君の叫びが炎上した理由を俺は知らない

雪村

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5章 進む私と止まる君

33話 私のせい

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 昨日も木崎がお便りを届けに来ることはなかった。

 その代わり、担任が面倒臭そうに連日我が家に出向いている。
 相変わらず「学校に来ないか?」と口うるさく言ってくるけど、私にはもうその気は完全に無い。

 でも担任が来てくれたお陰で気付けたことがある。
 それは木崎凪斗という人が私にとって安心する存在だったということだ。

 悪く言い換えれば都合の良い人とも言える。だって木崎はいつだって私の顔色を窺っていたから。

「それじゃあな、倉持海華。出来るならプリントの問題くらい解いておけよ」
「……」

 そんなことを考えていると担任が玄関の外から消える。
 私はポストに入れられたお便りを引き抜いてリビングへと戻った。

「もう来ないのでしょうか」

 カレンダーを見ればもう5日が経っている。
 あの木崎がここまで来ないということは、風邪なんて言い訳ではないだろう。

 でも「来るか来ないか任せる」と言ったのは私。

「っ……」

 その瞬間、嫌な推測が過ってしまう。私の頭の中には“不登校”の3文字。

 もしそうなってしまっていた場合は誰のせいになるのだろう。

「私?私のせい?」

 カタカタとお便りを持つ手が震え始める。今更、何であんなことを言ったのかと後悔が襲ってきた。

 でも別に間違ったことは言ってないと自分を庇う思考もある。
 しかし言い方に問題があったと不安になれば、私の心拍数は上がってきた。

「か、確認くらいなら…」

 私は部屋に戻ってお便りを床に投げ捨てる。

 そして部屋着を隠すための上着を羽織り、スマホを持って玄関へ向かった。

 今日は金曜日。時間帯からして帰宅部の生徒は下校しているだろう。
 遭遇の可能性は高い。

 でもそれ以上に木崎への不安が強かった。

「連絡先くらい交換しておけば…!」

 他人のせいならここまで焦る必要は無い。でも私、倉持海華のせいとなれば焦るのも当然だった。

 そしてその相手が唯一私を気にかけてくれるクラスメイトとなれば余計に。

 私は勢いよく蒸し暑い外へ身体を出してアパートの階段を降りた。

『意味わかんねぇ…。俺は納得していないことばかりやってるじゃんか』

 途中、そんな木崎の声が脳内を走る。

 もしかしたらお便り届けも納得していないことの1つかもしれない。
 だから来なくなってしまったのか。

 私は周りをキョロキョロして見慣れた制服姿がないか確認する。
 何でこんなに怯えなくちゃならないんだろう。

「暑い…」

 じわりと汗が滲んでくる。夕方とはいえ暑さは昼と変わらない。

 そういえば柳百合と出掛ける件はどうなったんだろう。
 まさかその約束も無かったことになったのか。

 私のせいで。

 一瞬息が詰まったと思えば背中に一筋の汗が流れる。これは暑さだけのものではないはずだ。

「あっ、あれって」

 すると遠くの方から制服姿の男女が歩いてくるのが見える。
 
 方角からして学校から。そして私の少し先には木崎の家。

 太陽の光に目を細めながら2人を眺める。1人は紛れもなく木崎凪斗だった。

「……良かった」

 自分でも信じられないくらいに安心した声が漏れる。

 制服でこの時間に歩いているのならば学校には行っているのだろう。
 担任が言う「木崎が風邪を引いた」は嘘と確定した。

 でもそれが確定してしまえば、木崎は自分の意思で私の所には来ないという答えになってしまう。

 勝手に確認しに来たくせに勝手に落ち込んでしまった。
 私は本当に木崎のことを都合の良い相手と思っているのだろうか。

「それでね?3年のエースの人がスパイクをどんどん決めて勝利へ導いたんだ」
「そうなんだ。凄いね」
「やっぱり近くでその凄さを見れるのはマネージャーの特権だね」

 ハッと我に返ると木崎ともう1人の声が近づいているのがわかる。
 私は見つからないようにすぐ側の曲がり角へ移動した。

「あれは柳百合?」

 歩いてくる2人を見ずに声だけで様子を窺う。まるでストーカーみたいだ。

 一度木崎の姿を確認したのだから、もう帰っていいはずなのに私の足は動かない。

「俺、ここだから」
「このお家?意外と学校に近いね」
「うん。柳さんは………ううん。何でもない。それじゃあまた明日」
「木崎くん。無理しなくて良いんだよ?」
「え?」
「明日遊ぶ約束。うちは必ず明日じゃなきゃいけないわけじゃないから」
「……うん。でも大丈夫」
「そっか」
「また後で連絡するね。待ち合わせの時間とか確認しよう」
「そうだね。でも本当に無理しないで」
「だから大丈夫だって。それじゃあまた」
「…またね」

 本当に木崎なの?

 私は持っていたスマホを握りしめてここは現実かを確かめる。
 手から伝わるスマホの質感はとてもリアルだ。

 でもさっきまで柳百合と話していた木崎はいつもの木崎じゃなかった。
 心ここに在らず……いや、言葉を選んでいるような感じ。

 そうなってしまったのは私のせいなのか。

 そんな時、私のスマホの通知が鳴り響く。続けてもう1回通知が届いた。

「あっ」

 でも私はスマホ画面を目にすることは無かった。その代わり、通知音に気付いて立ち止まった柳百合と見つめ合っていた。



ーーーーーー


本日から少しお休みします!
そこまで長く休むわけではないのでご安心ください!
完結までいくための充電期間です。
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感想 28

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みんなの感想(28件)

2024.05.24 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

雪村
2024.05.24 雪村

充電期間に入らせていただきます!
シノミヤマナさんには毎日投稿なのにも関わらず読んでくださり本当に感謝です!
コメントも凄く嬉しいです!

再開する時はカクヨムにてお知らせしますね!

解除
2024.05.23 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

雪村
2024.05.23 雪村

季節ですね〜笑笑

そうなんです。離婚して美咲さんと出会ったって感じです。

解除
2024.05.22 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

雪村
2024.05.22 雪村

お母さん達のストーリーも書いてみたいですね!笑笑
でもそれをプラスしたら凄い文字数になりそうです笑笑
一応頭の中で浮かべていたのは結構王道な恋愛物語でした!

そして先輩はこれから沢山登場して頂きます。

解除

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