマも他人に優しくなれるわよ」
「今の言葉は聞き捨てなりませんわ!
それではまるでわたくしが優しくないようではありませんか!
わたくしは今でも十分優しいですわ!」
「えええええ、何言っているのよ?!
エマはとんでもなく厳しいわよ!
厳しい優しさがあると言うのなら認めるけれど、無条件の優しさじゃないよ」
「その厳しい優しさというのは何ですの?
無条件の優しさと何が違いますの?」
「エマはね、自分がものすごく努力してきたから、他人にも同じように努力を求めてしまうの。
努力をしない者を、怠け者のダメな人間だと思ってしまうので」
「その通りではありませんか、何が悪いのですか?」
「うん、私もその通りだと思うけど、努力できないダメな人間の方が多いの。
努力できるのも1つの才能で、持って生まれて努力の才能がない人が多いの。
決して人としてダメな訳ではないの。
努力できない人間の方が多いと思って接しないと、厳し過ぎると言われるの」
「……納得できませんわ!」
「うん、実は私も納得できないの。
でも、そういう子供が生まれたとしても、ダメな子として嫌わないであげて。
それが普通なだけで、努力できる子が特別だと思ってあげて。
そうでないと、子供の性格が捻じ曲がるから」
「……一応覚えておきますわ。
もしわたくしの子供がそのように努力のできない子供でしたら、その時改めてミサキに教えてもらう事にします。
ですが、家臣はダメです。
努力のできないような者に重要な役目は与えられません」
「うん、それでいいと思うよ。
怠惰で何の努力もしないような者を役人にしたら、国がおかしくなるから。
覚えておいて欲しいのは、世襲制だと、そういう人間が後継者になってしまって、国がどんどん腐敗してくると言う事よ。
特に王家にそのような者が生まれると、一気に国がおかしくなるわ」
「分かりました、できるだけ多くの子供を産んで、努力ができる子供に国を継がせるようにしますわ
そのためには、ステュワート教団の教えは邪魔でしかありませんわ。
わたくしの国からステュワート教団を排除します!
それと、側室制を認めて数多くの子孫を確保するのなら、男性が王の方が優秀な次代を選べるのですわね」
「そんな事はないわよ。
直系の子供にだけに王位継承権をこだわるから、そうなるのよ。
王位継承権を傍系にまで認めればいいじゃない。
100位までにするか500位までにするかはエマが決めればいいけれど、甥や姪、従兄弟姉妹の子供にまで王位継承権を認めれば、優秀な次代を選べるわよ。
王が男でも女でも関係ないわよ!」
「そうね、そうよね、何も自分の子供に限らなくてもいいのよね。
自分の子供に王位を継がせたいという欲さえ捨てれば、王にふさわしい優秀な人間に王位を継がせることができるのですわね」
わたくしはミサキと話して心が軽くなりました。
これほど心が軽くなったのは初めてです。
わたくしは、ハミルトン公爵家の後継者として背負わなければいけない重圧と、王妃として王を助けて背負わなければいけない重圧に苦しんでいました。
そして新たに、女王として背負わなければいけない重圧と、次代を引き継ぐ人間を生み育てるという、とてつもない重圧に苦しんでいました。
ところが、ミサキのお陰で次代を生み育てる重圧から解き放たれました。
ミサキの話しを突き詰めれば、次代を引き継ぐ子供を育てなくてもいいのです。
極論を言えば、子供を産む必要すらありません。
優秀な人間を養子に向かえればいいだけの事です。
重圧の半分が無くなったわたくしは、心おきなくウェストミース王国の王城本丸を完全に破壊する事ができました。
恐ろしい魔術にこだわる必要などなくなりました。
ですが、王城に集められていた魔術書は別です。
ウェストミース王国を建国した初代王が、多くの魔術を活用していただけに、代々の王が魔術書を集めて研究したようで、膨大な魔術書がありました。
その魔術書を研究すれば、とてつもない魔術を再現できる可能性があります。
ニュージェント王家では再現できなかった魔術も、ミサキなら再現できるかもしれません。
「とんでもないことが分かったね」
「そうですわね、どうすればいいものか……」
「どうもこうも、あんな非人道的な魔術は消去よ消去」
「ですが、使い方によっては役に立ちますわ」
「えええええ、あれが役に立つ?!
事前に巨大な魔法陣を作らなければいけないうえに、その魔法陣の中でしか動けないんだよ?
しかも術者がバケモノに変化してしまって、元に戻れないんだよ?
そんな酷い術が役に立つわけないじゃない!」
「確かに今の時点ではとても使えるような術ではありませんが、これから研究していけば、問題点も改善できるはずです」
「何言っているのよ。
あんな外道な術よりも身体強化で身体を鍛えた方がずっといいじゃない。
バケモノに変化する事なく、人間のまま強くなれるんだよ。
あのバケモノだって、槍の一突きで殺せたじゃない」
「それなのですよ、ミサキ。
確かに今回発見した魔術は、そのままではとても使い物になりません。
しかしながら、ミサキが教えてくれた身体強化や魔力蓄積と組み合わせれば、とても強力な戦士を生み出せるかもしれないのよ」
「……確かに、組み合わせれば使えるようになるかもしれないわ」
「そうでしょう!
ミサキが協力してくれれば、多少の犠牲や時間はかかっても、成功しますわ。
ミサキは犠牲を嫌がって強く反対すると思っていましたから、賛成してくれるとは思っていませんでしたわ」
「賛成したわけではないわ」
「……やはり反対ですのね。
ですが、実験を犯罪者に限ればいいのではありませんか?
ミサキも厳罰を与えた方がいい男がいる事は認めてくれるでしょう?」
「厳罰を与えた方がいい人間がいる事は認めるよ。
でも危険が大き過ぎるわよ。
何時ものエマらしくないよ。
強力な魔術を見て大切な事を置き去りにしてしまっているよ」
「わたくしが何を忘れているというの?」
「どちらを先にするかは別にして、人体実験するんだよ。
思いっきり恨まれるよね?
その恨みに凝り固まった犯罪者が、私達以上の力を持つんだよ!
私達はもちろん、人間を滅ぼそうとしたり、全人類を奴隷のようにしたりする可能性が高いのが分からないの?!」
「……ミサキの言う通りです。
性根の腐った犯罪者に、ミサキが教えてくれた経絡経穴やチャクラの事は、とても教えられませんわね。
ですが、わたくしの子供ならば……」
「エマ、本当はもうわかっているよね。
これ以上エマに厳しい事は言いたくないの。
もう自分の間違いを認めてよ。
エマも以前言っていたじゃない。
子孫でも人間性を確かめた後でしか私達の魔術は教えられないって。
そんな大切な後継者を、人格が崩壊するような魔術の実験体にするの?
母親がそんな人間だと知ったら、人類に絶望してしまって、人類を滅ぼそうとしてしまうかもしれないよ?
そんな事をするくらいなら、私達の魔術を改良しようよ。
もっと使える魔術を探そうよ。
その方が絶対いいよ!」
「……そうですわね。
わたくしにもこのような部分があるのですね。
気を付けないと、とんでもない暴君になってしまいますわね。
これからも、わたくしが道を外しそうになったら、厳しく諫言してください」
「任せてよ。
同じ身体を共有した仲じゃない。
別の身体が手に入ってからも、肩を並べて戦った仲よね。
エマが人の道を踏み外しそうになったら、殴ってでも止めてあげるわ」
「そうですわね、ミサキとは戦友ですものね。
それに、この身体の優先権は未だにミサキにあるのですものね」
「……強くなる事よりも、身体を取り戻す事を先に研究しようよ。
この国の事も大切だし、民の事も大切だけど、それよりも前にエマだよ。
エマが幸せになれないと、国も民も本当の意味で大切にできないよ。
自分が犠牲になっている状態では、他人にも犠牲やガマンを求めちゃうよ。
だからね、エマ、幸せになろうよ」
「……分かりましたわ、わたくしも幸せになりますわ」
「じゃあまず恋人だね!
心から愛する人が見つかったら、エマも他人に優しくなれるわよ」
「今の言葉は聞き捨てなりませんわ!
それではまるでわたくしが優しくないようではありませんか!
わたくしは今でも十分優しいですわ!」
「えええええ、何言っているのよ?!
エマはとんでもなく厳しいわよ!
厳しい優しさがあると言うのなら認めるけれど、無条件の優しさじゃないよ」
「その厳しい優しさというのは何ですの?
無条件の優しさと何が違いますの?」
「エマはね、自分がものすごく努力してきたから、他人にも同じように努力を求めてしまうの。
努力をしない者を、怠け者のダメな人間だと思ってしまうので」
「その通りではありませんか、何が悪いのですか?」
「うん、私もその通りだと思うけど、努力できないダメな人間の方が多いの。
努力できるのも1つの才能で、持って生まれて努力の才能がない人が多いの。
決して人としてダメな訳ではないの。
努力できない人間の方が多いと思って接しないと、厳し過ぎると言われるの」
「……納得できませんわ!」
「うん、実は私も納得できないの。
でも、そういう子供が生まれたとしても、ダメな子として嫌わないであげて。
それが普通なだけで、努力できる子が特別だと思ってあげて。
そうでないと、子供の性格が捻じ曲がるから」
「……一応覚えておきますわ。
もしわたくしの子供がそのように努力のできない子供でしたら、その時改めてミサキに教えてもらう事にします。
ですが、家臣はダメです。
努力のできないような者に重要な役目は与えられません」
「うん、それでいいと思うよ。
怠惰で何の努力もしないような者を役人にしたら、国がおかしくなるから。
覚えておいて欲しいのは、世襲制だと、そういう人間が後継者になってしまって、国がどんどん腐敗してくると言う事よ。
特に王家にそのような者が生まれると、一気に国がおかしくなるわ」
「分かりました、できるだけ多くの子供を産んで、努力ができる子供に国を継がせるようにしますわ
そのためには、ステュワート教団の教えは邪魔でしかありませんわ。
わたくしの国からステュワート教団を排除します!
それと、側室制を認めて数多くの子孫を確保するのなら、男性が王の方が優秀な次代を選べるのですわね」
「そんな事はないわよ。
直系の子供にだけに王位継承権をこだわるから、そうなるのよ。
王位継承権を傍系にまで認めればいいじゃない。
100位までにするか500位までにするかはエマが決めればいいけれど、甥や姪、従兄弟姉妹の子供にまで王位継承権を認めれば、優秀な次代を選べるわよ。
王が男でも女でも関係ないわよ!」
「そうね、そうよね、何も自分の子供に限らなくてもいいのよね。
自分の子供に王位を継がせたいという欲さえ捨てれば、王にふさわしい優秀な人間に王位を継がせることができるのですわね」
わたくしはミサキと話して心が軽くなりました。
これほど心が軽くなったのは初めてです。
わたくしは、ハミルトン公爵家の後継者として背負わなければいけない重圧と、王妃として王を助けて背負わなければいけない重圧に苦しんでいました。
そして新たに、女王として背負わなければいけない重圧と、次代を引き継ぐ人間を生み育てるという、とてつもない重圧に苦しんでいました。
ところが、ミサキのお陰で次代を生み育てる重圧から解き放たれました。
ミサキの話しを突き詰めれば、次代を引き継ぐ子供を育てなくてもいいのです。
極論を言えば、子供を産む必要すらありません。
優秀な人間を養子に向かえればいいだけの事です。
重圧の半分が無くなったわたくしは、心おきなくウェストミース王国の王城本丸を完全に破壊する事ができました。
恐ろしい魔術にこだわる必要などなくなりました。
ですが、王城に集められていた魔術書は別です。
ウェストミース王国を建国した初代王が、多くの魔術を活用していただけに、代々の王が魔術書を集めて研究したようで、膨大な魔術書がありました。
その魔術書を研究すれば、とてつもない魔術を再現できる可能性があります。
ニュージェント王家では再現できなかった魔術も、ミサキなら再現できるかもしれません。
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