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7章 反社会政府編 〜決戦〜
72話 洗脳させる皇族の力
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すると三男のカゲルは俺の背中を押さえつけてない方の手でゴーグルとマスクを乱暴に取って投げ捨てた。
「ゲホッ、ゲホッ」
急に纏わりついた強い黒煙の匂いと異臭を吸い込み咳き込んでしまう。目も段々染みてきて視界が滲んだ。
「わかるだろう。この香りや痛さ。我が兄は五感が全て正常に動いている。そして…」
三男のカゲルは横たわる体を反転させて仰向けにすると、心臓の部分に手を乗せた。
「全ての中核となるものが脈打っている。それが生きている証拠だ」
「ゲホッ、全くわからない。確かに、俺は賊に斬られた。建国記念日の宮殿でな」
「そう。確かに我が兄は斬られた。あの日カムイ王都は終わりを告げたのだ」
心臓部分を押し潰すように力を込める三男のカゲル。左腕が使えないから簡単に起き上がることも出来ない。右手に持つ特刀は力強く握りしめるだけで振るうことはなかった。
「神とは残酷な存在。終焉を迎えたカムイ王都の魂達達はこの地に飛ばされ化け物と成り果て暴れ出した」
「…でも、斬られたのは宮殿の奴らだけだ…」
「先に意識を飛ばした我が兄はわからないだろう。あの後皇族が殺されたという知らせを受けた民達が2つに分かれて争いが始まった。反対派と賛成派でな」
「そんな…ウッ、ゲホッ」
「しかし所詮は武芸を嗜まない民同士。全ての者が息絶えて、カムイ王都内の戦争はたったの1日で幕を閉じた」
三男のカゲルは立ち上がって俺から少し離れる。滑らかに俺が知らないことを教えてくれた。俺は倒れたことによって全身が酷く痛み始める。歯を鳴らしながら強く目を瞑った。
「まぁそんな事なんて私達兄弟にとってはどうでもいい。やる事はただ1つなのだから」
静かに高笑いを始める三男のカゲル。すると片腕を伸ばして俺の首を掴んだ。
「我が兄を殺せればいい。黒煙に囲まれたこの空間は誰も入れまい」
「っ、」
死にたくない。ずっと自分が死んでいると思い込んでいたから現実を知ってしまった今、とてつもない怖さが奥底から湧き出てきた。
三男と2人になってから、聞こえていた戦いの音も人の声も全くしなくなっている。無音の黒煙の中で首を掴まれた持ち上げられた俺は体を浮かしながら三男を睨んでいた。
「お前は」
「ヒバナ。それが私の名だ。呼んでくれるよな?我が兄シンリンよ」
「…ヒバナ。聞きたいことがある。今までカゲルが日本の人々を襲ったのはカムイ王都の民の本能で動いたのか?」
「それを聞いて何を得たい?」
「確かめたいんだ。お前が父上の血を、初代王カムイの血を引いているのなら使えるはずだ。……言霊を」
俺がカムイ王都に居る時、やっと使えるようになってきた言霊という代々王家に伝わる技。言霊を発すれば聞いた相手全てを従えさせて思い通りにすることが出来ると言われている。
そうやって俺達の先祖はカムイ王都の民や兵士に言霊を使って士気を上げていた。戦争などの戦いにおいてカムイ王都が負けたことないのはそう言った秘密があったからだ。
ただこれには使用者に代償が付いてしまう。別に何かを失うわけではない。1、2週間は起き上がれなくなるというものだ。
けれど国の頂点に立つものが寝込むのは一大事となってしまう。だから父上は滅多に使わなかったし、使ったことがあるのは俺が産まれてから1回だけ。それも物心ついてない時だったので実際どんなものなのかは知らなかった。
「もし言霊が使えるのなら、今までカゲルを動かしていたのもお前なのか?」
「そうだと言ったら我が兄はどうする」
「使うのをやめろ」
「……」
「俺も、最初はこの作戦で、使おうとしていたさ。でも言霊に意味はないとわかった。無理矢理、気持ちを上げて動かしたって本来の力は出ない……ゲホッ」
夢の中でカゲルと視界を共有したからこそ、その考えに辿り着けた。皇族特有の力はあくまで強制的に火をつけるだけ。それはアカデミーがやってきた、若さを頼りにする洗脳と同じだ。俺はリコン学長が嫌いなわけじゃない。でもその考えだけは縦に頷けなかった。
「今でも頭の中でカムイ王都の民や、父上と母上の声が、響き渡っている…。きっとそれはヒバナが言霊を使って洗脳したからだろう?脳内を刺激して、思考力を鈍らせるために。………声に対して黙れのひと言、言霊を込めて伝えれば収まるはず。けれどそれじゃダメなんだ」
苦しさなのか。それとも自分の感情が溢れ出したのか。涙が頬を流れる。
「償わなければいけない。カムイ王都の皇子シンリンはもう居ないが、討伐アカデミーAクラス指導者のシンリンはここに居る。まだ俺は、終われない」
俺は残っている力を振り絞って右手に持つ特刀をヒバナの腹に突き刺す。油断していたようで俺の特刀は深く入って行った。
ヒバナは痛みに力が抜けて俺の首を掴んでいた手を離して体が地面に落ちる。しかしヒバナから離れたってこの黒煙から出ることは出来ない。本当に1対1の戦いなのだ。
『シンリン』
『シンリン皇子』
『シンリン様』
ずっと語りかけてくる声達も三男のヒバナによる洗脳と考えれば心が随分と楽になる。完全に無視することは不可能だけど、今は目の前のことに思考を回すことができた。
「やるな…我が兄よ」
「カゲルに褒められても嬉しくはない」
「私は貴方の弟だ。ヒバナという名もある。カゲルという他の奴らとひとまとめにしないでほしい」
「お前はカゲルだ」
突き放すように俺が言うとカゲルは口を大きく開けて牙を出す。そして勢いよく噛み締めて凄まじい音を出した。
それによって力が入り、筋肉が動いたのか刺したはずの特刀が俺の足元へ跳ね返ってくる。まるで取って戦えと言っているように。
「ゲホッ、ゲホッ」
急に纏わりついた強い黒煙の匂いと異臭を吸い込み咳き込んでしまう。目も段々染みてきて視界が滲んだ。
「わかるだろう。この香りや痛さ。我が兄は五感が全て正常に動いている。そして…」
三男のカゲルは横たわる体を反転させて仰向けにすると、心臓の部分に手を乗せた。
「全ての中核となるものが脈打っている。それが生きている証拠だ」
「ゲホッ、全くわからない。確かに、俺は賊に斬られた。建国記念日の宮殿でな」
「そう。確かに我が兄は斬られた。あの日カムイ王都は終わりを告げたのだ」
心臓部分を押し潰すように力を込める三男のカゲル。左腕が使えないから簡単に起き上がることも出来ない。右手に持つ特刀は力強く握りしめるだけで振るうことはなかった。
「神とは残酷な存在。終焉を迎えたカムイ王都の魂達達はこの地に飛ばされ化け物と成り果て暴れ出した」
「…でも、斬られたのは宮殿の奴らだけだ…」
「先に意識を飛ばした我が兄はわからないだろう。あの後皇族が殺されたという知らせを受けた民達が2つに分かれて争いが始まった。反対派と賛成派でな」
「そんな…ウッ、ゲホッ」
「しかし所詮は武芸を嗜まない民同士。全ての者が息絶えて、カムイ王都内の戦争はたったの1日で幕を閉じた」
三男のカゲルは立ち上がって俺から少し離れる。滑らかに俺が知らないことを教えてくれた。俺は倒れたことによって全身が酷く痛み始める。歯を鳴らしながら強く目を瞑った。
「まぁそんな事なんて私達兄弟にとってはどうでもいい。やる事はただ1つなのだから」
静かに高笑いを始める三男のカゲル。すると片腕を伸ばして俺の首を掴んだ。
「我が兄を殺せればいい。黒煙に囲まれたこの空間は誰も入れまい」
「っ、」
死にたくない。ずっと自分が死んでいると思い込んでいたから現実を知ってしまった今、とてつもない怖さが奥底から湧き出てきた。
三男と2人になってから、聞こえていた戦いの音も人の声も全くしなくなっている。無音の黒煙の中で首を掴まれた持ち上げられた俺は体を浮かしながら三男を睨んでいた。
「お前は」
「ヒバナ。それが私の名だ。呼んでくれるよな?我が兄シンリンよ」
「…ヒバナ。聞きたいことがある。今までカゲルが日本の人々を襲ったのはカムイ王都の民の本能で動いたのか?」
「それを聞いて何を得たい?」
「確かめたいんだ。お前が父上の血を、初代王カムイの血を引いているのなら使えるはずだ。……言霊を」
俺がカムイ王都に居る時、やっと使えるようになってきた言霊という代々王家に伝わる技。言霊を発すれば聞いた相手全てを従えさせて思い通りにすることが出来ると言われている。
そうやって俺達の先祖はカムイ王都の民や兵士に言霊を使って士気を上げていた。戦争などの戦いにおいてカムイ王都が負けたことないのはそう言った秘密があったからだ。
ただこれには使用者に代償が付いてしまう。別に何かを失うわけではない。1、2週間は起き上がれなくなるというものだ。
けれど国の頂点に立つものが寝込むのは一大事となってしまう。だから父上は滅多に使わなかったし、使ったことがあるのは俺が産まれてから1回だけ。それも物心ついてない時だったので実際どんなものなのかは知らなかった。
「もし言霊が使えるのなら、今までカゲルを動かしていたのもお前なのか?」
「そうだと言ったら我が兄はどうする」
「使うのをやめろ」
「……」
「俺も、最初はこの作戦で、使おうとしていたさ。でも言霊に意味はないとわかった。無理矢理、気持ちを上げて動かしたって本来の力は出ない……ゲホッ」
夢の中でカゲルと視界を共有したからこそ、その考えに辿り着けた。皇族特有の力はあくまで強制的に火をつけるだけ。それはアカデミーがやってきた、若さを頼りにする洗脳と同じだ。俺はリコン学長が嫌いなわけじゃない。でもその考えだけは縦に頷けなかった。
「今でも頭の中でカムイ王都の民や、父上と母上の声が、響き渡っている…。きっとそれはヒバナが言霊を使って洗脳したからだろう?脳内を刺激して、思考力を鈍らせるために。………声に対して黙れのひと言、言霊を込めて伝えれば収まるはず。けれどそれじゃダメなんだ」
苦しさなのか。それとも自分の感情が溢れ出したのか。涙が頬を流れる。
「償わなければいけない。カムイ王都の皇子シンリンはもう居ないが、討伐アカデミーAクラス指導者のシンリンはここに居る。まだ俺は、終われない」
俺は残っている力を振り絞って右手に持つ特刀をヒバナの腹に突き刺す。油断していたようで俺の特刀は深く入って行った。
ヒバナは痛みに力が抜けて俺の首を掴んでいた手を離して体が地面に落ちる。しかしヒバナから離れたってこの黒煙から出ることは出来ない。本当に1対1の戦いなのだ。
『シンリン』
『シンリン皇子』
『シンリン様』
ずっと語りかけてくる声達も三男のヒバナによる洗脳と考えれば心が随分と楽になる。完全に無視することは不可能だけど、今は目の前のことに思考を回すことができた。
「やるな…我が兄よ」
「カゲルに褒められても嬉しくはない」
「私は貴方の弟だ。ヒバナという名もある。カゲルという他の奴らとひとまとめにしないでほしい」
「お前はカゲルだ」
突き放すように俺が言うとカゲルは口を大きく開けて牙を出す。そして勢いよく噛み締めて凄まじい音を出した。
それによって力が入り、筋肉が動いたのか刺したはずの特刀が俺の足元へ跳ね返ってくる。まるで取って戦えと言っているように。
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