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6章 反社会政府編 〜それぞれの戦い〜
60話 戦って進め 【アサガイとカナト班】
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「そうです。ゆっくり、楽にして…」
「私はやりません」
「何故ですか?貴方は途方に暮れて迷っている。祈らない理由がありません」
「私は討伐アカデミーに所属しています。決してそんなことはしない」
中腰の姿勢から立ち上がったアサガイは老翁に向かってキッパリと断る。それでも彼女の目には迷いの色があった。
こんな風に言われるのは敵に悩んでいるのが丸見えなくらいにわかりやすいということだ。立て続けに起こった嫌なことが心に大きく刺さっているらしい。それでも倒すべき相手に祈りを捧げるなんてアカデミーの生徒は絶対にしない。
「カナトさん、早く帰って来てください…」
そう呟いたアサガイは祈る老人達から視線を逸らしながらも背を向けずに正面で立っていた。老翁に見つめられる視線が痛い。覇気も宿ってない老人達の目はアカデミーの人間とは別の存在のように思えた。
「貴方達は何故カゲル様を斬るのでしょうか?」
「それは……。カゲルは人を喰う生き物です。そんな奴を見逃すわけがありません」
「確かにカゲル様は人を召し上がられます。しかしそれがどうしたと言うのでしょうか?」
「えっ」
「何かを得るには対価が必要です。品物を買う時に金を渡すのと同じこと。1人の人間が喰われれば大勢の人間が救われるのです」
「っ、でも何の関係も無い一般人を巻き込むのはどうかと」
「だから何だと言うのですか?崇拝者ではない一般人を例えるなら硬貨。金を使うことに何の悪もありません」
「人はお金ではありません!皆さん騙されているんですよ!?カゲルはお腹を満たせればそれでいいという生き物なんです!」
暑くなるアサガイは自然と特刀の鞘に手を添えてしまう。しかし相手は人間であり老人だ。一瞬で我に返れば何もなかったかのように特刀から手を離す。
やはりここに居る者は自分達とは全く別の人間。耳を貸すなと彼女は心の中で唱えるが、それを打ち破るのは老翁の言葉だった。
「我々崇拝者は過去に辛い想いを抱えています。それは現在も続いており、そんな我々を受け入れてくれるのはカゲル様なのです。カゲル様は心の拠り所。それを貴方達は壊すのですか?」
もしカナトだったらそんな言葉にも惑わされずに無視をしていただろう。でもそれが出来ないのがアサガイだった。人に気を遣い、人に優しくする性格の塊であるアサガイは傷付いた心もあって染み込んでしまうのだ。
手を強く握っても痛いだけで、奥底から迫ってくる何かには抵抗できない。苦しい。それだけしか考えられなくなっていた。
「私は……」
「何かに縋るよりも解決策を見つけるために進んだ方がアサガイちゃんは似合ってるっすよ」
滲んでくるアサガイの目は後ろからかけられた声の持ち主へと向けられる。カナトだった。
サポートを連れてきたはずなのに1人でこの部屋の廊下を通って来る彼は老人達を睨みつけて威嚇している。
「こんなこと言うと差別っすけど言わせてもらいます。お迎えを待つあんたらとは違ってアサガイちゃんも俺も進まなきゃならないんだよ。例え裏切られたって、心無い言葉言われたってね。俺達が縋っていいのは自分自身っす。赤の他人に拠り所なんて求めない」
「カナトさん……」
「シンリンさんも言ったでしょ。自分が思うままに動けって」
一旦目を閉じて思い出すようにした最後のカナトの声は優しかった。
「私が、思うまま…」
「それと速報です。地下に落ちた2人は無事出られたけど、シンリンさんが高熱と骨折して意識が無いっす」
「っ!」
「ここで立ち止まるっすか?それとも」
「戦います」
カナトからの情報でアサガイの頭の中はシンリンで埋まった。
(辛くてもシンリン先生は戦った。なら私も戦わなければいけない)
恋とは現実を見せないほどに強い力を持っている。現にアサガイはシンリンに恋をしていた。きっかけはお互いの顔が近い距離になって異性として意識し始めたと単純な理由だけど、時が経てば変化をしようとしているその勇敢さに惚れてれしまったのだ。
『シンリン先生こそ無理しないでください』
食堂で言ってしまったあの時の言葉をやっと後悔する。あの人は無理をしてでも変わりたかったのだと頭を打たれたようにアサガイは気付いた。
「さて、アサガイちゃんはこれからどうするっすか?」
「……」
本心は今すぐにでもシンリンの様子を見に行きたかった。しかしそれは自分の思うままではなくて、ただの我儘だ。アサガイは滲んだ目を擦ってカナトと向き合う。
「Aクラスの皆さんと合流します。まずはそれからです」
「了解っす」
フッと笑ったカナトは後ろを向いてサポート役の生徒を呼び寄せる。アサガイはその背中を追い越すように個室を出て行った。
もう老人達の目線や祈りの言葉は届かない。それくらいにシンリンの存在の方が大きかった。
「やっと調子戻ってきたっすね。わざわざシンリンさんの状況を聞きに行って良かった」
カナトはアサガイがシンリンに恋をしているという情報を事前に入手していた。例の片腕を無くした口が軽い少女から聞き出したのだ。悩んでいるアサガイを動かすにはシンリンの事を言うのが1番効果的。
「まぁ後は鈍感シンリンさんが気付いてくれれば良いんすけどね~」
片想いの相手で埋め尽くされているアサガイには聞こえないカナトの言葉。そんなアサガイの背中を見ながらニヤニヤと口角を上げながらカナトはAクラスを統べる委員長の背中を追いかけて行った。
「私はやりません」
「何故ですか?貴方は途方に暮れて迷っている。祈らない理由がありません」
「私は討伐アカデミーに所属しています。決してそんなことはしない」
中腰の姿勢から立ち上がったアサガイは老翁に向かってキッパリと断る。それでも彼女の目には迷いの色があった。
こんな風に言われるのは敵に悩んでいるのが丸見えなくらいにわかりやすいということだ。立て続けに起こった嫌なことが心に大きく刺さっているらしい。それでも倒すべき相手に祈りを捧げるなんてアカデミーの生徒は絶対にしない。
「カナトさん、早く帰って来てください…」
そう呟いたアサガイは祈る老人達から視線を逸らしながらも背を向けずに正面で立っていた。老翁に見つめられる視線が痛い。覇気も宿ってない老人達の目はアカデミーの人間とは別の存在のように思えた。
「貴方達は何故カゲル様を斬るのでしょうか?」
「それは……。カゲルは人を喰う生き物です。そんな奴を見逃すわけがありません」
「確かにカゲル様は人を召し上がられます。しかしそれがどうしたと言うのでしょうか?」
「えっ」
「何かを得るには対価が必要です。品物を買う時に金を渡すのと同じこと。1人の人間が喰われれば大勢の人間が救われるのです」
「っ、でも何の関係も無い一般人を巻き込むのはどうかと」
「だから何だと言うのですか?崇拝者ではない一般人を例えるなら硬貨。金を使うことに何の悪もありません」
「人はお金ではありません!皆さん騙されているんですよ!?カゲルはお腹を満たせればそれでいいという生き物なんです!」
暑くなるアサガイは自然と特刀の鞘に手を添えてしまう。しかし相手は人間であり老人だ。一瞬で我に返れば何もなかったかのように特刀から手を離す。
やはりここに居る者は自分達とは全く別の人間。耳を貸すなと彼女は心の中で唱えるが、それを打ち破るのは老翁の言葉だった。
「我々崇拝者は過去に辛い想いを抱えています。それは現在も続いており、そんな我々を受け入れてくれるのはカゲル様なのです。カゲル様は心の拠り所。それを貴方達は壊すのですか?」
もしカナトだったらそんな言葉にも惑わされずに無視をしていただろう。でもそれが出来ないのがアサガイだった。人に気を遣い、人に優しくする性格の塊であるアサガイは傷付いた心もあって染み込んでしまうのだ。
手を強く握っても痛いだけで、奥底から迫ってくる何かには抵抗できない。苦しい。それだけしか考えられなくなっていた。
「私は……」
「何かに縋るよりも解決策を見つけるために進んだ方がアサガイちゃんは似合ってるっすよ」
滲んでくるアサガイの目は後ろからかけられた声の持ち主へと向けられる。カナトだった。
サポートを連れてきたはずなのに1人でこの部屋の廊下を通って来る彼は老人達を睨みつけて威嚇している。
「こんなこと言うと差別っすけど言わせてもらいます。お迎えを待つあんたらとは違ってアサガイちゃんも俺も進まなきゃならないんだよ。例え裏切られたって、心無い言葉言われたってね。俺達が縋っていいのは自分自身っす。赤の他人に拠り所なんて求めない」
「カナトさん……」
「シンリンさんも言ったでしょ。自分が思うままに動けって」
一旦目を閉じて思い出すようにした最後のカナトの声は優しかった。
「私が、思うまま…」
「それと速報です。地下に落ちた2人は無事出られたけど、シンリンさんが高熱と骨折して意識が無いっす」
「っ!」
「ここで立ち止まるっすか?それとも」
「戦います」
カナトからの情報でアサガイの頭の中はシンリンで埋まった。
(辛くてもシンリン先生は戦った。なら私も戦わなければいけない)
恋とは現実を見せないほどに強い力を持っている。現にアサガイはシンリンに恋をしていた。きっかけはお互いの顔が近い距離になって異性として意識し始めたと単純な理由だけど、時が経てば変化をしようとしているその勇敢さに惚れてれしまったのだ。
『シンリン先生こそ無理しないでください』
食堂で言ってしまったあの時の言葉をやっと後悔する。あの人は無理をしてでも変わりたかったのだと頭を打たれたようにアサガイは気付いた。
「さて、アサガイちゃんはこれからどうするっすか?」
「……」
本心は今すぐにでもシンリンの様子を見に行きたかった。しかしそれは自分の思うままではなくて、ただの我儘だ。アサガイは滲んだ目を擦ってカナトと向き合う。
「Aクラスの皆さんと合流します。まずはそれからです」
「了解っす」
フッと笑ったカナトは後ろを向いてサポート役の生徒を呼び寄せる。アサガイはその背中を追い越すように個室を出て行った。
もう老人達の目線や祈りの言葉は届かない。それくらいにシンリンの存在の方が大きかった。
「やっと調子戻ってきたっすね。わざわざシンリンさんの状況を聞きに行って良かった」
カナトはアサガイがシンリンに恋をしているという情報を事前に入手していた。例の片腕を無くした口が軽い少女から聞き出したのだ。悩んでいるアサガイを動かすにはシンリンの事を言うのが1番効果的。
「まぁ後は鈍感シンリンさんが気付いてくれれば良いんすけどね~」
片想いの相手で埋め尽くされているアサガイには聞こえないカナトの言葉。そんなアサガイの背中を見ながらニヤニヤと口角を上げながらカナトはAクラスを統べる委員長の背中を追いかけて行った。
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