上 下
71 / 77
7章 反社会政府編 〜決戦〜

71話 三男の事実

しおりを挟む
「あの男の子が言った通りだね。煙が強くなってる。マスクとゴーグルしてなかったらヒマワリダメだったよ」

「そうだな。しかしこの黒煙、普通じゃない」

「何が?」

「周りに火が出ているようには見えないのに黒煙が上がっているのだ。それに本拠地を隠すように包み込んでる。臭いや効果は黒煙そのものだが……不思議だ」


マスクとやらで鼻が塞がれているので今はわからないが、若干混じる異臭も気になる。軍服のような俺の服は黒で統一されているので灰が舞っているのかも確認できない。するとまた俺の頭の中で声が響き渡る。


『我々は信じています。王が成したことに間違いないと』

『シンリン様、どうかその意思をお引き継ぎください』

『シンリン。さぁこちらへ』

『お前はまたカムイ王都を再建するのだ。先程私に刃を向けたのはこ奴らに洗脳されていたのだろう?』


カムイ王都の民だけでなく、父上と母上の声までしっかりと聞こえるようになってしまう。ヒマワリを心配させまいと堪えるが油断すれば叫び声を上げてしまいそうだった。

気を紛らわそうと周囲の黒煙を特刀で強く振り払う。今どの辺を歩いているのかもわからない俺達の唯一の情報源が視界だけだ。


「ヒマワリ、着いてきているか?」

「うん!」

「よし」


ここで離れてしまったら元も子もない。ヒマワリの返事が聞こえて安心した。そしてまた右足を庇いながらゆっくりゆっくり歩く。

人の声は聞こえるのに、何処から聞こえるのかも判断できない状況ではとりあえず歩くしかない。


「先生、なんか」

「ん?どうした」

「踏んだ」

「踏んだ?」


後ろを歩くヒマワリが急にそう言うので一旦止まった俺は振り返り彼女の足元を見る。するとヒマワリの片足は誰かの手を踏んでいるようだった。

それを伝えればヒマワリは大きな声で謝りながら足を離す。俺は痛みを我慢してしゃがみ、その手の持ち主の体を探した。


「おい!大丈夫か!」

「せっ、先生…!」

「えっ?」


手探りで伸ばした手が何かに掴まれた瞬間、ヒマワリは怯えた声を出す。気の抜けた問いの答えが返ってくることなく俺は勢いよく地面に打ち付けられた。


「ぐあっ!」

「シンリン」

「誰だ!?…クソッ」


うつ伏せの状態で背中を潰すように押される俺。その時に隣を見れば千切られた1本の腕が転がっている。

黒煙で見えなかったけど、もう遅い状態の腕をヒマワリは踏んでいたらしい。そして今俺を殺そうとしている奴……カゲルは上からジッと俺を見つめ名前を呼んでいた。


「シンリン」


自分の名前を呼ばれてこれほど気持ち悪かったことはない。まるでシンリンの名に纏わりつく呼び声は俺の思考を黒に塗り替えて極度の恐怖に浸された。


「先生!先生!」


特刀を持たないヒマワリは俺が無事かを確認するしか出来ない。「逃げろ」そう言いたいのに声が出なくなってしまった俺はカゲルの姿に目が張り付いてただただ見ているだけだった。

するとカゲルは急に笑い出してまるで人間のように感情を表す。次の瞬間、カゲルが遠吠えを出すと黒煙が強くなった。


「ヒマワ…リ…」


やっと小さな声が出たが俺の言葉はヒマワリには届かない。その代わり、俺に手をかけるカゲルの姿がくっきりと見えて禍々しい容態が瞳に映る。今までのカゲルとは違う。誰が見てもそう思えるほどにこいつは怖かった。


「シンリン」

「やめろ呼ぶな!」

「我が兄」

「!?」


兄。

そう呼ばれて俺は鳥肌が一気に立つ。俺には兄弟なんて存在は居なかった。それなのに俺は何故かこいつが自分の弟だと錯覚してしまう。

いや、これは錯覚なのだろうか。こいつは俺の弟。確信に近い勘は余計に俺を惑わせる。


「有益な情報を教えよう我が兄よ」

「やめろ…やめてくれ」

「お前達が呼ぶカゲルという存在は全てカムイ王都の民や宮殿の人間が成した姿だ。お前が先程無口な少女と戦ったカゲルの正体。それは我が父と我が兄の母だ」


薄々勘付いていたことが正解だと教えられてしまう。まずカゲルが喋るだけでも恐ろしいのに、やはり自分が父上と母上を手にかけたことが何よりも恐ろしい。

力なく首を振って地面に顔を擦らせる。俺の考察は間違いだと言って欲しかった。


「そして気になるのは我が兄の目の前にいるカゲルの情報だろう。私は貴方の弟にあたる。腹違いのな」


情報なんて要らない。俺にとっては無益だ。でもそれさえ言えなくて一方的にカゲルに喋らせる。

俺の腹違いの弟。その事実が俺の中で妙に納得してしまうのは、こいつが言うことが本当だからだ。


「我が兄の父でありカムイ王都の王は私以外に他の女で3人の子を成した。次男、三男、長女。私はその三男に属する」

「………」

「哀れだ。何も喋らない。私が望む我が兄はそんな貧弱ではないのだ」

「………」

「刀を構えよ。そして従えさせよ。私達兄弟もそうしてきた。我が父にも知らない母にも、カムイ王都の民にも全てに命令した。我が兄シンリンを殺せと」

「俺を、殺して、何の意味がある…?」

「兄弟にはやらなければならないことがあるのだ。それは次男から口止めされているから言えないがな」

「けれど俺はもう死んでいる。カムイ王都で殺され…」

「我が兄は生きている。この日本という地で、心の臓を動かしている」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...