69 / 77
7章 反社会政府編 〜決戦〜
69話 死を経験した者の言葉
しおりを挟む
「先生いつの間にこんな上手になったの?」
「暴れるな!……ったく。コツさえ掴めば出来ることだ。今は左腕がお前とお揃いなんだからじっとしていてくれ」
「お揃い…!へへっ、先生とお揃い!」
「喜ぶ部分あったか?」
次々と建物の屋上に特刀束縛の縄を引っ掛けて、左足を使い着地した瞬間にまた別の建物に飛び移る。その方法を取ったのが正解だったようで反社会政府の本拠地に俺とヒマワリは近づいていた。
焦げ臭いものが鼻を刺激して顔を歪める。しかし若干違う臭いが混ざっていて俺は不思議に思った。
「到着したらどうする?」
「状況を確認して生徒達と合流する。俺は十分に動けないからヒマワリに頼ることが多くなるけど良いか?」
「勿論!ヒマワリ頑張るね!」
意気込んだヒマワリはギュッと俺に強くしがみついた。左腕が無い不安定な状態でも落ちないでくれて助かる。落ちてしまったらそれだけで時間が無駄になってしまうのだ。
すると鉄の建物を越えた俺達の目には反社会政府本拠地が見える。最初に来た時よりも悲惨な姿と化しているカムイ王都激似の建物。
アカデミーの人間と反社会政府の崇拝者、そしてカゲルが激しくぶつかり合った証拠だろう。
「着地するぞ!」
「うん!」
俺は地面に近くにあった鉄の柱に束縛縄を巻きつけて途中で減速しながら着地する。ヒマワリを降ろして目の前を見れば黒煙で視界が曇り、中の様子がよくわからない。それでも人の声が聞こえるので戦いはまだ終わってないのだろう。
「うう、目が染みる…」
「煙を吸うなよ。自分の鼻に服を押し付けろ」
「はーい」
縄を収納した俺は特刀を持っている腕で鼻と口を押さえる。何が原因でこうなったかを近くの人間に聞かなければいけない。ヒマワリが煙を掻き分けながら俺はその後ろをゆっくりと着いて行った。
右足は違和感しかないが、歩けないほどではない。生徒を助けるためなら痛みなんてどうってことなかった。
「本当に変わったな…俺」
アカデミーに来た時は生徒に嫌われて追放されようと動いていたはずだ。しかし今はそんな生徒達と一緒に居たいと思うようになり父上や母上、カムイ王都の民よりも大切に思っている。
俺を変えてくれたのは紛れもなくAクラスの生徒達なのだ。これは恩返しに値する。そのためなら腕や足だって惜しくない。
「先生!人!」
「ん?」
想いに浸っていた俺とは違いヒマワリはちゃんと人を探してくれていたようだ。片足で人が居る方向を差すと確かに人の姿があった。
俺はヒマワリと目を合わせて頷くと黒煙に混じる人影へと足を進める。目を細めながらその姿を見るとアカデミーの制服を着ていた。けれどもAクラスの生徒ではない。きっと補佐を担当する生徒だろう。
「おーい」
ヒマワリは俺達に背を向けて蹲る生徒を片足で突っつく。すると面白いほどに飛び上がって振り返った。
「お、お前達!」
「ん?何処かで見たことあるような…?」
「ヒマワリは知らなーい」
見たことのある顔と声。白い布を口に当てて俺達の存在に驚いているのは確か……
「アサガイの…」
「何しに来たんだよ」
そうだ。アサガイに付き纏う男だ。カナトとハルサキと共に居た時に出くわした生徒。アサガイを泣かせた男子生徒。思い出した俺はそいつを睨みつけると、そいつも睨み返した。
「大体なんでお前達がここに居るんだ。前線だろ?それに片腕無しは復学したのか?」
「おい」
「せ、先生ダメ!右足は捻挫しているんだから!」
憎ったらしい口を黙らせようと俺は包帯が巻かれている足を振りかぶる。しかし相手のみぞおちに入れ込もうとした瞬間ヒマワリに止められた。俺は渋々足を元に戻す。俺と男子生徒の間に入ったヒマワリはAクラスの生徒の行方を聞き始めた。
「そんなの知らねぇよ」
「じゃあこの煙は何があってこうなったの?」
「わからねぇ。ただ、急に地震が起きたと思ったら周りを包み込んだんだ」
「他の人達は?」
「だから!俺に聞くな!ここはまだマシな方で奥に進めばもっと黒煙が強くなる。死にたくないなら離れたほうがいいぜ」
「だったらお前も離れればいい。何故蹲っていた?」
途中、俺が割り込んで問いかければ奴の目はもっと鋭くなる。やはりこいつとは親しめない。親しむつもりはないが。
「……」
「どうした」
「もう仲間が居ないんだよ。目の前でカゲルに喰われた。だからここで待っていたんだ。それだけで……。放っておいてくれ」
男子生徒は弱々しい声になって俯く。待つというのはきっと死をだろう。目の前でカゲルに喰われた。それは俺の過去やカムラの過去と似た境遇を持っている。
しかし男子生徒の行動には賛成できない。俺はゆっくり足で生徒に近づく。ヒマワリはまた止めようとするけど、俺の目を見たらあっさりと下がった。
「それで良いのか?」
「うるせぇ」
「正直俺はお前が死んでも生きてもどっちだって良い。けれど本当に死にたいと思ってるのか?」
「は?」
「その場の雰囲気や状況で軽く決めつけているように見える。死は重い。最初は体が苦しくなり、最後は心が引き裂かれる。1番辛いのは本当に目を瞑った時に現れる大切な人達の顔を見た時だ。今のお前は耐えられるとは思えない」
「………」
「死ぬならよく考えて死ね」
「暴れるな!……ったく。コツさえ掴めば出来ることだ。今は左腕がお前とお揃いなんだからじっとしていてくれ」
「お揃い…!へへっ、先生とお揃い!」
「喜ぶ部分あったか?」
次々と建物の屋上に特刀束縛の縄を引っ掛けて、左足を使い着地した瞬間にまた別の建物に飛び移る。その方法を取ったのが正解だったようで反社会政府の本拠地に俺とヒマワリは近づいていた。
焦げ臭いものが鼻を刺激して顔を歪める。しかし若干違う臭いが混ざっていて俺は不思議に思った。
「到着したらどうする?」
「状況を確認して生徒達と合流する。俺は十分に動けないからヒマワリに頼ることが多くなるけど良いか?」
「勿論!ヒマワリ頑張るね!」
意気込んだヒマワリはギュッと俺に強くしがみついた。左腕が無い不安定な状態でも落ちないでくれて助かる。落ちてしまったらそれだけで時間が無駄になってしまうのだ。
すると鉄の建物を越えた俺達の目には反社会政府本拠地が見える。最初に来た時よりも悲惨な姿と化しているカムイ王都激似の建物。
アカデミーの人間と反社会政府の崇拝者、そしてカゲルが激しくぶつかり合った証拠だろう。
「着地するぞ!」
「うん!」
俺は地面に近くにあった鉄の柱に束縛縄を巻きつけて途中で減速しながら着地する。ヒマワリを降ろして目の前を見れば黒煙で視界が曇り、中の様子がよくわからない。それでも人の声が聞こえるので戦いはまだ終わってないのだろう。
「うう、目が染みる…」
「煙を吸うなよ。自分の鼻に服を押し付けろ」
「はーい」
縄を収納した俺は特刀を持っている腕で鼻と口を押さえる。何が原因でこうなったかを近くの人間に聞かなければいけない。ヒマワリが煙を掻き分けながら俺はその後ろをゆっくりと着いて行った。
右足は違和感しかないが、歩けないほどではない。生徒を助けるためなら痛みなんてどうってことなかった。
「本当に変わったな…俺」
アカデミーに来た時は生徒に嫌われて追放されようと動いていたはずだ。しかし今はそんな生徒達と一緒に居たいと思うようになり父上や母上、カムイ王都の民よりも大切に思っている。
俺を変えてくれたのは紛れもなくAクラスの生徒達なのだ。これは恩返しに値する。そのためなら腕や足だって惜しくない。
「先生!人!」
「ん?」
想いに浸っていた俺とは違いヒマワリはちゃんと人を探してくれていたようだ。片足で人が居る方向を差すと確かに人の姿があった。
俺はヒマワリと目を合わせて頷くと黒煙に混じる人影へと足を進める。目を細めながらその姿を見るとアカデミーの制服を着ていた。けれどもAクラスの生徒ではない。きっと補佐を担当する生徒だろう。
「おーい」
ヒマワリは俺達に背を向けて蹲る生徒を片足で突っつく。すると面白いほどに飛び上がって振り返った。
「お、お前達!」
「ん?何処かで見たことあるような…?」
「ヒマワリは知らなーい」
見たことのある顔と声。白い布を口に当てて俺達の存在に驚いているのは確か……
「アサガイの…」
「何しに来たんだよ」
そうだ。アサガイに付き纏う男だ。カナトとハルサキと共に居た時に出くわした生徒。アサガイを泣かせた男子生徒。思い出した俺はそいつを睨みつけると、そいつも睨み返した。
「大体なんでお前達がここに居るんだ。前線だろ?それに片腕無しは復学したのか?」
「おい」
「せ、先生ダメ!右足は捻挫しているんだから!」
憎ったらしい口を黙らせようと俺は包帯が巻かれている足を振りかぶる。しかし相手のみぞおちに入れ込もうとした瞬間ヒマワリに止められた。俺は渋々足を元に戻す。俺と男子生徒の間に入ったヒマワリはAクラスの生徒の行方を聞き始めた。
「そんなの知らねぇよ」
「じゃあこの煙は何があってこうなったの?」
「わからねぇ。ただ、急に地震が起きたと思ったら周りを包み込んだんだ」
「他の人達は?」
「だから!俺に聞くな!ここはまだマシな方で奥に進めばもっと黒煙が強くなる。死にたくないなら離れたほうがいいぜ」
「だったらお前も離れればいい。何故蹲っていた?」
途中、俺が割り込んで問いかければ奴の目はもっと鋭くなる。やはりこいつとは親しめない。親しむつもりはないが。
「……」
「どうした」
「もう仲間が居ないんだよ。目の前でカゲルに喰われた。だからここで待っていたんだ。それだけで……。放っておいてくれ」
男子生徒は弱々しい声になって俯く。待つというのはきっと死をだろう。目の前でカゲルに喰われた。それは俺の過去やカムラの過去と似た境遇を持っている。
しかし男子生徒の行動には賛成できない。俺はゆっくり足で生徒に近づく。ヒマワリはまた止めようとするけど、俺の目を見たらあっさりと下がった。
「それで良いのか?」
「うるせぇ」
「正直俺はお前が死んでも生きてもどっちだって良い。けれど本当に死にたいと思ってるのか?」
「は?」
「その場の雰囲気や状況で軽く決めつけているように見える。死は重い。最初は体が苦しくなり、最後は心が引き裂かれる。1番辛いのは本当に目を瞑った時に現れる大切な人達の顔を見た時だ。今のお前は耐えられるとは思えない」
「………」
「死ぬならよく考えて死ね」
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説


先生と私。
狭山雪菜
恋愛
茂木結菜(もぎ ゆいな)は、高校3年生。1年の時から化学の教師林田信太郎(はやしだ しんたろう)に恋をしている。なんとか彼に自分を見てもらおうと、学級委員になったり、苦手な化学の授業を選択していた。
3年生になった時に、彼が担任の先生になった事で嬉しくて、勢い余って告白したのだが…
全編甘々を予定しております。
この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
火駆闘戯 第一部
高谷 ゆうと
ファンタジー
焼暴士と呼ばれる男たちがいた。
それは、自らの身体ひとつで、人間を脅かす炎と闘う者たちの総称である。
人間と対立する種族、「ラヨル」の民は、その長であるマユルを筆頭に、度々人間たちに奇襲を仕掛けてきていた。「ノーラ」と呼ばれる、ラヨルたちの操る邪術で繰り出される炎は、水では消えず、これまでに数多の人間が犠牲になっていった。人々がノーラに対抗すべく生み出された「イョウラ」と名付けられた武術。それは、ノーラの炎を消すために必要な、人間の血液を流しながらでも、倒れることなく闘い続けられるように鍛え上げられた男たちが使う、ラヨルの民を倒すための唯一の方法であった。
焼暴士の見習い少年、タスクは、マユルが持つといわれている「イホミ・モトイニ」とよばれる何かを破壊すべく、日々の鍛錬をこなしていた。それを破壊すれば、ラヨルの民は、ノーラを使えなくなると言い伝えられているためだ。
タスクは、マユルと対峙するが、全く歯が立たず、命の危機にさらされることになる。己の無力さを痛感したその日、タスクの奇譚は、ゆっくりと幕を開けたのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる