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3章 反社会政府編 〜後悔〜
29話 また湧き出る不思議な感情
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「………」
「手を伸ばせば助けられた。でも俺は手を伸ばさなかった」
「俺のように怖気付いたのか?」
「その通り。俺の目の前で母は頭からカゲルに喰われた。数秒後には当時のアカデミーの人間が助けに来てくれたがもう遅かったのだ。思考が幼かった俺はずっとアカデミーが到着するのが遅いせいで母は死んだと思っていた。でも今になっては、手を伸ばさなかった俺が母の命を握っていたと。責めるのは自分自身だったと思っている」
カムラは乾いた笑いをしておにぎりに手を伸ばした。こいつも似たような状況を経験していたのだな。パリッと音の鳴るカムラのおにぎり。少し遠くでもまた違う音が鳴った気がした。
「別に共感するために言ったのではない。ただ先生族に聞いてほしかっただけなのだ」
「……ああ」
「この話は俺達の秘密にしておこう。そろそろハルサキ族が戻ってくるはず」
そう予言したようにカムラが言えば隣の部屋からハルサキが両手に料理を持って帰ってくる。3つの料理は湯気が立ち、少し前におにぎりを食べた腹に一気に空腹感を与えた。
「貴方のカップラーメンも食べれる。先にお湯を入れておいたからちょうど3分経ったはずだ」
「ありがとう」
「カムラ、のり弁はこれくらいの温かさでいいか?」
「十分だ。有り難く頂こう」
俺は筒状の入れ物の蓋を取って中に入っている麺を箸で掬って食べ始める。本日2度目の感動が俺の中で響き渡った。
「恐るべし日本…。カムイ王都には無い食の技術だ」
「ずっと気になっていたが、カムイ王都とは本当にアニメの世界なのか?流石にコスプレイヤーでもここまで執着するのはあまり無いと思う」
「む。確かにな。時々ボロが出ると思っていたが、先生族はカムイ王都出身を貫き通している。かと言ってそんな地名は日本には存在しない」
「この前少し気になってスマホで調べたが、外国にもそんな名前の地名は見当たらなかった」
「奇遇だな。俺もお前達が住んでいる日本という地名を知らなかったのだ。アカデミーの書庫で調べて覚えたくらいにな。ここの地名…東京もカムイ王都では聞いたことない。きっと学者に調べさせても俺と同じ答えだろう」
ズルズルと音を立てながら俺は麺を飲み込む。小さな野菜が絡み付いてくるのがなんとも言えない。汁は最後におにぎりを入れてみたいから我慢だ。
カムラもハルサキもそれぞれの料理に手を伸ばしながらカムイ王都について頭を悩ます。そんなにカムイ王都が気になるのか?
「仕方ない。カムイ王都について話してやろう」
「ああ、それが理解に1番繋がる」
「先生族よろしく頼む」
「任せろ。カムイ王都は初代王のカムイが建国した国の名前だ。その初代王カムイの血を引き継いでいるのが今ここにいる俺のような王家の一族。代々続く王家は国の頂点に立つ者達なのだ」
「いわゆる天皇って感じなのか。貴方は結構いい身分だな」
「勿論。ただ……」
「む?どうした?」
「もう皇子としての俺は終わったのだ。建国記念日の宴の時に俺は賊に斬られてしまった。そして気付いたらこの世界に居て、アサガイ委員長とハルサキとリンガネに出会ったという経緯が今までだ」
「………なるほど。それがあらすじか。貴方が好きになるのもわかる気がする」
「ん?」
「よく出来ているアニメだ。今はカゲルのせいでアニメなんてやっていないが、平和になったらAクラスの生徒達みんなで見よう」
「リンガネあたりは喜びそうだな」
「ちょっと待て、2人は何を話している?」
「アニメならミロクニ族あたりに聞いてみるといい。あいつは物語が好きでテレビやら小説やらを読み漁っているらしいからな」
絶対に噛み合ってない。直感で俺は確信した。しかしどうやって噛み合わせれば良いのかもわからない俺は口角を引き攣らせるしか出来ずにいる。
テーブルを挟んだ向かい側にいる2人は物語について話し始めるから完全に俺は置いていかれた気分だ。するとベッドの近くにある戸棚から1冊の本が落ちる音がした。
「あ…」
俺はあと少しで終わるラーメンを置いて落ちた本を取り上げる。噂をすれば何とやらだ。
「ちょうど話題に出ていたミロクニから紹介された本なんだ。お前達は読んだことはあるか?」
「ミロクニ族はよく本を薦めてくれるが俺はどうにも文字が並んでいると眠くやってしまうのでな。ハルサキ族はどうだ?本は好きだろう?」
「見せてくれ。………これは読んだことない。というか薦められていないな。もし貴方が読んで面白かったら紹介してほしい」
「わかった。アカデミーの書庫は貸し出しの期限はあるのか?」
「3週間の期限がある。でも任務などを含めると3週間なんてあっという間に過ぎてしまうから要注意だ」
ハルサキに言われて俺は手に持つ黒い表紙の本を眺める。そこまで分厚く無いから真剣に読めば1日で終わるだろう。
紹介して貰っておいて読まないのは流石に気が引ける。ミロクニは俺に読んで感想が欲しいとあの時言っていた。しょうがない。明日にでも本を読み始めて見よう。
俺は戸棚に本を丁寧にしまった。全く何も入っていない棚に1冊だけの本は少し浮いているように見える。やはり少しだけ小物を揃えた方が良いのだろうか。
「いいや俺は後に出て行く身。必要最低限で構わない」
「先生族よ。何をぶつぶつと言っている?」
「麺が伸び始めている。最後の一口を食べてスープご飯を試してくれ」
「ああ、今行く」
まだ俺とカムラとハルサキの男子会は続く。男子会は今日の任務の件で落ち込んでいる俺の側にいるための口実だとはわかっていた。
しかしそれに気付かない振りをして3人で食べる食事は何だか美味しくて温かい。また初めての感情が湧き出た。
「手を伸ばせば助けられた。でも俺は手を伸ばさなかった」
「俺のように怖気付いたのか?」
「その通り。俺の目の前で母は頭からカゲルに喰われた。数秒後には当時のアカデミーの人間が助けに来てくれたがもう遅かったのだ。思考が幼かった俺はずっとアカデミーが到着するのが遅いせいで母は死んだと思っていた。でも今になっては、手を伸ばさなかった俺が母の命を握っていたと。責めるのは自分自身だったと思っている」
カムラは乾いた笑いをしておにぎりに手を伸ばした。こいつも似たような状況を経験していたのだな。パリッと音の鳴るカムラのおにぎり。少し遠くでもまた違う音が鳴った気がした。
「別に共感するために言ったのではない。ただ先生族に聞いてほしかっただけなのだ」
「……ああ」
「この話は俺達の秘密にしておこう。そろそろハルサキ族が戻ってくるはず」
そう予言したようにカムラが言えば隣の部屋からハルサキが両手に料理を持って帰ってくる。3つの料理は湯気が立ち、少し前におにぎりを食べた腹に一気に空腹感を与えた。
「貴方のカップラーメンも食べれる。先にお湯を入れておいたからちょうど3分経ったはずだ」
「ありがとう」
「カムラ、のり弁はこれくらいの温かさでいいか?」
「十分だ。有り難く頂こう」
俺は筒状の入れ物の蓋を取って中に入っている麺を箸で掬って食べ始める。本日2度目の感動が俺の中で響き渡った。
「恐るべし日本…。カムイ王都には無い食の技術だ」
「ずっと気になっていたが、カムイ王都とは本当にアニメの世界なのか?流石にコスプレイヤーでもここまで執着するのはあまり無いと思う」
「む。確かにな。時々ボロが出ると思っていたが、先生族はカムイ王都出身を貫き通している。かと言ってそんな地名は日本には存在しない」
「この前少し気になってスマホで調べたが、外国にもそんな名前の地名は見当たらなかった」
「奇遇だな。俺もお前達が住んでいる日本という地名を知らなかったのだ。アカデミーの書庫で調べて覚えたくらいにな。ここの地名…東京もカムイ王都では聞いたことない。きっと学者に調べさせても俺と同じ答えだろう」
ズルズルと音を立てながら俺は麺を飲み込む。小さな野菜が絡み付いてくるのがなんとも言えない。汁は最後におにぎりを入れてみたいから我慢だ。
カムラもハルサキもそれぞれの料理に手を伸ばしながらカムイ王都について頭を悩ます。そんなにカムイ王都が気になるのか?
「仕方ない。カムイ王都について話してやろう」
「ああ、それが理解に1番繋がる」
「先生族よろしく頼む」
「任せろ。カムイ王都は初代王のカムイが建国した国の名前だ。その初代王カムイの血を引き継いでいるのが今ここにいる俺のような王家の一族。代々続く王家は国の頂点に立つ者達なのだ」
「いわゆる天皇って感じなのか。貴方は結構いい身分だな」
「勿論。ただ……」
「む?どうした?」
「もう皇子としての俺は終わったのだ。建国記念日の宴の時に俺は賊に斬られてしまった。そして気付いたらこの世界に居て、アサガイ委員長とハルサキとリンガネに出会ったという経緯が今までだ」
「………なるほど。それがあらすじか。貴方が好きになるのもわかる気がする」
「ん?」
「よく出来ているアニメだ。今はカゲルのせいでアニメなんてやっていないが、平和になったらAクラスの生徒達みんなで見よう」
「リンガネあたりは喜びそうだな」
「ちょっと待て、2人は何を話している?」
「アニメならミロクニ族あたりに聞いてみるといい。あいつは物語が好きでテレビやら小説やらを読み漁っているらしいからな」
絶対に噛み合ってない。直感で俺は確信した。しかしどうやって噛み合わせれば良いのかもわからない俺は口角を引き攣らせるしか出来ずにいる。
テーブルを挟んだ向かい側にいる2人は物語について話し始めるから完全に俺は置いていかれた気分だ。するとベッドの近くにある戸棚から1冊の本が落ちる音がした。
「あ…」
俺はあと少しで終わるラーメンを置いて落ちた本を取り上げる。噂をすれば何とやらだ。
「ちょうど話題に出ていたミロクニから紹介された本なんだ。お前達は読んだことはあるか?」
「ミロクニ族はよく本を薦めてくれるが俺はどうにも文字が並んでいると眠くやってしまうのでな。ハルサキ族はどうだ?本は好きだろう?」
「見せてくれ。………これは読んだことない。というか薦められていないな。もし貴方が読んで面白かったら紹介してほしい」
「わかった。アカデミーの書庫は貸し出しの期限はあるのか?」
「3週間の期限がある。でも任務などを含めると3週間なんてあっという間に過ぎてしまうから要注意だ」
ハルサキに言われて俺は手に持つ黒い表紙の本を眺める。そこまで分厚く無いから真剣に読めば1日で終わるだろう。
紹介して貰っておいて読まないのは流石に気が引ける。ミロクニは俺に読んで感想が欲しいとあの時言っていた。しょうがない。明日にでも本を読み始めて見よう。
俺は戸棚に本を丁寧にしまった。全く何も入っていない棚に1冊だけの本は少し浮いているように見える。やはり少しだけ小物を揃えた方が良いのだろうか。
「いいや俺は後に出て行く身。必要最低限で構わない」
「先生族よ。何をぶつぶつと言っている?」
「麺が伸び始めている。最後の一口を食べてスープご飯を試してくれ」
「ああ、今行く」
まだ俺とカムラとハルサキの男子会は続く。男子会は今日の任務の件で落ち込んでいる俺の側にいるための口実だとはわかっていた。
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