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2章 ここから始まる教師生活
16話 指導者生活の始まり
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結局訓練室に着くまで他の生徒からの視線は逃れられなかった。そんなに集団行動が珍しいのかと思ってしまうほど目、目、目。
最初は睨んで抵抗していたものの、訓練室に着く頃には相手するのも馬鹿らしくなってきてアサガイ委員長達のように無視していた。
「なんか疲れたな…。人に見られるってこんなに大変なのか?」
「今疲れたら授業出来ませんよ?」
「体ではなく心だ」
「見られることも慣れだと思います」
どんよりと気分が沈んだ俺を軽く笑ったアサガイ委員長は立ち止まって目の前の扉に手をかける。どうやら訓練室に着いたようだ。いかにも重そうな扉を開けた先には白い空間が鎮座していた。
「訓練室ってこんな感じなのか…」
白い壁で囲われて、ほとんど物が無い訓練室。カムイ王都の宮殿にあった訓練室には敵と見る人形が置いてあったり雑に刀が放り投げられていたりしていた。
それに比べて討伐アカデミーの空間はどうだ。人形も無ければ刀もない。地面は土ではなく石で出来ていて訓練室と呼べるのかもわからない場所だった。
「早速みんなで準備運動だぁ!」
入り口付近で立ち止まっている俺の後ろからヒマワリが元気よく飛び出してきて訓練室を走り回る。それに続いてリンガネも子供のように駆け回り出した。
ハルサキやミロクニは手首や足首をほぐして準備をする。カムラとレオンは訓練室の明かりを付けていた。
「アサガイ委員長」
「シンリン先生、どうしました?」
「ここは本当に訓練室なのか?ただの何も無い部屋にしか見えない」
「正真正銘の訓練室ですよ。私達アカデミーの生徒はカゲルを倒す時、特刀や体術しか使いません。だから器具とか要らないんです」
「なるほどな」
アサガイ委員長は俺からの質問に答えてくれると近くにあった紙に何かを書き出した。何を書いているのだろうと近づけばアサガイ委員長が振り返って驚く。
「わっ…!ごめんなさい。意外と近くにいたから…」
「何を書いている?」
「これは訓練室を使った時に書く名簿みたいなものです。いつどのクラスが使ったかすぐにわかるように」
「ふーん」
「あの、シンリン先生」
「そこにある枠線の中にAクラスと書くのだな」
「はい。それでシンリン先生」
「覚えておこう」
「シンリン先生!」
「何だ。急に声を出して」
「…近いです」
「ああ、すまない」
俺は少し俯くアサガイ委員長から離れた。名簿を見るために普通に近づいただけだったのだが、アサガイ委員長からしたら結構な距離だったらしい。
それもそうか。この人はAクラスのまとめ役ではあるが17歳。思春期の真っ最中だ。
そういうところも配慮しなくてはいけないとは指導者も大変だな。ただ武術を教えるだけではないのかもしれない。人間性や精神力、社会的能力も指導者の役目に入る。
「いや、俺は嫌われなければいけない。そんな所まで配慮しては無駄な時間を過ごすことになる……」
「先生ーー!早くこっち来て戦おうぜ!」
「ワタクシ達は準備運動バッチリですわ」
「わ、私はまだなので軽く準備してます!シンリン先生は先に皆さんの方に行ってあげてください!」
「わかったから押すなアサガイ委員長」
遠くから他の生徒達に呼ばれた俺はアサガイ委員長に背中を押されて彼女からより離れる。そんなに近づくのが嫌だったのか?
もし俺に妹がいればアサガイ委員長の心がわかったかもしれないが、無いものねだりしてもしょうがない。アサガイ委員長を視界から外した俺は妙に興奮しているリンガネ達の元へ歩いて行った。
「で!?何すれば良いんだ!?」
「落ち着け。お前達の実力を見せてもらう前に、いつもどんな鍛錬をしているか教えろ」
「いつもは他のクラスの先生族が見守る中、勝手に俺達で実践練習をしている」
「実践練習とは?」
「倉庫にある竹刀を使ってお互いに打ち合うのよ。流石に同じ人間同士、特刀でやり合うのは怪我してしまいますわ」
「なるほどな。それなら竹刀を持って来い。実力を見てやる」
「よっしゃ!任せろ!あたし竹刀入ってる籠持ってくる!」
リンガネは全速力で訓練室の端にある扉へと駆け込んだと思えばすぐさま竹刀が大量に入っている籠を抱えながら持ってくる。やる気は十分なようだ。さて、まずはリンガネから嫌われるような作戦から実行しよう。
「先生!これで準備万端!やるぞ!」
「よし。お前達、竹刀を持て」
「「「はい!」」」
生徒は1人1本の竹刀を持つ。しかし若干1名は図々しく2本取り出した。
「カムラ、何故2本取り出している?」
「先生族よ、俺は二刀流でカゲルを討伐するのだ。特刀も2本持ちで戦うので竹刀も2本無いと感覚がおかしくなる」
「そういう事なら構わない。しかし二刀流は珍しいな」
「先生族は1本か?」
「二刀流は習ったことがないな」
「そうか。ならば今度試してみると良い」
「機会があれば」
カムラはそう言うと両手に竹刀を持つ。正直なところ、二刀流は俺に武術を教えた指導者でもやっていなかった。
一緒に鍛錬していた宮殿の兵士達だって1人1本の刀で戦う。もしかしたらカムラにはあまり刀を教えられない可能性が出てきたな。…いや、教えなくて良い。嫌われるためには突き放せば良いのだから。
「先生!まだ!?」
「リンガネ。刀を持ったら常に平常心でいろ」
「それが公式の1つか?」
「公式とは何だ?」
「ハルサキ、気にするな。それでは始めるぞ」
「よっしゃ!先生!かかって来いや!!」
「生徒同士で2人1組になれ。そしていつも通りにお互いで手合わせしろ。俺がちゃんとわかるように順番を決めて戦いを見せてくれ」
「………え」
最初は睨んで抵抗していたものの、訓練室に着く頃には相手するのも馬鹿らしくなってきてアサガイ委員長達のように無視していた。
「なんか疲れたな…。人に見られるってこんなに大変なのか?」
「今疲れたら授業出来ませんよ?」
「体ではなく心だ」
「見られることも慣れだと思います」
どんよりと気分が沈んだ俺を軽く笑ったアサガイ委員長は立ち止まって目の前の扉に手をかける。どうやら訓練室に着いたようだ。いかにも重そうな扉を開けた先には白い空間が鎮座していた。
「訓練室ってこんな感じなのか…」
白い壁で囲われて、ほとんど物が無い訓練室。カムイ王都の宮殿にあった訓練室には敵と見る人形が置いてあったり雑に刀が放り投げられていたりしていた。
それに比べて討伐アカデミーの空間はどうだ。人形も無ければ刀もない。地面は土ではなく石で出来ていて訓練室と呼べるのかもわからない場所だった。
「早速みんなで準備運動だぁ!」
入り口付近で立ち止まっている俺の後ろからヒマワリが元気よく飛び出してきて訓練室を走り回る。それに続いてリンガネも子供のように駆け回り出した。
ハルサキやミロクニは手首や足首をほぐして準備をする。カムラとレオンは訓練室の明かりを付けていた。
「アサガイ委員長」
「シンリン先生、どうしました?」
「ここは本当に訓練室なのか?ただの何も無い部屋にしか見えない」
「正真正銘の訓練室ですよ。私達アカデミーの生徒はカゲルを倒す時、特刀や体術しか使いません。だから器具とか要らないんです」
「なるほどな」
アサガイ委員長は俺からの質問に答えてくれると近くにあった紙に何かを書き出した。何を書いているのだろうと近づけばアサガイ委員長が振り返って驚く。
「わっ…!ごめんなさい。意外と近くにいたから…」
「何を書いている?」
「これは訓練室を使った時に書く名簿みたいなものです。いつどのクラスが使ったかすぐにわかるように」
「ふーん」
「あの、シンリン先生」
「そこにある枠線の中にAクラスと書くのだな」
「はい。それでシンリン先生」
「覚えておこう」
「シンリン先生!」
「何だ。急に声を出して」
「…近いです」
「ああ、すまない」
俺は少し俯くアサガイ委員長から離れた。名簿を見るために普通に近づいただけだったのだが、アサガイ委員長からしたら結構な距離だったらしい。
それもそうか。この人はAクラスのまとめ役ではあるが17歳。思春期の真っ最中だ。
そういうところも配慮しなくてはいけないとは指導者も大変だな。ただ武術を教えるだけではないのかもしれない。人間性や精神力、社会的能力も指導者の役目に入る。
「いや、俺は嫌われなければいけない。そんな所まで配慮しては無駄な時間を過ごすことになる……」
「先生ーー!早くこっち来て戦おうぜ!」
「ワタクシ達は準備運動バッチリですわ」
「わ、私はまだなので軽く準備してます!シンリン先生は先に皆さんの方に行ってあげてください!」
「わかったから押すなアサガイ委員長」
遠くから他の生徒達に呼ばれた俺はアサガイ委員長に背中を押されて彼女からより離れる。そんなに近づくのが嫌だったのか?
もし俺に妹がいればアサガイ委員長の心がわかったかもしれないが、無いものねだりしてもしょうがない。アサガイ委員長を視界から外した俺は妙に興奮しているリンガネ達の元へ歩いて行った。
「で!?何すれば良いんだ!?」
「落ち着け。お前達の実力を見せてもらう前に、いつもどんな鍛錬をしているか教えろ」
「いつもは他のクラスの先生族が見守る中、勝手に俺達で実践練習をしている」
「実践練習とは?」
「倉庫にある竹刀を使ってお互いに打ち合うのよ。流石に同じ人間同士、特刀でやり合うのは怪我してしまいますわ」
「なるほどな。それなら竹刀を持って来い。実力を見てやる」
「よっしゃ!任せろ!あたし竹刀入ってる籠持ってくる!」
リンガネは全速力で訓練室の端にある扉へと駆け込んだと思えばすぐさま竹刀が大量に入っている籠を抱えながら持ってくる。やる気は十分なようだ。さて、まずはリンガネから嫌われるような作戦から実行しよう。
「先生!これで準備万端!やるぞ!」
「よし。お前達、竹刀を持て」
「「「はい!」」」
生徒は1人1本の竹刀を持つ。しかし若干1名は図々しく2本取り出した。
「カムラ、何故2本取り出している?」
「先生族よ、俺は二刀流でカゲルを討伐するのだ。特刀も2本持ちで戦うので竹刀も2本無いと感覚がおかしくなる」
「そういう事なら構わない。しかし二刀流は珍しいな」
「先生族は1本か?」
「二刀流は習ったことがないな」
「そうか。ならば今度試してみると良い」
「機会があれば」
カムラはそう言うと両手に竹刀を持つ。正直なところ、二刀流は俺に武術を教えた指導者でもやっていなかった。
一緒に鍛錬していた宮殿の兵士達だって1人1本の刀で戦う。もしかしたらカムラにはあまり刀を教えられない可能性が出てきたな。…いや、教えなくて良い。嫌われるためには突き放せば良いのだから。
「先生!まだ!?」
「リンガネ。刀を持ったら常に平常心でいろ」
「それが公式の1つか?」
「公式とは何だ?」
「ハルサキ、気にするな。それでは始めるぞ」
「よっしゃ!先生!かかって来いや!!」
「生徒同士で2人1組になれ。そしていつも通りにお互いで手合わせしろ。俺がちゃんとわかるように順番を決めて戦いを見せてくれ」
「………え」
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