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最終章 教師となった皇子とAクラスの生徒達
76話 討伐作戦終了から1週間
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反社会政府との戦いが終わって1週間。討伐アカデミー内は慌ただしく動いていた。今回の戦いで多くの人が失い、多くの人が怪我をしてしまったのだ。だから動ける人間が動くしかない。
そして俺、Aクラスの指導者シンリンはその動ける人間側ではなかった。5日間は専属病院のベッドの上から動けずにまるで介護のような生活を過ごす羽目になる。自分に言霊を使った反動だろう。でも後悔はしていない。あの時はああする他なかった。
そしてやっと体が起き上がれるようになった今日、俺はAクラスの教室に向かっている。しかし足腰動かないので車椅子という便利な物体に乗り、アサガイに押してもらって移動していた。
「シンリン先生?」
「どうかしたか?」
「少し調子が悪そうに見えて…」
「平気だ。確かに体は痛いけど動けない痛さではない。それよりもすまないな。重くないか?」
「大丈夫です。しばらく移動する時は私達に頼ってくださいね」
「有難い」
こうしてアサガイと話したのは1週間振りとなる。他の生徒達もやっと今日会えるのだ。真剣な話をしなくてはいけないのに心が躍ってしまう。
Aクラスの教室前に着くと廊下にいても生徒達の話し声が聞こえる。自然と口角が上がってしまう俺を見て嬉しそうに笑みを溢したアサガイは扉を開けて車椅子ごと中に入れてくれた。
「「「先生!」」」
「お前達、1週間振りだな。こんな姿ですまない」
俺の姿が目に入った途端教室内は歓喜に包まれる。予想通りの反応は俺を安心させると同時になんとも言えない感情が湧き上がった。
「シンリン先生、教卓前に行きますか?」
「出来れば生徒達と近くで話したい」
「それなら机を退かしましょう。皆さん、真ん中を開けてください」
「わかりましたわ」
「退けろ退けろ~!!」
「……引きずると跡付く」
俺が入れるようにと机を退かしてくれる生徒達。お互いに久しぶりに会ったのだから気分が高いのだろう。
まるで談笑するようにAクラス教室の中心に集まった俺達は顔を合わせるように円になって座る。今日は誰1人欠けてない。全員が揃えたのだ。
無事ヒマワリも退院して8人の生徒に迎えられる。これほど嬉しいことはない。俺は深呼吸をして生徒達を見回すように首を動かした。
「とりあえず、反社会政府討伐作戦お疲れ様。こうやって全員がここに座れていることは奇跡だ。既に話は聞いていると思うが他クラスでは亡くなった生徒や教師が大勢いる。そんな中、前線に立ったお前達が生きているのは自分自身の力のおかげだと思う。これは誇って良い」
思い返せば、俺がここに来た時はほとんどの奴らが刀という物について知っていなかった。それなのに短期間で自分の力として扱えている。
これは俺の教えというよりも素直な積み重ねが生んだ結果だ。最初は嫌われようと棘のある言葉で注意していたのに喰らいつこうとするその姿に引きつつあったな…。
「さて本題に入ろう。俺が知っているカゲルについてだ」
「先生族、カゲルについて情報があるのか?」
「ああ。信じられない話が出てくるけど、頭の片隅にだけ入れておいてくれ」
「もしかしてヒマワリと一緒にみんなを探しに行った時の……」
「そうだ。黒煙を出したカゲルから聞いた」
「カゲルが喋ったのか!?そんな個体居たのかよ!?」
「事実だ」
やはり生徒もカゲルが人間の言葉を喋るなんて初めての情報に入るのか。これは後でセンリにも話した方がいいかもしれない。俺は1回目を瞑って開けた後、俺の腹違いの弟ヒバナに聞いたことを話した。
カゲルと呼ばれる存在は全てカムイ王都の民がこの世界に来て成り果てた姿だということ。
そんなカゲル達を操っていたのは俺の腹違いの兄弟が皇族特有の技である言霊を使って人間を襲わせていたということ。
顔も知らない兄弟達は俺を殺そうとしていること。
全てを話し終えた俺はフーッとため息をつく。全てはカムイ王都の皇族が原因となった天災だ。元いた場所とは違う世界といえ、どれくらいの人間が犠牲になったのだろう。そう考えてしまうと頭が痛くなって心が沈む。でも天災の種を埋めたのは父上達だけでなく俺も同じなのだ。
「カムイ王都で俺は知ったふりをしていて何も出来なかった。表しか見ないで裏なんてないと決めつけたんだ。その結果がこれさ。お前達に謝ったってカゲルが消えないのはわかっている。でも……謝らせてくれ。すまない」
頭を下げた俺は目を強く閉じてしばらく顔を上げられなかった。そんな中、何とも思ってませんよと言わんばかりの声が教室に渡る。
「謝るなら片付けてからの方が良いんじゃないっすか?」
「カナト…?」
「反社会政府を倒したからと言ってカゲルが居なくなったわけじゃないっす。今でも軽傷者は任務に繰り出されてますよ。まだ何も完結してない」
「そうだな。カナトの言う通りだ。俺は今回の作戦で大事な人を失った。でも作戦完了したから終わりではない。続きはまだある。カゲルが全ていなくなった世界を、あの人は望んでいるから」
「ったく、そんなかっこつけなくたって素直に先生の悲しむ顔が見たくないって言えば良いじゃんか!」
「独特な解釈をするなリンガネ」
「ハルサキは照れ屋なんだよ。勿論カナトも」
「ハハッ、リンガネさんには敵いませんっす」
「……ハルサキ認めて」
「ミロクニまで…」
ゆっくりと顔を上げれば生徒達は笑っている。それは俺を慰める作り笑いじゃくて前を進もうと決意する笑顔だった。
「でもこれからのカゲル討伐に忘れてはいけないのがシンリン先生がその兄弟に狙われているということです。あの時Aクラス全員で倒したカゲルは強化されたカゲルよりも更に強かった」
そして俺、Aクラスの指導者シンリンはその動ける人間側ではなかった。5日間は専属病院のベッドの上から動けずにまるで介護のような生活を過ごす羽目になる。自分に言霊を使った反動だろう。でも後悔はしていない。あの時はああする他なかった。
そしてやっと体が起き上がれるようになった今日、俺はAクラスの教室に向かっている。しかし足腰動かないので車椅子という便利な物体に乗り、アサガイに押してもらって移動していた。
「シンリン先生?」
「どうかしたか?」
「少し調子が悪そうに見えて…」
「平気だ。確かに体は痛いけど動けない痛さではない。それよりもすまないな。重くないか?」
「大丈夫です。しばらく移動する時は私達に頼ってくださいね」
「有難い」
こうしてアサガイと話したのは1週間振りとなる。他の生徒達もやっと今日会えるのだ。真剣な話をしなくてはいけないのに心が躍ってしまう。
Aクラスの教室前に着くと廊下にいても生徒達の話し声が聞こえる。自然と口角が上がってしまう俺を見て嬉しそうに笑みを溢したアサガイは扉を開けて車椅子ごと中に入れてくれた。
「「「先生!」」」
「お前達、1週間振りだな。こんな姿ですまない」
俺の姿が目に入った途端教室内は歓喜に包まれる。予想通りの反応は俺を安心させると同時になんとも言えない感情が湧き上がった。
「シンリン先生、教卓前に行きますか?」
「出来れば生徒達と近くで話したい」
「それなら机を退かしましょう。皆さん、真ん中を開けてください」
「わかりましたわ」
「退けろ退けろ~!!」
「……引きずると跡付く」
俺が入れるようにと机を退かしてくれる生徒達。お互いに久しぶりに会ったのだから気分が高いのだろう。
まるで談笑するようにAクラス教室の中心に集まった俺達は顔を合わせるように円になって座る。今日は誰1人欠けてない。全員が揃えたのだ。
無事ヒマワリも退院して8人の生徒に迎えられる。これほど嬉しいことはない。俺は深呼吸をして生徒達を見回すように首を動かした。
「とりあえず、反社会政府討伐作戦お疲れ様。こうやって全員がここに座れていることは奇跡だ。既に話は聞いていると思うが他クラスでは亡くなった生徒や教師が大勢いる。そんな中、前線に立ったお前達が生きているのは自分自身の力のおかげだと思う。これは誇って良い」
思い返せば、俺がここに来た時はほとんどの奴らが刀という物について知っていなかった。それなのに短期間で自分の力として扱えている。
これは俺の教えというよりも素直な積み重ねが生んだ結果だ。最初は嫌われようと棘のある言葉で注意していたのに喰らいつこうとするその姿に引きつつあったな…。
「さて本題に入ろう。俺が知っているカゲルについてだ」
「先生族、カゲルについて情報があるのか?」
「ああ。信じられない話が出てくるけど、頭の片隅にだけ入れておいてくれ」
「もしかしてヒマワリと一緒にみんなを探しに行った時の……」
「そうだ。黒煙を出したカゲルから聞いた」
「カゲルが喋ったのか!?そんな個体居たのかよ!?」
「事実だ」
やはり生徒もカゲルが人間の言葉を喋るなんて初めての情報に入るのか。これは後でセンリにも話した方がいいかもしれない。俺は1回目を瞑って開けた後、俺の腹違いの弟ヒバナに聞いたことを話した。
カゲルと呼ばれる存在は全てカムイ王都の民がこの世界に来て成り果てた姿だということ。
そんなカゲル達を操っていたのは俺の腹違いの兄弟が皇族特有の技である言霊を使って人間を襲わせていたということ。
顔も知らない兄弟達は俺を殺そうとしていること。
全てを話し終えた俺はフーッとため息をつく。全てはカムイ王都の皇族が原因となった天災だ。元いた場所とは違う世界といえ、どれくらいの人間が犠牲になったのだろう。そう考えてしまうと頭が痛くなって心が沈む。でも天災の種を埋めたのは父上達だけでなく俺も同じなのだ。
「カムイ王都で俺は知ったふりをしていて何も出来なかった。表しか見ないで裏なんてないと決めつけたんだ。その結果がこれさ。お前達に謝ったってカゲルが消えないのはわかっている。でも……謝らせてくれ。すまない」
頭を下げた俺は目を強く閉じてしばらく顔を上げられなかった。そんな中、何とも思ってませんよと言わんばかりの声が教室に渡る。
「謝るなら片付けてからの方が良いんじゃないっすか?」
「カナト…?」
「反社会政府を倒したからと言ってカゲルが居なくなったわけじゃないっす。今でも軽傷者は任務に繰り出されてますよ。まだ何も完結してない」
「そうだな。カナトの言う通りだ。俺は今回の作戦で大事な人を失った。でも作戦完了したから終わりではない。続きはまだある。カゲルが全ていなくなった世界を、あの人は望んでいるから」
「ったく、そんなかっこつけなくたって素直に先生の悲しむ顔が見たくないって言えば良いじゃんか!」
「独特な解釈をするなリンガネ」
「ハルサキは照れ屋なんだよ。勿論カナトも」
「ハハッ、リンガネさんには敵いませんっす」
「……ハルサキ認めて」
「ミロクニまで…」
ゆっくりと顔を上げれば生徒達は笑っている。それは俺を慰める作り笑いじゃくて前を進もうと決意する笑顔だった。
「でもこれからのカゲル討伐に忘れてはいけないのがシンリン先生がその兄弟に狙われているということです。あの時Aクラス全員で倒したカゲルは強化されたカゲルよりも更に強かった」
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