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1章 生徒との出会い
10話 投げ出された挙句、食堂へ行く
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「お前、好きな色は?」
「緑だ。カムイ王都の紋章も緑で描かれていて……」
「わかったわかった」
「聞く気がないなら何故聞いた?」
俺は座るセンリの隣に突っ立ったまま質問に答える。その後もしばしば質問されることがあったが、答えを聞くだけで理由は話させてくれなかった。
完全にセンリの流れになりつつあるこの空間。何だが悔しいけれど真剣に書物をしているセンリを邪魔するのは流石に出来ず、ずっと俺は黙っていた。
「…よし。記入完了じゃ。ご苦労だったな。下がっていいぞ」
「下がるもなにも、どこに行けばいいかわからん」
「ふむ。んじゃあここで待っておれ。時期にアサガイが迎えに来るんじゃから」
「お前はどうするんだ?」
「あのなぁ。我は教師の先輩なのじゃぞ。もう少し敬意を込めてセンリ先生やセンリ先輩くらい呼べや」
「口が悪い奴を目上の存在として見れない」
「失礼!お前ガチで失礼!!」
「またうるさくなったな」
先ほどは涎を垂らし腹を空かせた大型犬だったが、今は鳴き喚く小型犬のようだ。弱いほどよく吠えるというのは当たっているのかもしれない。俺は呆れたようにため息をつくと、部屋の扉が静かに開いた。
「お疲れ様です。シンリン先生、迎えに来ました」
「アサガイ!早うこいつ引き取れ!!」
「せ、センリ先生?どうしたんですか?」
「良かったのは肉体美だけじゃ!他は点数で言えば0点!いや、それ以下!失礼極まりない男よ!」
「落ち着いてください!」
「そうだ。少し落ち着け」
「お前は黙るがいい!!ほれ、この書類提出しておくからもう出てけーー!!」
アサガイ委員長が到着したと同時に全てが爆発したセンリは俺とアサガイ委員長の手を強く掴んでそのまま廊下へと放り投げる。強制的に部屋から出された直後、「入ってくるな」と言わんばかりに強く扉を閉めた。
受け身を取った俺は何処も痛くならずに済んだが、何も状況を知らないアサガイ委員長は廊下の壁にぶつかって腰を摩っている。
「平気か?」
「はい……。一体何をしたんですか?」
「俺は何もしてない。ただ黙って採寸と質問に答えただけだ」
「嘘つけ!!ベラベラとうるさい言葉吐いておったじゃろう!」
扉の奥ではまだ怒りに狂ったような声が聞こえた。本当にババアは面倒臭い。もう少し穏やかになって口調を直せば20代と騙しても誰も見抜けないだろうと助言をしてやりたい気持ちがあるけれど、ああなってしまってはもう手遅れか。
「センリ先生!どうか機嫌を直してください!」
「フン!あの男が土下座してごめんなさいくらい言えれば機嫌直るぞよ」
「えっ、土下座…?本当に何があったんですか…」
「良いか?よく聞けアサガイ。この世には色んな人間がいる。しかし!あの男みたいな奴は絶対に捕まえるな!例えイケメンで年収が凄くてムッキムキの筋肉体でもじゃ!」
「その教えは今の状況にどう繋がっているんですか!?」
「もう我から言うことはない!早々に立ち去れぃ!」
「ちょっセンリ先生!?」
最後の一言を機にセンリは何も話さなくなった。扉越しにアサガイ委員長は話しかけているけど一向に効果は無い。何を言っても無駄だと思ったのか、アサガイ委員長は諦めたように腰を摩って立ち上がった。
「一応、書類は提出してもらえるとのことなのでもうここには用は無いはずです。センリ先生の言うとおりに立ち去りましょうか」
「ああ」
俺も立ち上がって廊下を歩く委員長の後ろに着いて行った。
「座学は終わったのか?」
「はい。今日は短時間の授業でした。これからは生徒達の自由時間なので授業はありません。まぁ、討伐任務が入ってきたら移動しなければいけませんけど」
「次に俺がやることは何だ?もし無いのであれば逃げ出させてもらうが」
「逃げるのはダメです!逃げたらAクラスのみんなで捕まえに行きます」
「簡単に捕まえられるほど俺は弱くない」
「確かに先生は強いです。でも逃げるのはダメです」
「…………」
「シンリン先生?」
「食堂とやらは何処だ?腹が減った」
「えっ………ふふっ、今ですか?」
「ここに来てずっと食べてない。腹が減るのも当たり前だろう」
「わかりました。案内しますからちゃんと覚えてくださいね」
「勿論だ。腹が減っては戦はできぬ」
「その通りです」
アサガイ委員長は優しく笑うと自分の腕時計を眺めて時間を確認した。すると懐から長方形の何かを取り出して操作すると1人で喋り出す。
「アサガイです。あの、Aクラスの方で任務に出てない人達はどれくらいいますか?………なるほど。もし良ければこれから早めの夕食でシンリン先生の歓迎会を食堂でしようと思うんです。……はい。食堂です。広い場所の方が良いと思いますが。……はい、ではよろしくお願いします」
「何を1人で喋っている?」
「通話をしただけですよ…?」
「その長方形の物、初めて見る」
「スマホです」
「……?」
「えっと、シンリン先生って随分と田舎育ちなんですね」
「田舎ではない。カムイ王都だ」
「そうでした。これは持っている人同士で何処にいても会話が出来る優れものです。もし良ければシンリン先生も使いますか?リコン学長に申し出れば用意してもらえるはずですよ」
「俺には必要ない」
「わかりました。欲しくなったらいつでも言ってください」
「欲しくない。それで?食堂は?」
「ふふっ、こっちです」
謎の長方形をしまうとアサガイ委員長は食堂へと向かい始めた。死者の世界には優れ物という名の怪しい物があるのだな。
父上と母上にも見せてあげたい。……カムイ王都に持ち帰れたらきっとより発展したのだろうな。
「緑だ。カムイ王都の紋章も緑で描かれていて……」
「わかったわかった」
「聞く気がないなら何故聞いた?」
俺は座るセンリの隣に突っ立ったまま質問に答える。その後もしばしば質問されることがあったが、答えを聞くだけで理由は話させてくれなかった。
完全にセンリの流れになりつつあるこの空間。何だが悔しいけれど真剣に書物をしているセンリを邪魔するのは流石に出来ず、ずっと俺は黙っていた。
「…よし。記入完了じゃ。ご苦労だったな。下がっていいぞ」
「下がるもなにも、どこに行けばいいかわからん」
「ふむ。んじゃあここで待っておれ。時期にアサガイが迎えに来るんじゃから」
「お前はどうするんだ?」
「あのなぁ。我は教師の先輩なのじゃぞ。もう少し敬意を込めてセンリ先生やセンリ先輩くらい呼べや」
「口が悪い奴を目上の存在として見れない」
「失礼!お前ガチで失礼!!」
「またうるさくなったな」
先ほどは涎を垂らし腹を空かせた大型犬だったが、今は鳴き喚く小型犬のようだ。弱いほどよく吠えるというのは当たっているのかもしれない。俺は呆れたようにため息をつくと、部屋の扉が静かに開いた。
「お疲れ様です。シンリン先生、迎えに来ました」
「アサガイ!早うこいつ引き取れ!!」
「せ、センリ先生?どうしたんですか?」
「良かったのは肉体美だけじゃ!他は点数で言えば0点!いや、それ以下!失礼極まりない男よ!」
「落ち着いてください!」
「そうだ。少し落ち着け」
「お前は黙るがいい!!ほれ、この書類提出しておくからもう出てけーー!!」
アサガイ委員長が到着したと同時に全てが爆発したセンリは俺とアサガイ委員長の手を強く掴んでそのまま廊下へと放り投げる。強制的に部屋から出された直後、「入ってくるな」と言わんばかりに強く扉を閉めた。
受け身を取った俺は何処も痛くならずに済んだが、何も状況を知らないアサガイ委員長は廊下の壁にぶつかって腰を摩っている。
「平気か?」
「はい……。一体何をしたんですか?」
「俺は何もしてない。ただ黙って採寸と質問に答えただけだ」
「嘘つけ!!ベラベラとうるさい言葉吐いておったじゃろう!」
扉の奥ではまだ怒りに狂ったような声が聞こえた。本当にババアは面倒臭い。もう少し穏やかになって口調を直せば20代と騙しても誰も見抜けないだろうと助言をしてやりたい気持ちがあるけれど、ああなってしまってはもう手遅れか。
「センリ先生!どうか機嫌を直してください!」
「フン!あの男が土下座してごめんなさいくらい言えれば機嫌直るぞよ」
「えっ、土下座…?本当に何があったんですか…」
「良いか?よく聞けアサガイ。この世には色んな人間がいる。しかし!あの男みたいな奴は絶対に捕まえるな!例えイケメンで年収が凄くてムッキムキの筋肉体でもじゃ!」
「その教えは今の状況にどう繋がっているんですか!?」
「もう我から言うことはない!早々に立ち去れぃ!」
「ちょっセンリ先生!?」
最後の一言を機にセンリは何も話さなくなった。扉越しにアサガイ委員長は話しかけているけど一向に効果は無い。何を言っても無駄だと思ったのか、アサガイ委員長は諦めたように腰を摩って立ち上がった。
「一応、書類は提出してもらえるとのことなのでもうここには用は無いはずです。センリ先生の言うとおりに立ち去りましょうか」
「ああ」
俺も立ち上がって廊下を歩く委員長の後ろに着いて行った。
「座学は終わったのか?」
「はい。今日は短時間の授業でした。これからは生徒達の自由時間なので授業はありません。まぁ、討伐任務が入ってきたら移動しなければいけませんけど」
「次に俺がやることは何だ?もし無いのであれば逃げ出させてもらうが」
「逃げるのはダメです!逃げたらAクラスのみんなで捕まえに行きます」
「簡単に捕まえられるほど俺は弱くない」
「確かに先生は強いです。でも逃げるのはダメです」
「…………」
「シンリン先生?」
「食堂とやらは何処だ?腹が減った」
「えっ………ふふっ、今ですか?」
「ここに来てずっと食べてない。腹が減るのも当たり前だろう」
「わかりました。案内しますからちゃんと覚えてくださいね」
「勿論だ。腹が減っては戦はできぬ」
「その通りです」
アサガイ委員長は優しく笑うと自分の腕時計を眺めて時間を確認した。すると懐から長方形の何かを取り出して操作すると1人で喋り出す。
「アサガイです。あの、Aクラスの方で任務に出てない人達はどれくらいいますか?………なるほど。もし良ければこれから早めの夕食でシンリン先生の歓迎会を食堂でしようと思うんです。……はい。食堂です。広い場所の方が良いと思いますが。……はい、ではよろしくお願いします」
「何を1人で喋っている?」
「通話をしただけですよ…?」
「その長方形の物、初めて見る」
「スマホです」
「……?」
「えっと、シンリン先生って随分と田舎育ちなんですね」
「田舎ではない。カムイ王都だ」
「そうでした。これは持っている人同士で何処にいても会話が出来る優れものです。もし良ければシンリン先生も使いますか?リコン学長に申し出れば用意してもらえるはずですよ」
「俺には必要ない」
「わかりました。欲しくなったらいつでも言ってください」
「欲しくない。それで?食堂は?」
「ふふっ、こっちです」
謎の長方形をしまうとアサガイ委員長は食堂へと向かい始めた。死者の世界には優れ物という名の怪しい物があるのだな。
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