32 / 77
3章 反社会政府編 〜後悔〜
32話 悪ガキ生徒への指導
しおりを挟む
訓練室前に着いた俺は耳を立てて中の様子を伺う。先に行ったカナトが何か問題を起こしていないかの確認だ。しかしそこまで騒ぎは無いので特に何も起こらなかったのだろう。
それにしても妙に静かだな。不思議に思いながら訓練室の重い扉を開けると俺の目が開く光景が広がった。
「何をしている!?」
「あっシンリンさん。ちょっとした手合わせっす」
「ちょっとの領域では無いだろう!」
「僕はちょっと体を動かしただけです」
見下すような笑顔で訓練室の中央に立っているカナト。その周りには他の生徒が跪くように蹲っていた。生徒達は竹刀を持っているのできっと模擬戦をやったのだ。
俺がセンリと話していた短時間でカナト以外の生徒は息切れをし、Aクラスで1番強いアサガイ委員長とハルサキの2人でさえ痛みに顔を歪ませている。
「痛ってぇ…」
「カナト族よ、これは訓練だぞ。もう少し手加減を…」
「訓練だから手を抜くのか?生ぬるいこと言ってんじゃねぇよ」
「カナト?」
急に口調が変わったのを見て俺は少し警戒心を持つ。するとカナトは俺に籠から取った1本の竹刀を投げつけてきた。
「シンリンさん。手合わせしてよ」
「……」
飛んできた竹刀を無言で受け取った俺はカナトの顔を見る。笑顔は消えていて、まるで覇気を宿っている顔つきだった。
リンガネのようなただ単純に強くなりたいから戦いたい奴ではない。カナトは命を懸けるくらいの戦い望んでいるのだ。俺はため息をついて竹刀を構える。
「手加減な無し。僕は殺すつもりでシンリンさんに刀を向ける」
「良いだろう。お前達は端に居ろ。手当てが必要な奴はセンリの元へ行け」
「シンリン先生!」
「アサガイ委員長、これはあいつの実力を見るための模擬戦だ。1番最初にお前達もやっただろう?」
「…………カナト強い」
「だから俺も真剣に刀を向けよう」
「そうでなくちゃシンリンさん」
同じようにカナトも構えを取る。残りの生徒達は訓練室の入り口付近に待機していた。起き上がれるくらいならセンリにお世話にならなくても大丈夫なはずだ。
大きな怪我がないことに心底安心した俺は改めてカナトを見た。本当に殺すような目をしている。こいつは一体カゲルにどんな事をされたのか。憎しみを混じったその目はあの時の賊と一致しまうが、俺は刀を強く握った。
「行くよ」
「ああ」
二言交わした俺達は同時に前へと飛び出して行く。バチン!と竹刀特有の音が訓練室に響き渡った。そのまま刀を合わせることなく次の一撃を打ち付ける。
カナトは俺の斬撃を受け止めて弾き返してきた。確かにこの実力はAクラスの生徒よりも上だ。それでも俺の敵では無い。
「ウッ…!」
一瞬の隙を見つけた俺はカナトの脇腹に竹刀をぶつける。痛そうな声を出しながらも倒れることなくまた俺に刀を向けてくるのは何処から来る執念だろうと考えてしまう。しかし脇腹の痛みは徐々に効いているようで次の一撃が俺の竹刀に当たることは無かった。
「…終わりだな」
「……」
「お前は素晴らしい技術を持っている。磨けば更に向上するはずだ」
「……」
「直すべきは殺意がダダ漏れなところか。次にどこに刀が飛んでくるかがわかってしまうぞ」
「……」
「…………先生カナト泣いてる」
「え?」
全然返事をせずに座り俯くカナトにミロクニは俺に教えてくれる。それを聞いた俺はカナトに視線を合わせようとしゃがみ込んだ。でも彼は一向に目を合わせてくれずに下を向く。しかし鼻を啜る音が聞こえたので泣いているのは当たっているようだった。
「ま、まさか!」
「先生どーした?」
「すまない!脇腹の一撃が重かったか!?」
「「「え?」」」
「痣になっている可能性がある。となると冷やさなくてはならない!ああ、クソっ!もう怪我のことでセンリには世話になりたくなかったのにやってしまった!!」
「グスッ、シンリン、さん?」
やっと顔を上げたカナトを見て俺は滝のように冷や汗をかく。目を真っ赤にして泣くほどに斬撃が痛かったらしい。急いでカナトの腰を腕で掴んだ俺は俵担ぎにして訓練室の入り口へ走る。
「アサガイ委員長!医務室に行ってくる!他の生徒は各自体をほぐしておくように!早いが今日の授業は終了だ!!」
「シンリン先生!?まだ結構時間が余ってます!せめて自主練を…」
「お前達も体を休ませろ!」
「委員長族よ。あれはもうどうにもならないだらう」
「ええ!?」
「ああ。それにしてもあの光景は既視感がある」
「………リンガネ」
「やめろ思い出させるな…。結構恥ずかったんだよあれ」
生徒達を掻き分けて訓練室から出れば即座に医務室へと直行する。リンガネの時とは違い、カナトは恐ろしく静かに担がれていた。まだ泣き止んでないのだろう。足をバタつかせないのは俺にとっても楽なので有難い。
「本当にすまない!カナトなら平気だと思ってしまった」
「……平気じゃない僕はお役御免?」
「何を言ってる?もしさっきの一撃が他の生徒だったら最悪気絶していたはずだ」
「……本当に手加減しなかったっすね」
「カナトが言ったのだろう。でもこの事をセンリに言えばきっと面倒臭く説教されるのだな…。まぁ医務室に行かない選択肢は無いが」
「やっぱりシンリンさん変わってる」
「アカデミーの人間は大抵変わってるらしいぞ」
俺がセンリから聞いた言葉をそのまま伝えれば、カナトはフッと笑い声を溢した。震えまじりの声は痛さだけのものなのか。それはまだ俺にはわからなかった。
それにしても妙に静かだな。不思議に思いながら訓練室の重い扉を開けると俺の目が開く光景が広がった。
「何をしている!?」
「あっシンリンさん。ちょっとした手合わせっす」
「ちょっとの領域では無いだろう!」
「僕はちょっと体を動かしただけです」
見下すような笑顔で訓練室の中央に立っているカナト。その周りには他の生徒が跪くように蹲っていた。生徒達は竹刀を持っているのできっと模擬戦をやったのだ。
俺がセンリと話していた短時間でカナト以外の生徒は息切れをし、Aクラスで1番強いアサガイ委員長とハルサキの2人でさえ痛みに顔を歪ませている。
「痛ってぇ…」
「カナト族よ、これは訓練だぞ。もう少し手加減を…」
「訓練だから手を抜くのか?生ぬるいこと言ってんじゃねぇよ」
「カナト?」
急に口調が変わったのを見て俺は少し警戒心を持つ。するとカナトは俺に籠から取った1本の竹刀を投げつけてきた。
「シンリンさん。手合わせしてよ」
「……」
飛んできた竹刀を無言で受け取った俺はカナトの顔を見る。笑顔は消えていて、まるで覇気を宿っている顔つきだった。
リンガネのようなただ単純に強くなりたいから戦いたい奴ではない。カナトは命を懸けるくらいの戦い望んでいるのだ。俺はため息をついて竹刀を構える。
「手加減な無し。僕は殺すつもりでシンリンさんに刀を向ける」
「良いだろう。お前達は端に居ろ。手当てが必要な奴はセンリの元へ行け」
「シンリン先生!」
「アサガイ委員長、これはあいつの実力を見るための模擬戦だ。1番最初にお前達もやっただろう?」
「…………カナト強い」
「だから俺も真剣に刀を向けよう」
「そうでなくちゃシンリンさん」
同じようにカナトも構えを取る。残りの生徒達は訓練室の入り口付近に待機していた。起き上がれるくらいならセンリにお世話にならなくても大丈夫なはずだ。
大きな怪我がないことに心底安心した俺は改めてカナトを見た。本当に殺すような目をしている。こいつは一体カゲルにどんな事をされたのか。憎しみを混じったその目はあの時の賊と一致しまうが、俺は刀を強く握った。
「行くよ」
「ああ」
二言交わした俺達は同時に前へと飛び出して行く。バチン!と竹刀特有の音が訓練室に響き渡った。そのまま刀を合わせることなく次の一撃を打ち付ける。
カナトは俺の斬撃を受け止めて弾き返してきた。確かにこの実力はAクラスの生徒よりも上だ。それでも俺の敵では無い。
「ウッ…!」
一瞬の隙を見つけた俺はカナトの脇腹に竹刀をぶつける。痛そうな声を出しながらも倒れることなくまた俺に刀を向けてくるのは何処から来る執念だろうと考えてしまう。しかし脇腹の痛みは徐々に効いているようで次の一撃が俺の竹刀に当たることは無かった。
「…終わりだな」
「……」
「お前は素晴らしい技術を持っている。磨けば更に向上するはずだ」
「……」
「直すべきは殺意がダダ漏れなところか。次にどこに刀が飛んでくるかがわかってしまうぞ」
「……」
「…………先生カナト泣いてる」
「え?」
全然返事をせずに座り俯くカナトにミロクニは俺に教えてくれる。それを聞いた俺はカナトに視線を合わせようとしゃがみ込んだ。でも彼は一向に目を合わせてくれずに下を向く。しかし鼻を啜る音が聞こえたので泣いているのは当たっているようだった。
「ま、まさか!」
「先生どーした?」
「すまない!脇腹の一撃が重かったか!?」
「「「え?」」」
「痣になっている可能性がある。となると冷やさなくてはならない!ああ、クソっ!もう怪我のことでセンリには世話になりたくなかったのにやってしまった!!」
「グスッ、シンリン、さん?」
やっと顔を上げたカナトを見て俺は滝のように冷や汗をかく。目を真っ赤にして泣くほどに斬撃が痛かったらしい。急いでカナトの腰を腕で掴んだ俺は俵担ぎにして訓練室の入り口へ走る。
「アサガイ委員長!医務室に行ってくる!他の生徒は各自体をほぐしておくように!早いが今日の授業は終了だ!!」
「シンリン先生!?まだ結構時間が余ってます!せめて自主練を…」
「お前達も体を休ませろ!」
「委員長族よ。あれはもうどうにもならないだらう」
「ええ!?」
「ああ。それにしてもあの光景は既視感がある」
「………リンガネ」
「やめろ思い出させるな…。結構恥ずかったんだよあれ」
生徒達を掻き分けて訓練室から出れば即座に医務室へと直行する。リンガネの時とは違い、カナトは恐ろしく静かに担がれていた。まだ泣き止んでないのだろう。足をバタつかせないのは俺にとっても楽なので有難い。
「本当にすまない!カナトなら平気だと思ってしまった」
「……平気じゃない僕はお役御免?」
「何を言ってる?もしさっきの一撃が他の生徒だったら最悪気絶していたはずだ」
「……本当に手加減しなかったっすね」
「カナトが言ったのだろう。でもこの事をセンリに言えばきっと面倒臭く説教されるのだな…。まぁ医務室に行かない選択肢は無いが」
「やっぱりシンリンさん変わってる」
「アカデミーの人間は大抵変わってるらしいぞ」
俺がセンリから聞いた言葉をそのまま伝えれば、カナトはフッと笑い声を溢した。震えまじりの声は痛さだけのものなのか。それはまだ俺にはわからなかった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説


先生と私。
狭山雪菜
恋愛
茂木結菜(もぎ ゆいな)は、高校3年生。1年の時から化学の教師林田信太郎(はやしだ しんたろう)に恋をしている。なんとか彼に自分を見てもらおうと、学級委員になったり、苦手な化学の授業を選択していた。
3年生になった時に、彼が担任の先生になった事で嬉しくて、勢い余って告白したのだが…
全編甘々を予定しております。
この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
火駆闘戯 第一部
高谷 ゆうと
ファンタジー
焼暴士と呼ばれる男たちがいた。
それは、自らの身体ひとつで、人間を脅かす炎と闘う者たちの総称である。
人間と対立する種族、「ラヨル」の民は、その長であるマユルを筆頭に、度々人間たちに奇襲を仕掛けてきていた。「ノーラ」と呼ばれる、ラヨルたちの操る邪術で繰り出される炎は、水では消えず、これまでに数多の人間が犠牲になっていった。人々がノーラに対抗すべく生み出された「イョウラ」と名付けられた武術。それは、ノーラの炎を消すために必要な、人間の血液を流しながらでも、倒れることなく闘い続けられるように鍛え上げられた男たちが使う、ラヨルの民を倒すための唯一の方法であった。
焼暴士の見習い少年、タスクは、マユルが持つといわれている「イホミ・モトイニ」とよばれる何かを破壊すべく、日々の鍛錬をこなしていた。それを破壊すれば、ラヨルの民は、ノーラを使えなくなると言い伝えられているためだ。
タスクは、マユルと対峙するが、全く歯が立たず、命の危機にさらされることになる。己の無力さを痛感したその日、タスクの奇譚は、ゆっくりと幕を開けたのだった。

俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる