【完結】空白

焼魚

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heading6 Rain

23話

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23話:再開


 二人の男はそれぞれ剣を抜いた。どうやら見掛け倒しでは無い剣士のようだ。
剣士…戦ったことのないタイプ。
 だが、この長い年月で脳内シュミレーションは複数回している。きっと大丈夫だ。
 僕は煽るかのように、彼らに向けて手招きした。
 その瞬間、女の両端にいた男二人が一気に距離を詰め、僕を挟み撃ちにした。
 それに加えて、女は先程と同様の威力を持つであろう弾を僕に放って来た。
 三方向からの攻撃。僕はその刹那、“能力開花”によって手に入れた能力の中からこの状況に適した能力を詮索する。
「…あれ使うか。」
 僕は剣士達の方向にそれぞれ手のひらを向ける。そして能力を放った。
「『掣肘(リストレイン)』」
「なっ…」
「うっ…」
 同じような反応を示して、彼らは動きを止めた。正確には僕が拘束した。拘束出来る時間はおよそ五秒。

その間に彼女を潰す。

 彼女が放った弾は剣士の二人が僕を挟み撃ちにしているからか、威力が底上げされていて速度が遅くなっていた。
 僕は両手を前方に伸ばし、左の手のひらを上、右の手のひらを下にしてその間に魔力でベール状の膜を作った。
 そのベールで彼女の放った弾を包む。そしてその行き先を彼女に向けた後、僕の魔力を吹き込んで速度を激的に上げた。
故に彼女は反応しきれす、見事に命中。
 頭から血を流して意識を失った。恐らくはかすり傷程度だ。放っておいても死にはしないだろう。
 …さて、そろそろ能力の効果が切れる頃だ。僕は彼らの間から瞬間移動で消えた。
 そして彼らは動き出す。僕は再び手招きした。
「こい。こっちは早く終わらせたいんだ。」
「ぐっ…!」
 彼らは僕に向かって能力を放つ。先程のコイツらの動きで強さは何となく理解した。正直、僕の足元にも及ばない。
 僕は放たれた能力を同等の威力の魔力弾を放って消去した。
「…『気炎万丈(きえんばんじょう)』」
 炎の能力で彼らを囲うようにして高く燃え上がる炎で行き先を防いだ。
 そして軽く炎を巻き上げ、彼らを火傷させて負傷させた。
 かなり優しめの攻撃ではあったが、彼らは気絶してしまった。戦闘経験の浅い者は軽傷だとしてもよくこうなる。
「終わったぞ、アラン。」
 その言葉に呼応するかのように、彼は僕へと拍手を送る。
「素晴らしい! 見込み以上の実力だ!」
 …違和感。闘技場全体に漂う不穏な空気。僕は胸騒ぎがして、観客席にいる者達の魔力量を見てみた。
すると​─────
「​─────こいつら…全員ギフテッドか…?」
 僕の様子を見て、彼は高笑いした。「ぎゃはは」という下品な笑い声を上げた後、全身全霊で僕を馬鹿にした。
「哀れだなァ!! お前はここで無意味に命を落とすんだ! 俺の罠にまんまと引っかかってな!!」
 そして彼は、怒鳴るようにして観客席にいる者全員に命じた。
「やれ! お前ら!!」
 その瞬間、観客席から凄まじい咆哮を上げながら飛び出て来る大量の者達。少し数えたがその数ざっと四十人くらいだ。
 これだけのギフテッドがここに集結していることにも驚いたが、それ以上に驚いたのはこれだけのギフテッドを統率しているアラン。
 よもや、彼は……いや、その可能性は出来るだけ排除したいものだ。彼らが私へと向かってくる時、アランは言った。
「お前はこの猛攻から耐えられるかな!? ちなみに、今までこれに耐えれた者は誰一人としていない!」
僕は思わず嘲笑った。
「何それ。フラグ?」
「何?」
 なんなら質より量で来てくれて助かる。おかげで思う存分、使える。
「『破壊(デストロイ)』」
 連なる破裂音。闘技場全体に飛び散る鮮やかな血飛沫。これだけの人を殺したとなると、流石の僕も心が痛む。
…さてと​─────
「​─────残りはお前だけだ。アラン。」
 アランは相も変わらず観客席の上空に浮遊していた。僕は彼に狙いを定め、デストロイを放った。
「じゃあな。」
 そして彼は幾つもの肉片と化した。間違いなく。
 …彼は僕の命を狙っていた。あのまま問い詰めて、あの件に関する事を聞き出そうにも、聞き出せないというのがオチだっただろう。
僕はくるりと方向転換し、歩み出した。
「『空白』は魂までは滅せない能力だ。知ってたか?」
 背後からの声。それに気が付いた時には、僕はもう腹部を腕で貫かれていた。
首を出来る限り動かし、背後の者を悟る。
「アラン…!」
「この能力、見覚えはないか?」
 彼は僕の腹を貫いた腕を勢いよく抜く。そして僕は激しく吐血した。
 …出血が止まらない。このままだと死んでしまう。僕は膝から崩れ落ちるも、何とか意識を取り繕った。
「“現実に起こるあらゆる事象の歪曲”。」
 その言葉で僕は彼と“アイツ”を重ねた。能力は譲渡しない限り、魂に刻まれる。

…でもそれはギフテッドの場合で​────

 その時はっとする。コイツは何十人ものギフテッドを統率していた。ギフテッドである可能性が高い。
 思えばあの時、プロディジーである彼とやり合えているの見て僕は少し違和感を感じていた。
「…お前……“ミラド”か…!!」
「ご名答。…実に久しいな。およそ三百年ぶりの再開だ。喜べよ。」
 ミラド。三百年前、ヨウカによって殺された“デダラジー”の国王だ。
 僕は彼に悟られないよう能力によって止血し始める。
「あの頃はただのギフテッドだったが、今俺は“プロディジー”だ。」
「プロディジー…だと…!?」
「お前がこの三百年姿も名も変えず生き続けていたのは驚きだったが、今はもうそんなことどうでもいい。」
 アランは崩れ落ちた僕の髪の毛を鷲掴みにし、傷を踏みつけながら僕に尋ねた。
「ヨウカは今どこにいる?」
「…わか…らない。」
「リョウはあの後どうなった?」
苦痛に耐えながら、僕は嫌々答える。
「“白銀”に…食われた。」
「……なるほどな。」
 その瞬間、丁度よく白銀は上空で咆哮を上げた。と、ほぼ同時に白銀は僕達の頭上を通り過ぎる。
「…ほぉ。あいつの中にリョウはいるって訳か。」
彼は僕の腹部から足を退け、頭上の白銀を眺める。
「…きっと、もう腹の中で消化されているさ。」
僕は腹部の止血を止め、治癒を完了した。
……もう動ける。
 僕は瞬間移動で彼の頭上に移動し、頭に触れてデストロイを発動する。
 無論、彼は肉片と化す。が、瞬きする間にその肉片は消え、気が付けば目の前にアランが立っている。
 余裕ぶっているような表情を浮かべているがその額からは、流血していた。
「…多少は、効くようだな?」
 腹部が完全に塞がった僕を見て、彼は小さく舌打ちした。
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