【完結】異世界先生 〜異世界で死んだ和風皇子は日本で先生となり平和へと導きます〜

雪村

文字の大きさ
上 下
9 / 77
1章 生徒との出会い

9話 シンリン皇子の肉体美

しおりを挟む
女性の前でむやみに体を曝け出すのは皇子として恥ずかしい行為と習ってきた俺がセンリの前で体を止めてしまったのが間違いだった。

センリはからかうよつな目付きで笑いながら、何故か照れたように頬を両手で押さえる。そんなセンリにより苛立ちを感じた俺は皇子として習ったことを破り、勢いよく上の服を脱いだ。


「ほう、脱ぐか。まぁお手並み拝見だな」

「うるさい」

「安心せい。我は色んな体を見ている。例えお前がダボダボメタボな体でも……」

「下も脱ぐのか?」

「………ダボダボメタボじゃなかった…」


俺は上半身の服を全て脱いでセンリに見せつけるように前に立つ。自分で言うのもあれだが、たるんだ体では無い。むしろ引き締まっている部類に入る。これも全て武術の鍛錬に精を込めた結果だろう。


「下もか?」

「ハワワワ……」

「何を犬みたいにだらしない顔をしている。腹が減ったのか?」

「引き締まったボディ!細マッチョではないが、着痩せするタイプとは!胸筋が言葉で表せないほどの凄さ。そしてこのシックスパックは綺麗に割れてまるで芸術。上半身でこの威力だったら下になると……」

「何をすれば良い?」

「し、下を…」


餌を欲しがっている犬のように涎を垂らし始めたセンリに若干俺は引き始めたが、指示通りに下の服を脱ぎ始める。

そういえば上半身に傷は何ひとつ無かった。もしかして死者の世界に来たと同時に治ったのかもしれない。

あるとすれば鍛錬で、できてしまったアザのみだ。そんなことを考えながら脱いでいれば、残りは下着だけになった。


「……まさかと思うがこれも…?」

「フヘッ、フヘッ」

「遂に認知症になったか。言葉が通じないのは厄介だな」

「へへへへへッ」

「……本当に脱ぐのか?」


流石に全てを曝け出すのは余計に躊躇ってしまう。しかしこのババアは動物の鳴き声を発するだけで何も答えてくれない。

鋭い視線が俺の体に突き刺さって気のせいだと思うけど痛みを感じる。でもここで止まってしまえばまたからかう言葉を投げかけられるだろう。

脱ぐしかないのか…。俺は力が上手く入らなくなってしまった両手を下着にかけて下に下ろす。


「なっ!何をやっている!?」

「は?」

「別に下着まで脱がんでよろしい!それに下着を付けてこその肉体美じゃろう!」

「だったら早くそれを言え」

「言ってなかったか?」

「認知症だな」

「失礼!お前失礼!!」

「採寸を測るならさっさとやってくれ」

「全く…。これだから女性経験のない男は…。まぁいい筋肉と足を見せてもらったから今回は許そう」


下着で隠れた部分を見せる前にセンリに止められて俺は無事、皇子としての威厳を保った。センリは近くの棚から測りを持って来て俺の体の長さや厚さを確認し始める。

途中途中余計に体に触れるのは妙に気持ち悪い。息が荒くなりつつあるのも俺の気分が下がる1つの理由だ。


「あいOK!もう着ていいぞよ」

「すぐに服は出来るのか?」

「知らん。我が作るんじゃないし。3日くらいはそのボロ服で過ごすと思え」

「あんたの方が失礼だろ」

「フフーン、お前と同じじゃ」  


測りを振り回しながら威張る顔をするセンリを横目に俺は脱ぎ捨てた服を集めて着始める。3日後にはこの服ともおさらばかと思うと何だか寂しくなった。

カムイ王都で死ぬ前はずっとこの服を着ていたから肌に染み付いているように感じられる。しかしいつまでも傷ついた服を着るのは皇子としてだらしなさに当てはまってしまうのでここはアサガイ委員長やセンリの指示に従おう。


「お前はずっと戦っていたのか?」

「何故それを聞く」


「こんなに筋肉が付いているのに加えて所々アザのような跡が残っている。それにお前の手。刀のような物を握りすぎてマメが出来とるわい」

「俺はカムイ王都の皇子だ。鍛錬は欠かさない」

「ずっと持っているその刀……」

「これか?この刀は俺が成人の儀をした時に父上から頂いたものだ。刃こぼれしにくく、錆びにくい素材で出来ていて尚且つ切れ味が良い」

「その刀でどれくらい斬った?」

「どれくらい…?俺は人を斬らない。斬るのは拷問官の役目だ」

「リコン学長からはお前はカゲルを1体倒したと聞いておる」

「カゲルと言うのは黒い人間の形をした奴だろ?あれは人ではない」

「……そうか。変な質問をしたな」

「本当だ」


俺は最後に上着を着て元の服装に戻る。センリは近くの椅子に座って何やら紙に書き物をしていた。きっと俺の体の情報を記入している。俺は腰に刀を下げた後に座るセンリに近づいた。


「次は?」

「特刀の注文じゃ」

「特刀とは何だ?」

「生徒達も使っている刀のことじゃ。カゲルを討伐するのに適しておる」

「俺はこの刀で十分だ。いらん」

「んもぅ!教師になったからには特刀も同時に注文しなければいけないのじゃ!!つべこべ言わずに従っておれ!」


本当にババアは怒りやすい。俺の母上はここまで歳を取ってないが、いずれこうなってしまうのか?

……いいや母上は優しいお方だ。皇子としての俺を貫いていればこうなりはしない。

そう考えるとセンリに子供がいたとすれば、その子供は苦労してるのだなと哀れに思えてくる。未だに小声で愚痴を言っているセンリを見ながら俺は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

先生と私。

狭山雪菜
恋愛
茂木結菜(もぎ ゆいな)は、高校3年生。1年の時から化学の教師林田信太郎(はやしだ しんたろう)に恋をしている。なんとか彼に自分を見てもらおうと、学級委員になったり、苦手な化学の授業を選択していた。 3年生になった時に、彼が担任の先生になった事で嬉しくて、勢い余って告白したのだが… 全編甘々を予定しております。 この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

火駆闘戯 第一部

高谷 ゆうと
ファンタジー
焼暴士と呼ばれる男たちがいた。 それは、自らの身体ひとつで、人間を脅かす炎と闘う者たちの総称である。 人間と対立する種族、「ラヨル」の民は、その長であるマユルを筆頭に、度々人間たちに奇襲を仕掛けてきていた。「ノーラ」と呼ばれる、ラヨルたちの操る邪術で繰り出される炎は、水では消えず、これまでに数多の人間が犠牲になっていった。人々がノーラに対抗すべく生み出された「イョウラ」と名付けられた武術。それは、ノーラの炎を消すために必要な、人間の血液を流しながらでも、倒れることなく闘い続けられるように鍛え上げられた男たちが使う、ラヨルの民を倒すための唯一の方法であった。 焼暴士の見習い少年、タスクは、マユルが持つといわれている「イホミ・モトイニ」とよばれる何かを破壊すべく、日々の鍛錬をこなしていた。それを破壊すれば、ラヨルの民は、ノーラを使えなくなると言い伝えられているためだ。 タスクは、マユルと対峙するが、全く歯が立たず、命の危機にさらされることになる。己の無力さを痛感したその日、タスクの奇譚は、ゆっくりと幕を開けたのだった。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...