【完結】異世界先生 〜異世界で死んだ和風皇子は日本で先生となり平和へと導きます〜

雪村

文字の大きさ
上 下
8 / 77
1章 生徒との出会い

8話 童顔ババア先生

しおりを挟む
Aクラスの教室から去った俺とアサガイ委員長は移動個室を使って1階へとやって来た。


「職員室に行けば他の先生方が色々とやってくれると思います。私は座学があるので着いたら別行動になりますが、他の先生も頼れる方なので安心してください」

「そうか」


リンガネやハルサキとは違い、アサガイ委員長は必要最低限以上だけど余計なことは言わない人なので話していて苦労はしない。けれど自己紹介の時に話した他の奴らには多少苦労しそうだ。少しの会話を交わした俺達は1階の廊下を歩いてとある場所で止まる。


「ここが職員室です。ちょっと待っててください」


目的の場所に着いた俺にそう言うとアサガイ委員長は1人で部屋の中に入って行った。廊下で待たされている俺は少しだけ首を動かして周りを観察する。

すると向こう側からアサガイ委員長達と同じ服を着た人間2人がボロボロの格好で喋りながら歩いて来た。


「疲れたなぁ~。最近カゲル多くね?」

「わかる。でも私達はマシなほうでしょ。不幸クラスは辛い仕事やらされてるらしいし」

「俺、変わり者じゃなくて良かった~」

「今は大丈夫かもだけど変なことしたら即不幸クラス行きだから気をつけな?」

「ハハッ、わかってる」


俺は部屋の前に立ちながら2人の会話を聞いていた。その2人は俺に目を向けることなく素通りする。

あんなにボロボロになるまで戦っていたとなると相当弱いということだ。俺は少々見下す笑いを浮かべてしまった。


「シンリン先生、今から来る人が……どうかしましたか?」

「気にするな。それよりアサガイ委員長、不幸クラスとは何なのだ?」

「えっ?不幸クラス?」

「さっきここを通って行った奴らが話していた」

「私はよくわからないです。もしかしたら陰で言われている言葉なのかもしれません」

「陰謀者は何処にでもいるのだな」

「流石に陰謀は言い過ぎです……」

「それで?俺は何をすればいい?」

「あっはい。今から来る先生が色々と説明と手続きをしてくれるそうです。私はもう教室に戻りますが、座学が終わり次第迎えに行きます」

「わかった」

「それでは失礼しますね」


アサガイ委員長は俺に軽いお辞儀をすると先程来た道を歩いて戻って行った。座学なんて何をやるのだろうか。

年齢も別々なクラスなのに同じ勉学に励むのは理解できない。ここは本当にわからないことだらけだ。俺は背筋が伸びているアサガイ委員長の背中を見つめてため息をついた。


「ため息をつくと幸せが逃げるぞよ」

「生憎今幸せがない身なのでね。誰だ?」


急に後ろから声をかけられた俺はゆっくりと振り向いて答える。そこには1つに結んだ髪を靡かせた女が立っていた。


「フッ、名乗ろう!我が名はセンリ、56歳!童顔先生と生徒から呼ばれるちょっとお茶目な人間だ!」

「自分でお茶目って言うのか?変わってるな」

「……ノリが悪いの」

「その話し方は結構なお年しか使わない。本当に56か?」

「さてはお前、女性経験が無いな」

「は?」

「フフーン、我にはお見通しじゃ。ぶっきらぼうな男は大抵女性を知れば丸くなる。しかしお前は尖に尖ったまま。これからか…。初よの」

「からかいは要らない」

「なっ!失礼極まりない!全く、お前はトゲより尖った奴だな。ウニだ!ウニ!」


死者の世界は俺と会話が噛み合わないように出来ていると確信に近くなってくる。ウニもトゲも同じだろ。

俺は苛立ちを感じながら目の前にいるババアを睨みつけた。童顔というのは認めよう。本当に56歳だとしたら外見が若すぎる。

しかしお茶目という点は間違っていて、ただ単に苛立たせる性格としか言えなかった。


「何の用だ」

「リコン学長がお前に色々と説明しろと直々に命令が出てな。Aクラスのアサガイからもよろしく頼むと頭を下げられたもので断るにも断れずここにおる」

「別の人を用意してくれ」

「お前失礼!本当失礼!!」

「うるさいのは嫌いだ」

「お前も口うるさい奴だぞよ!我と変わらん!」

「うるさいのは認めるのか…」


童顔ババア……センリは演芸者のように俺に指を差しながら騒ぎ出す。よっぽどこの空間に響いているのかセンリが出てきた職員室という部屋にいる他の人間がこっちを心配そうに見ていた。


「リコン学長も物好きな奴じゃ。こんな奴を教師に任命するなんて」

「なら俺を追い出してくれないか?生徒に言われるよりもあんたに言われた方が説得力あると思う」

「やーだね。お前みたいな奴に頼まれて素直に『はい』と言えるほど優しくないわい!」

「ならやるべき事をさっさとやってくれないか?」

「………」

「おい」

「キィーーーー!!ムカつくぞよ!!」


歯から音が鳴るくらいに食いしばるセンリはその場で強く足踏みして苛立ちを抑えようとしている。次、下手に何か言ったら噛みつかれそうだ。俺はもう黙ろうと思って言おうとしていた「うるさい」を封じた。


「はぁ、はぁ、はぁ……こっちじゃ……」

「ああ」


少しすれば衝動が軽減したようでセンリは呼吸を荒くして職員室の隣にある部屋に招き入れる。今の会話のやり取りで結構疲れたらしく一気に静かになった。


「とりあえずお前のだらしない服を変えるべく、寸法を測る」

「だらしないは余計だ。これはカムイ王都で最も高級な素材を使った……」

「そういうのはいらん。ほれ、服を脱げ」

「………」

「何だ?……ハハーン、もしかして恥ずかしいのか?そうじゃろうな。歳は高くてもこんなにキュートな顔じゃからな。実質若い女性に見られてると同じ。んもぅ!照れるわい!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

先生と私。

狭山雪菜
恋愛
茂木結菜(もぎ ゆいな)は、高校3年生。1年の時から化学の教師林田信太郎(はやしだ しんたろう)に恋をしている。なんとか彼に自分を見てもらおうと、学級委員になったり、苦手な化学の授業を選択していた。 3年生になった時に、彼が担任の先生になった事で嬉しくて、勢い余って告白したのだが… 全編甘々を予定しております。 この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ギルド・ティルナノーグサーガ 『ブルジァ家の秘密』

路地裏の喫茶店
ファンタジー
あらすじ: 請け負いギルド ティルナノーグの斧戦士グラウリーは呪われた高山ダンジョン『バルティモナ山』の秘宝を持ち帰ってほしいと言う依頼を受けた。 最初は支部が違うメンバー同士のいがみ合いがあるものの冒険が進む中で結束は深まっていく。だがメンバーの中心人物グラウリーには隠された過去があった。 ハイファンタジー、冒険譚。群像劇。 長く続く(予定の)ギルドファンタジーの第一章。 地の文描写しっかり目。最後に外伝も掲載。 現在第二章を執筆中。 ※2話、3話、5話の挿絵は親友に描いてもらったものです。

火駆闘戯 第一部

高谷 ゆうと
ファンタジー
焼暴士と呼ばれる男たちがいた。 それは、自らの身体ひとつで、人間を脅かす炎と闘う者たちの総称である。 人間と対立する種族、「ラヨル」の民は、その長であるマユルを筆頭に、度々人間たちに奇襲を仕掛けてきていた。「ノーラ」と呼ばれる、ラヨルたちの操る邪術で繰り出される炎は、水では消えず、これまでに数多の人間が犠牲になっていった。人々がノーラに対抗すべく生み出された「イョウラ」と名付けられた武術。それは、ノーラの炎を消すために必要な、人間の血液を流しながらでも、倒れることなく闘い続けられるように鍛え上げられた男たちが使う、ラヨルの民を倒すための唯一の方法であった。 焼暴士の見習い少年、タスクは、マユルが持つといわれている「イホミ・モトイニ」とよばれる何かを破壊すべく、日々の鍛錬をこなしていた。それを破壊すれば、ラヨルの民は、ノーラを使えなくなると言い伝えられているためだ。 タスクは、マユルと対峙するが、全く歯が立たず、命の危機にさらされることになる。己の無力さを痛感したその日、タスクの奇譚は、ゆっくりと幕を開けたのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...