【完結】異世界先生 〜異世界で死んだ和風皇子は日本で先生となり平和へと導きます〜

雪村

文字の大きさ
上 下
33 / 77
3章 反社会政府編 〜後悔〜

33話 悪ガキの王子様

しおりを挟む
「センリ!」


大声でそう叫びながら医務室の扉を開けるが、中はもぬけの殻状態だった。ここに居ないとなれば今は職員室に居るのか?俺はカナトを長椅子に落とし周りを見渡す。やはり返事をしない時点で居なかったようだ。


「職員室か…」

「あのさ、ここに連れて来てもらた側としては言いにくいんすけど」

「何だ」

「別に僕脇腹痛く無いっす」

「……は?」

「ちょっと取り乱しちゃったんで移動中言えませんでした。痣とかもたぶん出来てませんよ」

「じゃ、じゃあ何であの時泣いたんだ?俺は特に変な事を言った覚えは無いんだが」

「…恐怖が急に湧き上がりました」

「恐怖?」


長椅子に座り直すカナトは自分の目を擦って少し溜まっていた涙を拭う。俺から見るにスッキリとした表情になっていて、もう泣いてはいなかった。


「シンリンさんにだから話したい。もう授業も無いから良いでしょ?」

「構わないが」

「ハハッ、まさか泣くとは思わなかったっす。ダッセー僕」

「それで?話は?」

「聞くなら座ってくださいよ。なんか僕が立たせているみたいじゃないっすか」


俺はカナトに言われて近くに置いてあった丸椅子に腰を下ろした。この席は初めて医務室に来た時にリコン学長が座っていた椅子だ。

今でも何故あの時センリとリコン学長がここに居たのかはわからない。しかし医務室にあるガラスの戸棚に大量の茶菓子が押し詰められているということは、きっとただのお茶飲み仲間なのだろう。

あの茶菓子を少し拝借したら怒られるか?…センリなら絶対怒鳴るな。俺は戸棚から目を離してカナトを見れば彼は頭の後ろで腕を組み、完全に力を抜いていた。


「目上に対して随分な態度だな」

「心を開いている証拠っす。……それで今から言うことはあまり誰にも言わないでほしいんすけど」

「わかった」

「僕は1人だけ人間を殺してるっす」

「に、人間を…?カゲルではなくて?」

「はい、生身の人間」


「センリからの情報ではカナトの歳は14だと聞いた。その歳で人殺しというのか?」

「ハハッ、シンリンさんって結構真っ直ぐに言いますね。人殺しって」

「気に障ったのなら謝る」

「平気です。だって事実っすから」


乾いた笑いを出した目の前の少年はは全く人殺しには見えなかった。何処にでもいる普通の14歳そのものだ。信じられない事実に俺は若干警戒心を向けてしまう。それに気付いたカナトは手を前に持って来て横に振った。


「もう誰も殺しませんから警戒心しないでください」

「すまない」

「実は僕、小さい頃から将来の夢はアカデミーに入るって事だったんす。討伐アカデミーの人達はみんなかっこよくてまるで王子様みたいで…。だから僕はある人に修行をつけてもらってました」

「誰にだ?」

「血の繋がりがある歳上の人間っす」

「兄か姉?」

「一般的に兄と言われますね」


回りくどい言い方だが、自分の兄に修行をつけてもらっていたのか。それも幼少期から。だとしたらあの強さは納得だ。

歳上の生徒達を蹲らせるほどの実力は才能ではなく努力で培ったということ。体に染み込ませた武術の公式は誰よりも出来ているのが目の前の少年、カナトだった。


「兄は武術に長けていたのか?」

「元アカデミーの人間でした。ちょくちょく任務の暇を見つけては家に帰って来て僕を強くしてくれたんです」

「弟思いの奴なんだな」

「あんなのどこが弟思いだよ…。これからの話を聞けばあの人間の印象が変わるっすよ」

「ならば聞こう」

「あいつ、アカデミーに所属しながらも反社会政府の一員だったんす」

「反社会政府…!?」


膝に置いてある俺の手が力を込めて震え始めた。消えかけていた昨日の光景が鮮明に蘇る。その単語を聞くだけで怒りが湧き出るようになってしまったらしい。そんな俺を見ながらもカナトは話を続けた。


「それを最初に見つけ出したのはアカデミーの現学長、リコンさんでした。リコンさんはあいつをアカデミーから強制脱退させたという過去があります。居場所が無くなったあいつは当然僕が住む実家に帰って来た。その時を今でも覚えている。玄関で父さんと母さんに泣かれてもなおあいつは気持ち悪い笑顔で笑っていたことを……」


記憶を蘇らせたのは俺だけではなかったようだ。カナトも苛立ちを見せて頭を強く掻きむしる。ずっと修行をつけて貰っていたアカデミー所属の彼の兄は裏切るような行為をした。そんな事実はカナトにとって十分な怒りへと変えていて、俺と全く変わらない。


「ずっと憧れていた…!あいつは人を助ける王子様だと思っていた…!でも実際は汚い悪魔でしかなかったんだ。僕は憧れを潰した悪魔を怒りに任せて、寝ている所を刃物で刺した」

「それが人殺しになった理由か」

「本当に真っ直ぐっすね。そうです。僕は兄となる人物を殺した」

「でも今カナトはアカデミーにいる」

「普通なら少年院に行く予定でした。でもリコンさんが僕を引き取ってくれたんすよ。『これからはアカデミーのために命を尽くせ』って。だから僕は自分を信じて生きたいからカゲルを討伐するって決めてる」

「あの人も色々とやってくれたのだな」

「でも僕は罪滅ぼしするつもりはないっす。アカデミーを志す人間として、悪魔を討伐したと今も信じているから。……けれどさっきシンリンさんと手合わせした時に重なったんすよ。あいつと修行している時の顔に」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

先生と私。

狭山雪菜
恋愛
茂木結菜(もぎ ゆいな)は、高校3年生。1年の時から化学の教師林田信太郎(はやしだ しんたろう)に恋をしている。なんとか彼に自分を見てもらおうと、学級委員になったり、苦手な化学の授業を選択していた。 3年生になった時に、彼が担任の先生になった事で嬉しくて、勢い余って告白したのだが… 全編甘々を予定しております。 この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ギルド・ティルナノーグサーガ 『ブルジァ家の秘密』

路地裏の喫茶店
ファンタジー
あらすじ: 請け負いギルド ティルナノーグの斧戦士グラウリーは呪われた高山ダンジョン『バルティモナ山』の秘宝を持ち帰ってほしいと言う依頼を受けた。 最初は支部が違うメンバー同士のいがみ合いがあるものの冒険が進む中で結束は深まっていく。だがメンバーの中心人物グラウリーには隠された過去があった。 ハイファンタジー、冒険譚。群像劇。 長く続く(予定の)ギルドファンタジーの第一章。 地の文描写しっかり目。最後に外伝も掲載。 現在第二章を執筆中。 ※2話、3話、5話の挿絵は親友に描いてもらったものです。

火駆闘戯 第一部

高谷 ゆうと
ファンタジー
焼暴士と呼ばれる男たちがいた。 それは、自らの身体ひとつで、人間を脅かす炎と闘う者たちの総称である。 人間と対立する種族、「ラヨル」の民は、その長であるマユルを筆頭に、度々人間たちに奇襲を仕掛けてきていた。「ノーラ」と呼ばれる、ラヨルたちの操る邪術で繰り出される炎は、水では消えず、これまでに数多の人間が犠牲になっていった。人々がノーラに対抗すべく生み出された「イョウラ」と名付けられた武術。それは、ノーラの炎を消すために必要な、人間の血液を流しながらでも、倒れることなく闘い続けられるように鍛え上げられた男たちが使う、ラヨルの民を倒すための唯一の方法であった。 焼暴士の見習い少年、タスクは、マユルが持つといわれている「イホミ・モトイニ」とよばれる何かを破壊すべく、日々の鍛錬をこなしていた。それを破壊すれば、ラヨルの民は、ノーラを使えなくなると言い伝えられているためだ。 タスクは、マユルと対峙するが、全く歯が立たず、命の危機にさらされることになる。己の無力さを痛感したその日、タスクの奇譚は、ゆっくりと幕を開けたのだった。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...