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heading1 Hana
1話
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死後の世界について模索する時、私はいつも思う。死後の世界なんてなく、魂も肉体と共に滅びる。
だがその考えは、“一度目の死”で完全に否定されることになる。
その後、死から四年で私は新たな肉体で新たな生命を宿していたと判明する。つまりは“転生”だ。それも記憶が残った状態。
輪廻転生の理とは遠くかけ離れている。…まあ、あの説も人間の造物だ。是とも非とも言いきれないか。何故こんな転生を果たしたのかはわからないが、とにかくこれだけは言える。
私は今、生きているんだ。
**
この世界には十六の国と幾千もの村々が在る。その全てを辿っていたらあっという間に寿命を終えてしまう。前世でそれを学んだ。
しかしリスタートを切ったのなら、また前のように世界各地を旅するのも悪くはないかもしれない。
そう思って一人旅を始めた。
「いい子、いる?」
世界地図においての東部『スラビ』という国。私はそこで孤児院を訪れた。
理由は色々とあるが、そのうちの一つは私の転生がただの妄想ではないということの裏付けだ。
今の体で二十五年の時を過ごしたが、彼らはまだ五、六歳といったところだろう。
共に旅をし、私が先に寿命や事故で死去した後また転生したとなれば、恐らくその間に空く時間は四年程。彼らは死んではいない、という事だ。
それが確認できれば、この転生の真実に一歩近づけるはず。
「“ハナ”!里親が現れたぞ。」
……偶然だな。以前の私の名も“ハナ”であった。
彼女は布のような服を一枚着ているだけの体裁で私に近づく。白銀に美しく髪を靡かせているが、その瞳はとても幼児のものとは思えなかった。
幼児のものというより、全てを諦めた老人のようなものだった。夢も希望も、彼女の瞳には宿っていなかった。
私は足を屈折させ、彼女と視線を合わせる。
「よろしくね。ハナちゃん。」
「…よろしくお願い…します。」
「そんな固くならないで。今から私たちは仲間だ。気軽に、ね。」
彼女は怯えているかのような声色で私に尋ねる。
「……お名前、何て言うんですか?」
「“ユウ”。」
「…ではよろしくお願いします。ユウさん。」
**
少しだけ迷いがあった。私が転生したことを彼女に話すべきか、ということだ。ハナを預かってから三年。
彼女も少しずつ私に心を開き、そしてその性格も明るくなってきて嬉しく思う。
「ユウ!あれ見て!」と、空を飛ぶ龍を指さす彼女。
この世界では普通の光景なのだが、彼女は空を飛ぶことに興味があるのだろうか。…浮遊魔法でも教えてみようかな。
彼女の笑顔を見て私は思う。この真っ白なキャンパスに泥水を垂らすのは良くない。
私の転生を知れば、少なからず邪念が混じってしまう。それに、まだ伝えなくとも、私たちには未来がある。
その時、いつかに伝えられればそれでいい。
「うん。凄いね。」
それからまた六年。ハナは十五になった。反抗期が過ぎ、やっと落ち着いたというところだろうか。
今日はハナが魔法使いとなった祝福の日だ。大勢の人を招き、会場を借り、会を開くことにした。
魔法使いはこの世界で最も強いとされる言わば“最強職”だ。理由としては、この世界で暮らす者たちには基本的に“能力”というものがあるから。
能力というのは基本的に一人一つ持つ、超能力のようなもの。その起源はわからないが、気が付けば皆に宿っていた。
炎を扱う者、水を扱う者、風を扱う者、人それぞれ能力は異なっている。
そして剣や盾、槍を使う者にとっては己の能力がその武器に適したものでなければならないし、まずまず能力を使いこなすのは困難を極める。
それに比べ、魔法使いは脳裏にあるイメージを具現化する事ができるため、他人の能力自体を簡易的な形で模倣(コピー)する事ができるのだ。
そんな最強職に、娘同然で育ててきた子が成るとなれば、里親として鼻が高い。
会場が拍手に包まれる中、ハナはその中央を歩く。
…彼女からは、何が見えているのだろう。ハナが将来どうなるのかなんて私は分からないし、それはこれから彼女自身が選択していくことだ。無論口出しはしないつもりだ。
未来がどんな形で私の前に現れようとも、その形はハナ自身が選択したのだから。
「行ってきます!」
ハナが魔法使いとして認められてから三年。彼女は十八歳になり、自立した。笑顔で旅立つハナを見て、少し心配になった。
それでも、これが彼女の選んだ道だ。素直に受け止めてあげよう。
私はぶんぶんと大きく手を振る。その瞬間、頭に溢れ出すハナとの記憶。涙が一滴零れた。
嬉しさなのか寂しさなのか、それとも誇らしさなのか。私にはよく分からなかった。
「まったく…すっかり立派になったなぁ……」
もう一度ハナの背中を確認する。これがあの怯えていたハナだと思うと胸に込み上げる何かがあった。
「…さてと……」
立ち尽くしたまま、これからの方針を考える。とりあえずは裏付けのためにハナをこの世に残す事ができた。彼女は魔法使いだ。早々に亡くなる事はほぼ無いだろう。…この世に残す事はもう特に無い。
このまま悠々と時を過ごしてもいいのだが、一度は死んだ身。今度の死に時くらいは自分で選ばせて欲しいというものだ。
私はハナの傍らで学んだ魔法で“魔物”を家に引き寄せる。できるだけ近所の人には危害が加わらないように。
私の何倍もある背丈と腕力、総合的な力、そして能力。全ては死の偽装のためだ。彼は大きな手で私を鷲掴みにする。
「……ハナ…生きてね。」
それから先の記憶は無い。上手く死ねたのだろうか。
……転生は…?
私はそっと瞼を開く。そこには二人の男女。…よかった。転生の面では上手くいったようだ。
あとは時代。私は四つん這いで室内にあったカレンダーを見上げる。
すると、私(ユウ)が死亡したと推定される年から、この肉体への転生までの年は三年。
以前の転生と比べて一年の差が生じているが、これを誤差の範疇だと考えればこの転生には一定の規則性がある事が分かる。
私は十五歳になり、家を出た。ハナを探す旅だ。
…結局、彼女には最後まで“転生”の事は伝えられなかった。だから、また以前のように話し合えるとは思っていない。
第一、彼女は今、三十六歳。会えたとしてわかるのだろうか。
私はまず、『キールド』という国に向かった。“魔法使いという定義”が生まれた場所。
都内の中心には公園があり、そこには『原初の魔法使い』の銅像が建てられている。
私はベンチに座り、それを何処と無く眺めた。…彼が生きていたら、私は彼にこの転生の答えを求めたのだろうか。
…わからない。
私は立ち上がり、再びハナを探し始める。その時、遠くで見えた。風に靡く銀色の髪。私が誕生日に贈った香水の匂いが風に乗って鼻に届く。人目で分かった。彼女は“ハナ”だ。
「…ハナ……」
私は、心の奥底でどこか望んでいたのかもしれない。彼女との再開。彼女との会話。
自然と涙が溢れ出た。…少し声を聞けるだけでいい。そんな思いで、私は彼女へと近づいていく。
「あの……」
「ん?どうしたの?」
目を見て声を掛けるハナ。内心、微笑んでしまった。彼女は“良き母親”になりそうだ。彼女の望み通り。
「……ううん。何でもない。」
私は彼女に背を向け歩み出した。そして求めた。この転生の真実を。その時、背後から呼び止められた。
「待って。……ねえ君。…変な事聞くかもだけどさ。…もしかして…ユウ…だったりする…?」
1話:時の流れ
だがその考えは、“一度目の死”で完全に否定されることになる。
その後、死から四年で私は新たな肉体で新たな生命を宿していたと判明する。つまりは“転生”だ。それも記憶が残った状態。
輪廻転生の理とは遠くかけ離れている。…まあ、あの説も人間の造物だ。是とも非とも言いきれないか。何故こんな転生を果たしたのかはわからないが、とにかくこれだけは言える。
私は今、生きているんだ。
**
この世界には十六の国と幾千もの村々が在る。その全てを辿っていたらあっという間に寿命を終えてしまう。前世でそれを学んだ。
しかしリスタートを切ったのなら、また前のように世界各地を旅するのも悪くはないかもしれない。
そう思って一人旅を始めた。
「いい子、いる?」
世界地図においての東部『スラビ』という国。私はそこで孤児院を訪れた。
理由は色々とあるが、そのうちの一つは私の転生がただの妄想ではないということの裏付けだ。
今の体で二十五年の時を過ごしたが、彼らはまだ五、六歳といったところだろう。
共に旅をし、私が先に寿命や事故で死去した後また転生したとなれば、恐らくその間に空く時間は四年程。彼らは死んではいない、という事だ。
それが確認できれば、この転生の真実に一歩近づけるはず。
「“ハナ”!里親が現れたぞ。」
……偶然だな。以前の私の名も“ハナ”であった。
彼女は布のような服を一枚着ているだけの体裁で私に近づく。白銀に美しく髪を靡かせているが、その瞳はとても幼児のものとは思えなかった。
幼児のものというより、全てを諦めた老人のようなものだった。夢も希望も、彼女の瞳には宿っていなかった。
私は足を屈折させ、彼女と視線を合わせる。
「よろしくね。ハナちゃん。」
「…よろしくお願い…します。」
「そんな固くならないで。今から私たちは仲間だ。気軽に、ね。」
彼女は怯えているかのような声色で私に尋ねる。
「……お名前、何て言うんですか?」
「“ユウ”。」
「…ではよろしくお願いします。ユウさん。」
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少しだけ迷いがあった。私が転生したことを彼女に話すべきか、ということだ。ハナを預かってから三年。
彼女も少しずつ私に心を開き、そしてその性格も明るくなってきて嬉しく思う。
「ユウ!あれ見て!」と、空を飛ぶ龍を指さす彼女。
この世界では普通の光景なのだが、彼女は空を飛ぶことに興味があるのだろうか。…浮遊魔法でも教えてみようかな。
彼女の笑顔を見て私は思う。この真っ白なキャンパスに泥水を垂らすのは良くない。
私の転生を知れば、少なからず邪念が混じってしまう。それに、まだ伝えなくとも、私たちには未来がある。
その時、いつかに伝えられればそれでいい。
「うん。凄いね。」
それからまた六年。ハナは十五になった。反抗期が過ぎ、やっと落ち着いたというところだろうか。
今日はハナが魔法使いとなった祝福の日だ。大勢の人を招き、会場を借り、会を開くことにした。
魔法使いはこの世界で最も強いとされる言わば“最強職”だ。理由としては、この世界で暮らす者たちには基本的に“能力”というものがあるから。
能力というのは基本的に一人一つ持つ、超能力のようなもの。その起源はわからないが、気が付けば皆に宿っていた。
炎を扱う者、水を扱う者、風を扱う者、人それぞれ能力は異なっている。
そして剣や盾、槍を使う者にとっては己の能力がその武器に適したものでなければならないし、まずまず能力を使いこなすのは困難を極める。
それに比べ、魔法使いは脳裏にあるイメージを具現化する事ができるため、他人の能力自体を簡易的な形で模倣(コピー)する事ができるのだ。
そんな最強職に、娘同然で育ててきた子が成るとなれば、里親として鼻が高い。
会場が拍手に包まれる中、ハナはその中央を歩く。
…彼女からは、何が見えているのだろう。ハナが将来どうなるのかなんて私は分からないし、それはこれから彼女自身が選択していくことだ。無論口出しはしないつもりだ。
未来がどんな形で私の前に現れようとも、その形はハナ自身が選択したのだから。
「行ってきます!」
ハナが魔法使いとして認められてから三年。彼女は十八歳になり、自立した。笑顔で旅立つハナを見て、少し心配になった。
それでも、これが彼女の選んだ道だ。素直に受け止めてあげよう。
私はぶんぶんと大きく手を振る。その瞬間、頭に溢れ出すハナとの記憶。涙が一滴零れた。
嬉しさなのか寂しさなのか、それとも誇らしさなのか。私にはよく分からなかった。
「まったく…すっかり立派になったなぁ……」
もう一度ハナの背中を確認する。これがあの怯えていたハナだと思うと胸に込み上げる何かがあった。
「…さてと……」
立ち尽くしたまま、これからの方針を考える。とりあえずは裏付けのためにハナをこの世に残す事ができた。彼女は魔法使いだ。早々に亡くなる事はほぼ無いだろう。…この世に残す事はもう特に無い。
このまま悠々と時を過ごしてもいいのだが、一度は死んだ身。今度の死に時くらいは自分で選ばせて欲しいというものだ。
私はハナの傍らで学んだ魔法で“魔物”を家に引き寄せる。できるだけ近所の人には危害が加わらないように。
私の何倍もある背丈と腕力、総合的な力、そして能力。全ては死の偽装のためだ。彼は大きな手で私を鷲掴みにする。
「……ハナ…生きてね。」
それから先の記憶は無い。上手く死ねたのだろうか。
……転生は…?
私はそっと瞼を開く。そこには二人の男女。…よかった。転生の面では上手くいったようだ。
あとは時代。私は四つん這いで室内にあったカレンダーを見上げる。
すると、私(ユウ)が死亡したと推定される年から、この肉体への転生までの年は三年。
以前の転生と比べて一年の差が生じているが、これを誤差の範疇だと考えればこの転生には一定の規則性がある事が分かる。
私は十五歳になり、家を出た。ハナを探す旅だ。
…結局、彼女には最後まで“転生”の事は伝えられなかった。だから、また以前のように話し合えるとは思っていない。
第一、彼女は今、三十六歳。会えたとしてわかるのだろうか。
私はまず、『キールド』という国に向かった。“魔法使いという定義”が生まれた場所。
都内の中心には公園があり、そこには『原初の魔法使い』の銅像が建てられている。
私はベンチに座り、それを何処と無く眺めた。…彼が生きていたら、私は彼にこの転生の答えを求めたのだろうか。
…わからない。
私は立ち上がり、再びハナを探し始める。その時、遠くで見えた。風に靡く銀色の髪。私が誕生日に贈った香水の匂いが風に乗って鼻に届く。人目で分かった。彼女は“ハナ”だ。
「…ハナ……」
私は、心の奥底でどこか望んでいたのかもしれない。彼女との再開。彼女との会話。
自然と涙が溢れ出た。…少し声を聞けるだけでいい。そんな思いで、私は彼女へと近づいていく。
「あの……」
「ん?どうしたの?」
目を見て声を掛けるハナ。内心、微笑んでしまった。彼女は“良き母親”になりそうだ。彼女の望み通り。
「……ううん。何でもない。」
私は彼女に背を向け歩み出した。そして求めた。この転生の真実を。その時、背後から呼び止められた。
「待って。……ねえ君。…変な事聞くかもだけどさ。…もしかして…ユウ…だったりする…?」
1話:時の流れ
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