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2章 ここから始まる教師生活
19話 矛盾した生徒愛
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訓練室にいる生徒達を放っておいて俺はアカデミーの廊下を走る。幸い他のクラスも授業中なので廊下には誰もいなかった。
不幸中の幸いとはこのことだろう。人を気にせずお構いなしに俺はアサガイ委員長と共に1秒でも早く走った。
「そこの曲がり角のお部屋です!」
「すまない!助かる!」
「良い加減降ろせよ!」
完全に位置がわかった俺はアサガイ委員長を追い越して曲がり角にある部屋の扉を勢いよく開けた。
「誰かいるか!?」
「うるさいのぅ……って」
「あら、シンリンじゃないですか。昨日ぶりですね」
「……なぜセンリとリコン学長がここにいる」
医務室と言う名の部屋に入れば知っている顔が2つ。先程Aクラスの教室で説教されたばかりのセンリと昨日対面した着物の女リコン学長がお茶を飲んでいた。
俺は最悪だと思いながら顔を顰めて中に入る。リンガネは今も暴れていて、後ろにいるアサガイ委員長に宥められていた。
「医師どこだ?」
「ここにおるじゃよ」
「は?まさかセンリが医師なのか?」
「いかにも。ちゃーんと医師免許持っとるもん!」
「なぜ威張る…」
「シンリン、そんなに慌ててどうしたのかしら?」
「リンガネにこぶができた。医師に診てもらおうと思ってここに来たんだ」
「あら…」
リコン学長は俺に担がれているリンガネを見て眉を下げる。椅子から立ち上がると俺の背中の方に周ってリンガネの頭を撫でた。
「確かにボコっとしたものがありますね。………」
「学長、あまり触らないでくれ。地味に痛いんだ」
「……えぃ!」
「ギャッ!!」
「ふふっ、よしよし……えぃ!」
「やめろや!このドS!」
「リンガネ足を動かすな」
こぶを潰されたのか、リンガネは痛みでまた足をバタつかせる。俺の腹につま先が当たるのでやめてほしい。
ずっと撫でては潰そうとするリコン学長から距離を取ろうと俺はリンガネを近くにある柔らかそうな長椅子に落とした。
「先生ぇ…もう少し優しくするっていう気持ちはないのかよ」
頭をさすりながらリンガネは少し涙目になって俺を見上げる。ここに連れてきただけでも十分な優しさだと思うが?そんな俺の優しさは伝わってないようでリンガネは不満そうな顔をしていた。
「どれどれ」
「イテッ!センリ先生もっと優しく!」
「普通のたんこぶじゃな。そんなに慌てんでもいい状態じゃ。髪の毛があるから流石に湿布は貼れんけど、氷で冷やしとくか?」
「んじゃあ、お願いします…」
「準備するから待っておれ。ああ、そうだアサガイお前は戻って良いぞ。こいつの案内ご苦労だったな」
「はい。シンリン先生、私は訓練室に戻ります。皆んなでやっておくことはありますか?」
「特にない」
「わかりました。なら時間が終わるまで自主練ということにしときますね」
「頼んだぞ」
「アサガイの方がよっぽど先生らしいのぅ」
「俺は先生になるつもりは無かったんだ。先生らしさを求めてもらっては困る」
「まぁまぁ2人とも。シンリンも生徒と仲良くやっているみたいで良かったわ」
センリは氷や布の準備をしながら俺に嫌味を言ってくる。なんでこいつが医師の役割を担っているのだ…。
何かと縁があるセンリに俺の気分は勢いよく下がっていく。苛立つ俺に苦笑いを見せたアサガイ委員長は綺麗な一礼をして医務室から去って行った。
「にしても慌て過ぎじゃ。たかがたんこぶくらいで……。一体どんな訓練をしたんじゃか」
「実力を見るためにリンガネと手合わせをしたんだ。俺からは何もしないと思っていたのに、最後の最後手を出してしまってリンガネを押し倒してしまった」
「押し倒した!?シンリン、その状況を詳しく教えなさい!」
「鼻息が荒いぞリコン学長。状況と言ってもみぞおち付近に手を当てて床に倒してしまっただけだ」
「ああもう!言わなくていいって!学長も余計なこと聞かないでよ!」
「あらあらあらあら~~」
「何を微笑んでいる?」
リコン学長は自分の頬に両手を当てて満面の笑みで体をくねらせる。どうやら押し倒した状況がお気に召したようだ。
リンガネに至っては顔を赤く染めて何か抵抗するように足をバタつかせ何かに耐え始めた。本当お前の足はうるさいな。
「退いた退いた。氷持ったセンリ先生のお通りじゃい」
興奮するリコン学長を押し退けたセンリは素早い手付きでリンガネのこぶに氷を包んだ布を当てた。
「ほれ、あとは自分で当てなされ」
「はーい」
リンガネは素直に従って氷を受け取り自分の手で支える。大怪我でないのならもう俺がここにいる意味はないか。
リンガネも足を暴れさせれるくらい元気なようだし、訓練室にいる残りの生徒をアサガイ委員長に任せっきりも申し訳ない。
「俺は戻る。お大事にな」
「お前が大切にしないからこうなったんじゃろがい」
「それは謝る」
「意外と素直じゃな」
「少し、嫌な思い出と重なってしまった」
「先生?」
「そういえばリコン学長。俺の父上と母上の捜索はどうなっている?」
「あっ……コホン。まだ情報は入ってないわ。気長に待ってちょうだい」
「そうか。なるべく早くお願いしたい。無事かどうかが知りたいんだ」
「任せて」
「失礼する」
俺は3人にそう告げて医務室から出て行った。扉を閉めた後、まだ静かな廊下を歩いて訓練室まで向かう。
「何だか、疲れてしまったな」
ポツリと呟いた言葉は廊下に響くことなく消えていった。リンガネの刀の振りかぶりで重なった賊の気持ち悪い笑顔が未だに脳内に張り付いている。
「そういえば俺は、嫌われるための授業をしていたんだよな。なのに何で医務室に連れて行ったのだろうか。明らかに矛盾している行為だ……」
やっと自分の行いを自覚した俺。それに気付いてしまってより疲れが増した気がする。このまま逃げ出してしまおうかとも考えたがどうせ無駄だろう。俺は甘い考えを振りかぶって前を向いた。
「………生徒達が待ってる」
指導者生活1日目。謎の想いが交差した日となった。
不幸中の幸いとはこのことだろう。人を気にせずお構いなしに俺はアサガイ委員長と共に1秒でも早く走った。
「そこの曲がり角のお部屋です!」
「すまない!助かる!」
「良い加減降ろせよ!」
完全に位置がわかった俺はアサガイ委員長を追い越して曲がり角にある部屋の扉を勢いよく開けた。
「誰かいるか!?」
「うるさいのぅ……って」
「あら、シンリンじゃないですか。昨日ぶりですね」
「……なぜセンリとリコン学長がここにいる」
医務室と言う名の部屋に入れば知っている顔が2つ。先程Aクラスの教室で説教されたばかりのセンリと昨日対面した着物の女リコン学長がお茶を飲んでいた。
俺は最悪だと思いながら顔を顰めて中に入る。リンガネは今も暴れていて、後ろにいるアサガイ委員長に宥められていた。
「医師どこだ?」
「ここにおるじゃよ」
「は?まさかセンリが医師なのか?」
「いかにも。ちゃーんと医師免許持っとるもん!」
「なぜ威張る…」
「シンリン、そんなに慌ててどうしたのかしら?」
「リンガネにこぶができた。医師に診てもらおうと思ってここに来たんだ」
「あら…」
リコン学長は俺に担がれているリンガネを見て眉を下げる。椅子から立ち上がると俺の背中の方に周ってリンガネの頭を撫でた。
「確かにボコっとしたものがありますね。………」
「学長、あまり触らないでくれ。地味に痛いんだ」
「……えぃ!」
「ギャッ!!」
「ふふっ、よしよし……えぃ!」
「やめろや!このドS!」
「リンガネ足を動かすな」
こぶを潰されたのか、リンガネは痛みでまた足をバタつかせる。俺の腹につま先が当たるのでやめてほしい。
ずっと撫でては潰そうとするリコン学長から距離を取ろうと俺はリンガネを近くにある柔らかそうな長椅子に落とした。
「先生ぇ…もう少し優しくするっていう気持ちはないのかよ」
頭をさすりながらリンガネは少し涙目になって俺を見上げる。ここに連れてきただけでも十分な優しさだと思うが?そんな俺の優しさは伝わってないようでリンガネは不満そうな顔をしていた。
「どれどれ」
「イテッ!センリ先生もっと優しく!」
「普通のたんこぶじゃな。そんなに慌てんでもいい状態じゃ。髪の毛があるから流石に湿布は貼れんけど、氷で冷やしとくか?」
「んじゃあ、お願いします…」
「準備するから待っておれ。ああ、そうだアサガイお前は戻って良いぞ。こいつの案内ご苦労だったな」
「はい。シンリン先生、私は訓練室に戻ります。皆んなでやっておくことはありますか?」
「特にない」
「わかりました。なら時間が終わるまで自主練ということにしときますね」
「頼んだぞ」
「アサガイの方がよっぽど先生らしいのぅ」
「俺は先生になるつもりは無かったんだ。先生らしさを求めてもらっては困る」
「まぁまぁ2人とも。シンリンも生徒と仲良くやっているみたいで良かったわ」
センリは氷や布の準備をしながら俺に嫌味を言ってくる。なんでこいつが医師の役割を担っているのだ…。
何かと縁があるセンリに俺の気分は勢いよく下がっていく。苛立つ俺に苦笑いを見せたアサガイ委員長は綺麗な一礼をして医務室から去って行った。
「にしても慌て過ぎじゃ。たかがたんこぶくらいで……。一体どんな訓練をしたんじゃか」
「実力を見るためにリンガネと手合わせをしたんだ。俺からは何もしないと思っていたのに、最後の最後手を出してしまってリンガネを押し倒してしまった」
「押し倒した!?シンリン、その状況を詳しく教えなさい!」
「鼻息が荒いぞリコン学長。状況と言ってもみぞおち付近に手を当てて床に倒してしまっただけだ」
「ああもう!言わなくていいって!学長も余計なこと聞かないでよ!」
「あらあらあらあら~~」
「何を微笑んでいる?」
リコン学長は自分の頬に両手を当てて満面の笑みで体をくねらせる。どうやら押し倒した状況がお気に召したようだ。
リンガネに至っては顔を赤く染めて何か抵抗するように足をバタつかせ何かに耐え始めた。本当お前の足はうるさいな。
「退いた退いた。氷持ったセンリ先生のお通りじゃい」
興奮するリコン学長を押し退けたセンリは素早い手付きでリンガネのこぶに氷を包んだ布を当てた。
「ほれ、あとは自分で当てなされ」
「はーい」
リンガネは素直に従って氷を受け取り自分の手で支える。大怪我でないのならもう俺がここにいる意味はないか。
リンガネも足を暴れさせれるくらい元気なようだし、訓練室にいる残りの生徒をアサガイ委員長に任せっきりも申し訳ない。
「俺は戻る。お大事にな」
「お前が大切にしないからこうなったんじゃろがい」
「それは謝る」
「意外と素直じゃな」
「少し、嫌な思い出と重なってしまった」
「先生?」
「そういえばリコン学長。俺の父上と母上の捜索はどうなっている?」
「あっ……コホン。まだ情報は入ってないわ。気長に待ってちょうだい」
「そうか。なるべく早くお願いしたい。無事かどうかが知りたいんだ」
「任せて」
「失礼する」
俺は3人にそう告げて医務室から出て行った。扉を閉めた後、まだ静かな廊下を歩いて訓練室まで向かう。
「何だか、疲れてしまったな」
ポツリと呟いた言葉は廊下に響くことなく消えていった。リンガネの刀の振りかぶりで重なった賊の気持ち悪い笑顔が未だに脳内に張り付いている。
「そういえば俺は、嫌われるための授業をしていたんだよな。なのに何で医務室に連れて行ったのだろうか。明らかに矛盾している行為だ……」
やっと自分の行いを自覚した俺。それに気付いてしまってより疲れが増した気がする。このまま逃げ出してしまおうかとも考えたがどうせ無駄だろう。俺は甘い考えを振りかぶって前を向いた。
「………生徒達が待ってる」
指導者生活1日目。謎の想いが交差した日となった。
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