【完結】異世界先生 〜異世界で死んだ和風皇子は日本で先生となり平和へと導きます〜

雪村

文字の大きさ
上 下
19 / 77
2章 ここから始まる教師生活

19話 矛盾した生徒愛

しおりを挟む
訓練室にいる生徒達を放っておいて俺はアカデミーの廊下を走る。幸い他のクラスも授業中なので廊下には誰もいなかった。

不幸中の幸いとはこのことだろう。人を気にせずお構いなしに俺はアサガイ委員長と共に1秒でも早く走った。


「そこの曲がり角のお部屋です!」

「すまない!助かる!」

「良い加減降ろせよ!」


完全に位置がわかった俺はアサガイ委員長を追い越して曲がり角にある部屋の扉を勢いよく開けた。


「誰かいるか!?」

「うるさいのぅ……って」

「あら、シンリンじゃないですか。昨日ぶりですね」

「……なぜセンリとリコン学長がここにいる」


医務室と言う名の部屋に入れば知っている顔が2つ。先程Aクラスの教室で説教されたばかりのセンリと昨日対面した着物の女リコン学長がお茶を飲んでいた。

俺は最悪だと思いながら顔を顰めて中に入る。リンガネは今も暴れていて、後ろにいるアサガイ委員長に宥められていた。


「医師どこだ?」

「ここにおるじゃよ」

「は?まさかセンリが医師なのか?」

「いかにも。ちゃーんと医師免許持っとるもん!」

「なぜ威張る…」

「シンリン、そんなに慌ててどうしたのかしら?」

「リンガネにこぶができた。医師に診てもらおうと思ってここに来たんだ」

「あら…」


リコン学長は俺に担がれているリンガネを見て眉を下げる。椅子から立ち上がると俺の背中の方に周ってリンガネの頭を撫でた。


「確かにボコっとしたものがありますね。………」

「学長、あまり触らないでくれ。地味に痛いんだ」

「……えぃ!」

「ギャッ!!」

「ふふっ、よしよし……えぃ!」

「やめろや!このドS!」

「リンガネ足を動かすな」


こぶを潰されたのか、リンガネは痛みでまた足をバタつかせる。俺の腹につま先が当たるのでやめてほしい。

ずっと撫でては潰そうとするリコン学長から距離を取ろうと俺はリンガネを近くにある柔らかそうな長椅子に落とした。


「先生ぇ…もう少し優しくするっていう気持ちはないのかよ」


頭をさすりながらリンガネは少し涙目になって俺を見上げる。ここに連れてきただけでも十分な優しさだと思うが?そんな俺の優しさは伝わってないようでリンガネは不満そうな顔をしていた。


「どれどれ」

「イテッ!センリ先生もっと優しく!」

「普通のたんこぶじゃな。そんなに慌てんでもいい状態じゃ。髪の毛があるから流石に湿布は貼れんけど、氷で冷やしとくか?」

「んじゃあ、お願いします…」

「準備するから待っておれ。ああ、そうだアサガイお前は戻って良いぞ。こいつの案内ご苦労だったな」

「はい。シンリン先生、私は訓練室に戻ります。皆んなでやっておくことはありますか?」

「特にない」

「わかりました。なら時間が終わるまで自主練ということにしときますね」

「頼んだぞ」

「アサガイの方がよっぽど先生らしいのぅ」

「俺は先生になるつもりは無かったんだ。先生らしさを求めてもらっては困る」

「まぁまぁ2人とも。シンリンも生徒と仲良くやっているみたいで良かったわ」


センリは氷や布の準備をしながら俺に嫌味を言ってくる。なんでこいつが医師の役割を担っているのだ…。

何かと縁があるセンリに俺の気分は勢いよく下がっていく。苛立つ俺に苦笑いを見せたアサガイ委員長は綺麗な一礼をして医務室から去って行った。


「にしても慌て過ぎじゃ。たかがたんこぶくらいで……。一体どんな訓練をしたんじゃか」

「実力を見るためにリンガネと手合わせをしたんだ。俺からは何もしないと思っていたのに、最後の最後手を出してしまってリンガネを押し倒してしまった」

「押し倒した!?シンリン、その状況を詳しく教えなさい!」

「鼻息が荒いぞリコン学長。状況と言ってもみぞおち付近に手を当てて床に倒してしまっただけだ」

「ああもう!言わなくていいって!学長も余計なこと聞かないでよ!」

「あらあらあらあら~~」

「何を微笑んでいる?」


リコン学長は自分の頬に両手を当てて満面の笑みで体をくねらせる。どうやら押し倒した状況がお気に召したようだ。

リンガネに至っては顔を赤く染めて何か抵抗するように足をバタつかせ何かに耐え始めた。本当お前の足はうるさいな。


「退いた退いた。氷持ったセンリ先生のお通りじゃい」


興奮するリコン学長を押し退けたセンリは素早い手付きでリンガネのこぶに氷を包んだ布を当てた。


「ほれ、あとは自分で当てなされ」

「はーい」


リンガネは素直に従って氷を受け取り自分の手で支える。大怪我でないのならもう俺がここにいる意味はないか。

リンガネも足を暴れさせれるくらい元気なようだし、訓練室にいる残りの生徒をアサガイ委員長に任せっきりも申し訳ない。


「俺は戻る。お大事にな」

「お前が大切にしないからこうなったんじゃろがい」

「それは謝る」

「意外と素直じゃな」

「少し、嫌な思い出と重なってしまった」

「先生?」

「そういえばリコン学長。俺の父上と母上の捜索はどうなっている?」

「あっ……コホン。まだ情報は入ってないわ。気長に待ってちょうだい」

「そうか。なるべく早くお願いしたい。無事かどうかが知りたいんだ」

「任せて」

「失礼する」


俺は3人にそう告げて医務室から出て行った。扉を閉めた後、まだ静かな廊下を歩いて訓練室まで向かう。


「何だか、疲れてしまったな」


ポツリと呟いた言葉は廊下に響くことなく消えていった。リンガネの刀の振りかぶりで重なった賊の気持ち悪い笑顔が未だに脳内に張り付いている。

「そういえば俺は、嫌われるための授業をしていたんだよな。なのに何で医務室に連れて行ったのだろうか。明らかに矛盾している行為だ……」


やっと自分の行いを自覚した俺。それに気付いてしまってより疲れが増した気がする。このまま逃げ出してしまおうかとも考えたがどうせ無駄だろう。俺は甘い考えを振りかぶって前を向いた。


「………生徒達が待ってる」


指導者生活1日目。謎の想いが交差した日となった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...