義足の王様は姫になる?

柊 透司

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【2022年年始記念!番外編】Japanese Tiger

『俊足の槍』下

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高校3年間連覇を果たした俺と桜沢は、大会が終わったあとすぐにスカウトの人から声をかけられた。

色んな所に声を掛けられたがお互い自身の好きなチームの名があった為、次は敵同士だな、なんて言いながら将来を誓い合った。

「次は負けねぇぞ」
「俺も負けないよ。」

同じ気持ちだとわかってクスクスと笑い合い、次の日に桜沢があんな事になるなんて…考えもしなかった。


次の日学校へ行くと、周りの様子がおかしかった。

ザワザワと騒がれている教室で俺が入ると静かになる。それに桜沢が体調不良で学校に来ていない。

嫌な予感が溢れてくるのは、俺の気の所為だと思いたい。

桜沢が好き過ぎる俺の妄想であって欲しい。
そんな事を思って。

でも、確認するのを恐れていた俺は、1週間待ち続けた。

桜沢の家に行っても誰の気配もなくたまにあった桜沢の両親は門前払いをした。

「今は居ないのよ。ごめんなさいね。」
「そ…うですか…分かりました」

おかしい。
この3年間で相棒で親友の俺に一言もなく休むわけが無い。インフルの時でさえちゃんと連絡はくれていたのに今は既読さえつかない。

不安と焦りに葛藤していた俺は、サッカー部に向かいコーチを詰めることにしたがコーチも事情を知らないらしい。

だがコーチは何か知ってるようで不安そうな顔が目に取れる。

「俺達だけ、知らされてないっぽいんだよ…部員も、監督も、俺が聞いても、答えてくれないんだ…」
「俺達だけ…?」

悪い予感は膨れ上がる。

桜沢の事だ。心配させたくないとかで大好きなコイツと俺には伝えないように仕向けたんだろ。

アイツにはそれが出来る人望も人脈もある。

それがわかって放置する程優しい俺ではない。

同じサッカー部に所属している同級生を捕まえて

「桜沢の場所と状態を言え。」
「か、風邪だって!」
「アイツに何かあれば俺が正気を保てるか…嘘だったら殺すぞ?本当は?何もなしに既読無視で1週間以上休むのは有り得ねぇ。」

詰めが甘いんだよ。と言うと観念した同級生は勘弁してくれと言わんばかりに居場所を吐いてくれた

「状態は…俺の口から言えない。見に行け。けど…お前は見ない方が…」
「どっちだよ。とりあえず行く。さんきゅ」

一人で行くか、コーチを誘うか迷ったがあいつも心配してるのは本当だろうから伝える事にしたが訪ねると今朝、その事を知ったようだった。

どこか呆けていて、目に光がない。

話を聞くと父親が無くなって急遽教職を辞めるという話をすると桜沢が足を無くしたという話を聞かされたらしい。

「今から、行くけど。松平もくる?仲間外れ同士、だからな。」

好きな奴の不幸に駆け付けられなかった。
好きな奴に相談すらされない。心配もお見舞いも一緒に泣く事もさせて貰えない。


俺とお前の夢がガラガラと崩れ落ちた。

その日学校を休みコーチを連れて桜沢に会いに行った。

なんで?という顔をしていて、考えていた事は全部吹き飛んだ。

そんなに来て欲しくなかったのかと思った。

知らない男前とついさっきまで楽しそうに話していたのに、俺はどうでもいいのか?

そう思っているとすぐに桜沢は笑顔になった。

「よっ、主将と笠井コーチ。どしたん?」

おどけた様な笑い方で心配するなと言わんばかりにギリギリの笑顔が胸に響く

俺が好きなお前の笑顔はそんなに痛々しいやつじゃない


「どした?じゃねぇだろが!なんで俺には伝えなかった!?皆で俺に隠してたんだろ!?」

「俺が来るのは迷惑かよ…?俺には…お前が辛い時に悩みも悔しさも聞く権利すらないのかよ…俺は…お前とだからここまで頑張れたのに…」

「松平、辞めとけ。1番辛いのは…桜沢だろ。分かってやれよ、親友だから言いたくない事だってあるだろ。」

なんだよ、さっきまで死にそうな顔してたくせに。
コーチはいいよな。好きなやつに好かれて、俺は何処までも親友止まりだったのに……

考えても、考えても嫌な思考しか生まれなくて自分が嫌になる。

「うるせぇよ!コーチにだけは言われたくない!そんな事、分かってるけど…分かんねぇよ…!」

そういった俺はその場から逃げ出した。

アイツが1番辛いはずなのに、自分の事ばっかり。
自分で自分が嫌いになる。好かれなくて当然だ。

それでも、この状況でこれを許せるほど俺は大人じゃないし、簡単な気持ちでも無いんだ。


その後、義足をつけて学校に来た桜沢に謝った俺は高校生活を桜沢の介助を率先した。

許してもらいたい。あんな事を言ったけど、桜沢からの親友としての気持ちは無くしたくない

「ううん、俺もゴメンな。松平の為って思ってたんだけど…俺が逆なら、心配する。親友…だから。」
「う…ん。俺もゴメン…本当に…桜沢の気持ちを考えてなかった。」

そんな事もあり、俺達は俺の要望により名前で呼び合うことにした。

好きなやつを名前で呼ぶのは気恥ずかしいけど、俺は決めたんだ。

この想いは、諦めがつくまで伝えない。
俺にお前を好きになり、支えて、隣を歩む資格なんてないのがこの件でよくわかった。

俺は未熟なガキだから。

叶うことの無い思いに蓋をする。





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