【完結】異世界先生 〜異世界で死んだ和風皇子は日本で先生となり平和へと導きます〜

雪村

文字の大きさ
上 下
41 / 77
5章 反社会政府編 〜差し伸べる手〜

41話 大規模な作戦

しおりを挟む
某日。アカデミーの会議室と呼ばれる広い空間に指導者達がリコン学長によって呼び出された。

俺は場所を把握してないので隣にセンリを付けて会議室に入る。「1ヶ月経ってもわからんのか!」と怒鳴られたがセンリ耐性がある俺には小鳥のさえずりのようにしか聞こえなかった。

生徒達が居ない、大人だけの会議。雰囲気は緊張感で溢れていた。俺とセンリは隣同士の空いている席に座ってリコン学長の登場を待つ。見たこともない指導者達の中に入るのは少々憂鬱な気分だった。


「何も聞かされてないのか?」

「わからん。そもそも教室全員の収集は初めてじゃ」

「なるほどな」

「ちゃんと話を聞いておるのじゃぞ」

「俺を何だと思っているんだ」

「自己中心男」

「は?」


喧嘩を売られた気がするけどここは会議室。特刀も持ってない今、暴れ出すわけにはいかない。俺は苦虫を噛み潰したような顔をしてそれ以上はセンリと話さなかった。


「お待たせしました。皆さん揃ってますね?」


ちょうど良いタイミングでリコン学長が会議室に入ってくる。すると指導者達全員が立ち上がってお辞儀をした。俺も1秒遅れてお辞儀をしたので、きっと隣にいるセンリ以外にはバレてないだろう。

作法を教えてくれなかったセンリは面白おかしそうに俺を見て笑いを堪えていた。殴ってやりたい衝動が来るけど抑えなければ……。

それにしても指導者全員にお辞儀をされると言うのはやはりリコン学長はアカデミーの頂点を立つものなのだなと実感させられる。座った指導者達を見たリコン学長は教卓のような物の前に立って何やら資料を出した。


「今回収集したのは重要な情報が手に入ったからです。勿論この情報は生徒達にも公表しますが、とりあえず教師の皆さんの耳に入れておきたくてこの場に呼び出しました」


前置きを話すリコン学長は確かに真剣な顔付きだ。今日は腰から紐が垂れ下がってないのを見て、本気の姿なのだとわかる。持っていた資料のページを1枚捲ると、少しだけ深呼吸をしたリコン学長。その後に発せられた言葉はこの場にいる指導者達全員が目を大きく開いたものだった。


「反社会政府の本部となる組織が近々、アカデミー含めたこの地域にカゲルを放出します」


言い終わったリコン学長の発言に会議室がザワザワとうるさくなる。隣同士で驚きを共感しているようだった。俺とセンリは全く口を聞いていないが。

リコン学長はそれを収めるように1回咳払いする。そうすれば会議室は途端に静粛に包まれた。


「先日、謎のメールアドレスから犯行予告と言える文章が送られてきました。内容は反社会政府に自由を、そしてカゲルを厄災扱いするなというメッセージに加えてアカデミーを潰すためにカゲルを送り込む。そう書かれていました」

「あの、それは本当に反社会政府のものなのですか?謎のメールアドレスだからと言って決めつけるのは…」


俺も同じ事を思った名も知らぬ指導者がリコン学長に尋ねる。例え反社会政府に関して書かれていたとしても、ガキのイタズラという場合だってあるのだ。しかしリコン学長は残念そうに首を横に振る。


「このメッセージを受けて、私は優秀な偵察者を反社会政府の本部と思われる場所へ向かわせました。そこで得た情報は無数のカゲル達を育成している崇拝者達。そして中には今まで見たことがなかった強力なカゲルもいたそうです」

「そんな…!」

「信じがたいけれども事実です。この事実を踏まえてとある作戦をアカデミー全体で実行しようと考えています」


会議室の緊張感が増す。誰かの喉が鳴る音がした。俺は前に立つリコン学長を見つめる。これから放たれるのはきっと何よりも大きな作戦だろう。


「カゲルが放出する前に、討伐アカデミーで反社会政府の根城を討ちます」

「「「……!」」」


またざわつく指導者達とは反対に俺は小さく頷いて作戦に納得する。それしか対処法は無いだろう。アカデミー歴が短い俺でも、カゲルの強さや怖さは痛いほど知っている。カゲルを好き勝手にさせる前に討伐した方が、一般人にも被害は出ないはずだ。


「決行日はいつにするのじゃ?」


ずっと口を開いたなかったセンリの声が会議室に響く。作戦を聞いて後ろ腰になっていた指導者達が一斉にセンリを見た。


「我は反対する気はさらさらないわい。討伐アカデミー学長様が言っておるのじゃからな。駒として使ってくれて構わん」

「センリありがとう。でも私は皆さんを、生徒達を駒としては見てませんよ。同じ時を過ごす仲間なのですから」

「フッ、よく言うわい」

「決行日は1週間後。しかしその間に反社会政府が攻めてくる可能性は0とは言えません。その状況も頭の中に入れておくように、各クラスの教師の皆さんは生徒達に伝えてください。尚、クラスの担任が居ない場合は私が直々にお伝えします。以上で解散となりますがよろしいでしょうか?」


リコン学長は会議室を見渡して反対意見がないかを確認すると綺麗なお辞儀をして部屋を出ていく。会議室の扉が閉まった途端、ビビり散らかした指導者が頭を抱え始めた。


「全く、座学の教師はすーぐビビりおって。流石にお前はビビってないじゃろ?」

「ああ。俺は生徒達を守るだけだ」

「へぇー。変わったのぉ。あれだけ嫌われるためとか言ってたくせに」

「こうなったのはあいつらとカゲルのせいだ。ちゃんと責任を取ってもらう」

「どうやってじゃ?…まぁ、教師らしくなったのは良いことじゃよ。でもこの作戦でどれくらいの人数が減るか」

「縁起悪いことを言うな」

「そうじゃな。失敬した」


珍しく謝るセンリに違和感を抱いてしまうが、それをそのまま口にしてしまったら殴られるのは確実だ。俺は大人しく黙る。

それにしても反社会政府を討伐したとして、根本的なものは消えないのだろうか。カゲルは一体どこから湧いてくる?それがわからなくてはこれからも俺はここに居なくてはならない。

別に構わないが未だに見つかったない父上と母上を自分で探したいという気持ちがある。そう思いながら俺はAクラスの生徒達にこの事を伝えるため、会議室の椅子から立ち上がった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

先生と私。

狭山雪菜
恋愛
茂木結菜(もぎ ゆいな)は、高校3年生。1年の時から化学の教師林田信太郎(はやしだ しんたろう)に恋をしている。なんとか彼に自分を見てもらおうと、学級委員になったり、苦手な化学の授業を選択していた。 3年生になった時に、彼が担任の先生になった事で嬉しくて、勢い余って告白したのだが… 全編甘々を予定しております。 この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

火駆闘戯 第一部

高谷 ゆうと
ファンタジー
焼暴士と呼ばれる男たちがいた。 それは、自らの身体ひとつで、人間を脅かす炎と闘う者たちの総称である。 人間と対立する種族、「ラヨル」の民は、その長であるマユルを筆頭に、度々人間たちに奇襲を仕掛けてきていた。「ノーラ」と呼ばれる、ラヨルたちの操る邪術で繰り出される炎は、水では消えず、これまでに数多の人間が犠牲になっていった。人々がノーラに対抗すべく生み出された「イョウラ」と名付けられた武術。それは、ノーラの炎を消すために必要な、人間の血液を流しながらでも、倒れることなく闘い続けられるように鍛え上げられた男たちが使う、ラヨルの民を倒すための唯一の方法であった。 焼暴士の見習い少年、タスクは、マユルが持つといわれている「イホミ・モトイニ」とよばれる何かを破壊すべく、日々の鍛錬をこなしていた。それを破壊すれば、ラヨルの民は、ノーラを使えなくなると言い伝えられているためだ。 タスクは、マユルと対峙するが、全く歯が立たず、命の危機にさらされることになる。己の無力さを痛感したその日、タスクの奇譚は、ゆっくりと幕を開けたのだった。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...