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2章 ここから始まる教師生活
22話 読めない少女
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指導者生活が始まって1週間。相変わらず俺はアカデミー内で生活している。
大体俺が教える鍛錬は午前中に行われ、午後は自分に向けての鍛錬。食事は生徒の誰かしらと取って、夜になれば綺麗に掃除されている自室で休む。そんな1日を過ごしていた。
カムイ王都にいた時よりも自分の時間というものが取れているこの指導者生活。皇子にしては目まぐるしく動いていた王都での生活より緩い気がした。
鍛錬以外の空いた時間は大抵アカデミーの書庫で過ごしている。そして現在も、俺は1人書庫にて大量の書物を並べていた。
「この本も近年の事については書かれていない」
何度も見たページを捲りながら呟く俺。書庫にあるテーブルの上に乗せられた本は全てこの世界について記されているものだった。
以前食堂でリコン学長と話して以来、俺はこうやって死者の世界について調べている。別に生徒と話が噛み合わないからというわけではないし、リコン学長の考えを理解しようと思っているわけではない。
ただ単純に興味が湧いただけだ。
「結局、今日の収穫はなかったか…」
きっと調べ物を始めた1日目に沢山覚えてしまったからだろう。ここ2日は新しい知識が身に付けられていない。
最近の大きな収穫と言えばこの死者の世界……名前は日本と言い、ここ以外にも大陸がありその数は195ヵ国らしいということだ。しかしその中にカムイ王都の名は記されていなかった。
「………」
「………」
「ん?…うぉ!み、ミロクニ。いたのか?」
「…今来た」
「ならば声をかけろ。驚いたぞ」
「……先生、特刀と服が仕上がったって」
「やっとか。3日とか言ってたくせに1週間かかるとは」
「……センリ先生が職員室に来いって」
「その伝言確かに受け取った。戻って良いぞ」
「……本」
「本?これか?この世界についての内容が記されているものだ。お前達は知ってる内容ばかりだろう。好奇心で読んでいる」
「……これ」
静かに書庫に入ってきたミロクニは静かに歩いて静かに本棚から1冊を取り出す。真っ黒な表紙の本は小さな手から俺の大きな手へと渡された。
そこまで分厚くない普通の本。数ページ捲ってみると物語が綴られている小説のようだった。
「読んで欲しいのか?」
「……私の思い出の本」
どうやら読んで欲しいみたいだ。あまり物語は読まないのだが、渡されてしまったからには逃げ道はない。ずっと静かなミロクニだけどその目は何かを伝えたいように思えた。
「はぁ…。読んだら感想を言おう」
「……うん」
「………」
「………」
「ミロクニは本が好きなのか?」
「……本を読めば私はヒーローになれる」
「ひーろー…英雄の言い換えだな。カゲルを討伐しているお前達は英雄と呼ばれてそうだが」
「私はヒーローじゃない」
「え?」
「……センリ先生待ってる。早く行かないと怒られる」
「ああ、そうだ。あいつは何かと面倒臭い。足止めして悪かったな」
俺がそう言えばミロクニは何も言わずに頷いて書庫から出て行く。生徒の中でも不思議な性格をしていて、扱いづらい部類に入っている彼女。
話してはくれるけど表情ひとつ変えないので俺としては怒っているのか楽しいのかも判断出来なかった。無口では似ているがハルサキとはまた違う。
俺は渡された本を抱えながら散らかったテーブルの上を片付けて、職員室へと向かった。
ーーーーーー
「遅い!せっかく出来上がったと言うのに遅いぞ!」
「遅いのはそっちだ。1週間も俺を待たせた」
職員室に着けばいつものようにセンリの嫌味が始まる。遅いと言われても伝言を預かってからすぐにここに来た。
ということはミロクニが伝えるのを遅くしたのだろう。それをセンリに言ってもきっと聞いてもらえないはずだから俺は嫌そうな顔をしながらも黙っていた。
「ほれ、まずは特刀じゃ」
少し落ち着いたのかセンリは本題に移り側にあった木の箱から丁寧に特刀を持ち上げる。黒い外見をした刀には緑色の模様が描かれており、まるで悪の儀式に使うような見た目だった。
俺は片手で特刀を受け取ると、ずっしりとした重みが感じられる。ずっと使っていたカムイ王都の刀よりも大きめで手に慣れるのは時間がかかりそうだ。
「どうじゃ?」
「生徒はこれを振っているのか。無駄な重さを感じる」
「無駄なものは一切ないわい。どれ、このセンリ先生が特刀について指導をしてやろう。こっちじゃ」
手招きするセンリは職員室の隣にある部屋に入って行く。ここには指導者の机や書類があるから十分に動くことが出来ないための配慮だろう。
俺は鍛錬を教える指導者故に専用の場所はない。アサガイ委員長の情報によれば、職員室は座学を教える指導者の仕事場として利用されているらしい。
俺は横目で周りを見れば動きづらそうな黒服を着た何人もの指導者が書類に手を伸ばしていた。
「まずは特刀の説明じゃ。見た目は普通の刀と変わらんし、振り方だってお前の刀と同じになっておる」
「見た目に神聖さを感じられないな」
「お洒落と言え!……コホン。ただ特刀にはある機能が付いておるのじゃ。持ち手の部分を見てみろ。妙な出っ張りが付いておる」
そう言われて俺は握っている柄の部分を眺める。確かにそこには普通の刀にはない出っ張りがあった。
大体俺が教える鍛錬は午前中に行われ、午後は自分に向けての鍛錬。食事は生徒の誰かしらと取って、夜になれば綺麗に掃除されている自室で休む。そんな1日を過ごしていた。
カムイ王都にいた時よりも自分の時間というものが取れているこの指導者生活。皇子にしては目まぐるしく動いていた王都での生活より緩い気がした。
鍛錬以外の空いた時間は大抵アカデミーの書庫で過ごしている。そして現在も、俺は1人書庫にて大量の書物を並べていた。
「この本も近年の事については書かれていない」
何度も見たページを捲りながら呟く俺。書庫にあるテーブルの上に乗せられた本は全てこの世界について記されているものだった。
以前食堂でリコン学長と話して以来、俺はこうやって死者の世界について調べている。別に生徒と話が噛み合わないからというわけではないし、リコン学長の考えを理解しようと思っているわけではない。
ただ単純に興味が湧いただけだ。
「結局、今日の収穫はなかったか…」
きっと調べ物を始めた1日目に沢山覚えてしまったからだろう。ここ2日は新しい知識が身に付けられていない。
最近の大きな収穫と言えばこの死者の世界……名前は日本と言い、ここ以外にも大陸がありその数は195ヵ国らしいということだ。しかしその中にカムイ王都の名は記されていなかった。
「………」
「………」
「ん?…うぉ!み、ミロクニ。いたのか?」
「…今来た」
「ならば声をかけろ。驚いたぞ」
「……先生、特刀と服が仕上がったって」
「やっとか。3日とか言ってたくせに1週間かかるとは」
「……センリ先生が職員室に来いって」
「その伝言確かに受け取った。戻って良いぞ」
「……本」
「本?これか?この世界についての内容が記されているものだ。お前達は知ってる内容ばかりだろう。好奇心で読んでいる」
「……これ」
静かに書庫に入ってきたミロクニは静かに歩いて静かに本棚から1冊を取り出す。真っ黒な表紙の本は小さな手から俺の大きな手へと渡された。
そこまで分厚くない普通の本。数ページ捲ってみると物語が綴られている小説のようだった。
「読んで欲しいのか?」
「……私の思い出の本」
どうやら読んで欲しいみたいだ。あまり物語は読まないのだが、渡されてしまったからには逃げ道はない。ずっと静かなミロクニだけどその目は何かを伝えたいように思えた。
「はぁ…。読んだら感想を言おう」
「……うん」
「………」
「………」
「ミロクニは本が好きなのか?」
「……本を読めば私はヒーローになれる」
「ひーろー…英雄の言い換えだな。カゲルを討伐しているお前達は英雄と呼ばれてそうだが」
「私はヒーローじゃない」
「え?」
「……センリ先生待ってる。早く行かないと怒られる」
「ああ、そうだ。あいつは何かと面倒臭い。足止めして悪かったな」
俺がそう言えばミロクニは何も言わずに頷いて書庫から出て行く。生徒の中でも不思議な性格をしていて、扱いづらい部類に入っている彼女。
話してはくれるけど表情ひとつ変えないので俺としては怒っているのか楽しいのかも判断出来なかった。無口では似ているがハルサキとはまた違う。
俺は渡された本を抱えながら散らかったテーブルの上を片付けて、職員室へと向かった。
ーーーーーー
「遅い!せっかく出来上がったと言うのに遅いぞ!」
「遅いのはそっちだ。1週間も俺を待たせた」
職員室に着けばいつものようにセンリの嫌味が始まる。遅いと言われても伝言を預かってからすぐにここに来た。
ということはミロクニが伝えるのを遅くしたのだろう。それをセンリに言ってもきっと聞いてもらえないはずだから俺は嫌そうな顔をしながらも黙っていた。
「ほれ、まずは特刀じゃ」
少し落ち着いたのかセンリは本題に移り側にあった木の箱から丁寧に特刀を持ち上げる。黒い外見をした刀には緑色の模様が描かれており、まるで悪の儀式に使うような見た目だった。
俺は片手で特刀を受け取ると、ずっしりとした重みが感じられる。ずっと使っていたカムイ王都の刀よりも大きめで手に慣れるのは時間がかかりそうだ。
「どうじゃ?」
「生徒はこれを振っているのか。無駄な重さを感じる」
「無駄なものは一切ないわい。どれ、このセンリ先生が特刀について指導をしてやろう。こっちじゃ」
手招きするセンリは職員室の隣にある部屋に入って行く。ここには指導者の机や書類があるから十分に動くことが出来ないための配慮だろう。
俺は鍛錬を教える指導者故に専用の場所はない。アサガイ委員長の情報によれば、職員室は座学を教える指導者の仕事場として利用されているらしい。
俺は横目で周りを見れば動きづらそうな黒服を着た何人もの指導者が書類に手を伸ばしていた。
「まずは特刀の説明じゃ。見た目は普通の刀と変わらんし、振り方だってお前の刀と同じになっておる」
「見た目に神聖さを感じられないな」
「お洒落と言え!……コホン。ただ特刀にはある機能が付いておるのじゃ。持ち手の部分を見てみろ。妙な出っ張りが付いておる」
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