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6章 反社会政府編 〜それぞれの戦い〜
65話 好きを肯定するため 【リコン学長、ハルサキとリンガネ班】
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「ハルサキ、目を瞑れ」
いつものリンガネとは違う雰囲気にハルサキは静かに涙を流しながら驚く。そんな彼女の手にはハルサキが想いを寄せていた相手の体の1部分が握られていた。
皮膚は黒くなり、禍々しいものになっていても紛れもなくリコン学長の片足だ。反射的に目を瞑ったハルサキにはまた一筋の涙が流れてしまう。
「ああ、ああ!」
完全にカゲルとなる男の子が叫び声を上げた瞬間リンガネはリコン学長を投げる。感情が追いつく前に自然に垂れる血と涙を含めて腕を振った。
「うっ…ああ…ああ….」
推定小学生の口には大きいはずの片足を丸呑みするように男の子は喰らった。するとすぐさま膝から崩れ落ちてハルサキを握っていた手を開く。カゲルの原理を知らないハルサキは何か起こったかわからないまま手から抜け出した。
「リンガネ…」
「すまない。見たくないなら見るな。あたしがこれを残り2体に投げつけるから、ハルサキは斬ってくれ」
「……」
「まずはあいつから」
光のないリンガネの目は確実に残りの2体を捕らえている。ハルサキはリコン学長を視界に入れないように俯いていた。
握る特刀は震えていて、恐怖心と失ったショックから来ているようだ。人の心を一時的に無くそうとするリンガネはハルサキに何も言うことなく特刀を収納し、黒い両腕を拾って構堂のステージへと駆ける。
「リコン、学長」
顔を上げてリンガネの背中を見ながらハルサキは呟くが返事は返ってこない。リンガネが持っているのは片思いの相手の腕。姿形は変わってもリコン学長の腕だ。
先程流した涙は首を伝ってアカデミーの制服に染み込む。本当なら次々と流れて良いはずなのにその涙が最後で、目からは何も出てこなかった。
「リコン学長…」
彼の後ろにはカゲルの姿となったリコン学長が虚空へと消滅しつつある。リコン学長が着ていた着物も相棒の鞭も置いて。そんな現実にハルサキは思考を止めて突っ立ってることしか出来ない。
リンガネは意識を失った男の子を横目で見て、効果を確認したところでまた前を向く。一瞬でも油断したら手から伝わる黒い両腕の感触が全身に走り渡りそうだった。
本体と同じで腕の消滅の時間にも限りがある。一刻も早く腕をカゲルに喰わせなければリコン学長が体を張った意味が無い。
「トオル…!トオル!」
「トオルトオル!」
すると混乱していたはずの2体が人間の言葉を話した。同じ単語をずっと繰り返して興奮したようにまた暴れる。ステージの床はヒビ入り穴が空いて、綺麗だったはずの構堂が廃墟のように変わっていた。
「トオル!」
「うるせぇよ!!」
リンガネは何も考えずに無意識で声を出す。きっとトオルというのはあの男の子の名前だとリンガネは勘付いた。そうなればまだこの2体は多少の人間の記憶と感情があるらしい。
倒れた我が息子を見て目を覚ますように呼びかけているのだろう。しかしそれは無駄だった。原液を含んだリコン学長の体は例え1部分でも元人間のカゲルにとっては猛毒と変わりないのだから。
「なぁ、呼びかけるんじゃなくてその場に行って体揺するくらいしろよ。親だろ」
リンガネは崩れた構堂の柱や2階席の手すりを踏み台にしてカゲル達の上空へと飛躍する。上には敵であるリンガネがいると言うのに2体のカゲルは声かけを辞めなかった。
「声をかけられるだけでも羨ましいけどさ…っ」
呟くリンガネは遂に溢れ出してしまう。涙を落下の風で飛ばされながらカゲルへ半分消滅したリコン学長を投げた。
「「ト、オル!トオ…ル…」」
息子の名前を叫んでいたのが投げるリンガネにとって好機そのものだ。目の前で腕を投げつけたリンガネに攻撃することなく、口に入ったものを咄嗟に飲み込んだカゲル達は力無く倒れて行く。
そんなカゲルの上にリンガネは落下したので怪我なくリコン学長の頼み事を遂行した。
「ハルサキ!」
涙声になりながら構堂の端にいるハルサキへとリンガネは託す。それでもハルサキの絶望は途切れなくて首を横に振っていた。
「無理だ…無理なんだ…」
「何言ってんだよ!!早く!こいつらが起きる前に!」
「俺は、俺は」
「あたしだって嫌だった!でもやらなきゃならなかったんだ!お前もそうだろ!?」
「でも、でも」
いつも冷静で、年齢に合わない落ち着きを持っているハルサキは子供のように首を振って静かに涙を流す。辛いのはリンガネも同じなのにと頭の片隅ではわかっていても本当に辛いのは自分だと錯覚してしまう。
そんなハルサキに呆れと怒りが湧いたリンガネは自分の特刀を抜刀してクッションとなったカゲル1体へと突き刺した。
「何のためにカゲル討伐するか考えろよ…!単純な理由だって、重い理由だってみんな戦ってんだぞ!」
リンガネの涙がカゲルに落ちても特刀を押し込むように力を入れる。アカデミーの生徒とはいえ、女性の力では硬い皮膚に刃を入れるだけでも大変だ。完全なカゲルでないのにと悔しさでリンガネは歯をギリギリと鳴らす。
「お前が1番無駄にしちゃダメだろ…」
「…!」
弱くなっていくリンガネの声。ハルサキはその言葉にハッとして目を大きく開く。崩れゆく構堂、気絶する3体のカゲル達。そして涙を溢すかけがえのない仲間。
『1番はカゲルの討伐。そして2番は私を運ぶ。それだけよ』
「リンガネ、リコン学長」
こだまする想い人の声を聞いて、意を決したようにハルサキは振り向かず後ろ手でリコン学長の鞭を持つ。特刀と少しだけ持ち手が温かい鞭。違和感しかない二刀流はハルサキにとって心強かった。
「そうだよ、無駄にして否定したくない。好きな人がしたことを肯定するためなら心の傷なんて興奮材料さ。……ドM舐めんな!!」
いつものリンガネとは違う雰囲気にハルサキは静かに涙を流しながら驚く。そんな彼女の手にはハルサキが想いを寄せていた相手の体の1部分が握られていた。
皮膚は黒くなり、禍々しいものになっていても紛れもなくリコン学長の片足だ。反射的に目を瞑ったハルサキにはまた一筋の涙が流れてしまう。
「ああ、ああ!」
完全にカゲルとなる男の子が叫び声を上げた瞬間リンガネはリコン学長を投げる。感情が追いつく前に自然に垂れる血と涙を含めて腕を振った。
「うっ…ああ…ああ….」
推定小学生の口には大きいはずの片足を丸呑みするように男の子は喰らった。するとすぐさま膝から崩れ落ちてハルサキを握っていた手を開く。カゲルの原理を知らないハルサキは何か起こったかわからないまま手から抜け出した。
「リンガネ…」
「すまない。見たくないなら見るな。あたしがこれを残り2体に投げつけるから、ハルサキは斬ってくれ」
「……」
「まずはあいつから」
光のないリンガネの目は確実に残りの2体を捕らえている。ハルサキはリコン学長を視界に入れないように俯いていた。
握る特刀は震えていて、恐怖心と失ったショックから来ているようだ。人の心を一時的に無くそうとするリンガネはハルサキに何も言うことなく特刀を収納し、黒い両腕を拾って構堂のステージへと駆ける。
「リコン、学長」
顔を上げてリンガネの背中を見ながらハルサキは呟くが返事は返ってこない。リンガネが持っているのは片思いの相手の腕。姿形は変わってもリコン学長の腕だ。
先程流した涙は首を伝ってアカデミーの制服に染み込む。本当なら次々と流れて良いはずなのにその涙が最後で、目からは何も出てこなかった。
「リコン学長…」
彼の後ろにはカゲルの姿となったリコン学長が虚空へと消滅しつつある。リコン学長が着ていた着物も相棒の鞭も置いて。そんな現実にハルサキは思考を止めて突っ立ってることしか出来ない。
リンガネは意識を失った男の子を横目で見て、効果を確認したところでまた前を向く。一瞬でも油断したら手から伝わる黒い両腕の感触が全身に走り渡りそうだった。
本体と同じで腕の消滅の時間にも限りがある。一刻も早く腕をカゲルに喰わせなければリコン学長が体を張った意味が無い。
「トオル…!トオル!」
「トオルトオル!」
すると混乱していたはずの2体が人間の言葉を話した。同じ単語をずっと繰り返して興奮したようにまた暴れる。ステージの床はヒビ入り穴が空いて、綺麗だったはずの構堂が廃墟のように変わっていた。
「トオル!」
「うるせぇよ!!」
リンガネは何も考えずに無意識で声を出す。きっとトオルというのはあの男の子の名前だとリンガネは勘付いた。そうなればまだこの2体は多少の人間の記憶と感情があるらしい。
倒れた我が息子を見て目を覚ますように呼びかけているのだろう。しかしそれは無駄だった。原液を含んだリコン学長の体は例え1部分でも元人間のカゲルにとっては猛毒と変わりないのだから。
「なぁ、呼びかけるんじゃなくてその場に行って体揺するくらいしろよ。親だろ」
リンガネは崩れた構堂の柱や2階席の手すりを踏み台にしてカゲル達の上空へと飛躍する。上には敵であるリンガネがいると言うのに2体のカゲルは声かけを辞めなかった。
「声をかけられるだけでも羨ましいけどさ…っ」
呟くリンガネは遂に溢れ出してしまう。涙を落下の風で飛ばされながらカゲルへ半分消滅したリコン学長を投げた。
「「ト、オル!トオ…ル…」」
息子の名前を叫んでいたのが投げるリンガネにとって好機そのものだ。目の前で腕を投げつけたリンガネに攻撃することなく、口に入ったものを咄嗟に飲み込んだカゲル達は力無く倒れて行く。
そんなカゲルの上にリンガネは落下したので怪我なくリコン学長の頼み事を遂行した。
「ハルサキ!」
涙声になりながら構堂の端にいるハルサキへとリンガネは託す。それでもハルサキの絶望は途切れなくて首を横に振っていた。
「無理だ…無理なんだ…」
「何言ってんだよ!!早く!こいつらが起きる前に!」
「俺は、俺は」
「あたしだって嫌だった!でもやらなきゃならなかったんだ!お前もそうだろ!?」
「でも、でも」
いつも冷静で、年齢に合わない落ち着きを持っているハルサキは子供のように首を振って静かに涙を流す。辛いのはリンガネも同じなのにと頭の片隅ではわかっていても本当に辛いのは自分だと錯覚してしまう。
そんなハルサキに呆れと怒りが湧いたリンガネは自分の特刀を抜刀してクッションとなったカゲル1体へと突き刺した。
「何のためにカゲル討伐するか考えろよ…!単純な理由だって、重い理由だってみんな戦ってんだぞ!」
リンガネの涙がカゲルに落ちても特刀を押し込むように力を入れる。アカデミーの生徒とはいえ、女性の力では硬い皮膚に刃を入れるだけでも大変だ。完全なカゲルでないのにと悔しさでリンガネは歯をギリギリと鳴らす。
「お前が1番無駄にしちゃダメだろ…」
「…!」
弱くなっていくリンガネの声。ハルサキはその言葉にハッとして目を大きく開く。崩れゆく構堂、気絶する3体のカゲル達。そして涙を溢すかけがえのない仲間。
『1番はカゲルの討伐。そして2番は私を運ぶ。それだけよ』
「リンガネ、リコン学長」
こだまする想い人の声を聞いて、意を決したようにハルサキは振り向かず後ろ手でリコン学長の鞭を持つ。特刀と少しだけ持ち手が温かい鞭。違和感しかない二刀流はハルサキにとって心強かった。
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