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6章 反社会政府編 〜それぞれの戦い〜
59話 カゲルの教え 【アサガイとカナト班】
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「玄関ホールは制圧出来たっすね。にしても倒した後に響き渡る声、気持ち悪い。まるで何かを訴えるような感じ」
「そうですね…」
「ハッ、随分と心のダメージ喰らってるじゃないっすか。そんなに指示役やりたかった?」
「そういうわけじゃないです。自分でもよくわかりません」
消滅していくカゲルの体を見ながら、玄関ホールにいたカナトとアサガイは言葉を交わしていた。地下から飛び出してきたカゲルは仕留めることが出来たので今は拘束を担当する他クラスを横目に見ているところだ。
「まぁシンリンさんにも考えがあるんじゃないかと。で?どうします?僕達」
「Aクラスバラバラになった今、どのグループと合流するかが悩ましいです。本当なら落ちて行ったシンリン先生とミロクニさんを助けに行きたいところですけど」
「救助担当が行っちゃいましたからね」
「ならやるべきことは1つ。取り残しがないように見つけ出して討伐です」
「りょーかいっす」
アサガイは後方支援の人達に声をかけて玄関ホールから特刀束縛の縄を飛ばして2階へと上がる。戦いによって壊された建物を正規ルートで通るのは危険だった。
カナトも同じように壊された壁を避けながらアサガイを追う。そんなカナトの目には不安の色が見えた。
「体よりも心が心配なんすけど…」
「何か言いましたか?」
「いや、なんでも。それよりそこ隠し扉ありますよ」
「えっ」
我が家のように言うカナトを若干疑いながらも壁を触るアサガイ。すると壁は奥に動いて地図には無かった廊下が現れた。
「何で知ってるんですか?」
「事前に来てたんで」
「じ、事前に?」
「あのウザい学長様からの依頼っす。行きましょう。きっと中に居ますよ」
以前リコン学長がアカデミーの職員を集めた時に話した『優秀な偵察者を反社会政府の本部に送り込んだ』に該当するのがカナトだった。他にも何人かの教師が潜入したけど、生徒では彼1人。授業があるため調査は短かったがれっきとしたスパイだ。
敵陣のスパイに任命するほどリコン学長はカナトを信用していた。しかし生徒達はその事実を知らない。一緒に行動するアサガイもちゃんとは理解出来てないようだ。
そんなアサガイを追い越したカナトは長く暗い隠し廊下を歩いて行く。足音を殺し、息を潜めながら。
(戦闘に入るとなればカナトさんの集中力が高くなる。いつものように楽天的な感じは全くない)
アサガイは1回だけ唾を飲み込んで特刀に手をかける。いつカゲルが襲ってきても良いように。それに対してカナトは特刀に触らずゆっくりと前を歩っていた。
「着きましたよ」
「ここは……」
一気に明るくなったと思えば広くはない個室に数十人の人間が待機していた。私達を見るなり絶望したように後退りする。
「アカデミー!!」
「くそっ、何でこの場所が…!」
「命だけは!命だけは!」
「大丈夫よ、カゲル様がきっと」
そう言いながら全員が祈り出す。ここに居る者達は皆年老いていた。
「戦えない奴らが避難する部屋っすよ」
ボソッとアサガイだけに聞こえるようにカナトは伝える。そして老人達に近づいて目線を合わせるようにしゃがんだ。
「僕達が刀を向けるのはカゲルか、アカデミーに歯向かう奴らだけっす。お年寄りの命を取ろうとする真似はしないっすから大人しく捕まってください」
「「「…………」」」
カナトの言葉に一瞬だけ目を開く老人達。でもすぐさま無視して祈り続ける。言葉が通じてない状況にカナトは苛立って舌打ちをした。
「…伝わらないなら強制的に連れて行きますよ。サポート連れてくるんでアサガイちゃんはここで見張っててください」
「わかりました」
「すぐ戻るんで」
自分の髪の毛を掻きむしりながら苛立ちを抑え、カナトは個室から出て行った。避難場所ならカゲルが来る可能性は低いと思ったアサガイは腰に下げる特刀から手を離す。
そしてカナトと同じように屈んで、優しく祈る老人に声をかけた。
「アカデミーは貴方達に危害を加えることはありません。だから安心してください」
「カゲル様……カゲル様…」
「取り調べが終わり次第すぐに自宅へと帰れますよ」
「カゲル様…、どうか、どうか…」
今まで任務の救助などで色んな人間を見てきたけど、ここまで話が通じない人は初めてで流石にため息をついてしまうアサガイ。
世代が違うゆえに言葉には気をつけなければならないし……。カゲルを相手にしてないのに何だか疲れてしまった。
「あの、ここ以外に避難場所はありますか?」
「カゲル様……カゲル様…」
何度言っても無理だ。そう思ったアサガイは話しかけるのをやめる。後はカナトとサポート役の生徒を静かに待っていよう。
それにしても何故ここまで崇拝するのだろうかと謎に思う。アカデミーの生徒は入学、編入すると同時にカゲルは敵であり、討伐すべき相手と教え込まれた。
でもそんな教えが無くたってカゲルは人を傷つける悪者だ。宗教関連はわからないことだらけだなとまた、ため息をつく。
「辛いのなら祈りなさい」
「えっ?」
「カゲル様は取り憑かれた我らを癒してくれます。貴方も祈りなさい」
「………」
「辛いのでしょう?苦しいのでしょう?わからないのなら祈るべき」
1人の老翁が静かに教えを説く。そんなのアカデミーでクラスの委員長を務める自分がするはずない。
そう思っているのに、心の片隅では何かに助けを求めていた。
わからないなら祈る。その言葉が妙に心に浸透してしまう。アサガイは自分の手を強く握りしめて屈んだ姿勢を変えた。
「そうですね…」
「ハッ、随分と心のダメージ喰らってるじゃないっすか。そんなに指示役やりたかった?」
「そういうわけじゃないです。自分でもよくわかりません」
消滅していくカゲルの体を見ながら、玄関ホールにいたカナトとアサガイは言葉を交わしていた。地下から飛び出してきたカゲルは仕留めることが出来たので今は拘束を担当する他クラスを横目に見ているところだ。
「まぁシンリンさんにも考えがあるんじゃないかと。で?どうします?僕達」
「Aクラスバラバラになった今、どのグループと合流するかが悩ましいです。本当なら落ちて行ったシンリン先生とミロクニさんを助けに行きたいところですけど」
「救助担当が行っちゃいましたからね」
「ならやるべきことは1つ。取り残しがないように見つけ出して討伐です」
「りょーかいっす」
アサガイは後方支援の人達に声をかけて玄関ホールから特刀束縛の縄を飛ばして2階へと上がる。戦いによって壊された建物を正規ルートで通るのは危険だった。
カナトも同じように壊された壁を避けながらアサガイを追う。そんなカナトの目には不安の色が見えた。
「体よりも心が心配なんすけど…」
「何か言いましたか?」
「いや、なんでも。それよりそこ隠し扉ありますよ」
「えっ」
我が家のように言うカナトを若干疑いながらも壁を触るアサガイ。すると壁は奥に動いて地図には無かった廊下が現れた。
「何で知ってるんですか?」
「事前に来てたんで」
「じ、事前に?」
「あのウザい学長様からの依頼っす。行きましょう。きっと中に居ますよ」
以前リコン学長がアカデミーの職員を集めた時に話した『優秀な偵察者を反社会政府の本部に送り込んだ』に該当するのがカナトだった。他にも何人かの教師が潜入したけど、生徒では彼1人。授業があるため調査は短かったがれっきとしたスパイだ。
敵陣のスパイに任命するほどリコン学長はカナトを信用していた。しかし生徒達はその事実を知らない。一緒に行動するアサガイもちゃんとは理解出来てないようだ。
そんなアサガイを追い越したカナトは長く暗い隠し廊下を歩いて行く。足音を殺し、息を潜めながら。
(戦闘に入るとなればカナトさんの集中力が高くなる。いつものように楽天的な感じは全くない)
アサガイは1回だけ唾を飲み込んで特刀に手をかける。いつカゲルが襲ってきても良いように。それに対してカナトは特刀に触らずゆっくりと前を歩っていた。
「着きましたよ」
「ここは……」
一気に明るくなったと思えば広くはない個室に数十人の人間が待機していた。私達を見るなり絶望したように後退りする。
「アカデミー!!」
「くそっ、何でこの場所が…!」
「命だけは!命だけは!」
「大丈夫よ、カゲル様がきっと」
そう言いながら全員が祈り出す。ここに居る者達は皆年老いていた。
「戦えない奴らが避難する部屋っすよ」
ボソッとアサガイだけに聞こえるようにカナトは伝える。そして老人達に近づいて目線を合わせるようにしゃがんだ。
「僕達が刀を向けるのはカゲルか、アカデミーに歯向かう奴らだけっす。お年寄りの命を取ろうとする真似はしないっすから大人しく捕まってください」
「「「…………」」」
カナトの言葉に一瞬だけ目を開く老人達。でもすぐさま無視して祈り続ける。言葉が通じてない状況にカナトは苛立って舌打ちをした。
「…伝わらないなら強制的に連れて行きますよ。サポート連れてくるんでアサガイちゃんはここで見張っててください」
「わかりました」
「すぐ戻るんで」
自分の髪の毛を掻きむしりながら苛立ちを抑え、カナトは個室から出て行った。避難場所ならカゲルが来る可能性は低いと思ったアサガイは腰に下げる特刀から手を離す。
そしてカナトと同じように屈んで、優しく祈る老人に声をかけた。
「アカデミーは貴方達に危害を加えることはありません。だから安心してください」
「カゲル様……カゲル様…」
「取り調べが終わり次第すぐに自宅へと帰れますよ」
「カゲル様…、どうか、どうか…」
今まで任務の救助などで色んな人間を見てきたけど、ここまで話が通じない人は初めてで流石にため息をついてしまうアサガイ。
世代が違うゆえに言葉には気をつけなければならないし……。カゲルを相手にしてないのに何だか疲れてしまった。
「あの、ここ以外に避難場所はありますか?」
「カゲル様……カゲル様…」
何度言っても無理だ。そう思ったアサガイは話しかけるのをやめる。後はカナトとサポート役の生徒を静かに待っていよう。
それにしても何故ここまで崇拝するのだろうかと謎に思う。アカデミーの生徒は入学、編入すると同時にカゲルは敵であり、討伐すべき相手と教え込まれた。
でもそんな教えが無くたってカゲルは人を傷つける悪者だ。宗教関連はわからないことだらけだなとまた、ため息をつく。
「辛いのなら祈りなさい」
「えっ?」
「カゲル様は取り憑かれた我らを癒してくれます。貴方も祈りなさい」
「………」
「辛いのでしょう?苦しいのでしょう?わからないのなら祈るべき」
1人の老翁が静かに教えを説く。そんなのアカデミーでクラスの委員長を務める自分がするはずない。
そう思っているのに、心の片隅では何かに助けを求めていた。
わからないなら祈る。その言葉が妙に心に浸透してしまう。アサガイは自分の手を強く握りしめて屈んだ姿勢を変えた。
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