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heading6 Rain
21話
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靡く髪、舞う砂埃。空を見上げれば、そこには希望も絶望も感じない虚無が在った。
そして地上もまた虚無で埋めつくされている。建物は、植物で覆い尽くされ支柱が金属出てきている物から腐食して崩れていく。
食べ物もとっくの昔に腐り切ってしまったため、いつも魔法で創造した食べ物だ。
……そうだ。今日であの戦い、『神童戦(しんどうせん)』から三百年が経つ。
“僕”もあの戦いの最前線にいたが、当意即妙し、かろうじて被害に遭わなかった。
丁度、戦場になった“デダラジー”という国がここからは近い。
「久しぶりに行ってみるか…」
瞬間移動にてデダラジーへと僕は訪れた。この国もほとんどの建物が倒壊し、植物が生い茂っている。
片足をついて地面に手を当て、あの時のことを思い出す。
……“彼”のことは本当に残念で仕方ない。
……こんな世界になったことも、全て“アイツ”………“ヨウカ”のせいだ…!
怨嗟を心中に再び募らせ、僕は立ち上がる。
「よう…クソガキ。」
背後からの男の声。僕は振り返り、その姿を肉眼で捉える。
「なんだよクソジジイ。こちとら忙しいんだ。」
ボロボロの布切れか何かを身にまとい、右目は失明しているのか瞳が白く変色していた。
「まあそう言うなよ。この世界、最早人間は珍しい生き物だろ?」
僕は答えずにくるりと彼に背を向け、歩み出した。…が、彼は僕に執着するかのように呼び止めた。
「まぁ、待てよ。お前、名前は?」
……仕方ない…名前だけ名乗って早く別れよう。
「“レイン”。名は覚えなくていいぞ、クソジジイ。」
「レイン……どこかで聞いたような名だな。」
…南半球から噂でも流れてきたのか?
「……というかクソジジイ。」
「そのクソジジイ呼びをやめなさい。」
「…じゃあジジイ。お前、自分の意思でこの場所に来たのか?」
僕はそう尋ねた。理由としては、最近起こっている“不可解な事件”との関連性があるかを確認するためだ。
「……? いや、気が付いたらここにいたが。」
やっぱりそうか。
「以前は何処に居たんだ?」
「…『レルライジ』だ。」
“レルライジ”……南半球にある、かつて貿易で栄えた国だ。今では巨大な避難所が設置されている。更には、この世界で貴重な食料を栽培していて、唯一人間が住まうことの出来る場所だ。
僕は黙って彼に手を差し伸べる。
「握れ。」
「……悪いが俺はペドじゃ────」
「────違ぇよジジイ。レルライジに返してやるって言ってんだ。」
「…は? どうやってだよ。」
……ったく、これだから老人は。彼が僕の手を握らないので、僕自ら彼の肩を掴み、飛ばした。レルライジへと。
…今頃あのジジイは驚いていることだろうな。…さてと、僕もやるべきことをやるとしよう。
21話:三百年
能力を酷使することは異様な程に体力を要する。“人為的ギフテッド”の問題点だ。
彼から授けられた能力を使用する時は特に体力を消費する。
『破壊(デストロイ)』。
“視界に捉えられた魔力を有する者を肉体の内部から破裂させる”能力だ。
持論ではあるが、この能力はヨウカが所持する“空白”に匹敵する能力である。だが、この能力には一つ難点があるのだ。
“相手の魔力量が自身の魔力量が多ければ反動がくる”、というものだ。
反動の内容としては、相手が破裂すると同時に自分も破裂するというもの。言わば相打ちだ。
…ヨウカ相手ならばそれも悪くないが…彼女のことだ。無条件で能力が反射されてしまう、なんてことも頭に入れておこう。
僕が滔々と歩いていると、背後から魔物の気配がした。数は五……かなりの魔力量だ。
人間が消失してからというもの、魔物は活発化した。人間に狩られる危険性が排除されたからであろう。
そして今も時々魔物に襲われ命を落とすという話を聞くことがある。
彼らは三百年経って忘れているんだ。
“人間に対する恐怖”。
そして、“死に対する恐怖”というものを。
彼らは僕に気付くと、凄まじい走りでこちらへと駆けて来た。
「悪い。僕達人間も生きるので精一杯なんだ。」
僕はそれらを『破壊』で肉片と化させた。そんな肉片の一つの中からひらりと紙が現れた。
僕はそれに近寄り、拾い上げる。
こいつらが誤飲でもしたのだろうか?
しかし、そんな考えは瞬時に否定されることになる。紙は半分に折られていて、開くとそこには手書きの文字が羅列していた。
『親愛なるレイン様。貴方様の強さを試してみませんか? レルライジの闘技場でお待ちしております。“ヨウカ”より』
“ヨウカ”。その文字を見て、心の奥底から湧き出る激しい憤怒。
……いや、冷静になれ。
罠かもしれないし、もしかするとヨウカではないかもしれない。
……それでも行く価値はあるな。
闘技場、ということは少なからず人はいるはず。あのジジイも言っていた通り、最早人間は珍しい生き物だ。
ならば、あの事件の聞きこみ調査をするには持ってこいの機会。まぁ、闘技場というのも嘘で、多くの人がいないとしても、この手紙を書いた者は必ずいるはずだ。
「…よし、行くか。」
そして地上もまた虚無で埋めつくされている。建物は、植物で覆い尽くされ支柱が金属出てきている物から腐食して崩れていく。
食べ物もとっくの昔に腐り切ってしまったため、いつも魔法で創造した食べ物だ。
……そうだ。今日であの戦い、『神童戦(しんどうせん)』から三百年が経つ。
“僕”もあの戦いの最前線にいたが、当意即妙し、かろうじて被害に遭わなかった。
丁度、戦場になった“デダラジー”という国がここからは近い。
「久しぶりに行ってみるか…」
瞬間移動にてデダラジーへと僕は訪れた。この国もほとんどの建物が倒壊し、植物が生い茂っている。
片足をついて地面に手を当て、あの時のことを思い出す。
……“彼”のことは本当に残念で仕方ない。
……こんな世界になったことも、全て“アイツ”………“ヨウカ”のせいだ…!
怨嗟を心中に再び募らせ、僕は立ち上がる。
「よう…クソガキ。」
背後からの男の声。僕は振り返り、その姿を肉眼で捉える。
「なんだよクソジジイ。こちとら忙しいんだ。」
ボロボロの布切れか何かを身にまとい、右目は失明しているのか瞳が白く変色していた。
「まあそう言うなよ。この世界、最早人間は珍しい生き物だろ?」
僕は答えずにくるりと彼に背を向け、歩み出した。…が、彼は僕に執着するかのように呼び止めた。
「まぁ、待てよ。お前、名前は?」
……仕方ない…名前だけ名乗って早く別れよう。
「“レイン”。名は覚えなくていいぞ、クソジジイ。」
「レイン……どこかで聞いたような名だな。」
…南半球から噂でも流れてきたのか?
「……というかクソジジイ。」
「そのクソジジイ呼びをやめなさい。」
「…じゃあジジイ。お前、自分の意思でこの場所に来たのか?」
僕はそう尋ねた。理由としては、最近起こっている“不可解な事件”との関連性があるかを確認するためだ。
「……? いや、気が付いたらここにいたが。」
やっぱりそうか。
「以前は何処に居たんだ?」
「…『レルライジ』だ。」
“レルライジ”……南半球にある、かつて貿易で栄えた国だ。今では巨大な避難所が設置されている。更には、この世界で貴重な食料を栽培していて、唯一人間が住まうことの出来る場所だ。
僕は黙って彼に手を差し伸べる。
「握れ。」
「……悪いが俺はペドじゃ────」
「────違ぇよジジイ。レルライジに返してやるって言ってんだ。」
「…は? どうやってだよ。」
……ったく、これだから老人は。彼が僕の手を握らないので、僕自ら彼の肩を掴み、飛ばした。レルライジへと。
…今頃あのジジイは驚いていることだろうな。…さてと、僕もやるべきことをやるとしよう。
21話:三百年
能力を酷使することは異様な程に体力を要する。“人為的ギフテッド”の問題点だ。
彼から授けられた能力を使用する時は特に体力を消費する。
『破壊(デストロイ)』。
“視界に捉えられた魔力を有する者を肉体の内部から破裂させる”能力だ。
持論ではあるが、この能力はヨウカが所持する“空白”に匹敵する能力である。だが、この能力には一つ難点があるのだ。
“相手の魔力量が自身の魔力量が多ければ反動がくる”、というものだ。
反動の内容としては、相手が破裂すると同時に自分も破裂するというもの。言わば相打ちだ。
…ヨウカ相手ならばそれも悪くないが…彼女のことだ。無条件で能力が反射されてしまう、なんてことも頭に入れておこう。
僕が滔々と歩いていると、背後から魔物の気配がした。数は五……かなりの魔力量だ。
人間が消失してからというもの、魔物は活発化した。人間に狩られる危険性が排除されたからであろう。
そして今も時々魔物に襲われ命を落とすという話を聞くことがある。
彼らは三百年経って忘れているんだ。
“人間に対する恐怖”。
そして、“死に対する恐怖”というものを。
彼らは僕に気付くと、凄まじい走りでこちらへと駆けて来た。
「悪い。僕達人間も生きるので精一杯なんだ。」
僕はそれらを『破壊』で肉片と化させた。そんな肉片の一つの中からひらりと紙が現れた。
僕はそれに近寄り、拾い上げる。
こいつらが誤飲でもしたのだろうか?
しかし、そんな考えは瞬時に否定されることになる。紙は半分に折られていて、開くとそこには手書きの文字が羅列していた。
『親愛なるレイン様。貴方様の強さを試してみませんか? レルライジの闘技場でお待ちしております。“ヨウカ”より』
“ヨウカ”。その文字を見て、心の奥底から湧き出る激しい憤怒。
……いや、冷静になれ。
罠かもしれないし、もしかするとヨウカではないかもしれない。
……それでも行く価値はあるな。
闘技場、ということは少なからず人はいるはず。あのジジイも言っていた通り、最早人間は珍しい生き物だ。
ならば、あの事件の聞きこみ調査をするには持ってこいの機会。まぁ、闘技場というのも嘘で、多くの人がいないとしても、この手紙を書いた者は必ずいるはずだ。
「…よし、行くか。」
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