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5章 反社会政府編 〜差し伸べる手〜
43話 生徒との約束
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カムラと別れた俺は書庫に寄って行った後、すぐさまアカデミーの車で病院に向かった。何度乗っても車は楽しい。滝のように流れる景色は早いはずなのに見ていて飽きないのは不思議な現象だ。ヒマワリの病室に着いた俺は、躊躇うことなく扉を開けて様子を確認する。
「先生!」
「元気か?」
「うん!」
右手をブンブンと振って喜ぶヒマワリの笑顔に俺もつられて頬を緩めた。いつもの定位置であるベッドのすぐそばにある椅子に座って大量の菓子に手を伸ばす。いつでも取って良いとヒマワリから言われているので来るたびに遠慮なく頂いていた。そもそもこの量を1人では食べ切ることが出来ない。
「回復訓練…リハビリと言ったか。それはどうだ?」
「凄く楽しいよ!動けることが1番嬉しくて、沢山動いていたら病院の先生や看護師さん達に驚かれちゃった」
「無理はするなよ。今は体力を元に戻すことだな」
「うん!」
「それで、話は変わるのだが…。1週間後にアカデミーで重大な任務をこなすことになった。だからその日は会えない」
「知ってるよ。先生が来る前にリコン学長が病院に来てね。ヒマワリみたいに入院している他の生徒さん達の所を周って説明していたの」
「そうなのか?」
「ヒマワリの所にも来たよ」
リコン学長、伝達が早いな。会議の後すぐにここに来たのだろう。例え戦えない生徒だとしてもアカデミーの情報を伝えに来るその心構えは見事だ。ちゃんと学長として敬愛されている理由の1つなのだろう。それなら無駄な説明は要らない。
「俺達Aクラスの生徒全員も任務に参加する。もし良ければ来る奴ら応援の言葉でも送ってやってくれ」
「勿論!ヒマワリも良い子にしてるね!」
「ああ」
2個目のチョコレートを口に含んだ俺はヒマワリの言葉に頷きながら噛み締める。
「お前の分はAクラスの生徒達が預かっている。だから心配するな」
「へへっ」
「ん?どうした?」
「なんか先生が言う言葉ってあったかいね」
「そんなに熱が込もっていたか?」
「何だろう…。凄く心に響くっていうか。本当にそうなんだって思えるんだ!」
「俺はいつでも本心を言っている」
「うん!」
器用に右手を動かして菓子の袋をあけるヒマワリはとても嬉しそうに笑っていた。右手だけの生活はもう慣れているのだろう。左を失わせてしまった罪悪感に浸ってもしょうがない。俺はヒマワリの存在する右手を握った。
「……ちゃんとあるのだな」
「うん。右手は先生が守ってくれたからね」
「俺からしたら守ったなんてうちには入らない。でもお前がそう言うのならそうなのだろう。…なぁヒマワリ」
「何?先生」
「約束する。次の重大な任務は多少の怪我では済まないだろう。けれどももう生徒の一部を消えさせない。俺が生徒を守る」
「……うん!約束!」
「約束だ」
俺とヒマワリはお互いの小指を絡めて誓いを立てる。この文化はカムイ王都でなく日本にもあるようだ。
どうせ俺は既に死んでいる。ヒマワリの怪我の事を考えると死者の世界の理が全く解せないが、それでも俺は生徒達を守ろう。痛くない程度に俺は力を入れてヒマワリの小指から離れた。
「そろそろアカデミーに戻る」
「えー、先生っていつも早く帰るよねぇ」
「また明日も来るんだ。そう拗ねるな」
「拗ねてない!でもちゃんと明日も来てよ!」
頬を膨らませるヒマワリの頭に手を置いて少し撫でれば安心したように微笑む。やはりこいつは13歳の少女なのだ。
俺は片手を上げて別れの挨拶を告げればヒマワリもいつものように片手を振って見送りしてくれる。病室から出た俺はすぐさま勘付いていた気配の元へ視線を向けた。
「来ていたなら入れば良い。レオン」
「別に盗み聴きしたわけじゃないですわ。ただ、確かめたかったの」
「何をだ」
廊下の長椅子に座っている人物、レオンは俺がヒマワリと話している間にここに来ていた。若干の気配を感知した俺はいつ入ってくるのだろうと待っていたが、最後までレオンは入ってこない。
やはり俺が出るのを待っていたのだ。片手には大量の菓子が入った袋を持っていて、あの菓子の山はレオンが作り上げたものだとわかる。
「…ありがとう先生」
「えっ?」
「ヒマワリの腕がきっかけでも良い。貴方がワタクシ達を守ると誓ってくれて嬉しかったですわ」
上品なお辞儀をした後、レオンは頭を上げて自分の胸に手を添える。動作1つ1つが女性らしくてこいつが男だということを忘れてしまいそうだった。
「あの子はこんなワタクシを可愛いと言ってくれる優しい人なんです。だからワタクシは初めてそう言ってくれたあの子を見捨てたような貴方を許せなかった。……でも忘れていましたわ。後悔がきっかけで変わったのはワタクシも同じということを」
「どういうことだ?」
「ワタクシはある人を傷つけたのですわ。その人はアカデミーに入ってない一般人ですが、ワタクシと同じように心は女性で体は男性でしたの」
「それで?」
「その当時はワタクシ、普通に男として生きていましたわ。だから男なのに女のフリをするあの人にキツイ言葉を言ってしまった。……それがいけない事だとわかったのはあの人がビルの屋上から飛び降りた事実がワタクシの耳に入って来た時ですわ」
「先生!」
「元気か?」
「うん!」
右手をブンブンと振って喜ぶヒマワリの笑顔に俺もつられて頬を緩めた。いつもの定位置であるベッドのすぐそばにある椅子に座って大量の菓子に手を伸ばす。いつでも取って良いとヒマワリから言われているので来るたびに遠慮なく頂いていた。そもそもこの量を1人では食べ切ることが出来ない。
「回復訓練…リハビリと言ったか。それはどうだ?」
「凄く楽しいよ!動けることが1番嬉しくて、沢山動いていたら病院の先生や看護師さん達に驚かれちゃった」
「無理はするなよ。今は体力を元に戻すことだな」
「うん!」
「それで、話は変わるのだが…。1週間後にアカデミーで重大な任務をこなすことになった。だからその日は会えない」
「知ってるよ。先生が来る前にリコン学長が病院に来てね。ヒマワリみたいに入院している他の生徒さん達の所を周って説明していたの」
「そうなのか?」
「ヒマワリの所にも来たよ」
リコン学長、伝達が早いな。会議の後すぐにここに来たのだろう。例え戦えない生徒だとしてもアカデミーの情報を伝えに来るその心構えは見事だ。ちゃんと学長として敬愛されている理由の1つなのだろう。それなら無駄な説明は要らない。
「俺達Aクラスの生徒全員も任務に参加する。もし良ければ来る奴ら応援の言葉でも送ってやってくれ」
「勿論!ヒマワリも良い子にしてるね!」
「ああ」
2個目のチョコレートを口に含んだ俺はヒマワリの言葉に頷きながら噛み締める。
「お前の分はAクラスの生徒達が預かっている。だから心配するな」
「へへっ」
「ん?どうした?」
「なんか先生が言う言葉ってあったかいね」
「そんなに熱が込もっていたか?」
「何だろう…。凄く心に響くっていうか。本当にそうなんだって思えるんだ!」
「俺はいつでも本心を言っている」
「うん!」
器用に右手を動かして菓子の袋をあけるヒマワリはとても嬉しそうに笑っていた。右手だけの生活はもう慣れているのだろう。左を失わせてしまった罪悪感に浸ってもしょうがない。俺はヒマワリの存在する右手を握った。
「……ちゃんとあるのだな」
「うん。右手は先生が守ってくれたからね」
「俺からしたら守ったなんてうちには入らない。でもお前がそう言うのならそうなのだろう。…なぁヒマワリ」
「何?先生」
「約束する。次の重大な任務は多少の怪我では済まないだろう。けれどももう生徒の一部を消えさせない。俺が生徒を守る」
「……うん!約束!」
「約束だ」
俺とヒマワリはお互いの小指を絡めて誓いを立てる。この文化はカムイ王都でなく日本にもあるようだ。
どうせ俺は既に死んでいる。ヒマワリの怪我の事を考えると死者の世界の理が全く解せないが、それでも俺は生徒達を守ろう。痛くない程度に俺は力を入れてヒマワリの小指から離れた。
「そろそろアカデミーに戻る」
「えー、先生っていつも早く帰るよねぇ」
「また明日も来るんだ。そう拗ねるな」
「拗ねてない!でもちゃんと明日も来てよ!」
頬を膨らませるヒマワリの頭に手を置いて少し撫でれば安心したように微笑む。やはりこいつは13歳の少女なのだ。
俺は片手を上げて別れの挨拶を告げればヒマワリもいつものように片手を振って見送りしてくれる。病室から出た俺はすぐさま勘付いていた気配の元へ視線を向けた。
「来ていたなら入れば良い。レオン」
「別に盗み聴きしたわけじゃないですわ。ただ、確かめたかったの」
「何をだ」
廊下の長椅子に座っている人物、レオンは俺がヒマワリと話している間にここに来ていた。若干の気配を感知した俺はいつ入ってくるのだろうと待っていたが、最後までレオンは入ってこない。
やはり俺が出るのを待っていたのだ。片手には大量の菓子が入った袋を持っていて、あの菓子の山はレオンが作り上げたものだとわかる。
「…ありがとう先生」
「えっ?」
「ヒマワリの腕がきっかけでも良い。貴方がワタクシ達を守ると誓ってくれて嬉しかったですわ」
上品なお辞儀をした後、レオンは頭を上げて自分の胸に手を添える。動作1つ1つが女性らしくてこいつが男だということを忘れてしまいそうだった。
「あの子はこんなワタクシを可愛いと言ってくれる優しい人なんです。だからワタクシは初めてそう言ってくれたあの子を見捨てたような貴方を許せなかった。……でも忘れていましたわ。後悔がきっかけで変わったのはワタクシも同じということを」
「どういうことだ?」
「ワタクシはある人を傷つけたのですわ。その人はアカデミーに入ってない一般人ですが、ワタクシと同じように心は女性で体は男性でしたの」
「それで?」
「その当時はワタクシ、普通に男として生きていましたわ。だから男なのに女のフリをするあの人にキツイ言葉を言ってしまった。……それがいけない事だとわかったのはあの人がビルの屋上から飛び降りた事実がワタクシの耳に入って来た時ですわ」
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