【完結】異世界先生 〜異世界で死んだ和風皇子は日本で先生となり平和へと導きます〜

雪村

文字の大きさ
上 下
20 / 77
2章 ここから始まる教師生活

20話 学長と食事

しおりを挟む
感情が激動してしまった今日を過ごした俺は1人で食堂に来ていた。現在Aクラスの生徒達は全員任務に出ていて、連れ出す相手もいない。現在時刻は午後の3時。お昼ご飯を食べ損ねた俺からしたらどのご飯に入るのだろうか。

そんな俺の頭の中はとある出来事の1ページで埋め尽くされていた。リンガネの件があった後に訓練室へと戻れば生徒1人1人が自主練習をこなしている姿を見た時の事だ。

俺が言った指摘を直すため、ある者は走り込みや筋肉を付ける運動を。またある者は刀の持ち方を気にしながら素振りをしていた。

そんな光景を目の当たりにした俺はよくわからない感情になってしまい、訓練室の入り口に声をかけず突っ立ったという最近の過去がある。


「お決まりですか?」


またしても過去を振り返っていた俺は料理人の前で突っ立っていたようで、声をかけられて驚きながら顔を上げる。

注文するなら早く注文してほしいという顔付きだった。俺は慌てて昨日アサガイ委員長に教えてもらった品書きの看板を見る。しかし書かれている料理全てがわからなかった。


「……牛丼?とやらを1つ」

「はい。お待ちください」


品書きを見ながら悩み悩んだ結果、出てきた言葉は昨晩も食べた牛丼というもの。それを口にすれば料理人は頷いて奥に設置されている厨房に行き作り始めた。

俺は自分が言った牛丼の単語に間違えはなかったと安心のため息をつくと人影が俺の横に見える。その人は片手を軽く上げて厨房へと話しかけた。


「すみませーん。スペシャルガーリックライス肉を添えて1つください。トッピングにマヨネーズお願いします」

「が、学長…!了解しました!」


聞いたことがある凄まじい料理名が唱えられたと同時に俺は横を向けば見慣れた着物女性。その姿と声を聞いた奥の料理人は俺の時よりも嬉しそうに声を張り上げて注文を受け取った。


「リコン学長、今日はよく会うな」

「そうね。でも今は食堂の前を通った時に貴方の姿が見えたから追いかけてきたようなものよ」

「俺に用があるのか?」

「ただ単にお話ししたいだけ」

「話すことは何もない」

「大丈夫。私こう見えてもコミュニケーションを取るのは得意なの。会話は私に身を委ねれば良いわ」

「は?」

「一緒に食べましょう?」

「……構わん」


微笑むリコン学長の申し出に断る理由が見つからなかった俺は渋々と頷いた。


「Aクラスの子達は?」

「全員任務だ」

「そう。最近カゲルが活性化しているから任務が多くなるのは当然ね。…申し訳ないと思っているわ」

「そんな気持ちがあるのか?」

「勿論よ。年齢は違えどあの子達は学生。青春の真っ最中なのだから」

「……一緒に食べるついでに教えてくれないか」

「何を?」

「この世界についてだ」

「まるでこの世界の人じゃないみたいな言い方ね」

「俺は一度死んでいる」

「よくわからないけど良いわよ。アカデミーの教師に教えない理由は無いもの」


注文場所で軽く会話をしていると、料理人が急いだように品物を持ってくる。


「お待たせしました!スペシャルガーリックライス肉を添えて、トッピングマヨネーズですね。おまけでフライドガーリック乗せときました!」

「ありがとう」

「いえ!学長にはお世話になりっぱなしなので!」

「そう?私も貴方にお世話になってるわ」

「嬉しいお言葉です!……えっと牛丼はこちらですね」

「ああ」


俺の時は随分と声の高さが違うな。リコン学長相手だと尻尾を振った犬のように見える。俺は牛丼を受け取ってリコン学長と共に近くのテーブルへ座った。


「それじゃあ前失礼するわね」


向かい合う形で座った俺達はあらかじめ置いてある箸に手を伸ばして食事を頂く。昨日も食べたが、やはり牛丼は美味しい。

今日の朝ごはんに食べたふれんちとーすとも美味だった。後で生徒達に他の料理のことを聞いてみよう。ここを追い出される前に色んなものを食べておきたい。


「ん~!やっぱりこれね」

「昨日ミロクニも食べていた。俺も少し頂いたが……随分と重い品ではないか?」

「それが良いんじゃない。活力が高まってこれからのお仕事も頑張れそう」

「上にかかっている白いやつは何だ?」

「マヨネーズよ。ミロクニはかけてなかった?」

「ああ」

「それじゃあまだまだね。マヨネーズがあってこそのコッテリ感。それにおまけのフライドガーリックが良い味出してる。これを食べてこその真の料理よ」

「理解できん」


リコン学長が箸で米と肉を掬うとミロクニが食べていた時よりもきつい香りが俺の方に来る。やはり一緒に食べない方が良かったのかもしれない。嫌な香りではないけど、肺辺りが少し重くなる気がした。


「それで?何が聞きたいの?」

「正直わからないことだらけだ。見知らぬ金属の物や動く個室……。カムイ王都では見たことがない。それにカゲルの存在。黒い人間がカゲルという名前なのはわかったが、何故そんな奴らが彷徨いているのか」

「結局は全てがわからないってことね」

「物については後で聞こう。とりあえずこのアカデミーのことを詳しく説明してくれ」


俺牛丼の肉を口に運んで噛み締めながらリコン学長に尋ねた。リコン学長は相変わらず凄い香りを俺に届かせながら食べている。


「アカデミーはカゲルを討伐する組織であり、若い世代を成長させる学校。それは揺るぎない基本よ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

先生と私。

狭山雪菜
恋愛
茂木結菜(もぎ ゆいな)は、高校3年生。1年の時から化学の教師林田信太郎(はやしだ しんたろう)に恋をしている。なんとか彼に自分を見てもらおうと、学級委員になったり、苦手な化学の授業を選択していた。 3年生になった時に、彼が担任の先生になった事で嬉しくて、勢い余って告白したのだが… 全編甘々を予定しております。 この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

火駆闘戯 第一部

高谷 ゆうと
ファンタジー
焼暴士と呼ばれる男たちがいた。 それは、自らの身体ひとつで、人間を脅かす炎と闘う者たちの総称である。 人間と対立する種族、「ラヨル」の民は、その長であるマユルを筆頭に、度々人間たちに奇襲を仕掛けてきていた。「ノーラ」と呼ばれる、ラヨルたちの操る邪術で繰り出される炎は、水では消えず、これまでに数多の人間が犠牲になっていった。人々がノーラに対抗すべく生み出された「イョウラ」と名付けられた武術。それは、ノーラの炎を消すために必要な、人間の血液を流しながらでも、倒れることなく闘い続けられるように鍛え上げられた男たちが使う、ラヨルの民を倒すための唯一の方法であった。 焼暴士の見習い少年、タスクは、マユルが持つといわれている「イホミ・モトイニ」とよばれる何かを破壊すべく、日々の鍛錬をこなしていた。それを破壊すれば、ラヨルの民は、ノーラを使えなくなると言い伝えられているためだ。 タスクは、マユルと対峙するが、全く歯が立たず、命の危機にさらされることになる。己の無力さを痛感したその日、タスクの奇譚は、ゆっくりと幕を開けたのだった。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...