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5章 反社会政府編 〜差し伸べる手〜
49話 変化のスピード
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「林金綾(りんがね あや)」
「は?」
反社会政府討伐作戦まで残り2日。書庫の机に伏してした俺の前に現れたリンガネは何の前触れもなく言葉を発した。意味もわからずに数秒止まってしまうけど、勘付いた俺は顔を上げて小さく声を漏らす。
「お前の本名か」
「あれ?もっと良い反応してくれると思ったんだけどな。レオンの奴、大袈裟に言ったのか?」
「何のことだ?」
「昨日Aクラスの教室で先生の話になってよ。その時にレオンが名前を教えてあげると先生喜ぶって言ってたんだ。せっかく教えてあげたのにな。もっと喜べよ!」
「ああ…すまない。考え事をしていてな」
頬を膨らますリンガネは俺の反応が薄いことにご立腹しているようだ。せっかく教えてくれたのに申し訳ないが、言う時を間違えている。今はアサガイのことを考えていて他の情報を追加する余裕がない。
「んで?先生の本名は?」
「シンリンだ」
「苗字かぁ?」
「シンリンが名前の全てだ。カムイ王都ではお前達のように姓名がない」
「出たカムイ王都。それで迷えるシンリンは今何を考えてるんだ?」
何を…?勿論アサガイのことだ。そう言いたいけど、それを話したら一から十まで事の全てを話さなければならない。でも何だか今は話す気にはなれなかった俺は軽く首を振る。
「何だろうな」
「ったく、これから大作戦始まるってのにそんなんで良いのかよ。指示役はハルサキでも引っ張るのは先生なんだぜ?」
「……」
「先生はAクラスの中の柱。みんな頼りにしてるんだからシャキッとしろ!」
「……なぁ聞きたいんだが、俺は無理しているように見えるか?」
「ん?まぁそうだな。無理して辛い物食べた結果昨日腹痛くしたんだろ」
「そういうことではなく…」
話の中で昨日の単語が出るだけでも何だか気持ち悪くなってくる。実は散々な目に遭ってしまったのだ。一昨日食べた激辛料理が腹の中で爆発したようになってしまい、昨日はずっと片手で腹を押さえていた。
そのおかげで生徒達との訓練の相手が出来ずに無駄な1日を過ごしてしまったという経緯がある。今朝になってようやく落ち着いた腹は現在普通に俺の体に馴染んでいるのでもう安心なのだが…。
「ハハッ、冗談。知ってるよ。委員長から辛辣な一撃言われたんだろ?」
「なぜそのことを?」
「昨日の夜に女性寮のあたしの部屋まで来てわざわざ話してくれたんだ。もう何を言って良いのかもわからないって言ってた」
そんなになるまで溜め込んでいたのか。その相談をリンガネにするのに驚きもあるけど、1番は俺との会話によって何かの引き金となってしまったのではないかと不安になる。良かれとやったことがアサガイを傷つけてしまったのではないのかと。
「あたしは隠し事が苦手だから素直に言うけどさ。委員長泣いていた」
「っ!」
「でもそれって先生だけのせいじゃない」
「いや、俺が…」
「あたし達のせいでもある」
ハッキリと言ったリンガネはどこか悔しそうに顔を顰めて自分の手を強く握った。
「あたし達が委員長に頼りすぎたんだ。勉強でも任務でも、何でも難しいことは委員長に任せちまった。あたしの方が年上なのにな。それが溜まって、過去のトラウマの元に会って、そして先生と話して。溢れちゃったんだと思う」
「でも俺があの時無理矢理に話さなければ」
「話しても話さなくても結果は一緒だよ。あたし達が押し付けたものは近々落としちゃう予定だった」
リンガネはそう言うが俺は生徒達だけに責任を負わせたくない。多かれ少なかれ俺だって関わっているのだから。
「ここであたしの答え言うけどさ。先生、あんたが変わりたいなら無理しても良いんじゃねーの?」
「えっ」
「だって変わるためには努力が必要なんだろ?なら無理するくらいの努力して速く変われば良いじゃん。変化するのに遅いとか速いとか関係ねぇよ」
「リンガネ…」
重いくらいに伝わった言葉は俺の心に響いて残響が鳴り止まなかった。リンガネに言われるまで俺は変わろうとするのが速かったのかもしれないと思ってしまっていたのだ。
でも彼女の意見はピッタリと解答に当てはまる。変化に速度なんて関係ない。ごもっともな答えだった。
「そうだな。ありがとう」
「へへっ、やっと調子戻って来たか?」
「ああ。きっかけだって、小さくても大きくてもきっかけになるんだ。お前の一言で気付けた」
「たまには役に立つだろ?」
「ああ」
「そこはいつもだって言えよ!」
「お礼に今から手合わせしてやろう」
「ほ、本当か!?よし!今すぐ!今すぐに訓練室に行こう!」
「まずは空いているかの確認だな」
一気に心が軽くなった俺はだらしなく座っていた椅子から立ち上がる。リンガネは手合わせ出来ることに舞い上がっているようだ。今までは竹刀も使わなかったけど、今日は模擬戦をやってやろう。
2人で書庫から出ようと俺は扉に手をかけようとするが、あらかじめ伝えなくてはいけないことがあってリンガネの方に振り向く。
「明日、Aクラス全員で打ち合わせを行う。伝えておいてくれ」
「は?」
反社会政府討伐作戦まで残り2日。書庫の机に伏してした俺の前に現れたリンガネは何の前触れもなく言葉を発した。意味もわからずに数秒止まってしまうけど、勘付いた俺は顔を上げて小さく声を漏らす。
「お前の本名か」
「あれ?もっと良い反応してくれると思ったんだけどな。レオンの奴、大袈裟に言ったのか?」
「何のことだ?」
「昨日Aクラスの教室で先生の話になってよ。その時にレオンが名前を教えてあげると先生喜ぶって言ってたんだ。せっかく教えてあげたのにな。もっと喜べよ!」
「ああ…すまない。考え事をしていてな」
頬を膨らますリンガネは俺の反応が薄いことにご立腹しているようだ。せっかく教えてくれたのに申し訳ないが、言う時を間違えている。今はアサガイのことを考えていて他の情報を追加する余裕がない。
「んで?先生の本名は?」
「シンリンだ」
「苗字かぁ?」
「シンリンが名前の全てだ。カムイ王都ではお前達のように姓名がない」
「出たカムイ王都。それで迷えるシンリンは今何を考えてるんだ?」
何を…?勿論アサガイのことだ。そう言いたいけど、それを話したら一から十まで事の全てを話さなければならない。でも何だか今は話す気にはなれなかった俺は軽く首を振る。
「何だろうな」
「ったく、これから大作戦始まるってのにそんなんで良いのかよ。指示役はハルサキでも引っ張るのは先生なんだぜ?」
「……」
「先生はAクラスの中の柱。みんな頼りにしてるんだからシャキッとしろ!」
「……なぁ聞きたいんだが、俺は無理しているように見えるか?」
「ん?まぁそうだな。無理して辛い物食べた結果昨日腹痛くしたんだろ」
「そういうことではなく…」
話の中で昨日の単語が出るだけでも何だか気持ち悪くなってくる。実は散々な目に遭ってしまったのだ。一昨日食べた激辛料理が腹の中で爆発したようになってしまい、昨日はずっと片手で腹を押さえていた。
そのおかげで生徒達との訓練の相手が出来ずに無駄な1日を過ごしてしまったという経緯がある。今朝になってようやく落ち着いた腹は現在普通に俺の体に馴染んでいるのでもう安心なのだが…。
「ハハッ、冗談。知ってるよ。委員長から辛辣な一撃言われたんだろ?」
「なぜそのことを?」
「昨日の夜に女性寮のあたしの部屋まで来てわざわざ話してくれたんだ。もう何を言って良いのかもわからないって言ってた」
そんなになるまで溜め込んでいたのか。その相談をリンガネにするのに驚きもあるけど、1番は俺との会話によって何かの引き金となってしまったのではないかと不安になる。良かれとやったことがアサガイを傷つけてしまったのではないのかと。
「あたしは隠し事が苦手だから素直に言うけどさ。委員長泣いていた」
「っ!」
「でもそれって先生だけのせいじゃない」
「いや、俺が…」
「あたし達のせいでもある」
ハッキリと言ったリンガネはどこか悔しそうに顔を顰めて自分の手を強く握った。
「あたし達が委員長に頼りすぎたんだ。勉強でも任務でも、何でも難しいことは委員長に任せちまった。あたしの方が年上なのにな。それが溜まって、過去のトラウマの元に会って、そして先生と話して。溢れちゃったんだと思う」
「でも俺があの時無理矢理に話さなければ」
「話しても話さなくても結果は一緒だよ。あたし達が押し付けたものは近々落としちゃう予定だった」
リンガネはそう言うが俺は生徒達だけに責任を負わせたくない。多かれ少なかれ俺だって関わっているのだから。
「ここであたしの答え言うけどさ。先生、あんたが変わりたいなら無理しても良いんじゃねーの?」
「えっ」
「だって変わるためには努力が必要なんだろ?なら無理するくらいの努力して速く変われば良いじゃん。変化するのに遅いとか速いとか関係ねぇよ」
「リンガネ…」
重いくらいに伝わった言葉は俺の心に響いて残響が鳴り止まなかった。リンガネに言われるまで俺は変わろうとするのが速かったのかもしれないと思ってしまっていたのだ。
でも彼女の意見はピッタリと解答に当てはまる。変化に速度なんて関係ない。ごもっともな答えだった。
「そうだな。ありがとう」
「へへっ、やっと調子戻って来たか?」
「ああ。きっかけだって、小さくても大きくてもきっかけになるんだ。お前の一言で気付けた」
「たまには役に立つだろ?」
「ああ」
「そこはいつもだって言えよ!」
「お礼に今から手合わせしてやろう」
「ほ、本当か!?よし!今すぐ!今すぐに訓練室に行こう!」
「まずは空いているかの確認だな」
一気に心が軽くなった俺はだらしなく座っていた椅子から立ち上がる。リンガネは手合わせ出来ることに舞い上がっているようだ。今までは竹刀も使わなかったけど、今日は模擬戦をやってやろう。
2人で書庫から出ようと俺は扉に手をかけようとするが、あらかじめ伝えなくてはいけないことがあってリンガネの方に振り向く。
「明日、Aクラス全員で打ち合わせを行う。伝えておいてくれ」
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