48 / 77
5章 反社会政府編 〜差し伸べる手〜
48話 無理した優しさ
しおりを挟む
「ここに来る前と言ったな。それならもしかして付き纏い行為が悪化して、アカデミーまでにも追いかけて来たということか?」
「それは違います。なにせアカデミーに入るには特別な条件が必要なんです」
「特別な条件?」
「……その、不登校とか人間関係で心が傷ついたとか、過去に何かあったとか普通の学校に行けなくなった人がアカデミーに入れます」
『ヒマワリはアカデミー来る前に普通の学校に行っていたんだ!でも虐められちゃって、アカデミーに編入したの。他のみんなも話さないし聞かないけど同じような理由でアカデミーに来たと思うよ!』
脳内では病院でヒマワリと話した会話が再生される。それにアサガイの言葉が加わって2人の点が線で繋がった。そしてその線はまたある点に結びつく。
『体力や武術に伸びしろがあるからよ。それにあまり大きな声では言えないけど、若ければ考えが固くないの。自分勝手な行動はしないと同時に娯楽や快楽を求めることなく討伐に専念してくれる』
リコン学長が言っていた点。討伐アカデミーというのはどんな理由でも居場所が無くなった若者達を集めて、居場所を提供する代わりにカゲルを討伐させる。そういう組織だと考えられる。
しかしそんなので生徒達は幸せなのか。似たような境遇や苦しさを経験した人が集まればもう似たようなことが起きる確率は少ないだろう。それでも普通に過ごしたい思いはないのだろうか。
「…ならあいつも前の所で居場所がなくなったということか」
「たぶんそうです」
「今も付き纏いされているのか?」
「いいえ。でも会えば色々と言ってきます。あの時みたいに」
「センリかリコン学長あたりに言えば対処してくれると思う」
「……そこまででは」
「苦しいなら苦しさを払うしかないんだ。無理するな。何なら俺が」
「シンリン先生こそ無理しないでください」
「えっ」
心配した俺の言葉はアサガイによって途切れられる。無理をするなと言うのはどういうことだ。わからずに聞き返せばアサガイは俺の目をジッと見てからハッキリとした声で話した。
「最近シンリン先生が変わりつつあるのはAクラス生徒全員知っています。私達を守ろうと、助けようとしてくれていることも十分伝わってますよ。でもそこまで一気に変わらなくても良いんじゃないんですか?」
「それが無理するなに繋がるわけか?」
「はい。私にはシンリン先生が無理して生徒達に優しているように見えます」
「そんなことはない」
「私にはそう感じるんです!だからもう口出ししなくて結構なので!」
「アサガイ!?」
言いたいことを終えたアサガイは勢いよく立ち上がって食堂から消えてしまった。俺の目の前には空になった器と半分だけ残されたヨーグルトだけが置かれている。
「別に、無理なんか…」
妙に心に刺さってしまうのは何故だろう。俺は残った半分のヨーグルトを飲み干すように上に掲げた。胸の辺りが息苦しくなっているのは、絶対に辛さのせいだ。
「それは違います。なにせアカデミーに入るには特別な条件が必要なんです」
「特別な条件?」
「……その、不登校とか人間関係で心が傷ついたとか、過去に何かあったとか普通の学校に行けなくなった人がアカデミーに入れます」
『ヒマワリはアカデミー来る前に普通の学校に行っていたんだ!でも虐められちゃって、アカデミーに編入したの。他のみんなも話さないし聞かないけど同じような理由でアカデミーに来たと思うよ!』
脳内では病院でヒマワリと話した会話が再生される。それにアサガイの言葉が加わって2人の点が線で繋がった。そしてその線はまたある点に結びつく。
『体力や武術に伸びしろがあるからよ。それにあまり大きな声では言えないけど、若ければ考えが固くないの。自分勝手な行動はしないと同時に娯楽や快楽を求めることなく討伐に専念してくれる』
リコン学長が言っていた点。討伐アカデミーというのはどんな理由でも居場所が無くなった若者達を集めて、居場所を提供する代わりにカゲルを討伐させる。そういう組織だと考えられる。
しかしそんなので生徒達は幸せなのか。似たような境遇や苦しさを経験した人が集まればもう似たようなことが起きる確率は少ないだろう。それでも普通に過ごしたい思いはないのだろうか。
「…ならあいつも前の所で居場所がなくなったということか」
「たぶんそうです」
「今も付き纏いされているのか?」
「いいえ。でも会えば色々と言ってきます。あの時みたいに」
「センリかリコン学長あたりに言えば対処してくれると思う」
「……そこまででは」
「苦しいなら苦しさを払うしかないんだ。無理するな。何なら俺が」
「シンリン先生こそ無理しないでください」
「えっ」
心配した俺の言葉はアサガイによって途切れられる。無理をするなと言うのはどういうことだ。わからずに聞き返せばアサガイは俺の目をジッと見てからハッキリとした声で話した。
「最近シンリン先生が変わりつつあるのはAクラス生徒全員知っています。私達を守ろうと、助けようとしてくれていることも十分伝わってますよ。でもそこまで一気に変わらなくても良いんじゃないんですか?」
「それが無理するなに繋がるわけか?」
「はい。私にはシンリン先生が無理して生徒達に優しているように見えます」
「そんなことはない」
「私にはそう感じるんです!だからもう口出ししなくて結構なので!」
「アサガイ!?」
言いたいことを終えたアサガイは勢いよく立ち上がって食堂から消えてしまった。俺の目の前には空になった器と半分だけ残されたヨーグルトだけが置かれている。
「別に、無理なんか…」
妙に心に刺さってしまうのは何故だろう。俺は残った半分のヨーグルトを飲み干すように上に掲げた。胸の辺りが息苦しくなっているのは、絶対に辛さのせいだ。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる