35 / 77
4章 反社会政府編 〜生徒との関係〜
35話 書庫談笑
しおりを挟む
「それじゃあシンリンさんはカムラ王都っていう場所から来たんすね」
「カムイ王都だ」
「ハルサキさんもカムイ王都出身っすか?」
「俺は都内で産まれた」
午前中にある俺の授業が終わり現在は昼ご飯を食べた後の正午過ぎ。俺とカナト、ハルサキは書庫に訪れていた。
俺はミロクニから借りた本を読み進めるために。カナトは暇だから着いてきただけ。ハルサキは静かな空間に居たいらしく書庫にいる。
しかし実際はカナトが喋りかけてくるので完全に無音の状態ではない。俺も一言二言交わすが、ほとんどは適当な相槌で返していた。
喋る本人は1冊も本を持って来ないでただ机に上半身を寝そべらせている。まぁでも、こいつはまだAクラスに馴染めているわけじゃない。少しずつではあるが他の生徒達はカナトの事を理解してはいる。しかし自分勝手な行動や言葉がたまに現れるためまだまだ距離は空いている感じだ。
ヒマワリとは違う種類の暴走なので、俺も手を焼いていないと言ったら嘘になる。だからAクラスの生徒達が居座る教室に居るよりも少人数の場所に居た方が彼にとっては楽なようだった。
「カナトはあまり戸惑ってないようだな。この人の出身について」
「だって変わり者のAクラスの先生っすからね。驚きもしませんよ」
「……そうか」
「でも今のところ、変わっているのって言ったらレオンさんとリンガネさんくらいっすね。あの2人は色んな意味を含めて厄介です」
「お前も十分厄介だ」
「本当シンリンさんって自分に素直っすよね。だからセンリさんに怒られるんじゃないんですか?」
「俺は嫌われるためにやっているのだ。自分に正直になって嫌われるのなら一石二鳥」
「そろそろ貴方の嫌われようとする考えは終わりにした方が良いと思う。やるだけ無駄な気がする。ご両親もまだ見つかってないのなら尚更」
「…まぁ、父上と母上が見つかっていないのは事実だが」
ここに来て2週間を経とうとしているが、未だに父上と母上の行方は不明だ。時々食堂で出くわすリコン学長に問い詰めても首を振るだけ。
ここが死者の世界ならいてもおかしくないはずなのにずっと見つからないのはより心配になってくる。そういえばこいつらはどういう理由で死んだのだろう。俺は賊によって殺された身だが、全員が同じ死に方ではない。でも流石にそれは聞けなくて俺は口を紡ごうとした。
「……じゃあ何故ヒマワリは…?」
「シンリンさんが呼んでる本ってミロクニさんが紹介したんすよね?」
「えっ、ああ。そうだ」
「今のところ半分以上読んでますけど、どんな感じなんですか?」
「簡単に言えば英雄の物語だな。王道の悪役を倒す英雄譚だ」
「そういうのが好きなのか、ミロクニさん」
「ミロクニはAクラスの中でも物語好きだ。以前リンガネとヒーローについて語り合っていた」
「へぇ、意外っす」
俺もそう思う。物静かなミロクニがこの本のように激しい戦いを好んで読むのは意外だ。読み続けていてわかったのは、この物語は戦闘描写が多い。時折休息のように日常的なものも挟んだくるが殆どが英雄の戦いについてだった。
けれども悪くはない。むしろ熱くなるのを感じる。カムイ王都で英雄と言えばやはり王家の人間達であり、勿論俺も皇子として英雄扱いされることが多かった。誰もが首を垂れて崇拝される王家。
しかし最近、それで本当に良かったのかと疑問を持ち始めている俺がいた。こいつらAクラスの生徒達と関わることによって不思議と初めての感情が泉のように湧き出る。王家について疑問に思ったことなんて一度も無かったのに。でも湧き出た気持ちをどうするのかと言われても俺にはわからなかった。
「大丈夫か?」
「何がだ」
「貴方の顔が段々と険しくなっている。もしかしてクライマックスの時点なのか?」
「くらいなんとかはわからないが、そろそろ終わりに近づいている。……でも少し集中力が切れたみたいだ」
「なら別の話でもしますか?」
「別の話?」
ずっと机に伏していたカナトは起き上がって何かを企む笑顔をした。こいつはレオンと違って貼り付けている笑顔ではない。他の感情を含んだ笑顔を見せてくるので次に起こるのが幸か災いかはわかってしまう。今の場合、災いに分類される笑みだ。
「やっぱり男子だけの集まりだったら女子の話っすよ」
「は?」
「俺は別に興味ない」
「ハルサキさんだって立派な思春期男子じゃないっすか。タイプの女性1人くらいいるでしょ?」
「いない」
「またまたぁ~」
「そういうカナトはどうなんだ。どうせ俺と同じで誰も居ないだろ」
「僕はAクラスで言えばアサガイちゃんが良いかな。まともそうだし」
「アサガイ委員長はまともだ」
「シンリンさんもそう思うっすよね!顔も申し分ないくらいの美人で性格もまとも。Aクラスに居なければモテそうだけど」
「……俺の推測だとアサガイ委員長は誰か好きな人いるぞ」
「「え?」」
ハルサキの言葉に俺とカナトは同時に声を出した。カナトは少し落ち込んだように頭を抱える。俺はあの真面目な性格でも好きな人がいるアサガイ委員長に驚きを隠せなかった。
「カムイ王都だ」
「ハルサキさんもカムイ王都出身っすか?」
「俺は都内で産まれた」
午前中にある俺の授業が終わり現在は昼ご飯を食べた後の正午過ぎ。俺とカナト、ハルサキは書庫に訪れていた。
俺はミロクニから借りた本を読み進めるために。カナトは暇だから着いてきただけ。ハルサキは静かな空間に居たいらしく書庫にいる。
しかし実際はカナトが喋りかけてくるので完全に無音の状態ではない。俺も一言二言交わすが、ほとんどは適当な相槌で返していた。
喋る本人は1冊も本を持って来ないでただ机に上半身を寝そべらせている。まぁでも、こいつはまだAクラスに馴染めているわけじゃない。少しずつではあるが他の生徒達はカナトの事を理解してはいる。しかし自分勝手な行動や言葉がたまに現れるためまだまだ距離は空いている感じだ。
ヒマワリとは違う種類の暴走なので、俺も手を焼いていないと言ったら嘘になる。だからAクラスの生徒達が居座る教室に居るよりも少人数の場所に居た方が彼にとっては楽なようだった。
「カナトはあまり戸惑ってないようだな。この人の出身について」
「だって変わり者のAクラスの先生っすからね。驚きもしませんよ」
「……そうか」
「でも今のところ、変わっているのって言ったらレオンさんとリンガネさんくらいっすね。あの2人は色んな意味を含めて厄介です」
「お前も十分厄介だ」
「本当シンリンさんって自分に素直っすよね。だからセンリさんに怒られるんじゃないんですか?」
「俺は嫌われるためにやっているのだ。自分に正直になって嫌われるのなら一石二鳥」
「そろそろ貴方の嫌われようとする考えは終わりにした方が良いと思う。やるだけ無駄な気がする。ご両親もまだ見つかってないのなら尚更」
「…まぁ、父上と母上が見つかっていないのは事実だが」
ここに来て2週間を経とうとしているが、未だに父上と母上の行方は不明だ。時々食堂で出くわすリコン学長に問い詰めても首を振るだけ。
ここが死者の世界ならいてもおかしくないはずなのにずっと見つからないのはより心配になってくる。そういえばこいつらはどういう理由で死んだのだろう。俺は賊によって殺された身だが、全員が同じ死に方ではない。でも流石にそれは聞けなくて俺は口を紡ごうとした。
「……じゃあ何故ヒマワリは…?」
「シンリンさんが呼んでる本ってミロクニさんが紹介したんすよね?」
「えっ、ああ。そうだ」
「今のところ半分以上読んでますけど、どんな感じなんですか?」
「簡単に言えば英雄の物語だな。王道の悪役を倒す英雄譚だ」
「そういうのが好きなのか、ミロクニさん」
「ミロクニはAクラスの中でも物語好きだ。以前リンガネとヒーローについて語り合っていた」
「へぇ、意外っす」
俺もそう思う。物静かなミロクニがこの本のように激しい戦いを好んで読むのは意外だ。読み続けていてわかったのは、この物語は戦闘描写が多い。時折休息のように日常的なものも挟んだくるが殆どが英雄の戦いについてだった。
けれども悪くはない。むしろ熱くなるのを感じる。カムイ王都で英雄と言えばやはり王家の人間達であり、勿論俺も皇子として英雄扱いされることが多かった。誰もが首を垂れて崇拝される王家。
しかし最近、それで本当に良かったのかと疑問を持ち始めている俺がいた。こいつらAクラスの生徒達と関わることによって不思議と初めての感情が泉のように湧き出る。王家について疑問に思ったことなんて一度も無かったのに。でも湧き出た気持ちをどうするのかと言われても俺にはわからなかった。
「大丈夫か?」
「何がだ」
「貴方の顔が段々と険しくなっている。もしかしてクライマックスの時点なのか?」
「くらいなんとかはわからないが、そろそろ終わりに近づいている。……でも少し集中力が切れたみたいだ」
「なら別の話でもしますか?」
「別の話?」
ずっと机に伏していたカナトは起き上がって何かを企む笑顔をした。こいつはレオンと違って貼り付けている笑顔ではない。他の感情を含んだ笑顔を見せてくるので次に起こるのが幸か災いかはわかってしまう。今の場合、災いに分類される笑みだ。
「やっぱり男子だけの集まりだったら女子の話っすよ」
「は?」
「俺は別に興味ない」
「ハルサキさんだって立派な思春期男子じゃないっすか。タイプの女性1人くらいいるでしょ?」
「いない」
「またまたぁ~」
「そういうカナトはどうなんだ。どうせ俺と同じで誰も居ないだろ」
「僕はAクラスで言えばアサガイちゃんが良いかな。まともそうだし」
「アサガイ委員長はまともだ」
「シンリンさんもそう思うっすよね!顔も申し分ないくらいの美人で性格もまとも。Aクラスに居なければモテそうだけど」
「……俺の推測だとアサガイ委員長は誰か好きな人いるぞ」
「「え?」」
ハルサキの言葉に俺とカナトは同時に声を出した。カナトは少し落ち込んだように頭を抱える。俺はあの真面目な性格でも好きな人がいるアサガイ委員長に驚きを隠せなかった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説


先生と私。
狭山雪菜
恋愛
茂木結菜(もぎ ゆいな)は、高校3年生。1年の時から化学の教師林田信太郎(はやしだ しんたろう)に恋をしている。なんとか彼に自分を見てもらおうと、学級委員になったり、苦手な化学の授業を選択していた。
3年生になった時に、彼が担任の先生になった事で嬉しくて、勢い余って告白したのだが…
全編甘々を予定しております。
この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ギルド・ティルナノーグサーガ 『ブルジァ家の秘密』
路地裏の喫茶店
ファンタジー
あらすじ: 請け負いギルド ティルナノーグの斧戦士グラウリーは呪われた高山ダンジョン『バルティモナ山』の秘宝を持ち帰ってほしいと言う依頼を受けた。
最初は支部が違うメンバー同士のいがみ合いがあるものの冒険が進む中で結束は深まっていく。だがメンバーの中心人物グラウリーには隠された過去があった。
ハイファンタジー、冒険譚。群像劇。
長く続く(予定の)ギルドファンタジーの第一章。
地の文描写しっかり目。最後に外伝も掲載。
現在第二章を執筆中。
※2話、3話、5話の挿絵は親友に描いてもらったものです。
火駆闘戯 第一部
高谷 ゆうと
ファンタジー
焼暴士と呼ばれる男たちがいた。
それは、自らの身体ひとつで、人間を脅かす炎と闘う者たちの総称である。
人間と対立する種族、「ラヨル」の民は、その長であるマユルを筆頭に、度々人間たちに奇襲を仕掛けてきていた。「ノーラ」と呼ばれる、ラヨルたちの操る邪術で繰り出される炎は、水では消えず、これまでに数多の人間が犠牲になっていった。人々がノーラに対抗すべく生み出された「イョウラ」と名付けられた武術。それは、ノーラの炎を消すために必要な、人間の血液を流しながらでも、倒れることなく闘い続けられるように鍛え上げられた男たちが使う、ラヨルの民を倒すための唯一の方法であった。
焼暴士の見習い少年、タスクは、マユルが持つといわれている「イホミ・モトイニ」とよばれる何かを破壊すべく、日々の鍛錬をこなしていた。それを破壊すれば、ラヨルの民は、ノーラを使えなくなると言い伝えられているためだ。
タスクは、マユルと対峙するが、全く歯が立たず、命の危機にさらされることになる。己の無力さを痛感したその日、タスクの奇譚は、ゆっくりと幕を開けたのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる