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【2022年年始記念!番外編】Japanese Tiger
『神速』
しおりを挟む松平隼人。
九州で活躍するプロサッカー選手の俺はプロ三年目にして転機が訪れた。
「海外から?…ブラジル……?はい…少し、考えさせて下さい。ありがとうございます。」
サッカーの強国であるブラジルチームから、声が掛かった。いつかは行くつもりでいたけど、向こうから声が掛かると思って無くて嬉しさ反面、心配も出てくる。
初めての海外への不安。それに……
好きな奴と会えなくなる不安。
過去に1度あった時に一方的に片想いをした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
小学生の頃、松平隼人はクラブチームに所属していた。
九州県内有数のクラブチームだったが、俺は頭一つ抜けていた。
最初は楽しかった。段々上手くなっていくのが楽しくてずっと練習した。朝も昼も夜も呆れるくらい練習した。
そうすると、県内は勿論、九州には俺に勝てる奴は居なくなった。
皆は俺に歓声を注いでいた。
「さっすがハヤト!今日も決めるなぁ!」
「カンタンだろ。」
小学生レベルを超えたフットワークの軽さ、ドリブル突破。ついてこれる奴は居なくて『神速』とかダサい渾名も付いていた。
「『神速』は違ぇなぁ…」
「『神速』が相手かよ……今日は負けだね…」
「『神速』居るし、とりあえず点をなるべく取られないようにしようね!」
いつしか俺は『松平隼人』ではなく『神速』と呼ばれ皆は俺が居るだけで勝負を諦めた。
「なんだよ……それ……」
相手が居ない勝負事程、萎えるものは無い。
ディフェンスする気があるのかないのか分からないほどガラ空きで、すぐに抜けてしまう。
『神速』は、孤独になった。
上手くなりたいという当たり前の願いで、いつしか周りを抜き去った。
俺より前にサッカーをやってるやつも年上の6年生も俺を見ると勝負を投げ捨てた。
楽しくない。それにフィールドは息が詰まる。
と思うようになっていった
そうなったところで俺に勝てる奴は居ない。
九州で俺の名前を知らないサッカー少年はいないだろう。
ただそれは『神速』の方だろうけれど。
そんなつまらない日常を過ごしていた時、監督から思いもよらない言葉を聞いた
「東京に遠征する事になった。新しい相手との勝負になる。今までのように楽に勝てる相手じゃない。なんせ相手は『神童』だからな。」
周囲がザワついた。
『神童』と言うのは関東圏の天才サッカー少年でテレビにも取り上げられているくらい有名な奴だ。
『桜沢武尊』。苗字を沿ってサッカーの王様と言う奴もいるくらい有名な同い年。
一瞬背筋にぞわりとした感覚が襲う
武者震いと言うやつだろうか。
出来れば、俺と同じくらい強くあってくれと思いながら……
東京で見たそいつは、目つきが悪い三白眼が目立つ普通の少年だった。
目を細めて笑う所が子供っぽくてチームからも慕われてるのが分かるし、あんまり王様っぽくない。
チラチラと見ていると目が合ってしまい、王様はこちらにやってきた。
「はじめまして、おれ、桜沢武尊!たけるって呼んでね。…おれはなんて呼んだらいい?」
「…松平…隼人。松平で良い。」
「有名だよね。『神速』?だっけ?仲良くしよ!」
敵同士なのにニコニコと握手を求めてくるそいつに腹が立つ。こういう事は何度もあった。
コイツも勝負諦めてんのか?と思ったがすぐに違うとわかった。
「多分君とはまた会うから。今日は負けないよ。」
目には闘志がある。燃え滾って、今にも闘いたいと言う気持ちが伝わってくる。
「王様に……ナンパされると思わんかった。」
「ち、ちがっ!てかおれは王様じゃない!お、う、さ、マ゛ッ…!!!!……いひゃい…」
勢いが良すぎて噛んだらしく、舌を出しながら痛い、という顔は男と分かっていたのにドキリとさせた。
「…王様?」
「ひがう~!噛んだの!」
足をダンダンと踏み鳴らしながら怒る様は可愛らしい。ちょっと煽りすぎたらしい。
「桜沢、な。覚えた。」
そういって俺は自身のアップを始めた。
この勝負、すっげー面白くなりそうな気がする。
そんな気がして、今最高に高揚している俺が居る。
そんな感じで幕を開けた勝負は、ほぼ2人での点取り合戦の様だった。ただ結果は6-5で俺たちの負け。
理由は簡単。王様は人を使うのが上手い。
中心を見て、誰をどこへ動かすか考えて動く。
指示を出してないのにそういう風に動かす。
変態的な程の才能を見て、感動した。
こんな奴が同学年で良かったと心底思った。
目標が近くにある。競り合える相手を見つけた。
「桜沢、本当に上手いな。完敗だ。初めて負けた。」
悔しい。負けた。『神速』と呼ばれ始めてからは負けた事がなかった。なのに、同じくらい上手いやつはその上で、何より……楽しそうにサッカーをしていた。
「そっか。じゃあ松平くんは強くなるね。おれもうかうかしてられないねぇ!」
ニコニコしながらそういう桜沢の言葉の意味がわからず首を傾げていたら、笑われていた
「負けを知ってる人と知らない人は違うよ。悔しいでしょ?」
「ったりまえだろ。負けてニコニコ出来るほど、腑抜けてねぇ。」
何よりそういうのは俺が1番嫌いなんだ。
「次は負けないって思うから、考えるようになる。それより、松平くんめっちゃ速いね!カッコいい!追いつけなかったもん!」
追いつけないとわかった瞬間周りを使って追いつくように仕向けていた奴にそう言われるとなんか釈然としないものがある。
別れ際に、桜沢は言った
「次はU-12 JSWCで会おうね。」
JSWCは12歳以下の大会で有名な世界のクラブも参加する小学生でサッカーをするものなら知ってる奴の多い大会だ。
そして、その言葉通り俺たちはまた出会う事になった。
その大会では3位に終わり、俺はまた悔しい想いをする事になった。
海外のクラブユースには勝てなかったが、得るものは多かった。
桜沢だけじゃなく強い奴は多い。
だからもっと頑張れと言われてる気がした。
負けはしたものの得点王を奪取していた桜沢は意地でも負けん。という熱い気概が見えた。
そして俺は、何故かMVPを貰っていた。
海外チームへの貪欲とも言える執念のディフェンスとドリブル突破が響いたらしく、賞賛された。
負けたのにな。なんて思いながらも、世界を相手に賞賛された事実はとても嬉しいものだった。
「おめでとう、松平くん!」
「お前もな…てか、俺負けたのに。」
評価への嬉しさ反面、悔しさ反面。
どういう顔をしていいかわからない。
「1番かっこよかったし!だからだと思う!すごいね!」
にこやかに笑う桜沢は、キラキラしてて。
心臓が早くなる。顔が熱い。
1番カッコよかった。そんな在り来りで聞き慣れていた褒め言葉に胸を高鳴らせていた。
この時、俺は目の前の男に堕ちていた。
少し目付きが悪い目が細くなって笑う姿も、サッカーで焼けた肌も、無防備に晒した首。薄く大きくて犬歯が目立つ口。
一つ一つが、この男を好きなんだと心が響かせていた。
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