4 / 31
heading1 Hana
4話
しおりを挟む
「レイ。私の“能力”、覚えてる?」
「皮肉か何かか? …お前、学生時代から俺たちに能力を一切明かさなかっただろ。」
「……そう…だったね。」
良かった。うっかりミスなんてことはしてなかったみたいだ。私の能力はハナにも明かしていないし、今後誰にも明かすことはないだろう。
4話:能力
「それじゃあ、元気で。」
「ああ。お前もな。」
「うん。たまに顔を出すよ。…それまで死なないようにね。」
そう言い残し、私はレイの家を後にした。それから二週間ほどかけて私は『イムンド』という国を訪れた。
この国は旅人の休憩スポット的な場所として主に使われる。それだけ観光に長けた国だ。
…という訳で少し観光を堪能しようかなと思った、そんな矢先、私はこの国の住人同士の会話でとある情報を耳に挟んだ。
「なあなあ。王女様、もう死期が近いらしいぜ。」
「…そうなん…だ。」
「…そんなに落ち込むなよ。まっ、熱狂的ファンだったお前の身となりゃ辛いだろうがな。」
“王女様”。…そういえば以前、この国には幼い頃のハナと一緒に来たことがあったな。
あれは確か────
**
────ハナを預かってから五年。
ハナが十一の時だ。私はちょっとした所用があり、観光ついでに国を訪れた。
その所用というのは、国王との対話だ。もちろん第一に、彼が生きていればの話なのだが。昔、私は現在の国王が幼少期の時期に長期間の修行をつけた事がある。
その経緯としては────
学び舎を卒業してから自立し、私は様々な場所で活躍していた。その活躍が当時イムンドの国王であった者の目に留まり、私は王子の指導役を担うことになった────
という感じだ。
私と王子は親しかったし、恐らく私の魔力を彼も覚えているだろう。そう思い、私はこの国へと足を運んだ。
彼と対話するためには、ハナを宿に残さなければならなかった。
「ハナ。待ってられる?」
「…うん。」
弱々しい返事をした彼女を、私は心を鬼にして宿に残した。宿の者に聞いたところ、なんと国王はまだ生きているそうだ。
私は宿を去り、それから国の中央部に位置する城に赴いた。
城の門には衛兵が二人居たので、『指導役のハナが来たと国王に伝えてくれ』と頼むと、何故か快諾してくれた。
衛兵の一人が王に伝言を言いに行ったので、私はもう一人の方と世間話をしていた。
そして少しすると許可がおり、国王が直々に会いに来てくれた。
世間一般的に一目で王と分かるような服装、酷く老いぼれた男。そんな彼は私の目、体を十秒見詰めた後、納得するかのように頷き言葉を放った。
「お久しぶりですね。“師匠”。」
「酷いほどに老いたね、“ルウ”。」
「ははは、今年で百三十です。」
「えっ本当に?」
「王家に伝わる秘伝の術のようなものがありましてね。それで永らえている次第です。」
「…ああ…そう。」
若返りの魔法みたいなものだろうか?
ルウは私を城の中に招き入れた。それから転生の事についてを彼に話した。すると、彼は私に言った。
「その転生のことについてはよく分かりませんが、輪廻転生について記された本が本棚にあった筈です。師匠、少しお待ちを。」
「いいよ、私が取りに行く。場所、教えて。」
老体は労るべき。私は彼から教えられた場所に向かい、それと思わしき本を見つけた。
だだっ広い空間だから多少時間がかかってしまったが、きっとこの本、というものがあった。
『輪廻転生とその因果具時』
私は本を抱き締め、元の部屋へと足を進めた。その途中バタッという音が聞こえ、方向転換をしてその場へと向かうと、そこには一人の子供が倒れていた。
…靴が脱げている。恐らく、ただ転んだだけだろう。
「大丈夫?」
手を差し伸べると、彼は恥ずかしそうに顔を赤く染めながら手を握り、走り去ってしまった。
王子…召使いの子…彼に対する考えは幾つか現れたが、それは直接ルウに聞いて確かめることにした。
「廊下で転んでる子がいた。あの子は?」
私は本のページを捲りながら彼に問う。
「子供……ああ。私の息子、王子のことですか。」
王子…?私は思わず首を傾げた。彼は今百三十歳。王子を産むとしてももう少し若い頃に産むものではないだろうか。
「ははは、言いたいことはわかります。ですがこれはこの国の王によって代々受け継がれてきた方法なのです。できるだけ長生きをして、死ぬ間際に子を産むことによって一族による支配をなるだけ長引かせる。」
「…でもよくそんな体で生殖出来たね。」
「頑張りましたよ。」
「…彼の名前は?」
私は本の内容に目を通しながら再び彼に問う。
「『ルード』です。こんな歳になっても子供が可愛いと思────」
その時、私は本の内容の一部に気になる点を見つけた。
「────ちょっと待って。ここ見て。」
と、私はその点を指さした。彼は体を寄せて本を覗く。
そこには
『転生、輪廻の理から外れる事も極少量有り。しかし、その条件は“ギフテッド”たる存在であること。』という記載。
彼は眉間に皺を寄せ、私へと言った。
「…そういえば師匠、ギフテッドでしたね。」
「うん。」
そう、私は彼にのみ自分の能力の詳細を明かしている。秘密主義である彼ならば他者に無闇に喋ったりはしないだろうし、どうせ直ぐに死ぬと思っていたからだ。
私はそれから彼とこの記載について語り合ったが、その後の記載にはそれ以上の事が書かれておらず断念するしかなかった。
そして私は彼と別れ、ハナを迎えに行った。もう次はないだろうからと、互いに顔をよく見合った後で。
**
王女…ということはあの時に転んでいた王子が結婚し、その二者の間に産まれた娘、ということなんだろうな。
死期が近い…病気なのだろうか。
…悪いが私には関係の無い話だ。
「王子様! 何故逃げるのです!?」
その時、背後から声が聞こえた。それと二つの足音。振り向くと衛兵らしき人物が小さな子供を追いかけていた。
「うわっ! ちょっと、お姉さん邪魔!」
そして私はその子供と勢いよくぶつかった。
「皮肉か何かか? …お前、学生時代から俺たちに能力を一切明かさなかっただろ。」
「……そう…だったね。」
良かった。うっかりミスなんてことはしてなかったみたいだ。私の能力はハナにも明かしていないし、今後誰にも明かすことはないだろう。
4話:能力
「それじゃあ、元気で。」
「ああ。お前もな。」
「うん。たまに顔を出すよ。…それまで死なないようにね。」
そう言い残し、私はレイの家を後にした。それから二週間ほどかけて私は『イムンド』という国を訪れた。
この国は旅人の休憩スポット的な場所として主に使われる。それだけ観光に長けた国だ。
…という訳で少し観光を堪能しようかなと思った、そんな矢先、私はこの国の住人同士の会話でとある情報を耳に挟んだ。
「なあなあ。王女様、もう死期が近いらしいぜ。」
「…そうなん…だ。」
「…そんなに落ち込むなよ。まっ、熱狂的ファンだったお前の身となりゃ辛いだろうがな。」
“王女様”。…そういえば以前、この国には幼い頃のハナと一緒に来たことがあったな。
あれは確か────
**
────ハナを預かってから五年。
ハナが十一の時だ。私はちょっとした所用があり、観光ついでに国を訪れた。
その所用というのは、国王との対話だ。もちろん第一に、彼が生きていればの話なのだが。昔、私は現在の国王が幼少期の時期に長期間の修行をつけた事がある。
その経緯としては────
学び舎を卒業してから自立し、私は様々な場所で活躍していた。その活躍が当時イムンドの国王であった者の目に留まり、私は王子の指導役を担うことになった────
という感じだ。
私と王子は親しかったし、恐らく私の魔力を彼も覚えているだろう。そう思い、私はこの国へと足を運んだ。
彼と対話するためには、ハナを宿に残さなければならなかった。
「ハナ。待ってられる?」
「…うん。」
弱々しい返事をした彼女を、私は心を鬼にして宿に残した。宿の者に聞いたところ、なんと国王はまだ生きているそうだ。
私は宿を去り、それから国の中央部に位置する城に赴いた。
城の門には衛兵が二人居たので、『指導役のハナが来たと国王に伝えてくれ』と頼むと、何故か快諾してくれた。
衛兵の一人が王に伝言を言いに行ったので、私はもう一人の方と世間話をしていた。
そして少しすると許可がおり、国王が直々に会いに来てくれた。
世間一般的に一目で王と分かるような服装、酷く老いぼれた男。そんな彼は私の目、体を十秒見詰めた後、納得するかのように頷き言葉を放った。
「お久しぶりですね。“師匠”。」
「酷いほどに老いたね、“ルウ”。」
「ははは、今年で百三十です。」
「えっ本当に?」
「王家に伝わる秘伝の術のようなものがありましてね。それで永らえている次第です。」
「…ああ…そう。」
若返りの魔法みたいなものだろうか?
ルウは私を城の中に招き入れた。それから転生の事についてを彼に話した。すると、彼は私に言った。
「その転生のことについてはよく分かりませんが、輪廻転生について記された本が本棚にあった筈です。師匠、少しお待ちを。」
「いいよ、私が取りに行く。場所、教えて。」
老体は労るべき。私は彼から教えられた場所に向かい、それと思わしき本を見つけた。
だだっ広い空間だから多少時間がかかってしまったが、きっとこの本、というものがあった。
『輪廻転生とその因果具時』
私は本を抱き締め、元の部屋へと足を進めた。その途中バタッという音が聞こえ、方向転換をしてその場へと向かうと、そこには一人の子供が倒れていた。
…靴が脱げている。恐らく、ただ転んだだけだろう。
「大丈夫?」
手を差し伸べると、彼は恥ずかしそうに顔を赤く染めながら手を握り、走り去ってしまった。
王子…召使いの子…彼に対する考えは幾つか現れたが、それは直接ルウに聞いて確かめることにした。
「廊下で転んでる子がいた。あの子は?」
私は本のページを捲りながら彼に問う。
「子供……ああ。私の息子、王子のことですか。」
王子…?私は思わず首を傾げた。彼は今百三十歳。王子を産むとしてももう少し若い頃に産むものではないだろうか。
「ははは、言いたいことはわかります。ですがこれはこの国の王によって代々受け継がれてきた方法なのです。できるだけ長生きをして、死ぬ間際に子を産むことによって一族による支配をなるだけ長引かせる。」
「…でもよくそんな体で生殖出来たね。」
「頑張りましたよ。」
「…彼の名前は?」
私は本の内容に目を通しながら再び彼に問う。
「『ルード』です。こんな歳になっても子供が可愛いと思────」
その時、私は本の内容の一部に気になる点を見つけた。
「────ちょっと待って。ここ見て。」
と、私はその点を指さした。彼は体を寄せて本を覗く。
そこには
『転生、輪廻の理から外れる事も極少量有り。しかし、その条件は“ギフテッド”たる存在であること。』という記載。
彼は眉間に皺を寄せ、私へと言った。
「…そういえば師匠、ギフテッドでしたね。」
「うん。」
そう、私は彼にのみ自分の能力の詳細を明かしている。秘密主義である彼ならば他者に無闇に喋ったりはしないだろうし、どうせ直ぐに死ぬと思っていたからだ。
私はそれから彼とこの記載について語り合ったが、その後の記載にはそれ以上の事が書かれておらず断念するしかなかった。
そして私は彼と別れ、ハナを迎えに行った。もう次はないだろうからと、互いに顔をよく見合った後で。
**
王女…ということはあの時に転んでいた王子が結婚し、その二者の間に産まれた娘、ということなんだろうな。
死期が近い…病気なのだろうか。
…悪いが私には関係の無い話だ。
「王子様! 何故逃げるのです!?」
その時、背後から声が聞こえた。それと二つの足音。振り向くと衛兵らしき人物が小さな子供を追いかけていた。
「うわっ! ちょっと、お姉さん邪魔!」
そして私はその子供と勢いよくぶつかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる