【完結】異世界先生 〜異世界で死んだ和風皇子は日本で先生となり平和へと導きます〜

雪村

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2章 ここから始まる教師生活

21話 この世界の苦しみ

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「基本はわかってる。まずはカゲルについて教えてもらおう。あれは人では無いのだろう?」

「ええ、その通り。85年前に突如現れた未確認生物。カゲルというのはとある学者が言った名前を使っていて正式な名前は存在しないわ」

「何がどうなって現れた?」

「詳しいことはまだ解明されていない。でも地震や津波、台風なんかと同じ天災よ。あいつらが生まれることは必然だった」


真剣な顔で説明するリコン学長は大量の肉を一口で食べる。行動と言葉が合ってない。そんなリコン学長に釣られて俺も肉と米を大きく掬って食べた。


「カゲルは現れた当初から無作為に人を喰らった。最初は警察官や自衛隊が対応していたけど、時が進むにつれてカゲルが増えていったせいでカゲル専門の討伐隊が作られたの」

「それがここか」

「正解。ご褒美にフライドガーリックをあげましょう」

「いらん」

「そんなこと言わないで」


半分くらい食べた牛丼にゴロっと茶色い食べ物が置かれた。とてつもなく強い香りを放っている。貰ってしまったなら食べるしかない俺は乗せられたふらいどがーりっくを口に放り込んだ。


「……凄い強烈だな」

「それが良いのよ。これでニンニク仲間ね」

「これを食べたら歯磨き必須だぞ」

「ミロクニに教えてもらったのかしら?」

「そうだ。人と喋れなくなるらしい」

「でも今は食べている私達しかいないから遠慮なく話せるわね」

「必要事項だけ話してくれ」

「はいはい」


話が進んだと思ったら止まってしまい俺は毎度の如くため息をつきそうになる。でもこのリコン学長の料理の一部を食べてしまった今、俺の口臭は強烈だろう。なるべくため息はつかない方が良さそうだ。


「討伐アカデミーが創立された時はこんなに年齢層が低いわけじゃなかったの。それに授業なんてやってなかった。だってみんな学校を卒業した20代や30代の人達だったから」

「年齢層を低くした理由は?」

「体力や武術に伸びしろがあるからよ。それにあまり大きな声では言えないけど、若ければ考えが固くないの。自分勝手な行動はしないと同時に娯楽や快楽を求めることなく討伐に専念してくれる」

「どういうことだ」

「さぁ、どういうことでしょうか」

「教えてくれるのではなかったのか?」

「ここは自分で考えてちょうだい」


自分で考えてと言われても、俺の中で理解した答えはただの洗脳では?というものだった。

若い頭脳を利用して討伐させる。確かに大人になれば色々な事を覚えてしまうだろう。それこそ娯楽や快楽をだ。

そうなってしまえば任務に全ての力を注ぐことは出来ない。だから何も知らない若いうちに討伐に協力してもらうという作戦だろうか。

俺の嫌われ作戦よりもタチが悪い。無意識に俺の箸は止まっていたようで、リコン学長が首を傾げた。


「答えは出た?」

「正解かはわからない。けれども一応自分の中では解答が出た」

「そう。あえて聞かないことにするわ」

「そうしてくれると助かる」


箸の動きを再開した俺の牛丼は4分の1まで減っていた。何でこんなにも苛立っているのだろう。若干肉と米を噛み締める力が強くなっている気がする。


「他に聞きたいことは?」

「……最後の質問だ。鍛錬以外の授業というのは何をやっている?」

「思ったよりも軽い質問ね」

「質問に重いも軽いもないだろ」

「ふふっ。やっぱりシンリンは面白い。あの子達がやっている授業っていうのは中学や高校のものと一緒よ。復習といっても良いかしら。ちゃんとそれぞれの教師がいるから義務教育が必要な年齢でもちゃんと勉強を受けられる」

「リンガネのように成人している奴には必要ない気がするが?」

「必要なの。ここの子供達は」


この人が話してくれることの大半が理解出来ずに最後の質問が終わる。肝心な部分は教えてくれないようだった。


「まぁ、わからないことがあったら生徒達に聞こう」

「シンリン」 

「何だ」

「アカデミーの生徒達は普通じゃない。簡単に壊れてしまうの。何気ない言葉であの子達を傷つけないようにね」

「……俺はあいつらに早く嫌われたいんでね。その忠告は聞き流しておこう」

「頭の片隅に今の言葉が存在してくれればいいのよ」


最後に残った一口分の牛丼をかきこんだ俺は手を合わせた後、すぐに立ち上がる。おぼんごと持ち上げてリコン学長を見下すような形になる。


「壊れることは復元できると同じだ。あいつらは勝手に壊れて勝手に復元すれば良い」

「嫌われたいのか嫌われたくないのか…。貴方の答えには色々と深い意味があるように聞こえるわ」

「俺は思ったことを言ってるだけだ。もうここはカムイ王都ではない。民を気遣う皇子としての俺は死んだ。俺のことを知らない奴らが沢山いるんだ。自分に素直になっても良いだろう?」

「ふふっ、まぁね」

「それと俺からも教えてやろう」

「ん?」

「ずっと腰辺りから紐が垂れてるぞ。もしかして昨日見た鞭か?」

「え!?どこ!?」


リコン学長は思いっきり椅子を倒して立つと腰に手を当てながら確認する。やがて出ている紐部分を見つけたようで顔を真っ赤にして照れ始めた。

一体ここに持ち運んで何をするつもりだった…?考えたくもないことなので俺は頭から追い出すと、そのままおぼんを持ってリコン学長から離れる。生徒達に出くわす前に歯磨きをしておかないとな。
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