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最後のオーディション
しおりを挟む日隠悠希は迷っていた。
日隠悠希は、4歳の頃に元子役としてデビューしたがその時に出会った『松川鷹大』という人物にあった事により、わずか4歳ながら人生の転機ともなる出会いを果たした。
『松川鷹大』は凄かった。
子供だった日隠にもわかる程に凄い役者でそんな人がメインで仕事をしている声優という仕事に憧れて声優への転向をしたものの…
「次のオーディションがラストチャンスだと思ってくれ。」
先程、事務所に呼び出されて社長直々に言われてしまった言葉を思い出して溜息を吐いた
声優に転向した日隠悠希は全く売れなかった。
30年努力を積み重ねて、あの出会いから松川鷹大に師弟関係を結んでもらってここまで来たが……
『君には華が無い。』
『年齢がなぁ……』
『パッとしないねー』
オーディションでよく言われる三大トラウマであるこのセリフを聞くと胃に穴が開きそうなほど、辛くなる。
そう言われるのでは?と思うと思うように演技ができなくて更に失敗する。
そんな悪循環でもここまでやってきた。
夢は簡単に諦められなくて。
20代の時も1度やめようと思っていたが師である『松川鷹大』にも
『辞めるのは自由だよ。悠希の悩みも、苦痛も知ってるつもりだけど…それでも僕は悠希と仕事して見たいと思うよ。』
そんな言葉を憧れの人物に言われて辞められる男がいるなら教えて欲しい。
最悪個人事務所でもある松川プロダクションに入れてでも……みたいな恐ろしい事も言っていたし師匠なら本当にやりかねない。
そうなれば僕自身が売れた時、売れなかった時、どちらにしても師匠の名前に傷をつけてしまう。
それが嫌だった。
合格するしか無くなった。
今年に入ってからはまだ名前のある役は1度も受かってない。無理があるかもしれない。それでも。
「諦められないよな…」
「次の方、お願いします。」
今回のオーディションは監督や原作者がちゃんと本人を見たいらしく、オーディション受ける人は皆集まっていた。
その中には知ってる声優は居ないが、有名な俳優さんや女優さん、他にも有名どころがゴロゴロ居て日隠には心細い場所だった。
そんな心細さを胸に、日隠は自身の順番を待った。
自身の順番が来た日隠はオーディション会場へ入った。
監督、原作者、後はサングラスをかけた怪しい男。
3人が試験監督みたいなもののようで入った瞬間に緊張が走った。
「Cプロダクション所属、日隠悠希です。」
よろしくお願いします。と頭を下げると原作者であろう女の人が上から下まで舐めるように見てくるのがわかり何となく、嫌な予感がした。
「やっと来たァァァァ!!!!平凡男子!!!そことなく儚げな感じの可愛さが素敵!監督!この人です!私が求めていた!尊い……!!!好き!結婚して!」
唐突に叫び出した原作者の女性をみて日隠を含む3人がぽかんとした
「あの、結婚……?とは?」
「あ、私じゃなくて!攻めと結婚して欲しい。実写はバチバチイケメンだから大丈夫よ?悠希くんも気に入ると思う!!あ、悠希くんって呼んでいい?!」
距離の詰め方がおかしいこの女性は夢原さとみという名前で恋愛モノの小説を大ヒットさせた先生らしく攻め?は分からなかったけどボーイッシュな女の子とーってことかな?
なんて思っていると思ったより重要な役割らしく、先生曰く「攻め」という人を支え、受け入れ、時に喧嘩し激しい仲直りするような重要な役割らしい。
激しい仲直りとはなんだろうか……?
そう思っていたら監督が質問があると言った
「君は声優でしょう?演技はどれくらいできる?読んでみて。参考に身体の動きもつけてね」
身体を使った演技は子役時代から欠かさなかったので言われた通りにやると何故か3人が静かになった。
少し時間を置いて
「ありがとう。参考になったよまた次は追って連絡するからよろしくね。」
そう言われ、会場を後にした。
これで、声優人生も終わりだろう。
師匠には迷惑かけないように黙って何処かへ行くしかないかな。通知が来たら引越しする事に決めた日隠は
帰って荷造りしよう。
と心に決めた。
応援ありがとうございます!
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