上 下
26 / 77
3章 反社会政府編 〜後悔〜

26話 囚われた少女

しおりを挟む
「行きましょう」


その1秒後俺を含めた生徒達は古びた建物へ駆けていく。前線を引っ張るのはアサガイ委員長とハルサキで勢いよく扉を蹴り飛ばしたかと思うとそのまま中へ入って行った。

それに続き、分担された役割をこなすために他の生徒も中に入る。俺は人命救助の役割だ。生徒達とは別の行動になってしまうがカムイ王都の皇子として助けを求めている人に手を伸ばさないわけにはいかない。


「クソっ!アカデミー!」

「ガキ達だ!カゲル様に近づけるな!」


リコン学長の読みは当たっていたようだ。ここは明らかにアカデミーの敵陣。その証拠に武器を持った男達が生徒達に突っ込む。


「…甘いな」


俺が指導者になって約1週間。嫌われるために死なない程度の辛く過酷な訓練をやらせた。限りある授業の時間の中で生徒達は苦しそうな顔をしながら取り組んでいたのだ。

結果的に嫌うことなく全て食らいついてくる生徒達に若干引きつつある俺は後ろの方で抜刀したあいつらを見ていた。

あれくらいの技量を持つ雑魚なら体力が無いヒマワリでも、腕力が無いレオンでも倒せる。


「とりあえずここは任せるか」


任務の現場という空気に当てられているのかもしれない。嫌われるために、アカデミーから追放されるためにと手を抜こうとする考えが一切無かった。

それどころか生徒達が戦う姿に気分が高鳴っている。こんなの初めてだ。こいつらに出会ってから初めてで名前がわからない感情が湧き出ることが多いのは何故だろう。

派閥の人間を相手するアサガイ委員長達を横目で見ながら俺はハルサキ達と共に階段を登り上へと上がって行った。


「アカデミーだ!抵抗せずにカゲルと囚われている被害者の場所を教えろ!」


上の階へ着くと同時にハルサキは叫ぶ。するとそこには女と小さな子供が何かに向かって祈りを捧げていた。俺達の存在に気付くと絶望の目を向けて距離を取ろうとする。次の瞬間、黒い影が俺達と女子供の間を通り抜けた。


「む。出てきたぞ」

「さっさと片付けちまおうぜ」

「……討伐」

「気をつけろ。たぶん他にもいるはず。…貴方は俺達に構わずに上へ向かってください。ここは3階建てです…!」

「ああ、気を抜くなよ」


俺は引き続き囚われた人間の捜索をするために階段を駆け上がる。1階の騒がしさが最初よりも落ち着いているので無事確保出来たのだろう。

それにしても様々な年代の女や小さな子供まで参加しているとは。どれをどう考えればカゲルを崇拝出来るのだろうか。アカデミーの人間はこんなにも奴らを討伐しようと考えているのに。


「なんか、アカデミーの思考が染み込んできたな…」


衣食住を提供してもらえるために居座っているだけなのに、気づけばアカデミーの味方をするような言葉を考えてしまう。1週間の間に本当のアカデミーの人間になりつつあるのはきっと……。


「誰かいるか?」


3階に着いた俺は広々とした部屋に声をかける。家具のような物は1つも置いていなくて、空き家のような場所だった。


「あ……ああ…」

「いるのか!?」


微かな声が聞こえて俺は3階の奥へと走り出す。この建物の外観には浮いている柄の襖のようなものが見えて俺はそれを蹴り飛ばした。


「……ヒマワリ!?」

「先生…」


目を疑う光景だ。1階で派閥の人間を確保していたはずのヒマワリが大きな体をしたカゲルに押し倒されている。

自身の特刀でカゲルが開く大きな口に抵抗するが息切れが激しい。訓練でわかったヒマワリの弱点は体力の無さだ。

それが1週間で完璧に改善されるわけがない。例え武術の技能が上がったとしても体力は徐々につくもの。腕が震え始めているヒマワリの表情は苦しそうだった。


「ヒマワ…」

「ヒッヒッヒ。静かにしなされ」

「誰だ!?」


もう1人の声が聞こえたと思ったら俺の首に冷たい刃物が当てられる。氷漬けされたように固まってしまった。振り向きが出来ないが声からして老婆だろう。力は圧倒的に俺の方が勝っている。しかし動こうとしたその瞬間、首筋に暖かい水が流れた。


「動いたら切るぞ」

「……クソっ」

「その討伐隊の刀を下に落とせ。さもなくば動脈を切る」

「俺を捕らえてどうする?こいつらの餌にするのか?」

「黙りなされ。もう一度言おう。刀を落とせ」


この状況で刀を落としたらヒマワリを助けられない。今もカゲルと戦っている彼女は限界まで来ていた。飛び出せるものなら飛び出して助けたい。

そうすればカゲルと距離を取って下にいる生徒達を呼べば全てが良い方向で終わる。そう、頭の中では思っていた。


「ヒッヒッヒ。よろしい」


金属の音が3階の部屋に響き渡る。俺の特刀は石の地面に落ちていた。


「……ヒマワリを解放しろ」

「こいつは贄だ。カゲル様はお腹を空かせている。最近アカデミー側につく人間が手に入らなくてな。久々の食事だ」

「先、生…」

「…………」


カゲルの口がヒマワリの首元に近づいていく。俺は顔を顰めるだけで体を動かせることは出来なかった。するとカゲルは一旦後ろに飛躍してヒマワリと距離を取り出した。ヒマワリは一瞬安堵の顔をする。


「逃げろ!ヒマワリ!!」


俺の声を聞いたヒマワリは息切れしながらも立ち上がって囚われている俺に向かって走ってきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...