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3章 反社会政府編 〜後悔〜
33話 悪ガキの王子様
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「センリ!」
大声でそう叫びながら医務室の扉を開けるが、中はもぬけの殻状態だった。ここに居ないとなれば今は職員室に居るのか?俺はカナトを長椅子に落とし周りを見渡す。やはり返事をしない時点で居なかったようだ。
「職員室か…」
「あのさ、ここに連れて来てもらた側としては言いにくいんすけど」
「何だ」
「別に僕脇腹痛く無いっす」
「……は?」
「ちょっと取り乱しちゃったんで移動中言えませんでした。痣とかもたぶん出来てませんよ」
「じゃ、じゃあ何であの時泣いたんだ?俺は特に変な事を言った覚えは無いんだが」
「…恐怖が急に湧き上がりました」
「恐怖?」
長椅子に座り直すカナトは自分の目を擦って少し溜まっていた涙を拭う。俺から見るにスッキリとした表情になっていて、もう泣いてはいなかった。
「シンリンさんにだから話したい。もう授業も無いから良いでしょ?」
「構わないが」
「ハハッ、まさか泣くとは思わなかったっす。ダッセー僕」
「それで?話は?」
「聞くなら座ってくださいよ。なんか僕が立たせているみたいじゃないっすか」
俺はカナトに言われて近くに置いてあった丸椅子に腰を下ろした。この席は初めて医務室に来た時にリコン学長が座っていた椅子だ。
今でも何故あの時センリとリコン学長がここに居たのかはわからない。しかし医務室にあるガラスの戸棚に大量の茶菓子が押し詰められているということは、きっとただのお茶飲み仲間なのだろう。
あの茶菓子を少し拝借したら怒られるか?…センリなら絶対怒鳴るな。俺は戸棚から目を離してカナトを見れば彼は頭の後ろで腕を組み、完全に力を抜いていた。
「目上に対して随分な態度だな」
「心を開いている証拠っす。……それで今から言うことはあまり誰にも言わないでほしいんすけど」
「わかった」
「僕は1人だけ人間を殺してるっす」
「に、人間を…?カゲルではなくて?」
「はい、生身の人間」
「センリからの情報ではカナトの歳は14だと聞いた。その歳で人殺しというのか?」
「ハハッ、シンリンさんって結構真っ直ぐに言いますね。人殺しって」
「気に障ったのなら謝る」
「平気です。だって事実っすから」
乾いた笑いを出した目の前の少年はは全く人殺しには見えなかった。何処にでもいる普通の14歳そのものだ。信じられない事実に俺は若干警戒心を向けてしまう。それに気付いたカナトは手を前に持って来て横に振った。
「もう誰も殺しませんから警戒心しないでください」
「すまない」
「実は僕、小さい頃から将来の夢はアカデミーに入るって事だったんす。討伐アカデミーの人達はみんなかっこよくてまるで王子様みたいで…。だから僕はある人に修行をつけてもらってました」
「誰にだ?」
「血の繋がりがある歳上の人間っす」
「兄か姉?」
「一般的に兄と言われますね」
回りくどい言い方だが、自分の兄に修行をつけてもらっていたのか。それも幼少期から。だとしたらあの強さは納得だ。
歳上の生徒達を蹲らせるほどの実力は才能ではなく努力で培ったということ。体に染み込ませた武術の公式は誰よりも出来ているのが目の前の少年、カナトだった。
「兄は武術に長けていたのか?」
「元アカデミーの人間でした。ちょくちょく任務の暇を見つけては家に帰って来て僕を強くしてくれたんです」
「弟思いの奴なんだな」
「あんなのどこが弟思いだよ…。これからの話を聞けばあの人間の印象が変わるっすよ」
「ならば聞こう」
「あいつ、アカデミーに所属しながらも反社会政府の一員だったんす」
「反社会政府…!?」
膝に置いてある俺の手が力を込めて震え始めた。消えかけていた昨日の光景が鮮明に蘇る。その単語を聞くだけで怒りが湧き出るようになってしまったらしい。そんな俺を見ながらもカナトは話を続けた。
「それを最初に見つけ出したのはアカデミーの現学長、リコンさんでした。リコンさんはあいつをアカデミーから強制脱退させたという過去があります。居場所が無くなったあいつは当然僕が住む実家に帰って来た。その時を今でも覚えている。玄関で父さんと母さんに泣かれてもなおあいつは気持ち悪い笑顔で笑っていたことを……」
記憶を蘇らせたのは俺だけではなかったようだ。カナトも苛立ちを見せて頭を強く掻きむしる。ずっと修行をつけて貰っていたアカデミー所属の彼の兄は裏切るような行為をした。そんな事実はカナトにとって十分な怒りへと変えていて、俺と全く変わらない。
「ずっと憧れていた…!あいつは人を助ける王子様だと思っていた…!でも実際は汚い悪魔でしかなかったんだ。僕は憧れを潰した悪魔を怒りに任せて、寝ている所を刃物で刺した」
「それが人殺しになった理由か」
「本当に真っ直ぐっすね。そうです。僕は兄となる人物を殺した」
「でも今カナトはアカデミーにいる」
「普通なら少年院に行く予定でした。でもリコンさんが僕を引き取ってくれたんすよ。『これからはアカデミーのために命を尽くせ』って。だから僕は自分を信じて生きたいからカゲルを討伐するって決めてる」
「あの人も色々とやってくれたのだな」
「でも僕は罪滅ぼしするつもりはないっす。アカデミーを志す人間として、悪魔を討伐したと今も信じているから。……けれどさっきシンリンさんと手合わせした時に重なったんすよ。あいつと修行している時の顔に」
大声でそう叫びながら医務室の扉を開けるが、中はもぬけの殻状態だった。ここに居ないとなれば今は職員室に居るのか?俺はカナトを長椅子に落とし周りを見渡す。やはり返事をしない時点で居なかったようだ。
「職員室か…」
「あのさ、ここに連れて来てもらた側としては言いにくいんすけど」
「何だ」
「別に僕脇腹痛く無いっす」
「……は?」
「ちょっと取り乱しちゃったんで移動中言えませんでした。痣とかもたぶん出来てませんよ」
「じゃ、じゃあ何であの時泣いたんだ?俺は特に変な事を言った覚えは無いんだが」
「…恐怖が急に湧き上がりました」
「恐怖?」
長椅子に座り直すカナトは自分の目を擦って少し溜まっていた涙を拭う。俺から見るにスッキリとした表情になっていて、もう泣いてはいなかった。
「シンリンさんにだから話したい。もう授業も無いから良いでしょ?」
「構わないが」
「ハハッ、まさか泣くとは思わなかったっす。ダッセー僕」
「それで?話は?」
「聞くなら座ってくださいよ。なんか僕が立たせているみたいじゃないっすか」
俺はカナトに言われて近くに置いてあった丸椅子に腰を下ろした。この席は初めて医務室に来た時にリコン学長が座っていた椅子だ。
今でも何故あの時センリとリコン学長がここに居たのかはわからない。しかし医務室にあるガラスの戸棚に大量の茶菓子が押し詰められているということは、きっとただのお茶飲み仲間なのだろう。
あの茶菓子を少し拝借したら怒られるか?…センリなら絶対怒鳴るな。俺は戸棚から目を離してカナトを見れば彼は頭の後ろで腕を組み、完全に力を抜いていた。
「目上に対して随分な態度だな」
「心を開いている証拠っす。……それで今から言うことはあまり誰にも言わないでほしいんすけど」
「わかった」
「僕は1人だけ人間を殺してるっす」
「に、人間を…?カゲルではなくて?」
「はい、生身の人間」
「センリからの情報ではカナトの歳は14だと聞いた。その歳で人殺しというのか?」
「ハハッ、シンリンさんって結構真っ直ぐに言いますね。人殺しって」
「気に障ったのなら謝る」
「平気です。だって事実っすから」
乾いた笑いを出した目の前の少年はは全く人殺しには見えなかった。何処にでもいる普通の14歳そのものだ。信じられない事実に俺は若干警戒心を向けてしまう。それに気付いたカナトは手を前に持って来て横に振った。
「もう誰も殺しませんから警戒心しないでください」
「すまない」
「実は僕、小さい頃から将来の夢はアカデミーに入るって事だったんす。討伐アカデミーの人達はみんなかっこよくてまるで王子様みたいで…。だから僕はある人に修行をつけてもらってました」
「誰にだ?」
「血の繋がりがある歳上の人間っす」
「兄か姉?」
「一般的に兄と言われますね」
回りくどい言い方だが、自分の兄に修行をつけてもらっていたのか。それも幼少期から。だとしたらあの強さは納得だ。
歳上の生徒達を蹲らせるほどの実力は才能ではなく努力で培ったということ。体に染み込ませた武術の公式は誰よりも出来ているのが目の前の少年、カナトだった。
「兄は武術に長けていたのか?」
「元アカデミーの人間でした。ちょくちょく任務の暇を見つけては家に帰って来て僕を強くしてくれたんです」
「弟思いの奴なんだな」
「あんなのどこが弟思いだよ…。これからの話を聞けばあの人間の印象が変わるっすよ」
「ならば聞こう」
「あいつ、アカデミーに所属しながらも反社会政府の一員だったんす」
「反社会政府…!?」
膝に置いてある俺の手が力を込めて震え始めた。消えかけていた昨日の光景が鮮明に蘇る。その単語を聞くだけで怒りが湧き出るようになってしまったらしい。そんな俺を見ながらもカナトは話を続けた。
「それを最初に見つけ出したのはアカデミーの現学長、リコンさんでした。リコンさんはあいつをアカデミーから強制脱退させたという過去があります。居場所が無くなったあいつは当然僕が住む実家に帰って来た。その時を今でも覚えている。玄関で父さんと母さんに泣かれてもなおあいつは気持ち悪い笑顔で笑っていたことを……」
記憶を蘇らせたのは俺だけではなかったようだ。カナトも苛立ちを見せて頭を強く掻きむしる。ずっと修行をつけて貰っていたアカデミー所属の彼の兄は裏切るような行為をした。そんな事実はカナトにとって十分な怒りへと変えていて、俺と全く変わらない。
「ずっと憧れていた…!あいつは人を助ける王子様だと思っていた…!でも実際は汚い悪魔でしかなかったんだ。僕は憧れを潰した悪魔を怒りに任せて、寝ている所を刃物で刺した」
「それが人殺しになった理由か」
「本当に真っ直ぐっすね。そうです。僕は兄となる人物を殺した」
「でも今カナトはアカデミーにいる」
「普通なら少年院に行く予定でした。でもリコンさんが僕を引き取ってくれたんすよ。『これからはアカデミーのために命を尽くせ』って。だから僕は自分を信じて生きたいからカゲルを討伐するって決めてる」
「あの人も色々とやってくれたのだな」
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