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第1章

第9話:お勉強会

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アバコーン王国暦287年2月16日ガーバー子爵領アームストン城・美咲視点

「エマお嬢様!
 ガーバー子爵閣下が写本でよければと魔術の本を貸してくださいました!
 とても信じられません!」

「そう、そこまでわたくしの価値を認めてくださっているのなら、少々の事では王家に売られたりはしないでしょう。
 安心して鍛錬に励む事ができますね。
 もし貸してくださらなければ、命懸けで逃げるつもりでしたわ」

「エマお嬢様?!」

「アビゲイル、わたくし、もう二度と死にかける気はないのよ。
 死地に入って必死にあがくのでは遅いのよ。
 死地に入らないようにする事が大切なの。
 気を付けていても、避け切れずに死地に入ってしまったとしたら、グズグズせずに逃げる事が1番大切なのよ」

「不出来な護衛で申し訳ありません。
 二度と同じ失敗は繰り返しません」

 ごめんね、アビゲイル。
 全部エマが考えた事で、私はエマの言われた通り話しているだけなの。

「そう、だったらわたくしが最初に読みますから、次に貴女達が読んでください。
 昼に練兵場が使える間は武術の鍛錬をします。
 疲れて身体を休める間に魔術の本を読みます。
 それと、魔術の本を写本していいか、ガーバー子爵に確認してください」

「エマお嬢様!」

「最後まで聞いてください、アビゲイル。
 写本を許可して頂けるのなら、2冊に1冊はガーバー子爵に渡します。
 このような魔術語で書かれた本は、修道院騎士にしか写本できないでしょう?
 ガーバー子爵にも十分利益がありますよ。
 何ならアバコーン王国語に翻訳して写本すると言って交渉してください」

「……承りました、エマお嬢様」

(エマの言う通りに話したけど、これ以上ガーバー子爵を試して、彼が暴発したらどうするつもり?)

(これくらいの事で暴発するようなガーバー子爵ではないわ。
 ガーバー子爵は、わたくしが魔法を使えるか試す気だわ)

(どういう事よ?)

(ガーバー子爵が貸してくれた魔術の本は、どれも初級の入門書だわ。
 わたくしが魔力に目覚め、魔術が使えるようになったのを疑っているわ)

(え?
 それって私のせい?
 私が何か不用意な事を口にしたの?)

(ミサキだけの責任ではないわ。
 わたくしも、1度殺されたのに蘇れた事、魔力が使えるようになった事で舞い上がってしまっていましたわ。
 目が覚めて記憶を失っているはずなのに、魔術の本が借りたいだなんて言いだしたら、疑われるに決まっています)

(う~ん、どうだろう。
 それだけなら、ただ親切にしてくれているだけじゃないの?)

(どういうことですの?)

(だって、ガーバー子爵はエマのお爺さんに恩があるのよね?)

(ええ、ガーバー子爵が平民だった頃に、アバコーン王国内で商売をする時にも手助けしましたし、ゴート王国でボイエル伯爵位を購入する時も、アバコーン王国でガーバー子爵位を購入する時も手助けしていましたわ。
 でもそれは、わたくしの実家、ハミルトン公爵家も同じですわ……あ?!)

(分かった?)

(ええ、分かりましたわ。
 わたくしが魔力に目覚めた事を疑っていないとは言えませんが、それ以外にも親切にする理由がありましたわね)

(そうよ、エマが教えてくれた事を考えれば分かる事よ。
 ハミルトン公爵位と領地は奪われたけれど、商会は残っているわ。
 ガーバー子爵がその商会に目を付けない訳がないわ)

(そうでしたわね。
 冷静になったつもりでも、まだ気が動転してしまっているようです)

(今のエマの状況では仕方がないわよ。
 でも、できるだけ冷静に考えないといけないわよ。
 百点満点は無理でも、死につながるような失点は許されないわよ)

(分かっていますわ、そのような失敗は絶対しませんわ)

(では私が思いついた事から言っておくわね。
 ガーバー子爵はエマを商会ごと取り込みたいと思っている。
 それも、自分をかばってくれるブラウン侯爵家を残した状態で)

(上出来ですわ、ミサキ。
 ハミルトン公爵家とブラウン侯爵家に庇護されていたガーバー子爵は、王家ににらまれていますわ。
 今は他の貴族を味方につけておくために、表向き王家を支持しているガーバー子爵を見逃していますが、それもブラウン侯爵家を潰すまでですわ)

(私もそう思うわ。
 それに、王国の内乱はガーバー子爵にとっては絶好の機会よ。
 私のいた世界には、死の商人というのがいるの。
 世界中で戦争を引き起こして、敵味方関係なく武器を売って大儲けするの)

(この世界にも同じような事をする者はいますわ。
 これまでのガーバー子爵の商いは真っ当な物でしたが、ハミルトン公爵家が力を失い、ブラウン侯爵家自体が戦っている状態ですからね……)

(エマを護るためと言って表向き王家に武器を売り、裏ではブラウン侯爵家にも武器を売り、両者の力を削いでいく。
 ブラウン侯爵が文句を言えない状態にして、エマに婿入りする形でハミルトン公爵領を取り返せば、公爵の地位もブラウン商会も手に入るわよね?)

(その通りですわ、ミサキ。
 でもそれだけではありませんわ。
 ミサキにはこの国が置かれている状況は分からないでしょうが、今までアバコーン王国に圧迫されていた周辺の国々が、この好機を見逃すとは思えないわ)

(この国って、周辺国に嫌われているんだ?)

(ええ、増悪されていると言ってもいいでしょう)

(そんな状況で、よく王家も戦いを始めたわね。
 エマに罪を着せて殺すよりも、イザベラを殺した方が簡単じゃない?
 国の事を大切に思うのなら、王太子の劣情よりも国際関係優先でしょう?)

(たった1人の血を分けた子供が大切なのでしょう。
 王や王妃の責任を放棄した、王族にあるまじき、恥知らずな行いですわ)

(私、この世界の常識を知らないから、間違った事をしてしまいそうね。
 エマに確認できる時はいいけれど、とっさの時に困るわね。
 エマ、国際情勢と王侯貴族の常識を教えてちょうだい。
 理想的な貴族像だけではなく、この国によくいる一般的な貴族から、エマが嫌っている連中まで)

(分かったわ、教えてあげる。
 だけど、全部教えるとなると、膨大な時間がかかるわよ。
 それでは肝心の魔術の本が読めなくなるのではなくて?)

(うっ、それもそうよね。
 だったらまずは魔術の本からよ。
 私とエマの記憶や知識を共有できる魔術がないか確かめるわ。
 私これでも小説家志望だったから、速読は得意なのよ)

(何を言っているのか分からない所がありますが、本を読むのが早いと言うのだけは理解できましたから、しっかりと読んでくださいませ)
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